第14章〜初陣〜
いよいよ今日は、星夜くんと出会って初のクレッセント・ムーンさんのイベントの開催日。今日は岐阜県各務原市のキノンで公演予定。
私は特にこれといって何をしろとは言われてないけど、強いて言うなら早めにいてって言われた。二時間前には着いてるようにって。実質それって、まだ開店してないんじゃ…。まぁ、多分行ってみりゃわかるかなってことで!出発!!そして、新幹線で幾つかの県を横切り…到着!!
いざ着いてみると、誰も居ないのかと思いきや既に数人のファンの人と思しき人が集まっていた。
世代層、主婦多め…?あ、そっか、星夜くんに言われたんだった。一人でもいいから誰かファンの人の顔覚えて来いって…。んー…。みんなマスクしてて分からん…。星夜くんに「マスクしてて、茶髪の主婦っぽい人だよ!」なんて報告したら、なんかされそうだし…。親しくなれたらそれが一番なんだけど…。
「あの〜、もしかして、真由さん?」
「え?」
突然名前を呼ばれて振り返ると、そこにはタラーザさんがいた。
「えっ、あっ、タラーザさん…!?私服…!可愛い!」
「えへへ、ありがとうございます、ライゼントさん、こと、山岡さんもいますよ」
「えっ!?」
「こんにちは。先日はどうもありがとうございました。あの後は楽しめましたか?」
えっ、誰!?あ、でもよく見ると確かに面影はある…少しだけ…。
「あっ、は、はい!とっても…!お二人のショーもすっごく楽しかったです!!でも、どうしてお二人が宮澤さんのショーに?」
「あぁ、それが丁度メンテナンスが入ったんですよ。シアター内全ての物のメンテナンス。入り口にいるベシータから、シアター内のスクリーンまで。大きな支障が出る前にこうしてたまにメンテナンスすることで、上演中のハプニングを防ぐんです」
「なるほど…!じゃあ、今は重要な待ち時間な訳なんですね!」
「そうなんです!」
トラスト雑学、また一個身についた。
「因みに、真由さんは宮澤さんとはどこでお知り合いになったんですか?相当な仲とお見受けしますが?」
「はい?」
そう言ってタラーザさんが差し出して来たスマホには、どこで撮ったのかはわからないけど、とにかくよく撮れてるすっごく楽しそうなトラストでの私の写真があった。その下には…「僕の彼女と一緒にめいいっぱい楽しませて貰います!ありがとうございました!」なんて文章も添えられている。
あんのやろっ…!盗撮してたのか…!てか、付き合ってないっつの…!勝手に付き合ったことにするなし!
「あー…えっと…宮澤さんとはあの日初めてトラストで会ったんです。色々あって意気投合しちゃって…。それで一緒にトラスト周ることになったんです。私も宮澤さんも一人で来てたので…」
「えっ、じゃあ、その日の内にお付き合いされたんですかっ!?」
「付き合ってないですよ…!星夜くんが勝手に…!」
「あはは、宮澤さんらしいですね〜!」
星夜くん…らしい…?えっ、もしかして、あぁ見えて女 誑かしてたりしてたってこと…!?
「それって…どう言うことですか…?」
「うん、好きなものには本当に一直線なのが彼ですから…。あの時も、先輩から『彼女はー』って聞かれまくってたたんびに『いないですよ〜、僕と付き合ってくれるような人なんて…』って毎回言ってましたし」
要するに…星夜くんが一直線になれるような女性がたまたま私で、しかも、それを私がたまたま受け入れたってこと…?
「そう…だったんですか…」
「ええ。大切にしてあげてくださいね。彼のこと。私たちの大切な仲間なんです」
「もちろんです…!」
そして、私たちは友達になった。
そういう言い方しちゃうとちょっとおかしく聞こえるかもしれないけど、でも本当に仲良くなってrinも交換したりした。ついでにライゼントさんとも。
ライゼントさん、基、山岡さんは結構お父さん的存在の人で、めちゃくちゃ話に口を出すって感じではなかったけどたまにお話しをする、といった感じの程よい距離感の人だった。
「あ、真由さん。私たちと楽屋挨拶行きませんか?」
「え?」
「会場の方に関係説明すれば通して貰えると思うので!」
「えっ、あ、はい!行きます!」
ということで、私たちは会場のスタッフさんたちの許可をもらい、星夜くんの楽屋へと足を運んだ。
コンコンッ
「失礼しまーす」
「はーい、どうぞー」
タラーザさん、こと、由紀さんが部屋をノックすると、すぐに星夜くんの返事が聞こえた。中に入ると、星夜くんは既に衣装を着ていて、今日の公演の確認をしていた。
「あっ、井沢さん!山岡さん!来てくれたんですねっ!!」
「宮澤さん!こんにちは!この間はありがとうございました!今日は私たちが来させていただきました!」
へぇ…。外では苗字で呼び合うのね。やっぱりそういう感じなのか。ちょっと現実を知った。ここでもキャラ名で呼んでたら面白いのになって思ったのに。
「ん、真由ちゃんも来てたんだね!どう?クレッズのみんなとは話せた?」
「クレッズ?」
「うん、僕を応援してくれてるみんなのこと。僕がクレッセント・ムーンだから、その頭の部分を取って、クレッズ」
「なるほど、えとね、クレッズの人とはまだ誰とも話せてないの…。でも、由紀さんと山岡さんには会えたけど」
「そっか。じゃあ、お昼にでも話せる機会があったら話してみてね。みんないい人たちだから」
「うん!じゃあ、公演楽しみにしてるね!頑張ってね〜!」
なんだか由紀さんたちも話したそうにしていたため、話を切り上げて楽屋を出て行こうとすると、由紀さんに声をかけられた。
「あ、真由さん!先行っててください。多分、時間かかるので…」
「わかりました!」
何話すのかはわからないけど、とりあえずは三人だけにした方が良さそう。さて。戻ったらクレッズさんの人、一人でも覚えないと…!
早速会場に戻ってみると、既に用意されていたパイプ椅子は満席状態になっていた。
もしかして…指定時間早くしたのってこれが理由…?
感心半分、驚き半分で会場を見回していると、とにかく目についたのがクレッズさんの星夜くん愛だった。私はまだ星夜くんの本職、クレッセント・ムーンさんについてを詳しく知らないのだが、そのクレッセント・ムーンさんに関連するグッズを身につけてるクレッズさんがとにかく多い。特に驚いたのは、手作りと思しきキーホルダーを着けてる人が何人もいること。このクレッズの間では普通なのかもしれないけど、普通ではあり得ないこと。だって…。
そんなグッズ作ってる時間あったら、普通別のことに時間費やすじゃん?
だから、この人たちは星夜くんへの愛が異常なんだなと知った。その反面、「絶対に私たちの関係は知られてはいけない」とも悟った。
するとその時。
ピロリン
『真由ちゃん、僕のマジックショーの中でお手伝いを頼む時があるんだけど、その時に真由ちゃん手あげてくれない?』
『いいけど…どうして?』
『僕のお手伝いした方がきっと、これから真由ちゃんにクレッズさんが声かけやすくなると思うからさ』
『なるほど!わかった!』
…「わかった」って打っちゃったけど、ぶっちゃけ訳わからん。手伝い?ってどう言うこと??普通マジックショーってマジシャンが一人か二人、舞台の上に上がってそれでマジックを披露するってものでしょ?そうじゃないってこと…?もしかして、そういう特別な人だからここまでクレッズさんたちが星夜くんに熱中するのかな…。
暫くすると由紀さんも山岡さんも戻ってきて、少しお喋りしていると星夜くんが登場した。
あれ?まだ開演十分前だよね?
「間もなく、こちらでマジックショーが始まりま〜す」
えっ、本人始まる前に出て来る系!?あっ、開演前の前振りみたいな感じかな?
「え゛っ!?」
顔を見てみると、すごく特徴的なメイクをしている。実際の星夜くんの顔はどっちかと言うと、イケメンと言うよりもなごみ系の可愛い顔なのだが…なんか…。うん。感想にすごく困る特徴的な舞台メイク。でもまぁ、ムーンって名前だから…なのかな。…うん、言い方を変えよう。お茶目で可愛いよ!うん!!
「あ、知りませんでした?宮澤さんの舞台メイク。結構特徴的なんですよ」
「そ、そうなんですね…。初めて知りました…。今日のお楽しみに取っておきたくて…。何にも調べて来なかったんです…」
「あらら…。じゃあ結構今の衝撃凄かったでしょ?」
「えぇ…まぁ…かなり…」
「ですよね。私も初めて知った時はかなり驚きましたもん」
「やっぱりそうですよねぇ」
そんな星夜くんの舞台メイクの感想に関する話をしている間にも、星夜くんは何やら舞台の準備を進めていた。その間、ずっと続く軽快なトーク。
すごい。こうやってクレッズを虜にしていくのかな。
そしていよいよ、マジックショーが始まる。
やっと。今まで彼の『裏』と言われる顔を見てきたけど、今から初めて『表』と言われる顔を見ることができる。
BGMが流れ出すと、舞台の袖にあるテントから改めて星夜くん、こと、クレッセント・ムーンさんが登場し、それと同時に歓声と拍手がわっと挙がる。
すごい熱気。
そのままマジックショーを見ていると、直ぐに星夜くんからのrinの意味はわかった。
「じゃあ、僕のお手伝いしてくれる人っ!」
「はぁーいっ!!」
「はいっ、はいっ!」
星夜くんが当たり前かのように客席の人にアシスタントを頼むと、それを当たり前かのように子供たちは受け入れ、手を挙げた。
す、すごい…普通ありえんことが起きてる…。多分、ここが家で目の前に理玖都しかいなかったらガクって顎外れてるわ。
「じゃあお願いできるかな?舞台上がって来てくれる?足元気をつけてね」
クレさん(ちょっと長いから簡略化)は子供を気遣いながら舞台に上げると、その子に名前を聞いた。すると、その子はすごく嬉しそうに名前を答える。
「優介くんです!」
優介…?え、それってどっかで…あ!!私と星夜くんがこうなるきっかけになった子じゃん!
「ゆ、優介くんじゃん…!」
「え、知り合いなんですか?」
「知り合いも何も…。私と彼がこう言う関係になったのって優介くんがきっかけなんですよ…!」
「そうなんですか…!?じゃああの子、実はめっちゃ二人の恩人…?」
「ですね…」
再び視線を舞台に戻すと、クレさんは何やら椅子二つで支えた板に優介くんを寝かせて、そこに何やら耳打ちをしていた。その言葉に対して、素直に行動に移していく優介くん。
一体何が始まるんだろう。
すると、突然耳打ちをやめたかと思ったらクレさんはキビキビと動き出し、優介くんにお布団をかけてから、次々と優介くんを支えるパーツを取っていった。
最後に残ったのは…優介くんの頭側にある方の椅子だけ。
「すごい…どうなってんの…?」
「トリックは簡単ですよ。種明かしはここでは出来ませんが、後ほどお教えすることはできますよ。…それにしても。宮澤さん。本当に腕をあげたんですね…」
プロの目だぁ…!
「あ、ありがとうございます!じゃあ、午後の公演が終わった後、もしお時間があったらお願いします」
「わかりました。お安いご用ですよ」
周りの人たちは気づいてないみたいだけど、地味にここにいる二人ってトラストのスーパーすごい二人なんだよなぁ…。
「はい、お疲れ様〜。じゃあ、ここまで頑張った優介くんに拍手ー!」
その言葉で周りから大きな拍手が湧き上がり、優介くんは満足そうな顔をする。
「じゃあ、今回頑張ってくれた優介くんにちょっとプレゼント作るね!」
そう言うと、何やら舞台上のカバン?から二枚の二色の薄い色紙を取り出した。それをどんどん小さく破っていく。そして、最後に指を鳴らして広げると、二色のパーティーハットになっていた。
「え、やば!すご、可愛い!」
「はい、どうぞ。お手伝いありがとね!」
クレさんは優介くんにパーティーハットを被せると、最後ににっこりと笑った。その時に何か優介くんが言ってたのだが、私には聞こえなかった。
「では今、小さい子にお手伝いしてもらったんで、今度は大人の方にお手伝いしてもらいたいな。誰かお手伝いしてくれる人!」
クレさんが声を挙げると、数人の女性から手が挙がる。
え、意外。恥ずかしがるとか…ないんだ。あ、そういや手伝ってとかなんとか…星夜くんに言われてたな…多分ここかな。
そう思いつつ、私も便乗して手を上げると、少しキョロキョロした後、クレさんは私に目を止める。
「じゃあ〜…すみません、お願いできます?」
「あ、はい」
「ありがとうございます!皆さん拍手をどうぞ!」
うわぁー。超恥ずかしいんだけど…。
「では、お名前教えてもらえますか?」
「真由です」
「真由さんです!」
そして拍手。
知ってるくせに。…って、優介くんめっちゃ見とる!今にも、「あっ!ラッフィのお姉ちゃん!」って言いそうな顔で見とる!…しょうがない…!ここは初対面っぽく乗り切るか…。大人の意地、見せてやんよ…!
「じゃあ、真由さんにはこのルービックキューブをちょっとバラバラにしてもらいたいんですけどいいですか?」
「あ、はい」
私はルービックキューブを受け取ると、ガチャガチャと混ぜ始めた。久しぶりと言うこともあり、ちょっとおぼつかない手元ではあったが…。と、その瞬間。
ガシャ
「えっ!?」
「ちょっとぉー!そういう意味でのバラバラにしないでぇー!ほら、拾って拾って!」
「えっ、だっ、そんな強くやってないっ…」
「はいっ、これ、新しいルービックキューブあげるから、今度は壊さないでね?もう一回バラバラにして!」
「は、はいっ…」
リトライ。もう一回今度は超慎重に混ぜていく。が、
ガシャ
「なんでー!うっそ!今度は芯も出て来ちゃってるじゃん!!どんだけ力入れてんの??もー!壊さないでって言ってるじゃーん!」
…壊れる用だな。これ。多分そういう作りだわ。これ。後でネット検索かけてやろ。
「これラストチャンスね?今度は壊れないやつだから!目標これね!」
そう言って、面がバラバラになったルービックキューブを置く。
本当かな?本当じゃないよね、本当かな?
半信半疑になりながらも慎重に混ぜていく。
「あ、手元見ないで、ちょっと上見て混ぜてみましょうか」
「はい」
照明の眩しさに目が眩みそうになりながらも手元を動かしていると、声がかかった。
「じゃああと、二回回したら僕に渡してください」
言われた通り、二回回してクレさんに渡す。
すごい。本当に壊れなかった。
「さて。僕はさっき、『これを目標に』と言いました。なので…真由さんがバラバラにしたルービックキューブは…一面。同じですよね?二面…三面…」
次々と回しながら客席に見せて行き、面が同じだと言うことを証明していく。時折私にも確認させて、同じだと言うことを証明してみせた。
…やっぱり、この人本当にプロフェッショナルだ…!でもなんか一面、二面の言い方ちょっと変えると怪談のお皿数える言い方になりそうだよね。
「お手伝い、ありがとうございました!じゃあお手伝いの記念としてそのルービックキューブは差し上げますのでね。後で遊んでくださいっ」
ふーん、そうゆうことなら…後で更にハードル上げたドッキリ仕掛けてあげるよ。
せ・い・や・くんっ!
「はい!勿論です!ありがとうございました!!」
すると、星夜くん…クレさんはにっこりと笑った。客席に戻ると、二人は少々興奮気味だった。
「どうでした!?」
「えへへ、なんか楽しかったですよ!ただバラバラになっちゃった時はびっくりしましたけどね…。でもなんか…あの時の由紀さんの気持ちがなんとなくわかった気がします」
「でしょー!そうそう、そんな感じなんです!私も見ながら思ったんですよ。多分、あの時の私の感覚と似てるんだろうなぁって。でも、こっちの方が焦るでしょ?」
「焦りましたねぇ、初めてだと本当に壊しちゃったかと最初思いましたもん」
「ですよねぇ」
そして、いよいよショーも終盤に差し掛かりクレさん特有の『何か』が始まる空気感になった。それと同時にみんながバックやらカバンやらをゴソゴソと漁り始める。その様子を見た二人も、ここぞとばかりにカバンの中を漁り始める。
何?何?何が始まるの?
「では、これから僕の生まれ育った町で見た魔法を皆さんにお見せしたいと思います。それでは、今日スプーンを持って来てくれてる人、上に上げてもらっていいですか?」
ザンッ
うわっ!!エグっ!戦国時代の槍隊かっ!てか、普通持って来ないよねっ!?…って、二人とも持って来てるし!
「これは、僕が持ってきてくださいとお願いしていた訳ではなく、この噂を聞きつけた頭のおかしな人たちが勝手に持ってきてしまった、ということなので、僕はこのスプーンやフォークに触れるのはこれが初めてです。じゃあ、早速曲げていきましょうかね」
そう言うと、早速目の前にいた女の子のスプーンを手に取り、軽く振り上げてグニャリと曲げた。力を入れてる様子は全く無い。本当にリラックスしてやってる感じ。まるで溶かしたばかりの鉄を成形してるみたい。
次々とスプーンやフォークを曲げながら客席を練り歩くクレさん。気がつくと、私たちの前まで来ていた。
「見て!このスプーン!めっちゃ金色!」
クレさんが由紀さんのスプーンを取って、みんなに見えるように高く掲げた。一度みんなの視線がスプーンに集まったかと思ったら、今度はクレさんはスプーンを由紀さんと山岡さんの見やすい位置まで持ってきて、ちらりと私たちを見る。すると、マイクを少しずらす。
え、なんでだろ?
「いくよ?よーく見ててね」
次の瞬間、グニャリと曲げた後更に一回転させる。マイクを元の位置に調整すると、クレさんは由紀さんにスプーンを返した。
「おおっ…!」
「まさか…!」
「はいっ、どうぞ!これ、トラストのやつでしょ。僕知ってるよ。はい、じゃあ次フォーク持ってる人ー!」
そしてまた、さっきと同じ要領でフォーク曲げをしていく。スプーンと違う所は、フォークの尖っている先端の一本だけを曲げたり、全部 纏めてグニャッと丸め込んだり、先端をバラバラにしたり。結構色々とあってすごかった。でも、時折ちょっと面白かったのが、曲げるものの中にマドラーやらもんじゃ焼きのヘラやら、ステンレス箸などを持って来てるクレッズさんがいたこと。マドラーとヘラは辛うじて曲げてくれたもの、お箸に関しては「これ、いじってもらいたかっただけでしょ?お箸だから!」で、終わってしまってしまっていた。
そりゃあ…無理あるよね。ドンマイ!
「それでは、本日最後のマジックになります。これは、僕が子供の頃に描いた魔法です。どうぞ最後までお楽しみください」
おっ!?空気感が超変わった…!なんだこの空気…。このメイクでなんかすごいことしようとしてるって感じ…?
「僕は子供の頃に、大きくなったらお月様になりたいって思ったんです。でも、その時は周りの大人たちやお友達のみんなに『そんなのむりだ』って言われ続けて来ました」
「大人になるって、夢から覚めること。でも、また夢を見始めること」
クレさんはそう言うと、後ろの机の上に置いてあったシャボン玉の液を取ってシャボン玉を作り出した。一つ出来上がると、そのシャボン玉に触れた。すると勿論、そのシャボン玉は弾けてしまった。だが、今度は液を変えてもう一度同じようにシャボン玉を作り、そっと手に取ると今度は割れないシャボン玉ができた。そのまま、クレさんは後ろから小さなくまのぬいぐるみを取り出す。それをそっと中に入れると、シャボン玉はふわふわと浮き出した。舞台の上をあちこちと浮遊し、最後にはクレさんの手元へと戻ってきた。そのシャボン玉からそっとぬいぐるみを出して、机の上に置いた。そして、最後にステッキを取り出して手でマークを作った。
「びっくりだね!」
「イェー!」
クレさんは左頬にグッドラックの手を少し解いた形を作ると上に挙げた。それに倣い、みんなも真似する。
そういや、冒頭でもやってた。これ。クレさんのほっぺたのマークなんだっけ。
「うっうぅっ…」
「えっ?」
泣き声が聞こえて隣を見てみると、由紀さんが号泣していた。
「ゆ、由紀さん!大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫っ…感動しちゃって…。つい…。私涙脆くて…」
「そ、そうなんですね、ハンカチ、貸しましょうか?」
「大丈夫…持ってるからっ…うっうっ…」
午前のマジックショーも全てをクレさんは演じ切り、午前の部は幕を閉じた。初めて見た表の顔だったけど、本当にかっこよかったし益々好きになったな…。
そんな思いにふけながら、舞台をぼんやりと眺めていると後ろから興奮気味に声をかけられた。
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
また一日ずれちゃいましたね…もうこのままずらした更新日で投稿ペース続けようかなと脳裏をよぎったりして…。なんちゃって…。ごめんなさい…。
ネタは浮かんでも、どうしてもまるパクリする訳にはいかないのでそうなるとどうしても時間かかっちゃって…。あ、言い訳にしかならないですよね…ごめんなさい…。
でも、更新ペースは変えずにやって行きます。明日も、投稿予定です。間に合ったら、投稿します。お時間ある方は是非お読みください。
それでは改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!