表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/39

エピローグ



天音は墓石の前にしゃがみ込み、静かに手を合わせていた。

この国の最後、それを見届けた彼女は、その足でこの場所へと訪れていた。


「よしと!!」


そして、天音がスッと立ち上がった。


「ちゃんと言えたか?」


そんな天音の隣で、京司が優しく微笑んでいた。


「うん。お母さんと辰にちゃんと報告できた。」


天音は2人のお墓へとまた視線を戻し、穏やかな笑顔を向けた。

この国の最後、それをちゃんと2人に報告しにここを訪れた。

2人もこの国のために戦っていた。天音が一番それをよく知っている。

だからこそ、一番に報告したかった。


「ちゃんと言えた。ありがとうって。」


これが彼らの望んだ最後だったかはわからない…。

でも、彼らがいたからこそ今がある。

だからこそ、ありがとうを伝えたかった。

もちろんそれは、京司も同じ気持ちだった。

だからこそ、こうやって天音にくっついて、ここへやって来た。


「なあ、天音。」

「ん?」


すると京司は、じぃっと、天音の顔をマジマジと見つめた。

その様子に天音は、きょとんと首を傾げ、彼の次の言葉を待った。


…夢みたいだ。またこんな近くに君がいるなんて。


「なーに?もったいぶって!!」


中々次の言葉を言い出さない京司に、しびれを切らした天音が、クスクス笑った。


「ありがとう。」


京司がクスクス笑う天音を真っすぐ見つめ、その言葉を口にした。


「ずっと、待っててくれて。」


それは、あの日言えなかった、一番伝えたかった言葉。

儚い夢のように、一瞬で終わったこの世界。

でも、何度生まれ変わっても、変わらないものはここにあった。


フワリ


「あ……雪だ……。」


天音が、京司の肩に落ちたそれを見て、ポツリとつぶやいた。

そして、京司の肩に手を伸ばし、天音はその白いものに触れた。

すると、そこから天音の手へと、じんわりと冷たさが伝わってくる。

それが、実感させてくれる。


これは、夢なんかじゃない…。


「どうりで、寒いわけだ……。」


そう、この日はこの国始まって以来の寒さ。

その寒さに、いつもより着込んできた京司も、身震いをさせた。



「ありがとう!!神様ーーーー!!」



すると、突然天音が天を仰ぎ、ハラハラと雪が落ちてくる空に向かって叫んだ。


「あんな奴に、礼なんて言わなくていいんだよ!!」


すると、すかさず京司が、天音に向かってその言葉を投げかけた。

神の話を聞いていなかった京司も、全ての話は、りんに聞かされていた。

彼があの日、この世を終わらせた事。天音をずっとそばに置いていた事も…。

正直、その話は京司にとっては、現実味のないものではったが、ふつふつと湧いてくる怒りだけは、今も心の中にくすぶり続けてる。


……それが全て本当ならば、神って奴に文句の1つでも言ってやらなきゃ、気が済まない。


しかし、京司が彼と対峙する前に、神は居なくなってしまった。

かずさいわく、神は彼の本来いる場所へと戻ったらしい。

そして天音いわく、それは空の上らしい。


『だって神様がいるのは、空の上って昔から決まってるじゃん。』


天音はなんとも単純な解釈で、そう言って見せた。

でも、それが宇宙だなんて事は口にはしなかった。


…だってそれじゃ何かイメージ違う…。


「もー!そんな事言って!京司は、神様の事なーんにも知らないくせに。」


天音が口を尖らせ、不満げにそう言った。


「なんだよそれ!」

「ばちあたり!!」


天音がイーっと口を横に広げ、京司に顔を近づけた。


「あ!?」


それに負けじと京司が不機嫌な顔を見せ、そっぽを向いた。


…この期に及んで、あんな奴の肩を持つなんておかしいだろう!こっちは、どれだけ待ったと思ってんだ!

しかし、そんな京司の気持ちを天音は知る由もない。


こんな風に君とずっと笑い合いたかった。たわいのない話をしていたかった。


ずっと……。ずっと…。


「クスクス。京司、怒らないでよー。」


仕方なく天音が先に折れ、子供みたいに拗ねてしまった京司に笑いかける。

いくら彼が自分よりも1つだけ年上になったからって、人間の本質は変わっていないようだ。


…セミを逃がしてしまい、怒っていたあの頃の君となんら変わってないんだね…。



「ねえ、京司。」

「んーー?」


京司がそっぽを向いたまま、天音の呼びかけに適当に答えた。



フワリ

冷たい雪が京司の頬を撫でた。



「大好きだよ。」



…知ってる…。



…今もあの頃の君のまま……。




「は?今更?」



そう言って京司がクルリと彼女の方へと、仕方なくまた顔を戻した。




「………。」




しかし、そこに愛しい彼女の姿はもうない。





「もう……行くのかよ………。」




京司の目に映るのは、シンシンと天から降り注ぐ白く輝く雪だけ。



「あーあ!だから言ったろう!神って奴はケチだな!!」


だから、わざと大きな声で言ってやった。

その声が届くように。

その空の上に……。


「クソッ!……もう少しだけ………。」


とめどなく降りしきる雪が、あたり一面を白く染める……。

でもその雪は、なぜか温かく感じたんだ。




天音のいなくなったその場所には、1通の手紙だけが残されていた。

京司はその手紙をそっと拾い上げた。


“京司へ”


便箋には、たった一言そう書かれていた。



京司へ


誰かに手紙を書くのは初めてです。


だって私は妃こうほになるまで、字なんか書けなかったんだから。


でもこうやって、文字を書いて思いを伝えることはすてきだね。


私はもう行かなければなりません。それは神様との約束だから。


タイムリミットは私が18才になるまで。それは、この世界に来る前に神様から言われた条件。


だから、もうこれ以上ここにはいられないんだ。ごめんね。


初めてあなたと会ったのは、あの公園で桜が満開の時だったね。


あなたは生意気で口が悪くて、なぜかいつも自信に満ち溢れた私より年下の小学生だったね。


あなたは、思春期の乙女だった私の心に、土足で踏み込んできた。


一緒に桜を見て、夏祭りに行って、線香花火もしたね。秋には、たくさんドングリを持ってきてくれた。


そんな京司は、始めは弟みたいな存在だった。


だから、あの時、結婚してくれなんて言うから、あんなだますような約束しちゃった。ごめんね。


でもね、あなたが引っ越しして、いなくなってしまって、何だか心にぽっかり穴が開いたみたいになったの。


だから、本当はずっと待ってたんだ。


そして、あの日、最後の日…。公園であなたに再開した時は、とっても嬉しかった。


本当はあの日あやまろうと思ってた。あなたをだますような事言ってごめんねって。


それから、一緒に雪見れたねって。


伝えたい事がいっぱいあったのに…。でもそんな時間は、一瞬の夢みたいに終わってしまった。



それから私は1人になった。


めちゃくちゃに傷ついて、感情もなくなって…。それでも、どこかで信じてた。


いつかまた会えるんじゃないかって。


そして神様がその夢をかなえてくれた。


私はもう一度、あなたと出会った。


この世界で出会ったあなたは、やっぱりどこか生意気で、自信満々で、私の知らない事なんでも知っていた。


でも、どこかいつも寂しそうだった。だからほっとけなかったんだ。


何度もあの池に、会いに行った。あなたが寂しくないように。


そして、あなたは何度も私を助けてくれた。


温かい手を差し伸べてくれた。


でも、あなたが天師教だと知った時はショックだった。


でもね


私が見てきたのは


私が好きになったのは


やっぱり天師教だったあなたなんだよ。



本当は苦しかったんだよね。


あなたはこの国が好きだから、いっぱいもがいたんだよね。


知ってるよ、私は。


でもあなたは、もう1人じゃないでしょ?


ちょっとおせっかいな、お姉ちゃんみたいな幼馴染がいる。


変なしゃべり方だけど、いつも笑わせてくれるお兄ちゃんみたいな人がいる。


ちょっと目つきの悪い悪友もできた。


口喧嘩できる女友達もいる。


いつも適格なアドバイスをくれる、心強い友達もできた。


ちょっと生意気で口の悪い、妹みたいな子もいる。



だから大丈夫。


京司は優しい人だから、周りにいっぱい人が集まって来るよ。


私はもう、そばにはいられないけど、私の分まで今のこの時代を精一杯生きてね。


あなたは生まれ変わって、私の前に現れて、約束を守ってくれたのに、私はまた約束を破ってしまったね。


でも、きっといつかまた会えるよ。


きっと何度生まれ変わっても、またあなたを見つける。


そして、また好きになるから。


だから待っててくれるかな?


どんだけ待たせるんだよ!ってまた怒るかな?



何度生まれ変わっても、私はあなたと見た雪をきっと忘れない。



だから、何度でも言うよ。


私は京司が大好きだよ。




私と出会ってくれてありがとう。




天音







「次は俺の番かよ……。」



そう言って、京司は真っ赤になった鼻をすすった。


「こんな所にずっといたら、風邪ひくでー!!」


すると、そんな京司の背後から、いつものひょうきんな彼の声が聞こえた。


「バカは風邪ひかねーよ。」

「バカじゃねーよ!」


そして次に聞こえた憎たらしい声に、京司は眉をひそめた。

やっぱり、彼は嫌みしか言ってこない。こんな時ぐらい、優しい言葉の1つぐらいかけられないのだろうか…。


「やだ!鼻真っ赤!」


彼女は、本当にお節介で心配性。それが顔に分かりやすく出ている。

今日も心配そうに、京司を見ている。


「まったく、変な大人たち…。」


この子供は、大人を馬鹿にしすぎ…。

恐らくそう言っても、ちょっとやそっとじゃ直す気はないだろう。


「もーー!寒いなー!早く行くよ!」


この寒さにご機嫌斜めの彼女は、雪を堪能するという気は、サラサラないようだ。

しかし、ゴーイングマイウエイの彼女には、誰も口ではかなわなため、反論する者はここいはいない。


「はいはい。」

「さ、帰るで!!これから忙しくなる!」


そして、りんが先頭をきって歩き出す。


真っ白に雪が積もった、まだ誰も歩いていないその道へと。



「ありがとう。」



すると、今まで一言も発しなかった彼女が、ポツリと空に向かってささやいた。


「お礼なんか言わなくていいんだよ!」


彼女のその一言を京司は聞き逃さなかった。

だからもう一度言ってやった。

何度言っても飽き足る事のない、そんな皮肉の言葉を。


「ああ。お前、神の事好きだったんだっけ?」


そしてまたそんな皮肉を、今度は目の前にいる彼女に向かって、言ってみせた。

だって、目の前のかずさが、泣きそうな顔をしてたから……。


「はー?あんた、そういうデリカシーのない事言う!?」


すると、見過ごす事のできないその言葉に、すかさず華子が間に入ってきた。


「クス。」


かずさがそんな華子を見て、少しだけ笑みを漏らした。


「お前うるさい!!」

「だから、あんた嫌いなのよ!!」


どうやら、しばらくは、この2人の言い合いは続きそうだ。

そんな2人の事はいったん置いておいて、かずさは、もう1度空を見上げた。



…天音。心配はいらないみたい。あなたの大切な人の周りには、たくさんの仲間がいる。





「さようなら。」





そして、かずさがもう1度、静かにその言葉をつぶやいた。





「かずさ早く!!おいてくよー!!」



いつの間にか、言い争いに終止符を打った華子が、かずさに声をかける。

そして、かずさが、小走りに前を歩く彼らの元へと駆けていった。






その日、この国で初めての雪が降った。


雪はみるみるうちに積り、この国を白に染めた。






そして、もう誰も住んでいない城を、真っ白い雪が覆った。







何度でも言うよ


例え地球最後の日でも


君とこの雪を見たいんだ。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ