第3章〜動き出す歯車〜
食事を済ませると、次にアトラクションに乗るということになった。どうやら、この感じからすると本当のデートみたいになりそうな予感…。
「ねぇ、真由ちゃんはどんなアトラクションが好きなの?」
「えーと、私は基本何でも好きだけどストーリー性があるアトラクションとかジェットコースターとかが一番好きかなぁ。ほら、ここで言えばシン・ラットとか、エレベーター・ディセントとか。星夜くんは?」
「うーん…僕もストーリー性のあるアトラクション大好きかなぁ。絶叫系とかは僕も乗るよ〜。高いとこは苦手だけど」
へぇ〜、やっぱり高所恐怖症なんだ。確かに、星夜くんのタイプからしていかにもそんな感じだもんね。でも絶叫系大丈夫なのは意外。
「じゃあ、とりあえずシン・ラット行く?あそこなら待ち時間いつも五分、十分ぐらいだからすぐ乗れるはず!」
「うん!行く!」
あ〜、やばい、今からすごい楽しみ!
シン・ラットっていうのは、十五人ぐらいが一列三人掛けのゴンドラに乗って進むストーリー性のあるアトラクションなんだけど、そこに出てくる、犬のファンヌーってキャラクターがすごい可愛いんだよね!
「あ!ファンヌーみーつけた!」
「えっ?」
そう言って、星夜くんが指さした先にはファンヌーとシン・ラットの金の看板のような物があった。これは、シン・ラットのアトラクションの目印。って事は到着だ!
「真由ちゃん!着いたよ!早く行こう!いざ、希望のマップに従ってしゅっぱーつ!」
「うんっ!レッツゴー!」
すごいなぁ、星夜くん、テンションめっちゃ高め。って言っても、私もすごいテンション上がってきてるんだけどね。
そして、いよいよ順番が回ってきて私たちもゴンドラに乗り込む。運の良いことに最前列!
「楽しみだねぇ〜っ!僕ね、シン・ラットのアトラクションはストーリー意外にも好きな所があって、このアトラクション内の水の匂いが大好きなんだ」
「あ、わかる!その気持ち!なんかヒーリング効果みたいなのあるよね!シン・ラット特有の。匂いも含めてシン・ラットの魅力だよねぇ」
そんな魅力についてを語り合っていると、ゴンドラはいよいよ出航の準備を終え、冒険の旅へと出発した。
その時にふわっとくるちょっとした疾走感がまた心地いい。
すると、星夜くんが目を閉じて少し天を仰ぐ。
…アレ?もしかして、今の怖かった??
「どうしたの?」
「今のふわって感じのがすごく気持ちよくて。わかる?」
なんだ、怖かったわけじゃないのか、ちょっぴり残念。
「あー!わかるー!なんか急に来るからちょっとびっくりするんだけど、風が気持ちいいんだよねー!」
「うん!やっぱわかるよねっ!」
そして、ゆっくりとゴンドラとストーリーは進んでいき、私達はシン・ラットの世界を心行くまで堪能しきった。
「ねぇ次どこ行きたい?」
「んー…ガイドブックルーレットで決めない?」
「ガイドブックルーレットってなに?」
「うん。バーってガイドブックめくっていって、開いたページのアトラクションに乗るの!」
「おー、それいいね!」
「よし、じゃあ行くよー!」
パラパラパラパラ
「ココっ!『エレベーター・ディセント』おー!どうする?」
私が聞くと星夜くんは顔をぱぁっと明るくした。
でもどこか、引っかかる気がする。
「ここでいい?」
「勿論!」
「うん、わかった。じゃあ、行こう?」
「うん!」
エレベーター・ディセントへと着くと、やはり人気のアトラクションという事もあり長蛇の列が出来ていた。待ち時間はこの感じからするとおよそ四十分ぐらいだろうか。まぁ、そんな長い待ち時間でも飽きさせないようにこのトラスト・アクアは案を練っているんだよなぁ〜。例えば…。
「うわぁっ!びっくりしたぁ!」
説明するよりもQライン(※)進んで行った方が早そうだね。
「ん?あぁ、これね〜。確かに最初はびっくりするよね。でも慣れてくればそんな驚かないよ〜」
「うんっ、よくそんな冷静でいられるね…」
(※アトラクションの搭乗口までの装飾された道の事。アトラクションの敷地内のエリアを一般的に言う)
…ってあれ?なんだろう。チラチラ私の方見てるけど…。……可愛い。
「どうしたの?」
「…真由ちゃんって、怖いものとかないの?」
「え、全然あるよ〜!初めてのホラーとかも怖いし、災害も怖いし。でも何よりも怖いのは、この幸せな時間がいつか終わっちゃうことかな」
私も、勿論ホラーとか災害とかも怖い。けどやっぱり、星夜くんから離れるのが一番の恐怖だと思う。だって、初めて出逢った、私の最高の理解者なんだもん。
「ありがとう。真由ちゃんと一緒にいる時間ずっと続けばいいのにね…」
「うん…。でも、幸せな時間にはいつか終わりがあるからまた次の幸せな時間が訪れる。だから、今を楽しも!」
「…うん!」
「じゃ、あとしばらくしたらちょっと面白いことが起きるからそれまでは待機だね」
そして、およそ三十分後。私達は他のゲストさん達と一緒に一つの狭い部屋に案内された。
勿論、私はこの後この部屋で何が起きるのかを知っている。
「はじめに、ビル・ツリー二世の記者会見を流させて頂きます」
最初は普通に進んで行く記者会見。だが、突然異変が起きる。途中、唖然とした表情でその場の状況をただただ見つめている星夜くんは、なんとも愛おしかった。
「はぁ…。ベソ二ネファトカーケシ怖かった…」
おぉ、名前覚えるのも聞き取るのもすごいな。どうやら、これは偶像の名前でアルバニア語で『災を信じよ』って意味があるらしい。世界の言語って難しいよねぇ。
「すごいいい感じでゾッとするよね。あのベソニネファトカーケシとかいう呪いの像もすっごくカッコ良かったし!」
「真由ちゃん…強すぎ…」
あー…項垂れちゃった。星夜くん、乗る所まで持つかな?
そしていよいよ搭乗口までやってきた。不安そうな顔の星夜くん。と、それを内心微笑ましく思ってしまう私。
「お次の方どうぞ〜。」
いざ、搭乗。
座った席は結構後ろの方。まぁ、怖さは半減されるから星夜くん向けではあるかも。
エレベーターが動き出す。
急上昇、急降下を数回繰り返した後ベソ二ネファトカーケシが正面に現れる。星夜くんを見ると、ちょっと顔が引きつってる。
さっきのトラウマかな?
「現実世界のお前自身にお別れの挨拶をするんだな。」
あー、このセリフ最高。
「お別れッ!?」
と、同時にだんだんと薄れていく搭乗者全員の正面に映る影。そして絶景が一瞬見えたと思ったら…。
頂上から一気に急降下!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
星夜くんのはマジのほうの絶叫だろうけど、私は結構このスリルが楽しい。
…ってあれ!?ちょっとだけ泣いてない!?ちょっと、ちょっと…無理しなくていいのに。
やっとの思いで無事にエレベーター・ディセントから出ると、星夜くんは結構急降下のショックやらまぁ色々がすごかったのか、ふらふらしてしまっている。
「星夜くん、大丈夫?ほら、そこのベンチでちょっと休もう?」
「うん…」
ベンチに着き、ニ人で座るなりすぐに星夜くんは私の肩にもたれてきた。驚いて星夜くんの方を横目で見てみると、目を閉じている。
うーん…。頼ってくれるのは有難いんだけどこんな事があっていいんだろうか…。付き合ってる訳でもないのに…。って考えながらも背中摩っちゃってる私がいる。
「…怖かった…。僕…本当はああいうホラーなやつとか凄く苦手なの…」
「…やっぱそうだったんだね。よしよし。よく頑張った。誰かに頼りたい時は、思いっきり助けてって言ってもいいんだよ」
すると、その言葉に安心したのか今度は私を強く抱きしめる。
びっ、びっくりした…。でも、相当人肌恋しかったのかな。少しだけそっとしておいてあげれば落ち着いてくるかな。
それからかれこれ一分ほど。
「…やっと落ち着いてきた。ごめんね、迷惑かけて…」
「ううん、大丈夫。人には得意も不得意もあるよ!私も昔はエレベーター・ディセント乗って大泣きしちゃったし…。星夜くんもきっと、いつか克服できるよ!もしダメだったならそのままでもいいしさ」
「真由ちゃん…」
「な、何?」
…なんだろう…。今少し眉潜めたような気がしたんだけど…。
「僕、真由ちゃんみたいな人に初めて逢ったよ!だから、もっとキミのことを知りたい。ねぇお願い。この後時間空いてる?もしよかったら僕の下見付き合ってくれない?」
えっ?えぇぇ。えぇぇぇぇぇぇ!
「えっ、と、時間はあるけど、それって星夜くんのマジックショーの下見でしょ?一般のゲストの私が入っちゃダメなんじゃ…」
「大丈夫。僕がなんとか言い包めるからさ」
おぉ…。強気だなぁ。でもやっぱり、星夜くんがお仕事してる所ちょっと見てみたいしなぁ。
「…うん、わかった!私も一緒に行ってみたい…!」
その一言に、星夜くんはパッと顔を輝かせた。余程嬉しいのだろうか、何か物言いたげな感じだ。
「…ぃっ!うんっ!じゃあ今から行こう!」
「えっ?今から?」
「うん!予定よりちょっと早いかなぁぐらいだから大丈夫だよ!」
そんなー!心の準備という物がまだ整っていないのですが…。
「さ、こっちだよ!ついてきて!」
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
今作は結構進展、ありましたね〜!最初はもっと星夜を豪快に行かせようと思っていたのですが、師匠に読んでもらうと「流石にこれはない」と。なにせ、怖がって大泣きするって流れだったもので…。
今になっては思います。あり得ませんよね!初対面の相手に、怖いアトラクション乗ったからって言って男が女の膝借りて号泣するって!そう思うと、かなりマシになってると思います…。あはは…。
しかし!何はともあれ!次回は、裏物語の
「マジックの種は夢の中で in 僕の一日日記」を新しく配信開始していきたいと思っております!!
配信予定日は、二日後!この物語を星夜目線で見た物語が裏物語として登場します!更に、本編では書かれていない、あんな話やこんな話まで…。
星夜の裏の声まで聞けちゃいます!
裏物語投稿から二日後、本編、また二日後、裏物語のサイクルでこれからは投稿していくつもりです。お時間ある方は、これからもどうぞ「マジックの種は夢の中で in 僕の一日日記」も含めた二作品、「マジックの種は夢の中で」シリーズをよろしくお願いします!
それでは、改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!