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ハイファンと文芸で迷ったのですがとりあえずこっちで
「はあ……まさか追放までされてしまうとは」
青年はため息をついた。彼の名前はダイ。今日の朝、勤めていた商会で金庫の金を盗んだ疑いをかけられ、職場をクビになった挙句、コツコツ貯めていた全財産を没収され、街から叩き出された。
完全に冤罪である。しかし、彼には頼れるツテがなかったため、泣き寝入りした。無職、無一文、前科持ちのトリプルコンボである。
「はあ〜あ」
全てを失った事より、職場の人々の冷たい目の方が辛かった。何人かは疑問の目を向けてくれる人もいたが、あまり慰めにはならない。
別に切れ者でも、腕っ節が強い訳でもなく。あるのは健康な肉体と、たった一つ、使い道がよくわからない【スキル】だけ。
「ああ、心がしんどい……甘いものでも食べたいな……」
ダイは立ち止まって天を仰いだ。しかし何かが起きる訳でもない。仕方なしに歩き出そうとすると、誰かの泣き声がする。
『うう……げほっ、ごほっ、ごめんな、げほっ』
『にゃ〜……』
「なんだ?」
あたりを見渡すと、道端にクレープ屋の屋台がある。しかし営業している様子はなく、そばにしゃがみ込んだ男と子猫がいる。
『ごめん、ごめんな、俺は猫アレルギーでお前を飼えないんだ、うっ、蕁麻疹が……かゆっ……つら……』
『にー……』
どうやら露頭に迷った子猫と、猫が大好きな猫アレルギーの男性のようだ。せっかく出会えた二人なのに、人生はままならないものである。
「……」
ダイは閃いた!
「弱体 解 除」
ダイは男に対し、無許可でスキルを使った!
彼のスキルは『アレルギー付与』及び『アレルギー消滅』だ。何のエフェクトもない、クソ地味なスキルである。
先程、自分に汚職の罪をきせて追放した上司に仕返しのため『パイナップルを食べるとちょっと口が痒くなる』デバフを付与したが、全く気付かれていないであろう。
『にぃ……』
『うっうっ、ごめんな、俺を許し……あれっ』
『にゃ?』
『あれ、なんか……もしかしなくても猫アレルギー治った??』
『にゃーん!』
子猫は男の腕に飛び込んだ。ダイはそれを見てほっこりした気持ちになり、繁盛しているクレープ屋と、看板猫に成長した子猫を想像し、さらにほっこりした。
『ははは、やった、やったぞ! カルタゴ、今日からお前の名前は『カルタゴ』だ! 二人で歴史に名を残そうな!』
『にゃあああああああん!』
ダイは二人を見守り、そっとその場を離れた。
しかし話はこれで終わらない。男と猫が、屋台を引きながらダイを追いかけてきたのである。
「おい待て! お前、一部始終を見ていたよな。怪しい。俺に何かしただろう」
「うっ、アホそうな顔の割に意外と鋭い……」
バレてしまっては仕方がない。悪いことをしたわけではないので、ダイは素直に自分のスキルの詳細を話した。
「なるほど、そういう事か。この天才軍師と呼ばれた俺ですら、全く気が付かなかった。こんなユニークスキルがあるとは、やはり世界は広い」
男はハンニバルと名乗った。名前だけは、妙にカッコいい男である。しかし、彼は軍師ではなく、どう見ても屋台のあんちゃんなのだが……とダイは思ったが、細かい事は気にしない事にした。
「このクレープ、めちゃくちゃ美味いよ」
ハンニバルが好きなだけクレープをご馳走してくれると言うので、ダイは三つめのクレープを食べていた。
「俺は【調理】の上位スキル【美食】持ちだからな。当然だ」
「ねえ天才軍師さん、俺のスキルで金を稼ぐ方法って無いかな?」
せっかくなので、ダイは自称天才に意見を求める事にした。少なくとも料理の才能はあるので、本当に他の才能もあるのかもしれない。
「もちろん。とびっきり割の良い仕事があるぞ」
「どんな?」
『魔王討伐だ』