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マジックの種は夢の中で  作者: 天河 蒼夏
15/20

第13章〜君のいる世界〜

 翌日。

 いつも通り、六時半起床。けたましい目覚まし時計を止めて、まずは洗面へと向かう。いつもなら顔を洗って終わり、なのだが、今回は入念に眉を整えたりだとかとりあえず見栄えを良くする。

「お姉ちゃんー!ご飯ー!できたよー!」

「はぁーい!」

 早朝起きで片付け、調理担当の理玖都様(弟)からの収集がかかった。

 私はささっと仕上げを済ませると、リビングへと向かった。

「何、お姉ちゃん今日妙に張り切ってるみたいだけどそんなに宮澤さんとの打ち合わせ楽しみなの?」

「当たり前じゃん!だって…」

 危ない…!「彼氏なんだから」って言いかけた…!違う違う…。まだ星夜くんとはお友達!うんそう。お友達。

「だって、あの宮澤さんだもん!あんな有名人と二人っきりなんて、そりゃあ張り切るでしょ!」

「へぇ、お姉ちゃんもそういう社会的地位に憧れる年齢になっちゃったか…寂しいな…」

「理玖都…」

 違う…。そんな理由じゃない…。本当は…私も星夜くんのことが大好きだから…。

「でも仕方ないか。誰でもそんな人と付き合えるってなったらそりゃあ喜ぶか…。俺ご飯いいや。打ち合わせ、頑張ってね」

「…違うの!」

「え?」

「本当は…違うの…。星夜くんは理玖都以外の…唯一本当の私を見てくれた人だから…。だから、掛け替えのない人なの…。そんな人の前にだらしない格好なんかで行ける訳ないでしょ…」

「…そっか。だから付き合ってない訳ね…」

「…え?」

 え?なんで?どうしてそれで付き合ってない訳がわかるの??

「だって、そこまでお姉ちゃんが惚れ込むってことは、それだけ愛が強いってことでしょ。だからその分、嘘をつかれたら辛い。それこそ正に、前以上苦しむ事になるかもしれない。だから、まだ付き合ってないんじゃない?」

 …ドンピシャ当たり。星夜くんに限ってそんなことないって、思いたいけどね。

「うん…」

「やっぱりね。でも、男は二パターンだから。一度好きになったら真っ直ぐで相当な誘惑がないとブレない一途パターンと、優柔不断な浮気者パターン。まぁ、どっちも最後にマンネリはあったりはするから多少の工夫は必要なんだけど」

 優柔不断パターン…。大丈夫。星夜くんは、トラストの中でもファンの人よりも私のことを第一に思って行動してくれたんだし、一途パターンの方だ。

「うん、大丈夫!きっと、上手くいくから…!」

「そう。まぁ、陰ながら俺も応援してるよ。本当は知っちゃいけない情報みたいだし。ほら!じゃあ早く支度しちゃいな。間に合わなくなっちゃうよ!」

「あ、うん!」

 そんな理玖都の言葉に背中を押され、私はメイクと着替えを素早く済ませた。普段の仕事用のメイクに少しピンクのチークに変えたり、リップをワントーン明るい色にしたりとちょっと工夫して。

 星夜くんに会うとは言え、一応仕事だからね。

 そして全ての支度が終わり、私は玄関を出た。

「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい!初仕事、頑張ってね!」

「うん、ありがとう!頑張ってくる!」

 そして家から出て歩くこと十五分ほど。勤め先、兼、集合場所、着。中に入り、声をかけられるかと少し気を引き締めていると…。

「へぇ、すごいねぇ。でもどうしてうちにしたんだい?」

「あ、それは僕のマネージャーがここのサービスが気に入ったらしくて。なので来させてもらいました!」

「えぇ!嬉しい!私宮澤さんが来る日だけのシフトにしたいです〜!」

「…私も憧れますけど…皆さん仕事してくださいよ…」

「ほほっ、相変わらずクールだねぇ、寺岸くんは」

 えっ、何この空気感。入りづらいんだけど。しかも私が着かなきゃいけない席ってあのみんなが囲んでる席でしょ…?超行きづらいんだけど…。

「…あれ、天藤さん。いらしてたんですか。…声かけてくだされば私も対応しましたのに…今日はどうされたんですか?シフト、入ってないでしょう?」

「て、寺岸さん…。あの…実は私、彼とここで待ち合わせしてて…」

 そう言って私が星夜くんに視線をやると、寺岸さんは、なるほど、といった感じに頷いた。

「わかりました。では、私に着いて来て下さい」

「あ、は、はい!」

 私は少々強張りながらも寺岸さんの後をついていくと、みんなが談笑している星夜くんの席の斜め前で止まった。

「お客様。ご注文の品、お持ちしました」

「えっ?僕まだ何か頼んでたっけ?」

 すると寺岸さんが私に手で合図する。

「お、お待たせ…!」

「あっ!真由ちゃん…!」

「それでは、ごゆっくりどうぞ」

 それだけ言うと、寺岸さんはスマートに厨房に去っていった。

 なるほど。確かにあながち間違いではないな。少し捻りの効いた寺岸さんのサービス…。ちょっとかっこよかったな。

「…って、あれ?真由ちゃん、さっきの店員さんと知り合い?」

「私とも知り合いですよー!」

「えっ?」

「あの…ね…。私、飲食で働いてるって言ったでしょ?それって、ここのことなの…」

「えぇぇっ!?じゃあここ、真由ちゃんの職場なのっ!?」

 やっぱりこうなったか。

「しーっ!ここ喫茶店だよ、あまり大きな声出さないで!」

「あ、ごめん…。じゃあ、始めよっか」

 すると、一気に星夜くんはお仕事モードへと変わった。それを見たオーナーや歩実ちゃんはすごすごと厨房へと戻って行った。

「えっと、まず今度やる定期公演のタイトル、『マジシャンの心の中、繋がるもの』って言うんだけど、その公演では真由ちゃんは観てて欲しいんだ。僕がどんな魔法を作っていて、それを応援してくれてるみんなはどう受け止めてくれてるか。客席側から応援してて欲しいの」

 なるほど。まずは実践ではなく見物、と。まぁ、見たことなかったし丁度いいかも。何か参考になる所とか色々見つかるかもしれないし、なによりも、星夜くんの求めてるものがなんなのかわかるかもしれないからね。

「わかった。じゃあ、チケット買えるサイト教えて!帰りに入金するから」

「いいよいいよ、これから僕のパートナーになってくれるんでしょ?それぐらい僕が負担するよ〜!」

「んー…わかった」

「じゃあ次に舞台の裏方の詳細について。まず、僕の舞台は舞台監督も、出演も、演出も脚本も…とにかく殆ど全部僕一人でやってるのね?だからその辺については色々と意見の食い違いとかは出なくていいんだけど…。でもやっぱりデザインした後の製作は僕一人だとちょっと厳しくて…。だから手伝って欲しいなって。特に衣装とかのさ」

 い、衣装…!?てことは、裁縫…!?やばい…助けて、理玖都…!

「ほら、女の子ってお裁縫超上手いじゃん?だからさ!真由ちゃんも!僕に協力して!」

 それは勘違いだっ…!!私ができるのは洋服のほつれを少し直したり、ボタンをつけたりする程度…。それ以上はできない…!てか、玉留め超苦手…!

「う、うん…できる限りの協力はするよ…」

「本当!?ありがとう!!」

 星夜くんは力なく了承した私の手を取ると、キラキラした顔で笑っていた。

 あぁ…もう、理玖都に頼んで教えてもらうしかないなぁ…。

 その後も打ち合わせは一時間程続き、最終的に決まった事は来月の公演は私は当日星夜くんから渡されたチケットの座席から見る、と言う事と、その次の定期公演からは衣装等の製作は私も携わる、ということと、再来週の土曜日のマジックショーで粗方の応援者の人を覚えておくように、とのことだった。

「…でも私…人の顔覚えるの苦手…」

「わかった、じゃあ一人でもいいよ。誰か一人でもいい。数人と群れてる人の内の一人を覚えて来てね」

「あ、わかった…。でも…なんで…?」

「決まってるじゃん、もし仮になんらかの拍子で僕たちの関係がバレちゃった時、真由ちゃんのその人伝えの情報網でいち早くキャッチする為だよ」

 …すごい、そこまで考えてるのか。でも確かに、昨日なんとなく寝る前にクレッセント・ムーンで検索かけたら「他の人はこちらも検索」の欄に「結婚してる」とか「彼女」とか出て来たもんね。見た瞬間ギョッとした。

「そ、そうなんだ…。でもまぁ、バレないように努力しよ…?ね…?」

「当たり前じゃん!」

 そう言って、星夜くんはココアを口に運んだ。

「ねー!真由ー!キャラメルラテー!お店からの奢りー!なんか二人ってさー、厨房から見てて思ったんだけど、仕事仲間って言うよりはカレカノみたいだよねー!てか、もう付き合ってるっしょ!」

「ぶっ!!」

「えっ、本当に付き合ってんの??えっ、ちょっ、やばぁぃ!!ねぇ、オーナぁ!テラさん!この二人付き合ってるんだって!!」

 決めつけダメ絶対!!てか、お店なんだから他のお客さん…あ、良かった。時間も時間なだけあって人誰もいないや。不幸中の幸い…。

「付き合ってないよ!!」

「あれぇ、真由、昨日の彼じゃなかったのかい?」

「違いますって!あの人はこの方、宮澤さんのマネージャーさん!」

「ありゃ、そうなのかい?」

「そうですよ!」

 思い込みが激しい人って…ほんと大変…。

「えっ、じゃあじゃあ、宮澤さんと真由の関係は!?」

「えっ…!?それは…」

「仕事仲間以上!!恋人未満!」

 うぉい!星夜くーん!自分で口外するんかーい!

「…実質、恋人みたいなもんですね。それって」

「て、寺岸さんまでっ…!?」

「でもみんな、僕たちがこういう関係だってことは、この喫茶店内だけの秘密にしてよね?僕の応援してくれる人たちの耳に入っちゃったら、いざこざが起きちゃうかもしれないからさ」

「ガッテン承知の助!!」

「ほほっ、もちろんねぇ」

「承知しました」

 …寺岸さんは口が堅そうだから大丈夫。オーナーも、スマホ使えないから拡散方法ないとして、大丈夫。問題は…歩実ちゃん。本当に大丈夫なのかなぁ…。

「歩実ちゃん…ちょっと…」

「何なに〜?」

「お願いだから、絶対に誰にも言わないでね?本当に星夜くんも嫌がってるし、私もそれでトラブルに巻き込まれたくないからさ…」

「もちろんだよー!だって、親友と宮澤さんのお願いだよーっ!裏切れるわけないじゃーん!」

 そうだった。そういう意味では歩実ちゃんも口堅いんだった。じゃあひとまずは安心か…。

「みんな…協力してくれてありがとう!お礼に来月の定期公演のチケット、みんなに配るからみんなが空いてる日、教えて?公演日は、二十五、二十六、二十七の三日間だけど…」

「金、土、日だから、うちがおやすみの日曜が一番いいんじゃないですか?どうします、オーナー」

「そうだねぇ、じゃあ日曜日にお願いしようかねぇ」

「わかりました!じゃあ、人数は全員で何人なのかな?」

 え?もしかして…喫茶店の店員全員分招待するつもり…?

「全員で六人ですっ!本当にいいんですかっ!?」

「うん!もちろんだよ!僕の作りあげる魔法、楽しんでね!!」

「きゃーーっ!!」

 すごい……ジャニーズの超絶イケメンしか推さない歩実ちゃんに黄色い歓声あげさせた…。星夜くん…なかなかやるなぁ…。

「じゃあこの後、チケット買って真由ちゃんに渡すから、明日、みんなに配っておいてね!いない人は次会える時でもいいから」

「うん、わかった!」

「あ、そろそろ僕たち行かないと…では、ここで失礼しますね。お会計お願いします」

「オーナー!真由の彼氏だよっ!こっちが彼氏だよっ!」

「ううん、いいよぉ、チケット代もあるし、それぐらいまけるよぉ」

 半ば強引…。

「えっ、いいんですか?」

「うん、いいのいいのぉ、デート、楽しんでねぇ」

「はい!ありがとうございますー!ご馳走様でしたー!」

「色々ありがとうございました、お疲れ様です〜!」

 私たちがお店を出ると、みんなは外までお見送りしてくれた。

 なんか…ここに勤めた時に肌ですぐ感じた通り、いい人の集まりなんだな…ここって。

「…ね、真由ちゃん」

「何?」

「真由ちゃんって、最初の店員さんとどういう関係なの?」

「え、最初の店員さん…?…あ、寺岸さん?よくお世話になってる先輩ってだけだけど…どうして?」

「最初の…可愛かったけど…その反面……」

「嫉妬した?」

 可愛い…!なんてピュアな人なんだ…!

「…当たり前じゃん…。僕以外の男の後ろ歩くなんて酷いよ…」

「う、うん、ごめんね。次は気をつけるね」

「わかってくれればいいよ…。それよりさ…手、繋ご…?」

「え、あ、うん」

 そして繋いだ星夜くんの手は、包み込むようでなんだかとてもあったかかった。

 今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!

 まず初めに、投稿日が一日遅れてしまったこと、深くお詫びさせていただきます。本当に申し訳ありませんでした…。

 そして、そのことに関する報告としてこの場を借りて皆様にお伝えしておきたいことがございます。

 第20章投稿後のことなのですが、このようなことが続かないよう、少し書き溜めしたいということで一週間程お休みを取らせて頂きたいと思っております。

 楽しみにしてくだっている皆様には申し訳ございませんが、どうかご了承ください…。

 それでは改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!

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