第7章〜魔法の魅惑〜
え?今、なんて??
「えっ、と、ごめん、聞き間違いかな?今、だいす…」
「うん!言ったよ!大好き!」
大好きコール!!…堪らんっ!い、いや、でも冷静になって考えるんだ。ほら、よくあるじゃない。「あー、私も〇〇大好きなんですよ〜!」みたいなノリ!そのノリだ!絶対!うん!きっとケルプシーバッドで頭の中掻き回されてこういうことを言っちゃったに違いない!あと雰囲気!
「…それって、ライクの方だよね?L・I・K・Eのライク?」
「えぇ〜、僕これでも本気だよ??」
…。打つ手無し。星夜くんをチラッと私を見る。
星夜くんは純粋な真っ直ぐな瞳でこちらを見つめている。この後、あなたはどう回答しますか?
▶︎笑って誤魔化す
▶︎受け入れる
うーん…どうしよう…。
確かに、私は星夜くんのこといい人だなって思うし、付き合えたらどんなに幸せかって思うけど…。でも今はその時じゃない気がする。ここは選択肢三!『保留』!!
「…ありがとう。私…星夜くんにそんな風に想ってもらえて嬉しいよ。もし、本当に星夜くんが本気なんであれば夢みたいな話だけど、でも今はまだちょっと早いと思うな…」
「えっ、それって…保留ってこと…?」
「…うん」
「じゃあ、じゃあ、僕のことは好きって事なんだよね??両思いなんだよね??」
「うん」
「やっ、やったーーー!!!!」
ちょっ、星夜くん声大きいよ、ここ人いっぱいいるんだよっ…?
「あっ、あまり騒がないでっ…なんか…恥ずかしい…から……」
「えー?なんで〜??よくない??だって、ここデートスポットとしても一役買ってるんだよ?」
うっ…知ってる…。毎年、トラストが全世代のデートスポットとして一番人気なのは知ってる…。有名人がトラスト・ランドのシャランドール城の前でプロポーズして見事成功したってのも知ってる…。けど…。けれども…!
一応、デートではないっ…!
「いや…えっと、念のため改めて言っておくけど、保留だからね?付き合う訳じゃないからね?」
「うんうん!わかってるって!僕は気持ちを知れただけで嬉しいのっ!」
そう言うと、星夜くんは私の手を握ってきた。
えぇぇぇぇ!?本当に分かってるの!?
すると、私のドギマギした表情に気づいた星夜くんが私に微笑みかけてきた。そして顔を近づけてくる。
え!?え!?
「別に恋人繋ぎじゃないんだし、これならいいでしょ?」
「え、あ、う、うん」
な、なんで顔の真横で言うんだろ…?
「後もう一つ」
「な、なに?」
「絶対逃さないから」
「え」
その言葉に背筋にヒヤリとしたものを感じた。
っていうか、『絶対逃がさないから』…?えっ?どういうこと?そもそも逃がさないって何?
しかし、すぐに星夜くんはぱっと顔を離した。咄嗟に顔を見るもののいつも通りのニコニコ顔に戻っていた。なんだったんだろう…。
「ほら!早く!ベイクドチキンレッグ売り切れちゃうよ〜!」
「あ、うん」
そしてそのまま、半ば強引な状態で星夜くんに連れられ私たちはフィッシュ・タイドラントを後にした。
デスティニーアイランドに着くと、私たちは早速ベイクドチキンレッグを買いに行った。すると、そのお店に並ぶ人、人、人!!こりゃあ…十五分は待つかな…。
「ねぇ、星夜くん。これ結構待ちそうだけどどうする?並ぶ?他のとこ行く?」
「折角真由ちゃんが提案してくれたんだし、ここがいい!」
「うん、わかった」
なんか…嬉しいな…。私が提案したって理由だけでここって決めてくれるなんて。
「因みに、食べさせ合いっことかってするの?」
「え?」
えっと、今なんて言った?食べさせ合いっこ??え、そんなの恥ずかしすぎて無理なんだけど…っ!
「しないっ!無理っ!恥ずかしくて絶対できない!!」
「えー、じゃあじゃあ、一回だけあーんは?」
「それも…ちょっと…」
「お願〜い」
出たよ、出ましたよ。また子犬みたいなうるうるした目で上目遣い。これやられたら拒否できないじゃん…ずるいよ…。
「…うん、一回だけだよ」
「やったー!」
はぁ…こっちの気も知らないで…。恥ずかしいんだからね?
そんな会話をしている内に、私たちの番が周ってきた。
ほ〜、ここって飲み物も買えたんだ。
「ご注文どうぞ」
「ベイクドチキンレッグ二つください。あ、ドリンクでー…ウーロン茶一つと…」
「コーラください」
「はい、お会計は一千百円です」
あ、意外と安い。これだったら私から出せる。
「お願いします」
「…?はい、一千百円丁度頂きます。ありがとうございました!」
「よーし、冷めない内に早く食べよ〜!」
あ、あの星夜くん?食べよ〜!じゃなくて?
「あ、あの、星夜くん。さっき星夜くん私の手押さえてまで払ってくれたけど、どうして?」
「え、だって僕、男でしょ?真由ちゃん女の子じゃん。だったら基本食事は奢りたくなるもんじゃない??」
うーん…。そう言うものなのか…。まともな彼氏いない歴=年齢の私だからそう、とかはわからない…。
「じゃあ、ほら、あーん!」
「えっ」
「言ったでしょ?一回ならいいって。だから、あーん!」
「あ、あーん…。…美味しい」
何これ、美味しい以前に死ぬほど恥ずかしい。てか、これ普通カレカノがやる行為じゃない!?…え、待って、向こうの人なんかチラチラこっち見て話してない?え、何、怖…。
「ほ、ほら、星夜くんも食べちゃいなよ。美味しいよ?」
「真由ちゃんからもあーんして!」
「えぇ」
「一回だけ!」
「…うん、一回だけね。はい、あーん」
「あーん!」
星夜くんは美味しそうにチキンを頬張る。こうだから憎めないんだよなぁ。
「じゃ、あとは普通に食べよ」
「うん!」
そしてお互いにムシャムシャと食べ進めながら、次に乗るアトラクションや寄りたいショップ等も決め席を立とうとした、その時だった。
食べ終わったことに気がついた先ほど私の方をチラチラと見ていた女性二人が、近づいてきた。
え!?何、怖!?モニタ◯ング!?
「あのー、すみません。もしかして彼氏さんって…」
その女性は、私の耳元で私がトラスト・アクアに来て初めて星夜くんに対してした質問を私にした。
「え、なんで…?」
「見ればすぐに分かります。ずっと追っかけやってましたし、今も動画見たり、クレッセント・ムーンさんの公演も行ける範囲は行ってますから」
そんな…こんな短時間でばれちゃうなんて…。どうしよう…。「違うよ」なんて私が言ったって通用する訳ないし…。
「ねぇ真由ちゃん、この人たち知り合い?」
「あー…いや、えっと…。知らない人ではあるんだけど…」
「あの!!もしかして…」
「ファンキャスト宮澤さん…ですか?」
「あっ、僕??」
あー!!聞いちゃったよ!この人たち!星夜くん、絶対優しい人だから「そうだよ!」って答えて何かしらのパフォーマンス見せちゃうパターンだよ!いや、別にいいんだよ、いいんだけど!!でも…折角ここまでの関係になれたのに…。会場以外で他の女性に愛嬌を目の前で振り撒かれるのは流石にいい気はしないな…。
「うーん、やっぱ僕ファンキャスト宮澤さんに似てるのかなぁ。僕、よく間違われるんだよね。だから僕もその人のファンになっちゃったんだけど。でも僕は違うよ、僕ね、橋下優っていいます。職業は、憧れて大道芸人やってるの。得意なのはディアボロとバルーンアートだよ」
「橋下優さん…?じゃあ人違いかなぁ…」
「ごめんなさいね、失礼しました」
それだけ言うと、二人の女性は少しだけ寂しそうに去って行った。
「…星夜くん…なんで…?本当のこと言ってもよかったのに…」
「ふふっ、真由ちゃんはおバカさんだなぁ、僕が数時間前に言ったこと忘れた?『僕はただ目の前にいる人を笑顔にしたい。それだけだ』って言葉。さっき目の前にいたのは真由ちゃんでしょ?さっきの二人じゃない。それに、真由ちゃんにあんな寂しそうな顔されたら僕だって男として守ってあげたいって思うよ」
見ててくれてたんだ…?私の事…。それにちゃんと考えてくれてた…。自分のファンよりも私を優先してくれた…。
「ありがとう…。ほんと…ありがとう…」
「ほらー、泣かないでー!僕そんな凄いことしてないからー!」
「だって…だって…。こんなに家族以外の人に大切にされたの初めてで…嬉しくて…」
そう思えば思うほど、涙がボロボロ出てきた。
やっぱり泣かないで、なんて言われてもそんなの無理…。
「うんうん、そっか。でも、それは僕もおんなじだよ」
「…え?」
「だって、何度も言うようだけどエレベーター・ディセントの時に暖かく包み込んで僕のことを守ってくれたのは真由ちゃんでしょ。だから、僕もおんなじだよ」
私が…。そうか、だから星夜くん、あの時あんな頼ってくれてたんだ。確かに、今とは状況が違うけど人に暖かくされたり大切にされたりするのって、こんなにも幸せなことなんだ…。幸せって、こんなにも身近にあるものなんだ。たった一つの言葉や行動でこんなにも大きな幸せを作れるんだ…。
「さっ、いつまでもここにいたら他の人にもばれちゃうかもしれないし、早く行こ?ほら、涙拭いてあげるから」
すると、星夜くんは自分のポケットからハンカチを取り出し、涙を拭ってくれた。そのハンカチをよくよく見ると、見たことのないデザイン。流れ星の横に天の河があり、そこに「魔法はいつも自分の心の中にある」と書いてある。
うーん、普通の会社じゃこんなデザインしないよなぁ、何かのイベントでもらったのかな?
「よしっ、これで元の可愛い真由ちゃんに戻ったね。じゃあ、行こう!」
「…うんっ!」
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
今回の、星夜が嘘をついたラストシーン…わかる人は、わかりましたでしょうか…?ちょっと捻りを効かせてみました!
実は書きながら、私自身ツッコミも入れてたりするんですよね、「間違ってない!あながち間違ってないよっ!…ぶっ…!」みたいな感じで笑いながら…。
今回、凄く書いてて楽しかったです。皆様も、お読みになられている時、少しでもくすって笑ってくださってたら嬉しいです…!
それでは、改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!