悪役令嬢ですが悪役になる前に隣国の王太子から寵愛を受けました。
過去作のリベンジ
これは私の記憶の中の宝物。
私はツヴィリング・アンヘンガー。双子の妹、リーベ・アンヘンガーと差別されて育ちました。この国では双子は不幸の象徴とされ、姉は露払いとして殺されるのが通常です。ですが、亡きお祖母様の懇願により私は命を守られました。…ですが、そんな出生のため、お祖母様以外の家族親族からは疎まれ、可愛がられる妹と違いそれはそれは忌み嫌われて育ちました。
可愛がられる妹は日に日に美しく育ち、可愛らしい笑顔を振りまきみんなの人気者になりました。私はいない存在として扱われ、ご飯も与えられず家庭教師もつけられず、お祖母様が憐れんで用意してくれた食事やドレスなどが無ければその辺で死んでいたでしょう。
そんな中で、私は自分は要らない子なのだと理解して毎日隠れて泣いていました。それでも祖母の前では笑顔でいました。心配をかけたくなかったから。
そんな中でも生きてこれたのは、ある思い出のお陰でした。叶うことはない恋心が、私を支えてくれたのです。
ー…
「うっ…ぐすっ…」
「どうした?可愛いレディー」
あれは十年前、妹の誕生日パーティーの席でのことでした。
裏庭でこっそり隠れて泣いていた私に、たまたまこの国に遊びに来ていて、誕生日パーティーに招待された隣国の王子、ノブレス・ド・ブルボン王子殿下が声をかけてくださったのです。
「あっ…ノブレス殿下…ごめんなさい、みっともないところを…」
「ふ、気にするな。お前、名前は?」
「ツヴィリング・アンヘンガーです…」
「…ああ、この家の。なるほど、確かに妹とはあまり似ていないようだ」
「も、申し訳…」
「あんな妹のどこがお前より優れているんだかな」
「…えっ」
思ってもみなかった言葉に、思わず顔を上げます。
「うん、やっぱり似てないな。あんな権力に媚びるあざとい女より、お前のような控えめで可憐な、それでいて芯の強い百合のようなレディーの方が俺の好みだ」
「…っ!」
色々急展開でキャパオーバーしたのと、初めてお祖母様以外の方から「好き」と言われたのとで私は思わずまた泣いてしまいました。
「…うっ…ぐすっ…ご、ごめんなさい、ノブレス殿下…私っ…」
「…辛かっただろう。もう大丈夫だ、安心しろ」
ノブレス殿下は私を抱きしめて、頭を撫でてあやしてくれました。
「…落ち着いたか?」
「は、はい、本当に申し訳ありません…」
「それはいい、気にするな。それよりも、一つ約束を交わそう」
「?はい」
「十年後。俺は必ずお前を迎えに行く。だからそれまで待っていてくれ」
「…え?」
「一目惚れだ。わかっている、感情に振り回されるなど愚かなことだ。それでも、俺はお前がいい。…俺と婚約して欲しい」
「…っ!…はい」
幼いながらにわかっていました。これは子供同士の幼い約束。守られることはないと。それでも…それだからこそ。私はその約束を結びました。これから先の人生の支えとするために。
「俺のヴィー。愛してる」
「私もお慕いしています、ノブレス殿下」
「ノルでいい」
「ノル…」
「ああ、それでいい」
傅き、手の甲にキスを一つ。一挙一動がかっこいいノルに私は翻弄されてしまいます。
「…そろそろ戻らないとな。また会おう、俺のヴィー」
「はい、ノル…」
…もう、会えることはないけれど、私は貴方との出会いを心の支えに生きていきます。
ー…
そして十年が過ぎました。
私は、学園に入学した一週間前、急に前世の記憶を思い出しました。この世界は前世でハマっていた乙女ゲームの世界で、ヒロインは妹。私は、誰からも愛される妹に嫉妬して、妹を虐める悪役令嬢。ああ、そんな。ノルは攻略対象者なのね。いずれ私を妹と共に断罪するかもしれないのね。
そして、私の頼みの綱だったお祖母様は三日前の朝、逝ってしまわれました。式は執り行われましたが、私は参加させて貰えませんでした。今は一人で、お墓参りに来ています。
私はこのまま、着の身着のままで出て行きます。学園には既に退学届を出していますし、家族は誰も私のことなど気に留めないでしょうから、大丈夫です。平民としての生活は大変でしょうけれど、今までの生活よりはむしろマシでしょうし、大丈夫だと思います。…考えが甘いかな。
「…だーれだ!」
「!?」
いきなり背後から目を塞がれ、慌てます。ど、どうしましょう!変質者!?
「…悪い。悪ふざけが過ぎた」
…!この口調は、もしかして。声は変わっているけれど…。
「ノル…?」
「正解!迎えに来たぞ、俺のヴィー」
そこには、成長し逞しく美しく育ったノルの姿がありました。ああ、嘘!夢みたい!
「ノル!私に会いに来てくれたの!?学園生活で忙しいんじゃ…」
ノルは王太子になっていますし、学園生ですし、攻略対象者ですし…。だから絶対に、もう二度と“婚約者”としては会えないと思っていたのに。
「なあ、ヴィー。行く当てもないんだろ?俺のところに妃として来てくれないか?あの時の約束を果たそう」
「で、でも…私なんて…」
「約束は約束だろう?それに、お前は公爵令嬢だ。恥ずべきことなど何もない」
「でも、私には教養がないし…子供同士の約束でしょう?」
「何を言うかと思えば。ちゃんとお前の祖母と俺の両親との間で婚約を交わしている。それをお前の両親に知られると色々面倒だったから隠していたけれどな」
「えっ…?」
お祖母様が、そこまでしてくれていたの?
「お前の祖母に頼んでお前に王太子妃に相応しい教養も身につけさせてもらった。お前も祖母直々に勉強を教わっていただろ?お前の教養は並みの令嬢では追いつけないものだ。自信を持っていい。たとえ学園を自主退学していても、なんの問題もない。俺の両親も認めている」
「そ、そんな…」
お祖母様は、そこまで、私のために…!
「…お前の祖母のことは本当に残念だった。俺も改めて、手を合わせよう」
そうしてノルは、お祖母様のお墓に手を合わせてくれました。
「学生結婚なんて、貴族でもなかなかないぞ?なにかと俺に媚を売っていたお前の妹が知ったら発狂するだろうな」
クスクスと笑うノル。案外意地悪なのね。
「でも、妹に知られたら邪魔されそうだわ…」
心配で俯く私に、優しくキスをしてくれるノル。
「俺のヴィー。心配ない。お前は俺が守るし、俺はたかだか公爵家の人間に遅れを取るつもりはない。あいつらが知る時には既にお前は俺の妃だ」
「ノル…」
「さあ、行くぞ。俺のヴィー」
髪にキスを一つ落とされます。
「…はい!」
お祖母様!私、幸せになります!
『悪役令嬢ですが、幸せになってみせますわ!アンソロジーコミック』の第3弾が7月27日(月)発売です!
定価780円+税
ISBN 978-4-7580-3534-7
〇内容紹介
大人気アンソロジーついに第3弾!
『悪役令嬢ですが、幸せになってみせますわ!アンソロジーコミック』の第3弾が7月27日(月)発売!!
「小説家になろう」発の人気読み切りコミカライズアンソロジー、大好評につき第3弾!!
私の書いた短編、『嫌われている相手に嫁いだはずがいつのまにか溺愛されていました』が収録されています。
コミカライズしていただき書籍化していただけたのも全て皆様のおかげです。ありがとうございます。もしよければ是非手にとっていただけたらと思います。