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「確認だけど、マジでやるの?」


「マジだ。成功率は35%もある」

「低いだろそれ」

「にゃーん」


 二人と一匹は今、魔王城へ向かっている。ダイが街から出て歩いていた道は魔王城へ通じる道だったのだ。


 魔王を討伐すれば、一生遊んで暮らせるか暮らせないかギリギリの褒賞金が出る。ハンニバルの作戦を聞いて、ダイはそれに乗る事にしたのだ。どうせ崖っぷちの人生、もうヤケクソである。


「たのもー!」


「うん? なんだお前ら」


 魔王城の門番はオークであった。二人が女性であったなら、即座に入城することが叶ったであろう。まあ、悪い意味で、ではあるが。


「魔王城で料理人を募集していると聞いたのですが」

「確かにそうだが。お前ら人間だろう、何のつもりだ」


 大まかな作戦は聞いたが、あまり詳細を語ってダイが不審な動きをするのはマズいとの事で、細かい事はハンニバルが全てやる事になっている。


『俺たち、道ならぬ愛に落ちてしまいまして、国を追い出されたのです。そして旅の途中で愛の結晶たる猫ちゃんを擬似家族に迎え、幸せに暮らしていたのですが、なかなか男二人のクレープ屋と言うのも世間の目が厳しく、猫ちゃんの餌代も……魔王城でなら、多様性を受け入れてくださると思ったのです』


「にゃーん」


「ちょ、何言って……」

 ハンニバルはチラッとダイを見た。『泣け』と目が言っている。その冷酷な目が怖くてダイは本気でちょっと泣いた。


 オーク達は、成人した男が急に泣き出すのだから、これは本当によっぽど迫害されたのだろう。そう思い、城に入れてやった。


 驚くべきことに、面接官は魔王その人だと言う。2人は屋台ごと、謁見の間まで運ばれた。



「余は魔王ザマである。さすらいの料理人よ、よっぽど腕に覚えがあるそうだが」


 ダイは戦慄した。魔王の圧力で、ろくに返事をする事もできないのだ。


 何とか横目でハンニバルを見ると、彼はウィンクを返した。余裕の表情である。


「はい。特に得意なのは……クレープ。もしくはガレットでございます」

「余にお料理勝負勝負を挑もうとは、大胆な人間だ。3分だけ時間をやろう。その間になんとかしろ」


「恐れながら閣下、それは無茶振りのパワハラと言うものでございます」


 ハンニバルは魔王の視線に全く臆する事なく、懐から猫を取り出した。


「にゃーん」

「おお、猫ちゃんではないか!」


 そう、魔王は猫好きなのであった。


「はい、自慢の娘です。美少女でしょう? 名前はカルタゴと言います。カルたんって呼んでください」

「にゃーん」


「よしよし。猫ちゃんをナデナデする時間が必要だ。30分やろう」


「はっ。必ずやご満足していただけるものと確信しております」

「ところで横の男は一体何のため……いや、些事であったな」


 魔王は手元の書類を見て咳払いをした。


 ダイは沈黙を貫いた。一日に二回も冤罪をかけられるとは、昨晩には想像もしていなかった。


 ハンニバルは、黙々と調理を進めている。クレープ……ではない様だ。


「本当に大丈夫か?」


 正直、ダイはやる事がないので暇であった。猫のカルタゴも魔王に取られてしまったし、本当に作戦決行まですることがないのだ。


「大丈夫だ。もう出来るぞ」


 ハンニバルは真剣な顔で仕上げの飾り付けをし、皿を魔王の元へ運んだ。


『出来ました。そ ば 粉 の ガ レ ッ ト で す』


(そろそろか……?)


「おお、これは……うまい!」


 魔王城は何しろ魔族の集まりであるので、食の好みも様々。魔王は比較的人間に近い味覚を持っているため、マトモな食事に飢えていたのである。


 ハンニバルのスキル【美食】をもってすれば、素材の味を120%引き出す事など容易いのであった。


 ダイはじっと息を殺して、作戦決行の時を待った。相方からの合図は、未だない。



「うむ。美味であった」


 魔王は満足したようだ。なんとか首の皮一枚つながり、ダイはホッとする。


「私が魔王城の料理長にふさわしい事、ご納得して頂けましたか?」

「うん? そんな話だったか? まあ良い。好きにせよ」


『ありがたき幸せにございます』


 その日の夜、『料理長就任パーティー』として、魔王城で大規模な宴会が開かれる事になった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王城の門番さん優しい 猫好きの魔王様が可愛い 多様性にも慣用で、気遣ってくれて、優しい魔王様いい魔王様 しれっと壮大な嘘が吐けるハンニバルさん 演技派疑似家族の猫ちゃん が、とても良い…
[気になる点] ガレットはスイーツじゃないですよ…
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