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「どういう事なのよ!ふざけんじゃないわよ!」


 ウェーブのかかった、艶やかな赤い髪を振り乱し、少女は怒り狂っていた。


 しかし、そんな彼女を見て、ダイはどうしようもなく胸がドキドキしてきた。生意気そうな顔も、体型も、何もかも好みの存在であった。


「かわいい……」


「あいつは勇者ミリアだ。勇者として魔王討伐に向かい、褒賞金で故郷に錦を飾る……つもりが俺たちと言う名コンビ誕生のせいで、出落ちキャラになってしまった哀れな女だ」


「説明ありがとう、ハンニバル」


「俺の鋭い観察眼によると、どうやらあいつはお前の好みのタイプのようだな? ちょうどいい、うるさいからあいつを黙らせてモノにしてしまえ」


「ちょ、ちょっと、何言ってんの」


「あんたがダイね!」

「うわこっち来た」


 少女は、白いシャツに水色のキュロット。その上に軽鎧をつけ、背中に大剣を背負っている。つかつかとダイに近寄り、ごほごほと咳をした。


「な、何でしょう……?」


 ミリアはキッ、と上目遣いでこちらを睨んだ。明るい薄黄色の瞳は、かすかに潤んでいる。


 さすがに、彼女の視線が全く好意的でない事はダイにもわかる。


「あ……あたしは、あたしの村は、魔王軍に荒らされて……ごほっ、畑を焼かれて、やっとソバの栽培で立ち直ってきたところで、災害や不況があって……だから、げほっ、お金を稼ぐために村から出たの」


「……うん」


「それなのに!『魔王が蕎麦食って死んだ』って情報のせいで、蕎麦アレルギーの危険性がめちゃくちゃに取り沙汰されて、風評被害食らいまくってるのよ。ソバを人を傷つける道具にしないでちょうだい! そば茶もそばがら枕も売れなくなって、うちの実家の蕎麦屋は閑古鳥よ!このままじゃおじいちゃんがボケちゃうっ! お金も貰えないし、装備品のローンだって残ってる! 一体全体、あたしの人生、どうしろって言うのよっ!」


 それだけ一気に言うと、ミリアは激しく咳こんだ。


「そんな……」

 ダイは自分のスキルがどこかの誰かを不幸にしてしまった事に、激しいショックを受けた。


「やめなさい、ミリア!」

 突然背後にいた蕎麦職人が叫んだ。


「お、お父さん」


「俺はこの人に感謝している。魔王が蕎麦アレルギーだったのが悪いんだ。お前が魔王と戦わずにすんで、それだけで俺は満足だ」

「うえぇ……お父さぁん……」


 ダイの胸は、さらに罪悪感でいっぱいになった。何せ、もともとアレルギーではない魔王に弱体を付与して殺したのだから。ソバには本当に、何の罪もないのである。


 彼は、ある事を心に決めた。


「お金が必要なら、俺がもらったのを使いなよ」

「えっ」


「俺にはそんなに必要のないものだ。元々の貯金も返して貰えるし、君にあげる」

「あ、あたし、そんなつもりじゃ」


 ミリアはうろたえた。ただ、ままならぬ自分の人生に対する不平不満を、ダイにぶつけただけだったのだから。


「じゃあ、こうしよう。土地を買う。そして、地元の人に貸す。たまに作物を貰えればそれでいい。君もそれなら地元に帰れるよね?」


 ミリアはふるふると首を振った。


「ありがとう、びっくりするぐらい優しいのね。でも、あたし、村へ帰る事が出来ないの。だって……」



「そいつは超重度の蕎麦アレルギーだ。ソバ畑にいるだけで呼吸困難になる」

「そこは私が説明するところでしょう !?」



 ミリアは、蕎麦を啜っているハンニバルを恨めしそうな目で見つめた。


「そんなに大変な思いをして……」


 アレルギーで家族とも住めなくなったのに、この少女はそれでも故郷のために何かをしようとしている。これはますます、自分のあぶく銭を彼女のために使わなければいけない。そう思ったダイは、金貨の入った袋をミリアに押し付けた。


「それじゃあね。頑張って」

 彼は、自覚症状は全くないが、惚れた女に尽くすタイプであった。


「あ、ま、待って……」


 ミリアが引き止めるより速く、ハンニバルがダイの肩を思いっきり掴んだ。


「やる事が違うだろ! ここはサクッとアレルギーを治す場面なんだよ。金で健康は買えそうで買えないんだ」


「あっそうか」


 ダイは振り向き、ミリアに『弱 体 (蕎麦アレルギー)解 除(消滅)』を放った。


「ん? 今何かした? 体が軽くなったし、喉が痒くなくなった……」


「君のアレルギーを消した。気がついていないみたいだけど、若干花粉とハウスダストにもアレルギーがあったからそこも治しておいたよ」


「えっ、なにそれ、どういう事?」


 ミリアはパーティーが始まってからこの場に現れたので、ダイのスキルの詳細など知る由もないのであった。

書き終わり次第最終話を投稿します

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