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高須長官のこと 1

 私から高須長官(海兵35期)のことで思うのは、昭和初期の激動のあの頃、非常に貧乏くじを引かれておられたとの印象をもっておりました。


 はい。凶徒の犯行たる5.15事件での裁判をはじめ、遣馬艦隊の長官職にしましても、いくら駐英武官の経験が豊富とはいえ、現地はフランス語圏、そして本土からはかなりの遠隔地として常に分断の可能性にさらされながらの仲裁交渉など、なまじっかな役割ではありませんでしたから。


 それに内々では第一艦隊の長官職の内定もあったとのお話があったようで、それが流れた訳ですから内心しくじたるものもあったんじゃないでしょうか。決して表には出されない御方でありました


 しかも、以前に駐満海軍部の経験があった事で当初シンガポールの英東洋艦隊司令部では陸軍シンパの拡大論者だと勘違いをされておりまして。大層風当たりが強かったと周囲が漏らされておりました。それを変えて行かれたのはひとえに高須長官の御努力の成果、と言いたい所ですが、英東洋艦隊の士官連中と私も末席とはいえ同伴する事もありまして、その際に少し話すことが出来たのですが、その際にですね、こう言われたわけですよ。


『アドミラルタカスは非常に紳士(ジェントルマン)だ』


 とね。聞けば、ほぼ同時期に南遣艦隊に補された小沢長官(海兵37期)とそのスタッフとのやり取りは、もはやミーティングではなくディベートだと、喧々諤々やり合っとるわけなんですね。それからすると高須長官は英国本土仕込みでティータイムもきちんとこなすし、若い士官なんかをゴルフに誘ったりもしとるわけです。


 小沢長官は小沢長官で若い士官相手に中華飯店や料亭に誘って悪い遊びを教えとったらしく、話を聞いた英海軍の士官は、あとで親指トム(Sir Tom Spencer Vaughan Phillips 東洋艦隊長官)から司令部に呼び出されて直々に大目玉を食らったと笑っておりました。遠隔地で寂しいのは一緒でシンガポールでの生活に非常に為になったと、感謝されたくらいです。私は苦笑するしかありませんでしたが


 そんなこんなで、突っぱねる事が多かった南遣艦隊と違って我々は合意によって配備を変えたりもしました。ええ、当初の配備では航続距離や水偵利用の為に駆逐隊より潜水戦隊を配備する予定だったのですが、Uボートととの判別がつかない。誤射はあって然るべきものと先方から強く訴えられまして


 そこで、旗艦の由良と醍醐少将(海兵40期)だけ残して臨時に七水戦を立ち上げたんです。しかし、今度はどこから駆逐隊を持って来るか揉めましてね。本土からは絶対に甲型(朝潮・陽炎・夕雲級)を持って来たがらないんですよ、そりゃ遠隔地で潜水艦みたいに潜って隠れて逃げるのも難しいわけですから。エチオピアでイタリアの艦隊がどうなったかも目新しく判例がありましたし


 それでもフランスさんへ空母の方はともかくボロばっかりじゃ面子が立たないとなりまして、それで、射線の数で言えば特型(吹雪級)を、とも考えていたらしいですが、そこは南遣艦隊が自分達は英国の最新鋭戦艦と対峙してるんだって言って全部とっちゃう。じゃあ、継戦能力的に次発装填が搭載されているのが良かろうとなりまして、後期型の初春級と白露級を合わせて12ハイ配備する運びとなったんです。


 そこらへんの擦り合わせも漸く済んで、今度はそこから実際に艦隊をどう運用していこうかという矢先ですよ、あの事件があったのは。タイミングを見計らっていたんですねぇ。ですので第一報が昼頃、食事前だったでしょうか。ダーッと通信室から水兵が走って来て、通信綴りを持って来た時には長官ともども、司令部が一瞬固まったもんです。なにせ、先日フィリップス長官と協議が終わってディエゴスワレスに帰ってきたばかりだったんですから。戦闘!?昨日の今日だぞ、誤報ではないのか、確認いそげ!艦隊機関長カタキ、機関の調子はどうだ、扶桑も動けるか!?等々騒然となったのを覚えております。


 そこに第二報がダッと入ってくる。騒然となってみんな動いてるもんだから、偶然一番近くに居た私が受け取ってしまって、綴りを渡そうとすると高須長官が


『構わん、そのまま読め!』


 と言われて目を通すんですけど、頭の理解が追っ付かなくて言葉が出ないというのはあるんですねぇ・・・こう、書かれてたわけですよ。




発2dg(第二駆逐隊)司令

宛テMF(遣馬艦隊)長官

1120魚雷戦開始、英戦艦ニ命中弾。急傾斜シツツアリ。2dgハモザンビーク海峡ヲ北上、避退中。位置方位(略)




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