馳せろ思い
「ぷはっ!あれ、本当に学校に着いてる…」
「わたしの能力、鏡世界を使えばこんなの朝飯前だよ!朝ごはんはもう食べたけどね」
能力…きっとここで生きていく為に重要なキーワードだ。亜璃朱の能力は鏡と鏡を自由に行き来できる、鏡世界というものらしい。思えば、名字が鏡城だし、ここの人間の名字は能力になぞらえて付けられているんだろうか?
「ソウ君のクラスはここだったよね?じゃあまた帰る時になったら来るからね!」
「わかった」
ふむふむ、ここが俺のクラスか。
3年2組。制服からして中学生だし、受験を控えた生徒という訳か…。志望校はどこにしたんだ、自分。俺が俺じゃない時の志望校が分からない上、どんな職種があるのかすら把握していないから決めようがない。
「おー、真波じゃねぇか!今日はギリギリだったな!」
片腕を上げて陽気に話しかけてくる男子。名前も顔も知らないのでどういった人物像なのか分からないが、クラスのムードメーカーのような雰囲気を漂わせている。
「あ、ああ。今日は寝坊しちゃって…」
「へぇ、珍しい。真波、いつもは早起きなのになー」
人懐っこい笑顔を浮かべ肩を組んでくるコイツに少し嫌悪感を覚えたが、初対面だから勘弁してほしい。
…というか、俺の名字は真波だったのか。生前と同じだ。
(ちなみに前世の名前は颯大だ。)
亜璃朱にソウ君と呼ばれていたし。この調子だと名前まで同じという可能性もある。
鏡城亜璃朱のように名字から把握できる能力だといいんだけどな…真波なんて名字、有り得て波とか水系の能力なのだろうか?
「つーか、もうホームルーム始まる時間じゃね?担任の野郎、怖いから嫌なんだよなー」
「じゃあ座ろうぜ、怒られんのやだしさ」
俺はささやかな提案をした。考える時間が欲しかったし、これ以上近づかれるのもちょっと…。
「そうだな。じゃあまた後で行くわー」
「お、おう」
マジか…また来るのかよ…勘弁してくれよ全く。
そろそろ新たな知識を頭に詰め込んでいくのも疲れた。もっと単純で簡単に記憶を取り戻すことは出来ないのだろうか?考えを巡らせてみるがあまりよい方法は見当たらない。思いだそうとしても生前の記憶しか蘇ってこない。それなら…
___俺はここで何をして過ごしてきた?何を学んだ?亜璃朱とはいつ出会った?俺は…どんな人間だ?
なんか、いい調子だ。適当に思いついてやってみたが、過去の自分に記憶を馳せてみるのも良い手だった。
この目で見てきたことが脳裏に場面として焼き付いている、様な気がする。実際に体験したことではないから客観的にしか見れないが、それでも十分な情報と言えるだろう。
このまま、全てを思い出すんだ、俺。
俺が俺でない時に思いを馳せろ。
さっきの男子は__俺の友人だ。名前は、憑人愁哉つきびとしゅうや。能力は、憑依…。
うんうん、良い感じだ。亜璃朱と俺が幼稚園からの仲だったことも思いだせた。
じゃあ、俺の名前は_真波颯大。やっぱり、生前と同じ名前だったか。
能力は、コピー。
____コピー!!?
え、波じゃないの!?水属性じゃないの!?波って付いてるじゃんか。
まさか、生まれ変わっても人の真似ごとをして生きていかないといけないなんて。波の方じゃなくて真の方を取られるとは思わなんだ。
「はぁ…マジかよ…」
「どしたんだ真波ー」
「なんでもねぇよ、愁哉」
本当はなんでもなくない。問題オオアリだ。
ついでに、俺が今まで生きてきた路を思いだしておく。俺が経験したもの全てを。
どうやら、この世界にはコレクターという職業があるらしい。イーヴルと呼ばれている犯罪者を罰する職業っぽい。罰するといっても刑務所という訳ではなく、討伐したり更生させたりするようなもののようだ。
漫画で言うところのヒーロー、ゲームで言うところの勇者だろう。
普通の企業じゃ俺は解雇待ったナシ。前世で経験済みだ。悲しいことに。
コレクターなら俺を雇ってくれるだろうか?可能性はある。俺のコピーがどれだけ強い能力なのか分からないが、目指して損はなさそうだ。
俺に成り変わる前の俺はコレクターになるつもりなんか更々なかったようだ。高校決める前でよかったな俺。そのまま行っていればクビだったぞ。
前の俺には申し訳ないが、もうこの体と人生は俺の物だ。誰も口出し出来まい。
よし、決めた。
無職にはなりたくたいので勇者職…コレクターを目指したいと思います。