1−1 出会い
俺は普通の高校生活、いや普通以下の高校生活を送る。
そのはずだった。
「あっついね〜、夏って感じ。」
「ここの冷房が効かなすぎるだけでしょ」
「確かに、こんなボロっチー部屋を選んだのが間違いだな」
「しょうがないじゃん、ここしかないって先生に言われたんだから」
皆、よく喋る。こんなに暑いと喋ることにエネルギーを消費するのも無駄だ。そもそもなぜ明日から夏休みという日の放課後に、ボロボロな別館の端っこの部屋にいなくてはいけないんだ。
ただ俺にはここにいなくてはいけない理由があった。
〜 一週間前 〜
そこは図書室だった。毎朝、早く登校し図書室で読書を楽しむのが俺の日課であった。今日も一番乗りだな。誇らしげな気持ちを抱きつつ図書室司書の方に挨拶をし、中に入る。定位置の席に座り、本を開いた。本を読む時間は最も有意義な時間の一つだと常々思う。
本に熱中していた。だから目の前の席に一人の女子が座っていたのにも気づいていなかった。
見知らぬ女子が目の前に座っているだけで驚いたが、彼女が急に本から顔をあげこっちを向いて話しかけてきた時は驚いたという言葉では表せなかった。
「ね、君、」
「、、、、、え、え。お、俺?」
後になって思ったがとてもみっともない顔をしていたのだろう。
「うん。君」
「な、何?」
「あのさ、」
ショートカットの彼女はあたかも幼馴染であるかのように話し続ける。
「私と探偵やらない?」
「、、、、、、、、、、は?」
「だーかーらー、私と二人で探偵しないかって聞いてんの」
(可愛く言ったら受け入れられると思うなよ)
心で思ってても口にできないのが俺の欠点だ。
「探偵?」
「そう、探偵。学校で起こった難事件やトラブルを解決するの」
「は、はー、ていうか難事件って、そう簡単に起こるわけ、、」
初対面の人と平気で会話してる自分が怖くなる。
何か言いたげな彼女の手元を見る。彼女は『シャーロック・ホームズ』を手にしていた。
「まさかとは思うが、お前、」
「ん?あ、そう。私はこの学校のシャーロック・ホームズになる!」
彼女の声は静かな図書室に響き渡った。
『シャーロック・ホームズ』を読んで探偵になりたいとか、どんだけ影響されやすいんだよ。
ああ、馬鹿馬鹿しい。さっきも言ったが馬鹿馬鹿しいと思っても断れないのが俺の性格だ。
「探偵って言っても具体的に何するんだ。トラブルは先生達が対処するし」
「授業崩壊やいじめの防止、それに盗難や悪さの犯人探しとか」
(犯人…)
俺の中の最悪の記憶が蘇る。
犯人は見つかっていない。
普通の警察じゃ手に負えない。
そう言っていた。
そして捜査を始めたのが、
「こーあん?」
俺はここが図書館であることを忘れ、過去の記憶を遡っていた。
「ごめん、なんか言った?」
「今、君、急に沈黙になって急に こーあん?ってつぶやいたんだよ」
そう。あの事件を受け持ったのは公安警察。
「こうあんって?」
「公安警察。主に国家体制を脅かす事案に対応する機関。」
「ふーん。でもなんで急に?」
「いや、なんでもない。昔のことを少し思い出していた」
「こうあん。うん、よし!」
彼女は顔を輝かせつぶやいた。
「公安クラブ!これにしよう」
ってホームズはどこ行ったんだよ。
「とにかく、探偵、いや、公安クラブを作る!今日の昼休みに友達誘って図書室に来て、友達誘わなくて男子一人になっても知らないぞ〜」
彼女は席を立ち図書室を出ようとする。
「お、おい待て待て」
「ん?なあに?」
「き、君、名前は?」
「一年C組、平木彩音、よろしくね。楠原君。」
「お、おいちょっと待てよ」
彼女、彩音はすでに図書室を出て行っていた。
どうして俺を誘ったのか、どうして俺の名前を知っているのか。彩音と名乗る彼女は謎だらけであった。
続く