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第21話


 それからなんだかんだで放課後に用事を言い付けられたりして3週間が経ってしまった。用事はすべてクドモアからのもで、絶対にわざとやっているだろうとしか思えない。


「せっっっっっかく、鍵を手に入れたのに!!」


 この行動の遅さはゲーム大好き人間としてはありえないタイムである。アイテムは入手したらすぐに調べるのが鉄則。ましてやそれが真相に辿り着けそうならなおさらだ。


 しかし、いよいよ今日中に図書室を調べなければならない問題が発生した。

 鍵が見付からないことを若い教師がついに上司に打ち明けたのか、改築前に荷物を移動しようと明日にはドアを取っ払ってしまうというのだ。

 それではなにを隠そうとしていたのか、わからなくなってしまう。


「──と、いうことでギル! お願いだから付いて来てください!」

「え、ぼ、ぼく? もちろん、いいけど……」


 そしてホームルームが終わるや、クドモアになにかを言い付けられる前にギルの手を引いて図書室に向かうザイヤ。クドモアが追ってくるより前に!


 後生大事に温めていた鍵を挿し込む。


「……あ、開かない!?」


 そんな馬鹿な。

 この鍵は確かに図書室の鍵のはず。


 若い教師が言っていた特徴とも合うのに。


「あれぇ……? 図書室の鍵じゃないのかなあ……」


 鍵をまじまじと見てしまう。ゲームなら『○○の紋章の鍵』とかわかって便利なのに。残念ながら現実世界では紋章もなければ、使う部屋の名前も書いていない。

 いや、待てよ。心なしか文字があるような……。


「うーん?」

「5、だね」


 同じく鍵を覗き込んでいたギルが言う。言われてみて、改めて見ると確かに刻まれているのは数字の5のように見えた。


「あ、本当だ。そうだね、5だね」

「ザイヤさんの部屋の鍵かな?」

「ううん。私が渡された部屋の鍵はまだ持って──」


 はっとした。



 エレベーターの鍵だ。



 エレベーターは直接部屋に繋がっている。そのため、目的の階に箱を停めるにはその階専用の鍵が必要なのだ。

 これは、エレベーターを5階に停めるための鍵だ。


 けれど、なんのためにクドモアがそんな鍵を?

 エレベーターは動いていないし、そんな鍵を持っていたところでなんの意味もない気がするのだけど。


 ますます訳がわからない。


「なにをしてるのかなぁ」


 ぎくり。

 警戒していた声がすぐ背後から聞こえて、ザイヤはおそるおそる振り返った。


 やはり、クドモアが立っていた。出席簿でとんとんと自分の肩を叩きながら、片眉を釣り上げた嫌な笑みを浮かべている。


 ザイヤは笑って誤魔化した。


「いやぁ、ははははは。ギルと交流を深めようかと思いまして……」

「ふうん?」

「まだ校舎全体を見て回ってなかったですし、その案内をしてもらってまして」

「へえ?」

「そ、それで、その……ギル、帰ろう!!」

「え、あ、うん」


 強引にギルの腕を引いて、クドモアから逃げた。あれ以上追求されたら、言い訳のしようがなかった。

 いや、どうして図書室の前にいるのかは察しがついているのかもしれないけれど、わざわざ正解を教えてやることもない。


 寮まで戻ってきて、嘆息つく。


「これで手掛かりはなくなっちゃったなあ……」


 てっきり図書室のものとばかり思っていた鍵は、今やどこにも繋がらない無意味な金属と化してしまった。エレベーターが動いていない今、これが本当に5階のための鍵なのかも確かめようがない。


「これ、スペアかも」


 ふとギルが言う。


「え、スペア?」

「はい。だって、普通は使わなくなったエレベーターの鍵って管理会社が保管するような……。特にエレベーターなんてかなり珍しいし、ぼく、ここ以外でエレベーターを見たことがありません。それに落下事故があって色々責められただろうし、事故防止のために鍵を回収するんじゃないかなあって」


 確かにそうだ。

 2度も同じエレベーターで事故があったら責任追及どころの話ではない。


 そうか、管理会社だ。

 事故の真相を知っているかもしれない。


「管理会社ってどこだろう。どこに行けばわかると思う?」


 そんな情報、どこで手に入れられるのだろうか。


「うーん。エレベーターの中、とか?」


 ギルがぎこちなく言った。言われてみれば、日本のエレベーターはボタン盤の上の方に管理会社がわかりやすくシールで貼り付けられていた気もする。

 それに珍しいエレベーターを作る会社であれば、その名を箱の中に刻んでもおかしくない。



「……え? マジ? 箱の中、覗いてみるしかない?」


 言うと、ギルは気まずそうに「はは」と笑ってみせた。新聞もない。図書室にも行けない。図書館は既に本を隠されてしまっている。


 他に手掛かりはなさそうだった。



「どうか何事もありませんように」



 深淵を覗くとき、深淵もまた──。

 なんてね。

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