第15章〜任務遂行〜
「あの、こんにちは!さっきお手伝いしていらした方ですよね?」
興奮気味な女性の声に振り返ってみると、そこには三人の女性陣がいた。
「あ、はい。そうです!」
「クレさんのいじり、どうだった!?なんかすっごい屈してる感じなくて堂々としてる感じがあったけど、楽しかった!?」
え、なにこのごりごり推してくる感じ。ちょっと圧がすごい…。
「あ、えと、はい。初見なんですけど、すごく楽しかったです!二回も壊れちゃった時は流石に焦っちゃいましたけどね」
「だよねーっ!でもそれがクレさんの愛なのよ〜!あ、ほら!そろそろ出てくるから、出待ち一緒に行きましょっ!」
すると、半ば強引にその出待ちの列にその女性は私を連れて行った。列に着くと、ちょっと後ろの方の人が少ない所に着いた。果たしてこんな所でこんなに人がたくさんいるのに星夜くんは気付いてくれるのだろうか?
少し待っていると、テントの裏口からクレさん姿の星夜くん?それともまだクレさん?が現れた。
「「クレさぁ〜ん!!」」
わ、すごい。みんなが気引こうって必死だ。後は大量のカメラとスマホの列。凱旋されるってこういうこと。
…って、あれ!?後ろにいるのって、カッシーさん!?持ってる紙袋、あれなんだろ。
「クレさん!差し入れです!午後も頑張ってください!」
「ありがとう!頑張る!」
先程の女性は、いつの間にか手にしていた紙袋をクレさん?に渡すと赤面した。
やっぱり、この人と話すって相当緊張することなんだな…。
クレさんはその女性の隣にいた私に気がつくと、ニヤリと笑って口を開いた。
「あ、ルービックキューブ大切にしてね!今度はバラバラにしちゃダメだよ?」
ちょっ、うざっ!…でもここは一クレッズとして答えるか。
「しないですって…!私そんな怪力じゃないですよっ!!」
「ふふふふ、冗談。午後もまた見てね!」
それだけ言うと、クレさんは行ってしまった。
「いーなー、初見さんにこんな絡んでるの初めてかも。ねえ、あなた名前なんて言うの?私 奏って言うんだけど」
「真由です。そんなに初見さんには絡まないんですか?」
「うん、あんまりないかなー。絡むのは顔出すのがそれなりの回数に達してからの人が多めだね。ねぇ、良かったら真由ちゃんもさ、この後私たちとご飯行かない?すぐ近くにさ、クレさん絶賛のラーメン屋さんがあるの」
「いいですね!行きたいです!あ、でもちょっと私の知り合いの方に聞いてきますね…」
やべ、すっかり由紀さんと山岡さんのこと忘れてた!二人も一緒に行くのもありかな…。
「由紀さん!山岡さん!今からクレッズの方とラーメン行くことになったんですけど、お二人も行きますか?」
「うーん…。私たちはいいや。一緒に行って身バレするのも嫌だし…。私たちは宮澤さんと同じお店で食事してきます。宮澤さんも誘ってくださったので…。お誘いありがとうございました。真由さんも、楽しんでくださいね!それではまた後で!」
そう言うと、由紀さんと山岡さんは会場から去って行った。
そっか〜…ちょっと残念だけどまぁしょうがないか。
「すみません、戻りました。私の知り合いの方は別の方と一緒に行くそうなので私だけご一緒させてもらってもいいですか?」
「うん!全然いいよー!じゃあ行こ!さっきのみんなも一緒だから!きぃちゃん!ハッシー?どこー?」
「…?」
「あ、私たちね、リアルの名前では呼び合わないのよ。大体のクレッズさんはsoundsやってるから、そのユーザー名で呼び合うの。真由ちゃんはやってる?もしやってるならこれからそのユーザー名で呼ばせてもらうけど…」
「やってます!まりくって名前です」
…お分かり頂けただろうか。ここでも私のブラコンぶりが発揮されているということを。
「オッケー!じゃあ、ラーメン屋着いたらアカウント教えて!みんなでフォローするから!」
「あ、ありがとうございます!」
「お待たせー」
「じゃ、行こー!」
なんかママ会みたい…。
そして、奏さんこと、カナディさんの案内でラーメン屋さんに着くと、お昼時と言うこともあり、お店はかなり賑わっていた。だが、よくよくお客さんの年齢や性別を見てみると、クレッズさんと被り気味。
…もしかして、結構みんなこっち来た?
「らっしゃいやせー!お好きな席どうぞー!」
そのまま私たちは奥のテーブル席へと着いた。
「ここのね、限定三十杯のチャーシュー麺が美味しいのよ!まぁ、それがまだあるのかないのかは運なんだけどね。じゃあ全員同じでいい?」
カナディさんの問いかけに全員が頷く。
なんて言うか…。影響力が強いのかな?きっと。ここのメニューも肉って感じだし。まぁ、肉好きからしたらもってこいとお店だけどね。
「すみませーん!」
「はぁい!…お待たせしました!ご注文どうぞ」
「チャーシュー麺五人前ください」
「はい、チャーシュー麺五人前。かしこまりました!」
「よしっ、じゃあ待ってる間にまりくちゃん!soundsのアカウント教えて!」
「えっ?あ、はい!」
私がスマホの画面に自分のアカウントを表示すると、みんなは一斉にsoundsで調べ出した。
「あ、これ?」
そう言ってハッシーさんが差し出したスマホの画面のアカウントは、確かに私のものだった。
「すごいねぇ、この彼氏めっちゃイケメンじゃん。服もめっちゃおしゃれだし」
先にアイコンもヘッダーも変えとけば良かった…。
「えぇっと…。彼氏じゃなくて…弟なんです。服も弟が自分で作ったやつで……」
「えっ、やばっ!弟めっちゃイケメンじゃん!こんなお洋服作れるの!?えっじゃあ…」
ん?なんだかやな予感…。
「もしかしてこんなお衣装とかだったら超簡単に作れちゃったりする?」
「あ〜…。多分?」
やっぱり。クレさんの衣装を理玖都に依頼するって感じか…。
「ねぇ、一生のお願い!どうしてもこのお衣装だけが複雑すぎて作れないの…!生地はあげるから、このお衣装をトラストのラッフィサイズで作って貰えるようにお願いしてくれない…?」
ラッフィキター!うーん…まぁ、お願いしてみるか…。
「んー…わかりました、お願いしてみます」
「本当!?ありがとぉーっ!」
それから、色んなクレさんに関するお話をしているとすぐにチャーシュー麺がきた。するとそのタイミングで誰かからrinが来る。画面を見てみると、星夜くんだった。
危なっ!始まる前に「せーくん」って変えておいて良かった…。
『真由ちゃん今どこー?』
ロック画面にそう表示されていたが、とりあえずは無視。チャーシュー麺来たし、早く食べないと伸びちゃうしね。
「じゃあ食べましょうか!いただきます!」
「「いただきます」」
早速麺を一口口に運んでみると、麺があっさりとしたスープによく絡み、チャーシューはほろほろと柔らかくとても美味しかった。実際、ラーメンのスープって私は飲み干さないけど、このラーメンのスープだったら飲み干せちゃいそうなぐらいあっさりしてて美味しい。因みに、魚介ベースの和風テイストのスープ。それがあっさり感を出している。
あんまりお店の内装とは似つかわないけど、そのギャップがまた良いな。多分、星夜くんもそこが好きでここに来たのかも。それにここ、クレッズさん向きでもある。キッズメニューもあるし、キッズチェアーまで置いてあるし。「公演後にそのまま来てください」とでも言わんばかりのレベル。
そして、私たち全員が食べ終わると、お店を出てまたキノンへと向かった。車で十分ちょいの距離だし、そこまで遠くないし。悪くない。てか、凄くいい!
またキノンでのショーがあったら来たいな…。あ、そろそろ星夜くんにrin返さないと…。
「なになにー?彼氏とrinしてるのー?」
「えっ?あ、いえ…。大学の頃の男友達です。今度久しぶりにランチする約束してて」
私が答えると、隣に座ってたハッシーさんはスマホの画面を覗き込んできた。
『返信遅くなってごめん!今、クレさんの公演で知り合った人とお昼行ってて…気づかなかった…!』
お願い…!悟って…!
『そうだったの?じゃあ、これからキノン向かうって感じなんだね!楽しんでね!」
悟ってくれたーー!!!!のか?
「へぇ、良い人じゃん。こんな変わった趣味受け入れてくれる男子なんてそうそういないからね?大事にしなよ?」
「は、はい」
まぁ、受け入れるも何も…本人ですから…。
キノンに戻ると、早くも多くのクレッズさんが席に座って話していた。そんな座席の中でも、前の方が四つほど空いていて、そこにはお茶やらタオルやらが置いてある。
…なるほど。席はああやって確保しておくのか。多分、あの席がハッシーさんやカナディさんたちの席なんだろうな。
すると。
「お姉ちゃん!」
私に向かって、一人の男の子がダッシュしてきた。最初はわからなかったけど、近づいてくるにつれて優介くんだと言うことがわかった。
まずい。星夜くんとの関係がバレる。みんなには悪いけど、ちょっと先行ってもらおう…。
「あ、すみません。私ちょっと話してるので先行っててもらえますか?」
「うん、わかった!午後も楽しんでね!」
「はい!皆さんも楽しんでくださいね!」
間一髪。危険を回避しました…。
「お姉ちゃん!僕お姉ちゃんのこと探してたんだよ!」
「優介くん、久しぶり。どうして私のこと探してたの?」
「あの後ね、僕トラストから帰って次の次の日、学校に行った時に好きな子にお手紙書いたの。そしたらね、僕とお友達になってくれるって!」
「えー!すごいじゃん!優介くんやったじゃん!!」
「うん!それでね、その時に本当は僕のもので使う予定だったハンカチあげたら、『私が好きなものわかってるね』って言ってチューしてくれたの!」
小学生低学年ならではの大胆な行動!かわゆい!
「えぇっ!?すごっ!!それって…お兄ちゃんには伝えたの?」
「ううん。まだなの。だからね、お姉ちゃんから伝えてくれない?」
「もっ、もちろん!すっごくこと細かぁーく伝えとくよっ!」
「あははは、宜しくね!じゃあ、僕そろそろママのとこ行かなきゃだから…じゃあまた後でね!」
「うん!またねー!」
幼き人の恋物語…。素敵で心温まりますなぁ…。一切汚れがない。もう、純白。天使。
「真由さん!」
「わっ!」
「午前の部で言ってたこと、本当だったみたいですね?」
「ゆ、由紀さん…!聞いてたんですか?」
「はい。途中の『どうして私のこと探してたの?」』辺りから」
「いやもうそれほぼ全部ですよ…」
「えへへ。でも、あんな恋バナするなんて、やっぱり本当にあった話なんですねっ!すごいなー、すごいなー、奇跡だなぁー!!」
「ほんと、まさか私だって思い返してみれば奇跡だなぁって思いますよ〜。普通あり得ませんもんね。まさかあのファンカ…」
そこまで言うと、由紀さんに口を塞がれた。
「言動注意っ!いい?あなたの彼氏は、これからは井沢慧悟!けいくんね!わかった?」
私は、背中に冷や汗をかきながらこくこくと頷いた。そうすると、由紀さんはやっと手を外してくれた。
「ならば良し!あ、ついでに。井沢は私の苗字で、慧悟は山岡さんの下の名前。って事で宜しく!」
「へぇ、そうなんですね…!」
そう思ってチラッと山岡さんの顔を見ると、なんだか恥ずかしそうに笑っていた。
すると、突然スピーカーから星夜くんの声が聞こえる。
もうそんな時間!?
驚きながらも時計を確認すると、公演十分前になっていた。
時間の流れってほんとすごいな、早〜。
クレさんはペンシルバルーンが大量に入った袋を持って登場した。
「間もなくここでマジックショーを開催させて頂きまーす!お時間ある方は是非お立ち寄りくださーい」
そう言い終わると、クレさんはオレンジの風船を少しづつ膨らませていく。
「これなーんだ?」
「にんじん!」
「えぇ〜!なんでわかっちゃったのぉ?やめてぇ、僕より先に答え言うのぉ」
なんてやり取りしながらもクレさんは手をせかせかと動かして何かを作っていく。
…わからない、何作ってるんだろう?
「わんちゃんできた!欲しい人〜!」
そして、一番手を挙げるのが早かった子に渡す。
よく街中とかでもバルーンアートって見かけるけど、作る側がこんな笑顔で楽しそうなバルーンアートって私初めて見た気がするな…。
それから幾つかバルーンアートの作品を作り、クレさんはそのままテントへと戻って行った。
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
えー…。流石に一日で書き上げるの、無理です。
多分これから投稿はこのペースで続きます。ご理解の程、宜しくお願いします…。
そして、前回、予想以上の反響を頂きまして、その嬉しさ故一生懸命書いていたら午後の公演が非常に長くなってしまったので休み時間の回を設けさせて頂きました。
ですが、間もなく午後の公演も開演致しますのでご安心を。
それでは改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!