第9章〜溶けない魔法〜
マジカル・ヴェース・スクリーンの登場人物でもあり、主人公でもある、タラーザ。
彼(彼女)とは、星夜くんが面識があるから今回はちょっとしたドッキリを仕掛けることにした。
そのドッキリとは、かなりテクニックと運の必要なドッキリで、タラーザが開演前に仲間の箱に閉じ込められたシャーザーを助けるための鍵を探してる最中に、「鍵、知りませんかー?」という問いかけをするのだが、それに対して仕掛けるドッキリで、自分の持ってるキーケースを、タラーザのポケットの中に忍ばせ、「ありました!」と言った後にポケットの中のを示して完全に星夜くんだと宣言する、みたいな。いわゆる、瞬間移動マジック。時間はそこまでかからないし、かかったとしても一分弱ぐらいだから営業妨害にはならないでしょ。一、二列目ぐらいまでに座れないとちょっときついかもしれないけど…。
「ね、星夜くん。本当にできる?」
「何言ってんの!僕を誰だと思ってるの!僕はクレッセント・ムーンだよ?できるに決まってるじゃない!」
「声が大きい!他の人に身バレするのイヤなんじゃないの?」
「あっ、つい…。でも、安心して。あの人のことは共演してる間に少しだけ癖とかも分かったから隙見てやってみるよ。それに、あの衣装は実は隙だらけだからね」
「えっ!?意外…!」
…それって…どういう意味で…?
マジカル・ヴェース・スクリーンの中に入ると、タイミングが良かったのか、そこまで混んでいなかった。ただ、混雑状況と座席状況はまた別の話。上手く行くかどうか…。
すると。
「間もなくマジカル・ヴェース・スクリーンが開演いたしま〜す。魔法の眼鏡をお持ちの上、座席は前の奥から詰めてお座り下さ〜い」
早ッ!
「えっ、星夜くん、心の準備とか、予行練習とかなんも無しで大丈夫?」
「バッチリだよ!僕の魔法、ちゃんと見ててねっ!」
そう言うと、星夜くんは私に一度ウィンクしてから魔法の眼鏡を取りシアター内に入って行く。
相当自信ありげ。って、しかも!座席真前の真ん中!すごっ!ってええぇ!タラーザさんのポジショニングが凄い…!星夜くんが席の前に立つと同時に、前を通るって言う…狙ったのか?
…いや…でも流石に今の一瞬じゃ入れらんないか…。
「タイミングは?」
「ふふふっ、もう終わったよ」
「え゛っ!?早ッ!!全然わからなかった…!」
これが…プロの実力…!
「すみませーん!誰かカギ!カギ知りませんかー!?あ、お姉さん!カギ知らない?」
タラーザさんがキャストのお姉さんに聞く。
「あ〜、ごめんね、わからないなぁ」
「そっかぁ…ありがとう」
「ねぇ、誰かカギ知らない?」
いよいよ…運命の時…。
「ねぇ、僕知ってるよ」
「えっ、本当!?見せッ…ぁ…て!」
あ、気づいたみたい。ちょっと詰まった上に小さく「あ」って言った。しかもちょっとドキッとした表情。
「んー、ごめんね、僕は持ってないの。ただ、君が持ってるはずだよ。ポケットの中にね」
「えっ…」
観客のみんなもざわざわ。
タラーザさんは驚きつつもポケットをゴソゴソと弄ると、キーケースが出てくる。
うわぁ、凄い大掛かりなドッキリ。
「え、なんでっ!?いつの間に!?…あっ、でもこのカギじゃないんだ!協力してくれてありがとう!」
すると観客のみんな、拍手喝采。
おー、いい方向に。このマジックをあのライゼントさんは超えられるかな?
「他にカギ知ってる人いませんかー?」
再び、タラーザさんが客席に向かって話しかける。が、流石にこれ見た後だと出しづらいみたい。
「星夜くん、やったね!」
「ねっ!大成功!真由ちゃんの作戦のお陰だよ。僕も久しぶりにすっごく楽しかった!」
「えへへ、ありがと。でも、それも星夜くんがテクニシャンだから成功したんだけどね?」
「まぁね?」
と、同時にドヤ顔。
ほんと、星夜くんらしい。ま、私も楽しかったからなんでもいいんだけどね。
「おいタラーザ、早く準備しろ。俺様のショーが始められなくなるだろ」
「あっ、はい!」
おっ、始まったみたい。
そして、しばらく驚くようなマジックが幾つか繰り広げられる。タラーザさんの人体が切り離され、別々に動き回るというようなマジックもあった。
「いやー、ホントはねっ、もっと上手くいくんですよ。えー、皆さん知ってます?」
すると、ライゼントさんはチラッと星夜くんを見る。
「数年ぐらい前まではね、ここにもね、ミヤサワ・イマジーネ・アークラって言う若造の生意気なマジシャンが居ましてね。ソイツが中々。なっかなかマジックが上手いんですわ。本当ならね、私もそんぐらい上手く行くはずなんですよ」
ライゼントさんは、戻ってきたタラーザさんの足を捕まえるとなんとか元に戻した。
「それって…」
「星夜くんのこと…だよね?」
すごーい、役柄上、ここで普通に褒めることができないってのはわかるけど、アドリブでここまで入れてきてくれるのはなんだか私まで嬉しくなってくるな…。さっきの、ライゼントさんも見ててくれてたんだ…。
そしてそのままマジックショーは進み、タラーザさんが助けたがってた友達、シャーザーを無事救出した。
魔法の眼鏡、やっぱ凄い。シャーザー、めっちゃ近い。
いよいよショーも終盤へと差しかかる。
ライゼントさんは、まぁ悪役ってだけあって残念な結末に…。いい人なのにね。中の人は。そして、タラーザさんとシャーザーは見事、マジックショーを成功へと収め、ショーは幕を閉じる。
「んーっ、楽しかったぁー!やっぱ、飛び出すシリーズって面白いよね!」
「ねぇ!」
ピロリン
あ、着信きた。誰からだろう。
携帯を取り出して見てみるも、無着信。おかしいな…。確かに音したんだけど…。
「誰かから着信きた?」
「えっ?わかんない…見てみる…」
星夜くんが携帯を開くと、星夜くんは目を見開いていた。
「どうしたの?」
「あ、あのね…。凄い人からメッセージきた」
気になって覗き込んでみると、それこそ正にアイコンと差出人の名前からは誰なのかは推測できなかったものの、文面で驚いた。
『さっきは私たちのショーに来てくれて、どうもありがとうございました!久しぶりに宮澤さんにお会いできて、とても嬉しかったです!相変わらず、宮澤さんの人を笑顔にさせるって言う、モットーは変わってないみたいで安心しました。まだあれから一度も宮澤さんのショーには行けてないけど…。いつか時間を見つけて、必ず伺わせていただきますね!今日はあなたがゲストです!思いっきり楽しんでくださいね!!』
…す、すごい…。これって…差出人…タラーザさん…?やっぱ…私の隣にいる人は…とんでもない人だ…。
「嬉しいー!今度僕の公演、来てくれるって!じゃあその時は裏方のアシスタント、真由ちゃんしっかりよろしくね!」
「えぇ〜…。プレッシャーすごいなぁ…」
ピロリン
え?今度は誰から?
「あ、ライゼントさんからだ」
ウソっ!意外と律儀なのね!あ、そっか、ああいうのは役柄か…中身がどうとかは関係ないか…。
『本日は私共のショーに足を運んで頂いた事、誠にお礼申し上げます。開演前の井沢さんとのコラボマジック、非常に感動しました。まさか、今日宮澤さんとあんなにお近くでお会い出来るとは思いもしていなかったです。本当に嬉しかったです。そして、開演中も、ミヤサワ・イマジーネ・アークラとしてご紹介させて頂きましたが、あの様なご紹介になってしまった事、深くお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした…。役柄上、あの方法以外思い付かず…。そんな訳ですが、折角宮澤さんも素敵な女性と来園されたみたいですし、トラスト・アクアこの後も存分に楽しんでくださいね!それでは!』
めっっっちゃ礼儀正しいやんっ!!めっちゃかしこまってるやんっ!
まじでこれがあのライゼントさん?てか井沢さんって誰!
「えっ、誰!井沢さん?誰!ツッコミ所しか無い!」
「あはは、だよね〜、ギャップあるよね。井沢さんって言うのは、タラーザさんの本名。でもね、悪役って言うのは、礼儀正しい人だからこそ演じられる役でもあるんだよ」
「へぇ!そうなんだ…」
意外。普通は逆に思えるけどなぁ…。
「じゃ、二人にこれ送信してっと。よし、行こう!」
「え?何送ったの?」
「なーいしょ!さっさと行くよー!時間は待ってはくれなーい!」
そしてそれから幾つかアトラクションとショップを周り、そろそろ閉園時間となった。
あの後、結局アトラクションでは高い所がダメなだけという事で一時間近く待ってバイジャック博士のダイヤモンドドクロの冒険って言うジェットコースターにも乗った。
二人してキャーキャー叫びまくって、ライドショットの所見に行ったら面白い顔してたから、記念に一枚ずつ買った。
ショップでは、ラッフィシリーズだけの取り扱いのお店に行った。これまた堪らなく可愛いお店。二人でじっくり吟味してから会計をしたものの、二人とも手に持ってる袋が大袋になってしまったのはここだけの話。
だって、ラッフィのぬいぐるみ、持ってなかったんだもん。欲しかったんだもん。そりゃあ買うよね、記念に。
現在。最終的なお土産を決めるためにメインゲート付近の一番品揃えの良いショップに来ている。
どうせだし、弟とか、職場の人とかにも普段お世話になってるからお土産買おうかな…。
「あ!ラッフィのお姉ちゃんと魔法使いのお兄ちゃん!!」
「え?」
驚いて振り返ると、今朝迷子で対応していた男の子がいた。
確か名前は…優介くん!
その後ろで、あの時のお母さんが柔らかく微笑み、会釈する。それに答え、私たちも一度会釈する。
「優介くん!まだいたんだね!あの後どうだった?楽しめた?」
「うん!すっごく楽しめたよ!」
よかった。私、あの後色々ありすぎて優介くんのこと忘れかけてたけど…。楽しんでくれてたなら、それが一番。
「ねぇ、お姉ちゃんとお兄ちゃんはカップルなの?」
「「えっ?」」
急に何!?
「こっ、コラっ!優介!急にそんな事聞いたら失礼でしょっ!う、うちの子が突然すみません…」
「うん、そうだよ!」
えっ?
「じゃあお兄ちゃん、これ、あげる!」
そう言って優介くんが差し出してきたのは、二つでハートの形になるという、ペアキーホルダーだった。
「これ、学校の好きな子にあげようと思って買ってもらったんだけど…やっぱりやめる。もう少し準備してからにするの!だから、あげる!」
「えっ?本当にいいの?」
「うん。きっと、お兄ちゃんたちの方が僕よりも似合うから」
なんて…できた子…。
「ありがとう…!」
「どういたしまして!」
「じゃあ優介。そろそろ閉まっちゃうから行くわよ。お兄さんとお姉さんにバイバイして」
「うん。じゃぁねー!また会おうねー」
「またねー!」
「バイバーイ!」
素敵な…子だったな…。また会える日来るといいな…。
「…きっと、いつか会えるよ。いつになるかはわからないけど、きっとその内に…。じゃ、お土産、買おう」
すご、星夜くん、私の心の声読んだ!
んーと、弟はチョコとか飴とか好きだから…なんかその辺の買ったら喜ぶかなぁ…。問題は職場なんだよなぁ…。一応コーヒー扱ってるから…コーヒーのお供になりそうなチョコにでもしとこうかな…。
「すみませんー、お願いします」
「はーい、合計八百円です」
「はーい。お願いしまーす。あ、袋一枚ずつお願いします」
「あ、かしこまりましたー」
うーん…。毎回思うんだけどさ。トラストって、税込価格で十円玉使うことないじゃん。『端数』って言葉が存在しないじゃん。だからさ、その分四捨五入ならぬ、一でもオーバーしたらその百の位の分の一、数字を大きくしてってやってるから高いんじゃないかな…。
「ありがとうございましたー!」
でも、スマイルゼロ円。あ、それはマ◯クか。
「真由ちゃん、買い終わった?」
「うん。星夜くんは?」
「僕も丁度終わった所。じゃあ、そろそろお店出よっか。邪魔になっちゃうし」
「うん」
「折角だし、閉園時間までブルー・アースの前でゆっくり時間潰そうか。あと十分くらいだし」
そのままゆったりと二人並んで歩き、ブルー・アースへと着いた。ブルー・アースは、このトラスト・アクアのシンボル的な装飾。
大体の人は、ここに来たらここで記念撮影してる人がいる。と言うことは…。
「撮る?」
「いんじゃない?」
私がスマホを掲げると、星夜くんは手をパーにしてちょっと上目遣いで笑った。
めっちゃカメラ慣れしてる。すご、負けてらんないな…。
謎の対抗心を抱いた私も左手を軽く握り、ウィンクをして、程よく口角を上げる。あ、でもこれこの後喋るから意味ないじゃん…。
「いくよー、はい、チーズ!」
パシャリ
ナイトモードで撮ったから…性能はいいから綺麗なはず。どれどれ…。
「わー、真由ちゃん、意外とカメラ慣れしてるねー!どこでそんなに慣れたの?」
よしっ!頑張った甲斐あった!
「えー、どこなんて特にないよ…ちょっと頑張っただけ…でも、ありがと…」
「え?あ、うん」
そして、しばらく他愛も無い会話が続く。あと五分ぐらいで閉園時間。
「ねぇ、あのさ、真由ちゃん…今日このあとって…空いてる?」
「え?まぁ空いてるけど…」
「あの…よかったら僕の家来ない?ここのすぐ近くにあるの。車で来てるんだけど、二十分ぐらいの距離なんだ」
え、それって…その展開って…。
「ねぇ、いいでしょ?お願ぁ〜…」
「やめて!!」
ダメダメダメ!考えなきゃ!一回考えなきゃ!
「せめて、行って何するのかどうするのか教えて?」
「えっ…と、僕としては真由ちゃんとお泊まり会したいなって考えてる。もう夜も遅くなってきたから、これから帰ると更に遅くなっちゃうだろうし…だったら僕のお家泊めてあけたいなって」
「…なるほどね…お布団は分けられる?」
「え?あ、うん!」
「部屋は?」
「頑張れば」
「それなら…お言葉に甘えようかな…」
じゃあ、行くだけ行ってみようかな。
「そうと決まれば、早速向かおうか。僕のお家」
今回もお読み頂き、誠にありがとうございました!
いよいよ、夢の国から現実世界へと帰って参りました…!
が!ここからは夜の時間に突入する訳でございます…!一体、どうなってしまうのでしょうか!?
果たして、星夜はいつものようにあんなゆるいキャラのままでいれるのか…それとも、変貌してしまうのか…。そして、真由はそんな星夜に対しどう反応するのか…!見所です!是非、お時間ある方はお読みくださいませ!
それでは、改めて、最後までお読み頂きありがとうございました!