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38 魔法の森で暮らしている魔法使いのお話 その二 竜の息吹

「……そうですか。迷惑をかけてしまって、すみません」

「ううん、メテオラが謝ることじゃない。謝るのは私のほう。私、調子に乗ってしまって、メテオラが温泉の中で真っ赤になっているのに全然気がつかなかった……。本当にごめんなさい。……私、教師として……ううん。メテオラのお姉ちゃんとして失格だね」

 どうやらマグお姉ちゃんはメテオラが温泉でのぼせてしまったことで、とても落ち込んでいるようだった。

「そんなことありません。マグお姉ちゃんは、とても立派なお姉ちゃんです」

 それはメテオラの本心だった。

 するとマグお姉ちゃんはぎゅっとメテオラの体を後ろから抱きしめた。

 それからマグお姉ちゃんは、今度こそ、寄り道をしないでメテオラをちゃんと家まで送ってくれた。

 空にはぼんやりとしていた白い月がはっきりとした形と色を持ち始めていた。

 白く輝く月の光がとても綺麗だった。メテオラはいつか自分一人の力でこの景色までたどり着きたいと思った。冷たい風が吹いた。するとその風を合図にして「……早く家に帰りましょう。こんな寒いところにいたら風を引いてしまうわ」としばらくの間、黙っていたマグお姉ちゃんが言った。

 メテオラが後ろを振り返ると、マグお姉ちゃんはにっこりと優しい顔で笑っていた。

 それからマグお姉ちゃんはゆっくりとした速度を保ったまま、空の中にゆるやかな曲線を描くようにして、オレンジ色の光がぽつぽつと灯り始めた魔法の森に向かって、ゆっくりと下降していった。


 魔法の森で暮らしている魔法使いのお話 その二 気球乗りの冒険家 マル


 龍の息吹


 ……生きるって、なんだろう?


 ドラゴン


 生態系の頂点に位置する生き物はなにか? その答えは簡単である。この世界に生きる誰しもが知っている、その生き物とは、……ドラゴン


 龍族こそ、この世界の主人であり、この世界の支配者たる偉大な種族なのだ。


 幻獣図鑑 魔法書 龍の記述より


 龍と出会う


 龍族の大移動


 世界を龍の群れが包み込んでいる。


 それは、とても雄大で、とても幻想的で、とても美して、……そして、とても恐ろしい風景だった。

 そんな百年に一度、いや、千年に一度、あるかないかという珍しい風景を観察しながら、冒険家を自称している魔法使いの少女、マルは、この現実を、どう魔法の森の魔法使いたちに報告しようかと考える。

 どんなに嘘の(希望的観測に基づいた)報告をしても、現実はかわらない。

 ……このままだと、あと数日で、この龍の大群は魔法の森に到達する。

 ……そうすれば、森は終わりだ。……ううん。森だけじゃない。この東大陸にあるいろんな種族の作り出すたくさんの国や共同体は、そのすべてが崩壊してしまうだろう。

 その被害は、あの『焔の厄災』に匹敵するものになるはずだ。(つまり、大きな戦争の規模になるはずだった)

 とても強い風が吹いて、マルの乗っている観測用の気球船が揺れた。

 次の瞬間、一匹の龍が、マルの乗っている気球船のそばを通り過ぎる。それは、とても若い龍で、おそらく群れの周囲を見回っている、偵察の任務をこなしている龍なのだと思われた。 

 ……しまった。見つかった。

 と、マルが思ったのも、遅かった。

 マルの乗っていた観測用の気球船はその若い龍の襲撃によって、あえなく墜落してしまうことになった。

「ちくしょう!!」マルは言う。

 マルはぎりぎりまで気球船を操作して、船を雲海の中に潜り込ませる。それから少しして、大きな爆発音がして、(マルが一人で、最初から中古の気球船を購入して、改造したお気に入りで、手作りの)気球船が、崩壊した。 

 そして、その雲海の中から、それから一つの小さな影が飛び出してくる。

 それは魔法の杖に乗って空を飛んでいる、魔法使いの少女、マルの姿だった。

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