第4章〜彼のホントの顔〜
それから、星夜くんに手を引かれ連れて来られたのはビデオ・イクスエリピスだった。
すごい、ただでさえイクスエリピスに来るのは初めてなのに、まさかその初めてで裏から入る事になるなんて…。夢でも見てる気分。しかも、驚いた事にさっきまであんなに甘えん坊だった星夜くんが今になってはもう既にお仕事モード。すごくしゃんとしてる感じは今日初かも。
「こんにちは」
「あ、クレッセント・ムーンさんですか?予定時刻よりも大分早いようですが…」
「ごめんなさい、ちょっと今回はアシスタントのコが急遽入る事になったので早めの下見をさせて頂けませんか?」
え?アシスタント??聞いてないのですが?と言うより、星夜くんってマジシャンの方の名前クレッセント・ムーンって言うんだ…。
「「星夜くん、私アシスタントなんて聞いてな…」」
「「しーっ!」」
「なるほど。承知しました。では、まだ映画が上映中ですので、この通路の先にあります、奥の楽屋でお待ちください」
「はい、わかりました。ありがとうございます!」
な、何あの笑顔…。無垢な笑顔…可愛すぎる…。
「だって。さ、行こ?まだまだ真由ちゃんに話したい事いっぱいあるの!」
「あっ!待って!」
それだけ言うと、星夜くんは奥の楽屋へとスタスタと歩いて行った。
楽屋に着くと、中にはソファやらモニターやら机やらハンガーラックやらまぁ色々とあった。でも、なによりも一番驚いたのは鏡の大きさ。壁の上半分ぐらいのサイズがあって、そこから下には机が並べられているという感じだった。パッと見た分には、星夜くんの物があるのか無いのか、全くわからない。
「星夜くん、私…普段飲食で働いてるからそんなエンターテイメントのお仕事なんてわからない…」
「ふふっ、誰が『舞台に出ろ』なんて言ったかな?大丈夫。真由ちゃんは僕の裏方のアシスタントさんになってもらうだけだから。それに、すぐじゃないよ。ちょっとずつ慣れていってもらえれば大丈夫だから」
なるほど…裏方さんのお仕事か。確かにそれだったら私でもできる事があるかも知れない。
けど、それって本当にいいのかな…。今まで成り行きでここまで来ちゃったらけど、でも本当は彼は凄い人なんだし…。彼のことを慕って、彼と一緒になりたいと心から願ってる人だっていっぱいいるはず。
それなのに、まだ追っかけにもなっていない私がそんなお仕事…しちゃって、いい、のかな…。
「どうしたの?」
「ダメです…」
「え?」
「やっぱり、私じゃ宮澤さんのお仕事のお手伝いさんは務まらないです…!きっと、私なんかよりも適任の人が探せば見つかるはずです。今日一日、夢を見させて頂きありがとうございました!さようなら!」
言っちゃった…。ごめんなさい。星夜くん。
私は、目に涙を溜めながら部屋のドアに手をかけ、部屋を走り去って行った。
あーあ、ホント最低。みんなの憧れの存在のクレッセント・ムーンさんにあんなにベタベタしちゃって、しかもその上折角の誘い断るなんて…。最初からよく考えてから行動すればよかった…。
そんなこと考えながら出口に向かい走っていると、何やら人だかりができていた。普段の私なら率先して頭を突っ込んでいくタイプだが、今はどうでもいい…。でもその人だかりは、その心境とは反対に私に近づいてきた。
「な、何!?」
人だかりにもみくちゃにされてわかったことは、まずその人だかりは殆どが若い人か子連れだと言うこと。もう一つはその中心にこのパークの人気キャラクターがいたと言うこと。
「…ぇへっ…」
え?今、キャラクターが私に向かって笑顔向けた…?
そう思ったのも束の間、キャラクターは私の手を掴み通路の裏へと引き摺り込んだ。
「ちょっ、ちょっと!何するんですか!!離してくださいよ!私帰るんです!」
「…そんな寂しい事…言わないでよ…」
「えっ…?星夜くん…?」
私は抵抗するのを止め力を抜くと、キャラクターは自身の頭の部分を取った。すると、そこには汗だくの星夜くんの姿があった。
「真由ちゃん…僕…真由ちゃんじゃないとダメなの…。今日、パークで僕が怖がってた時、真由ちゃん色々助けてくれたでしょ?あれは、心が温かいキミじゃなきゃできないよ…。それに…」
「それに…?」
「真由ちゃんは僕に似てるから…」
私と星夜くんが似てる…?どういうことだろう…。
「真由ちゃんって、困ってる人いたらなんとかしてあげたいなって思う?」
「思う」
「だよね!じゃあちょっと嫌な思いさせちゃうかもだけど、真由ちゃんは学生時代中々人間関係に恵まれなかった?」
「恵まれなかった!すごい、なんでわかったの?」
「ふふ、それはね、僕と相手にやってあげたいなって思う行動が一緒で、人に対する思いやりの心が深いってわかったから」
そうだったんだ…。なんだか今まで理解してもらえなかったことがやっと理解してもらえたみたいで嬉しい…。
そう思うと、また自然と瞳に涙が浮かんできた。
「ほらほら、泣かないで。真由ちゃんにはずっと笑顔でいて欲しいから…」
「うん…。ありがとうございます…。お陰で元気出ました」
「ふふっ、元気になってくれて良かった。でも敬語は厳禁だよ?」
やっぱり、星夜くんは温かい。なんだかんだ言って、一緒に居たい。さっきあんなこと言っちゃったのに、なんでこんな笑顔が向けられるのか私にはさっぱりだけど、だからこそ、その笑顔がより胸に染みた。
「それで、さっきの話に戻るんだけど、真由ちゃんもしかして何かを気にして部屋出て行っちゃったの?」
「え?どうしてわかったの?」
「真由ちゃんが出てった後、僕追いかけながら考えたんだ。実は真由ちゃん、何か自分の中で何か引っかかることあって出てったんじゃないかなって」
その通り。大正解です。
「う、うん…。まぁ…ね…」
「ねぇ、教えて?何に引っかかって出て行っちゃったの?僕それわからないとこのまま引き下がれないよ…」
確かに…。何も言わないままだと星夜くんに気持ち伝わる訳ないし…。どうしよう。この際思い切って言うか適当に誤魔化してしまうか…。
「…無理、しなくてもいいよ。よくよく思い返せば最初に無理なお願いしたのは僕だし、全然強制じゃないし。それに、こんな僕だから…嫌いになっちゃったよね…ごめんね…」
「嫌いになんてなる訳ない!」
「…え?」
私は、咄嗟の想いでつい口走ってしまっていた。まぁ、そりゃあ突然そんな大声出せばびびるのも訳はないかな。
「…私ね、最初は星夜くんのことファンキャスト宮澤さんとしてミーチューブで知って、ずっとファンキャストさんとして憧れてた。でも、今はもうとっくに星夜くんは引退してクレッセント・ムーンさんとして活躍してるのに、私クレッセント・ムーンさんの方の星夜くんの顔は全然知らなくて…。それなのに、突然トラスト・アクアで一緒に迷子の子供助けたんですって理由だけで、星夜くんと一緒にお仕事するなんて他の追っかけやってるファンの皆さんに失礼なんじゃないかなって…」
「…それで出て行っちゃったの…?」
「…うん…」
そして、暫くの沈黙が続く。
すると、星夜くんは私の手首をがっしりと掴み、イクスエリピスへと引っ張って行った。
え?無理矢理にでも手伝わせるつもり??
イクスエリピスに着くと、即楽屋へと向かう星夜くん。楽屋へ入るなり鍵を閉め窓が閉まっていることを確認する。一体何するつもり?
「…バカ!」
「!」
「僕は周りの人がどうとかどうでもいいんだってば!!とにかく目の前にいる人を笑顔にしたい。それだけなの!わかる?だから、その為にはあの時目の前にいた優介君や僕を笑顔にする為に一生懸命になってくれた真由ちゃんの力が必要なんだよ…。それは他の人にはできそうでできないことなの…。真由ちゃんならそのことがわかるでしょ…?」
星夜くんは、涙を両目にいっぱい溜めながらも私に訴えかけてきた。しかも、今まで見たことがない、本気の顔で。
言葉だけでも、ちゃんと意味は理解できたし納得もできた。けど、星夜くんのその表情や雰囲気からさらに深く意味を知ることができた気がする。
「…ごめんね…。わかる気がする…。私、昔から変わってるってよく言われててさっきもそれでファンの人からの批判が来るのが怖くて。でも、星夜くんとなら、私頑張れる気がする…!私…やってみるよ!協力させて!!」
「!よかった!協力してくれるなら僕は大歓迎するだけだよ!!じゃあ、これから改めてよろしくね!」
「うん!よろしくお願いします!」
そして、下げた顔を上げるとそこには今日一の満面の笑みを浮かべた星夜くんがいた。
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
本日はこの場を借りて、皆様に嬉しいご報告をさせて頂きたいと思っております!
なんと、先日、皆様のお陰で読者様の人数が合計、五十名を突破しましたーっ!
私、超絶嬉しいです!知った時は文字通り転げ回って喜びました!
そして、ここで五十名を突破したということでご質問させて頂きたいことがあります。
これからの投稿頻度についてです。
常連様ならお分かりになるとは思いますが、シリーズ化してから四日に一回の投稿頻度に変更させて頂いたので、それについて何か、こうしたら良いのではないか、などと言う意見がございましたら、是非気が向いた時にでもコメントで教えてくださると嬉しいです。教えてくださった際はコメント次第で、即投稿期間の変更を行いますので。(複数あった場合は多数決で決めるので必ずしも意見が通るとは限りません)
もちろん、ストーリーについてのコメントなども寄せてくださっても嬉しいです!
それでは、改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!