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その目に映る姿が真実か



「ふぁーー!和歌の勉強ってなんでこんな眠いんだろう。」


華子が思いっきり伸びをし、大あくびをした。

もうすでに、妃になるための教養を身につける、修行という名目の授業は始まっていて、今はその休み時間。

教養を身に着けるため、妃候補は茶道、華道、和歌、文学、歴史など様々な授業が行われていた。


「まったく、声大きいわよ。誰に聞かれてるかわからないっていうのに。」

「大丈夫だよー。休み時間だし、先生いないし。」


星羅がそう忠告するが、華子はいつものようにマイペースで、まったく周りを気にしていない様子だ。

そんな横で天音は机につっぷしていた。

文字もまだまともに読めない天音にとって、学校のような授業を受ける事は、未知の世界だった。


「ほら、天音だって、寝てるじゃん。」

「いや、寝てるわけじゃなくて…。」


天音は華子の言葉に反論しようと顔を上げた。

すると…。


「私の授業はそんなに眠かったかしら?」

「げ!先生!」


気が付いた時にはもう遅かった。華子が勢いよく振り返ると、和歌の先生が、華子達の後ろに立っていた。

華子の顔が一瞬にして固まり、天音も背中に嫌な汗を感じていた。


「昔の歌の中に込められた深い思いを学ぶのは、とても興味深いと思いませんか?」


先生は優しく華子を諭すように、ニッコリと笑った。

しかし、その目は笑ってはいない…。


「面白いとは思うんですけど、どうして、そんな風に難しい歌に思いを込めたんですか?なんでその思いを直接伝えないの?」


そんな先生の言葉に、天音は素直な思いを先生に伝えた。

どうしてこんな難しい言葉を使ったのだろう。これで本当に伝わるのだろうか?

それは、初めて和歌を学んだ天音が感じた疑問だった。


「え…。」

「だって、その思いに気づいてもらえなかったら、意味ないじゃん。」

「…それは、そういう時代だったからかもしれませんね。」


そんな天音の言葉に先生が優しく微笑んだ。

自分の生徒がそんな風に、和歌に興味を持ってくれた事が嬉しかったのだろう。


「時代…?」


天音はその言葉の意味が分からず、首を傾げた。


「そう、自由に思った事を言う事が難しい時代だった。だから表面ではわからない、深い部分に思いをこめて作ったのかもしれないですね。」


リーンゴーン

その時、休み時間を終わらせる鐘がなった。


「さ、次の授業の準備しなさい。」

「ハーイ。」


華子は、天音の言葉に気をよくした先生に向かって、調子よく元気に返事をした。


「今も変わってないのか もしれないわね。」

「え…?」


星羅がボソリとつぶやいた言葉は、確かに天音の耳には届いていた。




***************




――― その日の授業後


「え?」


華子の一言に、天音はキョトンとした顔で首を傾げた。


「天音、もしかして、説明会の時ちゃんと聞いてなかった?」


華子には言われたくない…。と言いたい所だが、華子はなんだかんだ要領がよく、重要な所はちゃんと押さえている。


「本当に、町に行っていいの?」


天音は、期待の込めた目で華子を見てそう言った。

天音はちゃんと覚えてはいないようだが、説明会の時にその事はちゃんと説明されていた。

授業が終わった後の自由時間には、城下町に行ってもいい事になっていた。

城下町を見るのも、どうやら妃になるための勉強らしい。


「もー、とにかく今日の授業は終わったし、町に繰り出そう!」


だいたい、15時頃には全ての授業が終わるため、夕食までは、まだ充分時間はある。


「うん!」


ここ数日は、慣れない授業で、授業後も疲れ果ててそれどころではなかったが、この生活に少しずつ慣れてきた天音は、華子の提案に大きく頷いた。

そして何より、あの活気ある町をもう一度、ゆっくり見たいと思っていたので、華子と一緒に町に行くことを二つ返事で了承した。


「星羅は?」

「私はいいわ。」

「そっか、じゃ天音行こう。」


華子は軽く返事をして、先陣をきって歩き出した。


「あ、待って華子!」


その後を天音はあわてて追いかける。



***************



「すっごーい!!」


天音は、活気ある城下町を歩きながら、驚きと興奮の声を上げた。


「やっぱ、即位式の後だから、町も賑やかだね。」


華子もそんな天音の様子を見守る母親のように、微笑んだ。

城下町では即位式の後もまだ、お祭り騒ぎでお店も活気づいていた。


「うわー、おいしそうな野菜や魚がいっぱい!」

「どんだけ食いしん坊なのよ!」


なんでもかんでも珍しがる天音を、華子がクスリと笑った。


「じいちゃんにも食べさせてあげたいなー。」


天音はここでもまた、じいちゃんを思い出しポツリと懐かしげにつぶやいた。


プシュー、バンバンバン!!

その時、突然大きな何か破裂するように音が、城下町のメイン通りに響き渡り、またたく間に辺りが煙に包まれた。


「な!何だ!!」

「煙が!」


買い物を楽しんでいたはずの人々が、驚きの声を上げる。


「何だこれは?花火?」


ようやく、そのけたたましい音は収まり、その全容が見えてきた。

その音の正体は花火だった。

人々の足下には、たくさんのロケット花火や、ねずみ花火の残骸が転がっていた。


「なんだこれは…?いたずらか!?」


どうやら、ただのいたずらのようだったが、その騒ぎを聞きつけ、城の兵士も様子を見に来ていた。

煙は風に運ばれていったが、それを仕掛けた犯人らしき者は、辺りには見当たらない。


「びっくりしたー。ただのいたずらかー。」


華子もただのいたずらと知り、ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間…


「あれ…、天音??」


華子は煙が晴れてきた辺りを見回したが、そこには天音の姿はなかった。

どうやらこの騒ぎで、華子は天音とはぐれてしまったようだ。


「天音ー!どこ行ったのよ!」


方向音痴の天音の事だ。放っておいたら、どこに行くかわからない。

華子は、お店を一軒一軒回り天音を探したが、天音の姿は見あたらない。


ドン

その時、駆け足で天音を探している華子が、誰かにぶつかった。


「あ、ごめんなさい!て、あーー!」


華子はその人物の顔を見て思わず大声で叫んだ。


「ん?姉ちゃん…」


華子がぶつかった人物はりんだった。


「こないだの人だ!天音助けてくれた!」


まさかりんにここで会うとは、思ってもみなかった華子は、興奮し周りを気にせず、大声で叫んだ。


「あー、あん時いた妃候補の姉ちゃんか!」


りんも天音を助けた時に会った華子を、もちろんちゃんと覚えていた。


「それより天音見なかった?」


せっかくりんに会えて、もっと色々話したいのは山々だが、今はそれよりも、天音を探さねばならない。


「は?」


りんは華子のその言葉に、眉をひそめた。




***************




「あれー?華子ー?どこ行っちゃったんだろう。てかここどこ?」


天音はあの騒ぎに驚き、煙をさけた所まで避難してきたつもりだったが、相変わらずの方向音痴の天音は、やっぱり道に迷っていた。


「どんどん迷っているような…。さっきの通りどこだっけ……。そうだ、高い所!高い所に登ってみればわかるかも!」


天音はとうとう、人があまり立ち寄らない町の端にある、裏山の方まで辿り着いてしまっていた。

そして、村にあった丘からは、村が見渡せた事を思い出し、高い所へ登ってみようという、何とも安易な考えから、この裏山を登り始めた。

その山は木々がたくさん生い茂ってはいたが、そんなに急ではなく、天音もスタスタと簡単に山頂を目指して、登る事ができたが…。

15分ほど歩いた頃…


ガサ


静けさが漂う裏山に、天音が落ち葉を踏んだ音が響きわたった。


「誰だ!」

「へ??」


天音は突然誰かに声をかけられ、思わずまぬけな声を出した。

そして、後ろを振り返るとそこには人が居た。


「あ、あの…。」

「女?」


天音が挙動不審に周りを見渡すと、そこには、ボロボロで人が住んでいるのかも定かでない、小さな小屋があり、その前には一人の男が座っていた。

釣り目で、耳にはたくさんのピアスをジャラジャラつけた男は、天音より少し年上のようだ。

そして男は、天音に睨みをきかせていた。


「何これ?」


天音の目には、彼の足下に転がる、たくさんの大きな丸い玉が目に入った。


「あ?」


男は睨み続け、威嚇するような声を出した。

しかし、怖いもの知らずの天音は、そんな男にはお構いなしに、男の方へと近づいていき、その大きな丸い玉へと手を伸ばした。


「さわんな!!花火だ。」


男はそんな天音の行動を阻止するかのように叫んだ。


「へー、花火ってこんな丸い玉なんだ!じゃ、もしかして即位式の花火もあなたが?」


人見知りなど全くしない天音は、明らかに天音を邪魔者のように睨んでいる男に向かって、普通に話しかけていく。


「さーな。花火作りは別に禁止されてねーよ。」


男は天音を睨み続けたまま、めんどくさそうに、答える。


「あの花火、なんだか悲しそうだった…。」


意識がもうろうとしていた中でも、天音はあの花火はちゃんと見ていたのだった。

そしてその時の事をふと思い出したように、ポツリと小さくつぶやいた。


「あ!?お前何者だ!」


男は、突然怒ったような声をあげ、急に天音の手首を力いっぱいつかんだ。


「い、いたいよ!!」


天音は彼の力の強さから、思わず声をあげ、自分の腕を引っ張ってみたが、びくともしない。


キラーン

天音がじたばた暴れていた時、天音の耳に光る十字架のピアスが、太陽の光に反射し、その光が男の目に飛び込んだ。

そして、男は思わずその光に目をつぶり、その手を放した。


「お前…、あの城のもんか?」


男が顔をしかめたまま、天音に問う。

もし、そうならば…


「え?私?妃候補だよ。」

「は?」


男は、さらに顔を歪めて思いっきり不機嫌な声を出した。


「知らないの?天師教さんの…。」

「…知ってる。」

「なんだ、知ってる…。」

「よくしゃべる女だな!」


男は我慢しきれず、天音の声にかぶせるように、怒鳴り声を上げたが…、


「ねえ、何で花火作ってるの?」


天音は、まったく物怖じせずに、彼に話かける事をやめない。

こんな所で1人花火を作っている彼の事が、何故かとても気になった。

それは、あの戴冠式の花火を見たからだろうか。


「あ?なんでもいいだろう。」


男は、天音ともうこれ以上話したくないといわんばかりに、めんどくさそうに答えた。

そんな強面な男だったが、天音の問いには、なんだかんだちゃんと答えてくれている所を見て、天音はそんな悪い人には思えなかった。


「月斗さーん。あ、すいませんお話し中でしたか?」


小屋の中から別の男が出てきて、その男を呼んだ。


「いや。」


やっばり、男はそっけなく答えた。


「え?話してたじゃん!」

「いちいち、うるせー女だなー。」


男がまた、怒ったように声を荒げた。


「あ、、、じゃ俺先に町に行ってますね。」

「ああ。」


そう言って、彼の仲間らしき男は、苦笑いを浮かべて、小屋を後にした。

未だ不機嫌そうな彼は、天音を睨み付けた。


「さっさと帰れよ!」

「…道…わかんない…。」

「は?バカか?」

「方向音痴なんだもん…。あ、町…行くんだよね?」


天音は期待を込めて、彼をチラリと見た。


「ハー。めんどくせー。」


彼は大きなため息をつき、歩き出した。そしてチラリと天音の方へと振り向いた。


「え…。」

「俺もう行くけど…。」


ぶっきらぼうにそう言って、彼はまた歩き出した。

それはつまり、ついて来いって事だと、天音は瞬時に理解した。


「あ、ありがとう!!」


天音は嬉しそうに小走りに、彼の後を連いて行った。

やっぱり彼は、口は悪いが、いい人にはちがいない。天音はそう確信していた。




***************




「もー、どうしよう!夕食までもうあんま時間ないのにー!」


その頃、華子は、天音が見つからず、ひどく焦っていた。

時刻は夕刻。天音のことは心配だが、華子もそろそろ城に帰らなくては、自分の身も危うくなる。


「わかった!わいが探しといたる!」


りんは、困っている華子を放っておけなくなり、そう申し出た。


「本当!ありがとう!じゃ、よろしく!」


華子は天音の事をりんに託し、城へと走り出した。


「さてと、どこ行ったんかなー?」


引き受けてみたものの、天音がどこにいるかわからないりんは、地道に探すしかなく、また足を動かした。





***************




「ねぇ、何でそんなたくさんピアス付けてるの?」


町へと向かう道中、天音は尚も彼に話しかけていた。


「あー?何でんな事聞くんだよ。」

「だってー、気になるから。」

「耳に穴を開ける奴は、罪を犯した印…。」

「え…!そうなの?」


天音は驚いて目を見開いた。

勢いとはいえ、自分も耳に開けてしまったのに…。


「んなわけないだろう。今はみんな開けてんだろう。大昔の話だ。」

「なんだー。昔の話か。」


天音は、ほっと胸をなでおろした。

確かによく考えたら、華子も星羅もピアスを開けていた。

彼のそんなウソに簡単にひっかかる天音は、やっぱり素直で単純だった。

そして、気がつくと、いつの間にか山を降りていた天音の目には、町の見覚えある景色が、見え始めた。


「あ、ここは…。」

「キャー!!」


天音が口を開いたのと同時に、女性の叫び声が聞こえた。


「え?何?」


その悲鳴に、天音は何が起きたのかわからず、周りをキョロキョロと見回した。


「また出たぞ!」

「アイツ月斗だ!」


なぜか町の人々が遠巻きに、集まって来ていた。

そしてその視線は、ここまで天音を連れてきてくれた、その男に集中していた。


「さっきのねずみ花火もお前だろ。営業妨害しやがって。」


1人の男が恐る恐る彼に言った。


「だったら?」


男がは口端を上げて、ニッと不気味に笑った。


「え…?」


天音は何が何だかわからず、眉をひそめた。


ガシ

すると突然彼は天音の腕をつかんだ。

しかし、先程手首を掴まれた時ほど力は強くはなかった。


「な、何?」


天音は一体彼が何をしたいのかがわからず、無表情の彼の顔を見上げた。


「オイ。まさか…。」


しかし、彼に向けられた人々の視線は、冷たいものだった。

彼は町の人々によく思われてないのは、誰が見ても一目瞭然。

それを天音も徐々に感じ始めていた。


「女の子が捕まってる。」


いつの間にか、周りがざわつき始め、大勢の人が集まってきて、男と天音が囲まれる、奇妙な光景になっていた。

どうやら、町の人々には、天音がこの男に捕まっているように見えているようで、無理に近づこうとはしない。


「え…、あの…、ちが…。」


天音は弁解をしようとしたが、今まで感じた事のない周りからの冷たい視線が突き刺さり、うろたえるばかり。

でも、天音にはわかっていた。

これは、誤解なんだと…。


「離せー!悪者ー!」


その時、1人の幼い男の子が、月斗の前に飛び出してきた。


「まー君!」


母親が必死に、その子供の名を叫んだ。

しかし男の子は、天音のすぐ目の前で、石につまずいて転んでしまった。


「うわーん!」

「泣くなら、最初っから来んな。」


すぐ足下で泣き叫ぶ男の子に向かって、彼はそう冷たく言い放った。


「ちょっと!大丈夫僕?」


天音は、そんなに力が入っていなかった月斗の手をふりほどき、男の子の方へと心配そうに駆け寄った。


「フン。」


その様子を見た彼は、何事もなかったように、後ろを向き、また来た道を帰ろうとした。


「待って!」


天音は、そんな彼の背中へと叫び、月斗を呼び止めようとした。

そして、その呼びかけに彼は足を止めた。


「お姉ちゃん、話しかけちゃダメだよ!そいつは悪者なんだよ。」


しかし、さっきまで、泣いていたはずの男の子が天音の手をひっぱった。


「悪者??」


天音は、その男の子の言葉に、眉間にシワをよせた。

その言葉に、天音はひどく違和感を感じた。

だって、そんな言葉は、彼には似つかわしくはない。


「天音ー!!おったー!」


その時、その騒ぎを聞きつけてやって来たりんが、天音の姿を見つけ叫んだ。

しかし、辺りは人混みで、天音にりんの声は届いていない。


「あの!!ありがとう!!」


天音は周りの視線を気にする事なく、決して振り向く事のない彼の背中に向かって、叫んだ。


「私は天音!あなたは…。」

「最後まで、うるせー女だなー。」


月斗が振り返らずにそう叫んだ。


タッタッタ

その時、天音の後ろからけたたましい、足音が聞こえた。と思ったその瞬間…。



ガシ!!


「反乱者、ツキト。捕獲!」


いつの間にか天音を追い越していったのは、城の兵士だった。

そして、兵士はなんとも簡単に、月斗を捕らえ、その手に手錠をはめた。


「え…?」


天音は何が起こったのかわからず、呆然とその場に立ち尽くした。


「…。」


月斗は暴れる事もなく、何か言葉を発する事もなく、ただ黙って大人しく捕らえられているだけだった。


「え、ちょ、待って…。反乱?」

「やったー!」

「さすが、国の兵士!」

「これで安心ね。」


天音はただ混乱するばかりで、どうしていいのかもわからない。

しかしそんな天音とは対照的に、町の人々は喜びの声を上げた。

この国では、町の警備や、警察のような役割も城の兵士がこなしていた。

つまり、そんな兵士に捕らえられた彼は…。


「天音!!」


りんが天音に駆け寄り、唖然としている天音を大声で呼んだ。


「え…りん?」

「もう帰らないけない時間やろ!!」


天音は、もう何が何だかわからず、突然目の前に現れた、りんの切羽詰まった表情を見つめた。


「え、あ時間…。」


そう、もう夕日の姿は半分しか見えていない。

あともうすぐで、夕日は沈んでしまう。


「はよう!城へ帰らんといかんのやろう!」

「でも…。」


りんは、必死に天音に訴えかけるが、天音は月斗の事が気になってしかたない。

月斗は、やはり抵抗するそぶりは一切見せず、どうやら兵士に連行されていくようだ。


「天音、あいつと知り合いかいな?それより、妃になりたいんやろ!こんな簡単に、城を追い出されてええんか?」

「りん…。うん。そうだね、追放されちゃ困る!帰らなきゃ!」


天音は、後ろ髪引かれながらも、りんの必死の訴えで、やっと正気を取り戻した。


「りん、ありがとう!またね!」


そう言って天音は、城へ向かって走り出した。


「はぁ、はぁ、はぁ」


天音は城へ向かって全速力で走っていた。


…どいう事…、あの人が反乱の人?

しかし、頭の中はさっきの出来事でいっぱいだった。

町の人達はあの人の事を冷ややかな目で見ていたけど、彼は人相は悪いけど、そんな悪い人には見えなかった。様々な考えが天音の頭を駆け巡る。


「はぁ、はぁ。」


しかし、今は時間がない。夕食までに帰らなければ、ここを追い出される。

妃になるために、まだ何もしてないのに、村に帰るなんて出来るわけがない!!

そう自分を奮い立たせて、一気に城へと続く階段を駆け上がった。



***************


「どーしよう、星羅ー。」


その頃、華子と星羅は、食堂で決められた席に着く。

もう、夕食が始まろうとしているにもかかわらず、未だ天音は帰って来てない。

もちろん華子は気が気でない。


「落ち着きなさいよ。」


しかし、そんな華子とは対照的に、星羅はいつも通り冷静だった。


「やっぱり、私が先に帰って来ちゃったから…。」

「違うわよ。」

「え…?」


華子は、やっぱりもっとちゃんと探せばよかったと、後悔し始めていたが、そんな華子の言葉聞いて、星羅はどこか遠くを見つめて口を開いた。


「これで帰って来なかったら、それまでの子だったのよ。彼女は妃になる器じゃなかっただけ。」


星羅がいつになく低い声を出してそう言った。


「やる気のない者は…帰ればいい…。」


やはり、どこか冷めた様子の星羅は、視線を料理が並べられた机へと落とした。

それでも華子は、時計から目を離せないで、ヤキモキし続けていた。


チッチッチ

しかし時は無常にも進んでいく。


「私は…」


その時、華子がおもむろに、口を開いた。


「私は…そんなの…いや!」


バン!!

その時、食堂の扉が勢いよく開いた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


そして、そこに立っていたのは、息を切らした天音だった。


「天音!!」


リーンゴーン。

天音が到着したのと同時に、夕食の始まりを伝える鐘の音が鳴り、点呼を取る兵士が食堂へと入って来た。


「何をしている、早く席につけ。」

「はぁ、はぁ、はぁ。はい。」


1人の兵士が天音に早く席に着くように促す。

そして天音は息が上がって、ふらふらになりながらも、なんとか席に着いた。


「ほら、お水!」


華子がすかさず、天音に水を差し出す。


ゴクゴクゴク

天音は勢いよくその水を飲み干した。


「はぁー。間に合った。」


やっと天音は言葉を発することができ、机に突っ伏した。


「よかったー。」


華子もそんな天音を見て、ようやく安堵の表情を浮かべた。


「これからは、気をつけるのね。」


そして星羅はやっぱり、冷静にそう言っただけで、食事を始めた。


「よかった。やっぱり天音は、それまでの器じゃなかったね。星羅。」

「へ?」


華子がへへっと笑って、星羅の方を見た。

しかし、天音はきょとんとした表情を浮かべて星羅を見た。


「…。」


そして星羅は、何事もなかったように、食事を続けているだけだった。


「こんな所で帰るような奴じゃないって事!」

「もちろん!足が早いのだけは自慢だから!」

「いや、そうじゃなくて…。ま、いっか。さー、ご飯食べよ!」


華子の言葉に、見当違いの言葉で返す天音だったが、そんな天音を見て華子はまた笑った。


「うん。お腹空いた。いっただきまーす。」


そして食堂に天音の元気な声が響いた。




***************



「天師教様!ご報告です。反乱者ツキトを捕らえました!」


あの男、月斗は兵士に捕えられ、城の牢屋に捕らえられていた。

そしてその事は、すぐに天使教の元へと報告されていた。


「反乱者?」


その言葉に京司は眉をひそめた。

月斗は、この町では素行が悪いのは有名だった。

町の公共物を壊したり、城に花火を投げ入れたり、仲間とそんな悪さばかりを行っていた。

しかし、京司は、反乱者と言うその言葉にはしっくりこなかった。


「天師教様いかがしましょう。処罰は…。」

「…そいつの所へ連れて行け。」

「は?」


京司の予想だにしなかった発言に、報告に来た兵士は、ぽかんと口を開けたまま固まった。


「話をする。そのツキトって奴と。だから俺を牢屋へ案内しろ。」

「話?あ、あのでも、そんな危険な所に天使教様をお連れするわけには…。」


兵士には、京司の意図している事がまったく理解できず、うろたえているばかりだ。


「いいから、連れ行け!」


そんな兵士に対して、京司は強い口調で声を上げた。


『人間と鯉はちがうよ。』


そしてそんな京司の脳裏にったのは、そんな天音の言葉だった。





***************






「ねえ、彼は変えられると思う?この国を…。ただの世間知らずのおぼっちゃんに……。」















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