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「その三つの目撃情報の中で、僕もワルプルギスさんもモリー先生からは、あまり詳しい話を聞くことはできなかったのですけど、デボラくんとアビーくん、それからメテオラくんからは詳しい話が聞けました。
その証言の中でデボラくんがあれは本物の幽霊だって言い切っているんですけど、それには理由があって、実はあの日、デボラくんはマリンさんからあのおかしな帽子の魔法具を借りて、アビーくんと一緒に夜中に魔法学校に忍び込んでいたずらをして遊んでいたんですよ。だからデボラくんには夜でも本物の幽霊の姿をきちんと見ることができました。……まあ幽霊の姿をきちんと見るという表現もどうかとは思いますけどね。
その姿は僕とワルプルギスさんの集めた情報の幽霊の姿とそっくりだってデボラくんは言ってました。僕もそれで間違い無いと思っています」
その話を聞いてデボラが時計の間での会議のとき幽霊に間違いないと言い切っていたのはそういうことだったのかとメテオラは思った。
アビーも見たと言っていたけど、アビーはもともと夜目が効くし、あとは親友のデボラの意見を信じているということもあるのかもしれない。
それにしても夜中の魔法学校に忍びこめるデボラの魔法技術(主に、工作、トラップ、魔法薬)はすごいと思う。もちろんそれをいたずらに使わなければもっといいのだけど、……とメテオラはデボラとアビーのいたずらに手を焼いているときのマグお姉ちゃんの顔を思い出していた。
「あの……、でもそれだけだと幽霊じゃなくて誰かほかの、たとえば魔法学校の先生の誰かが魔法学校の十三階をたまたま夜中に歩いていただけってことにはなりませんか? ……それだけでも十分に怪しい行動ですし、幽霊よりは可能性があるように思えるんですけど……」とマシューの近くにいるのか、マリンの声がする。
「それはありえません。デボラくんの見た幽霊の姿は僕とワルプルギスさんが集めた情報とも、メテオラくんの証言とも一致しますからね。
かりにマリンさんの意見が正しかったとしても、その魔法使いが幽霊であるかどうかはともかくとして、少なくとも『それ』はこの森で暮している魔法使いじゃありません。目撃された幽霊は僕たちの『仲間ではない』のです。この魔法の森に、僕たちの魔法学校の中に僕たちの知らない魔法使いが出没しているんです。それはもう幽霊じゃなくても、幽霊みたいな存在なんです」とマシューは言う。
「そうよ。マシューの言う通り。だから私はそいつの正体を明らかにしたいの。それが新聞記者の本来の務めだと思うし、マリンだって私たちの仲間ではない見知らぬ魔法使いが森の中をうろついていたんじゃ不安でしょ?」と見知らぬ女性の魔法使いさんの声がする。
「……はい。不安です」とマリンはしゅんとして答える。




