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どなたと面会致しますか?

作者: かつお

 30年前に閉院された病院にはある条件を満たすと看護士の幽霊が出ると言われている。あくまでも噂でそんなのは居ないと思っている。そもそも、あの廃病院には()()()()()()()()()()んだからどこかの誰かが楽しむ為に流した噂だろう。


 何故、こんなことを今言っているのか言うと―――


「おい! 早く来いよ和樹(かずき)!」

「いや、少しぐらい待ってくれてもいいだろ」


 ―――本当に看護士の幽霊が出るのかというのを確かめる為に俺こと小池(こいけ)和樹(かずき)手塚(てづか)竜二(りゅうじ)赤羽(あかばね)紗耶香(さやか)石澤(いしざわ)菜々子(ななこ)の四人で廃病院へと来ていた。カビの生えた壁に蔓草が這いように生えて廃病院を覆っている。入り口は封鎖されており、割れている一階の窓ガラスから侵入出来る。


「竜二、あそこから入れるな」

「おう、破片残ってるから気をつけろよ皆」

「うん! 早く行こ紗耶香ちゃん!」

「ひ、引っ張らないでよななちゃん!」

「いや、気をつけろって言ったばかりなんだけど」


 窓縁に残っているガラスの破片に気をつけながら廃病院に入る。持っていた懐中電灯で周りを照らすと足元には粉々に砕けたガラスの破片と石ころが落ちていた。近くには足跡が薄くだが残っている。


「ここって誰も入ったことないんだよな?」

「そうだな。なんかあったのか?」

「石ころが中に入ってるし、足跡が残ってる。誰か入ったことあるんじゃないのか?」

「まぁ、そうだったとしても直ぐに帰ったんだろ。考えすぎだぜ和樹」

「……そうだな」

「そう言えばどうやれば看護士さんの幽霊に会えるの?」


 ドヤ顔をしながら竜二は口を開く。


「よくぞ聞いてくれた勇者紗耶香! 病室の内線電話で二つ以上を同時にナースコールをするんだ、それで誰かがナースコールを取ることで看護士さんが現れるらしい」

「現れるってどこに現れるんだ?」

「ナースコール受け取った人の後ろ」

「は?」

「「え?」」

「お、良いリアクションすんじゃん」


 ケタケタと笑う竜二を見てため息がでるそもそも何故看護士がナースコールを受け取った人の後ろに現れるのだろうか?


「冗談で言ってるのか? そもそもなんで後ろ何だよ。徘徊とかなら分からなくもないけど」

「う、後ろって本当に?」

「徘徊も怖いよ!」

「冗談じゃねぇよ。なんでもナースコールを受け取った人にこう言うんだと“どなたと面会致しますか?”ってな」

「良くできた話しだことで。それで? 誰がナースコール取るんだよ」


 フッフッフと不気味な笑い声をだしながら竜二はポケットから四枚の細い紙切れを出した。


「くじ引きだ!」

「えぇ~」

「んだよアミダクジにするか?」

「いや、これでいいや」


 友達間でくじ引きなどそうそうしないけど、基本的には当たりが良いとされるが今回は当たりはハズレだろう。


「「「「せーの!」」」」


 皆で同時に勢いよく引いたくじの先端に書かれていたのはカタカナの“ナ”俺は苦笑いをして皆に見せる。


「俺だな……手抜きすぎだろ」

「文句言うなよ急いで作ったんだからよ」

「それは別に良いよ。それで誰がどこに行くんだ?」

「そうだな~。まぁ、適当な病室でいいだろ。指定はないし」


 確かに指定はないし。二つ以上の病室でナースコールを同時にするだけだ。紗耶香がちょっと怯えてるし菜々子と一緒の方が良いだろう。


「俺から提案。竜二は一人で、紗耶香と菜々子がペアで病室に行くのはどうだ?」

「いいの?」

「二つ以上だからいいんじゃね?」

「ありがとう!」

「一緒に行こうね紗耶香ちゃん!」

「後は……病室に着いたらグループのメッセージで連絡してくれ。ナースコールをするタイミングもメッセージで話し合おうか」

「オッケーだ和樹。そんじゃそれでよろしくな!」


 元気よく暗闇の中に駆け込んだ竜二を見送りつつ、俺はスマホをポケットから出しながら二人を見る。


「無理しないでいいからな」

「大丈夫! 紗耶香と居ればなにも怖くなんかないよ!」

「わ、私も!」

「ならいいけど」


 クスクスと笑いながらゆっくり歩き出す二人を見送る。すると着信音が鳴った。


「いや、早すぎだろ」


 内容は『着いたぞ』とのこと。病室の番号は『203号室』であると言うこと。スマホから目を離そうとした瞬間にまた着信音が鳴った。


「いや、まぁ……皆早く帰りたいんだろうなぁ」


 予想よりも遥かに早く着いた紗耶香と菜々子のいる病室は『107号室』だ。現在の時刻は11時58分。ナースコールをするなら0時が丁度良いだろう。メッセージでそれを伝え、皆から了解を得た後に周りを物色する。ナースコールを受け取る場所をしっかりと覚えて時間を見る。59分39秒……もう直ぐ時間だ。心の準備をしていたらプルルルル、と電話が鳴る。深呼吸をしてナースコールを取った。


「もしもし」


 電話からはなにも聞こえない。後ろにも誰もいない。所詮は噂だったかと思いながら受話器を戻し、メッセージで何も起きないと伝えようとしたときだった。


「どなたと面会致しますか?」

「は?」


 確認したはずの後ろには女性が立っていた。長い黒髪に、整った顔立ち。もし彼女が()()()()()()()人気であっただろう。しかし、目の前に居るのは人でなく暗い病院の中で何故か不気味に輝く赤い瞳と生気を感じさせない白い肌を持つ噂の看護士の幽霊であった。


「どなたと面会致しますか?」

「くそ、動かない!」


 あり得ないほど硬直した体に歯軋りしてしまう。ビビっているのか、金縛りというものなのかは定かではないが。一つだけ言えるとするのならこれは人生最大のピンチだ。


「どなたと面会致しますか?」


 それしか言えないのかよと呑気に考えてしまう。手に持っているスマホから着信音がしたが生憎と指も動かない。


「竜二、紗耶香、菜々子! 聞こえてるなら早く逃げろ! マジで出た!」

「竜二様、紗耶香様、菜々子様ですね」

「っ!」


 看護士の幽霊がそう言いながら俺の隣を通り過ぎる。それと同時に動けるようになり、直ぐにスマホを確認する。内容は竜二からで『早く逃げろ』とのこと。いや、俺もそれどころかではない。また、動けなくなった。


「和樹様、どうかなさいましたか?」

「な、んで、俺の名前を……」


 ニッコリと微笑む看護士の幽霊は俺の名前を知っていた。意味が分からない。


「竜二様が仰ってましたので」

「竜二、が……?」

「はい。では、病室にご案内致します」


 看護士の幽霊が再び歩き出すとまた動けるようになる。看護士は病室に案内すると言っていた。さっきの金縛りを考えると着いてかないと駄目なのかもしれない。というか着いていかないとマズいかもしれない。


「皆……逃げてるよな?」


 竜二から来た『逃げろ』というメッセージ。竜二は一体何を見たのか。看護士の幽霊が俺の名前を知ってる理由が竜二から聞いたというのが本当なら看護士の幽霊は一人じゃないということになる。噂よりも酷い事態になってるのは嫌でも分かる。


「和樹様、此方になります」


 看護士の幽霊に案内された病室の番号は『107号室』だ。ここは紗耶香と菜々子が居る。頼む無事で居てくれ。


「紗耶香、菜々子! 早く逃げろ!」


 バン! と大きな音を鳴らしながら引き戸を開けて俺は叫ぶ。だが、紗耶香と菜々子の反応はなく俺が見たのはベッドで寝ている紗耶香と菜々子だった。


「お、おい、どうなってんだよ! 紗耶香、菜々子! 起きろ!」


 二人を揺さぶっても起きる気配はない。息はしてる脈もある。でも、二人共も冷たかった。


「な、んだよこれ。クソッ!」


 病室を飛び出し、息を荒げながら階段を駆け上がり竜二が居た病室に急いで入る。さっきよりも荒々しく開いた引き戸の先に居たのは紗耶香と菜々子のようにベッドで寝ている竜二の姿だった。


「和樹様、病院内ではお静かにして下さい」

「ヒィッ!」


 俺も皆のようにされると思い恐怖で足が竦む。逃げ道は窓から落ちるしかない。此処は二階だ落ちたら骨折する。だけど逃げなければ皆みたいに……。


「クソッ!」


 窓辺にしがみついて立ち上がり窓を開けて飛び降りる。幸い、下には木が生えていたため打撲で済んだ。痛みを無視して俺は走って病院から離れた。



────────────



 あの日から一週間。恐怖でずっと部屋に引きこもって居たが、少し落ち着いたため久し振りに学校へと向かっていた。教室に入るとクラスの皆から暖かく歓迎された。


「ったく、いきなり不登校になるなんて。理由は聞かないけどさぁ……ともあれ元気になって良かったぜ!」


 クラスメイトの一人が背中をバンバンと叩いてくる。のも気にせずに周りを見て俺は驚く。


「な、なぁ……」

「ん?」

「なんであいつらの机がねぇんだよ」

「あいつら?」

「竜二と紗耶香と菜々子のことだよ! クラスメイトだろ、忘れたのかよ!」


 俺は叫びながらクラスメイトの胸ぐらを掴む。クラスメイトは俺の両肩を掴んだ。


「ま、待てよ和樹!」

「待てってなんだよ!」

「お前が言ってるそいつらはこのクラスには()()()って! なぁ、皆!」

「は?」


 クラスの全員が首を縦に振るのを見た俺は身体の力が抜け、崩れ落ちる。居ないってどういう事だ? 何であいつらの机も記憶も皆に無いんだ? どうなってんだ?


「まだ、まだあの病院に…病室に…居るのか? なら、()()()()()()


 言おうともしてない『面会しないと』を何故か言った瞬間にスマホに電話が来た。相手は不明。俺は恐る恐る電話に出た。


「もしもし」

「和樹様。どなたと面会致しますか?」

「え?」


 聞き覚えのある声と共に視界は見覚えのある景色へと変わっていた。目の前にはあの時の看護士の幽霊がニッコリと笑いながら俺を見ていたのだった。

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