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思いが紡いだ道へと今旅立とう



あの日も雪だった……。



夢が叶ったて…そう思ったんだ。



でもそれは、一瞬のユメで終わっちゃったね……。



―――― 2000年12月31日


「いつまで待たせるんだよ。」

「え…?」

「もしかして、覚えてねーのかよ!?」


天音はきょとんとした顔で、公園の中から歩いて来たその人物の顔を見つめていた。

今は、はっきりとその顔がわかる。

背丈は、天音より少し高い。

それから、少し低い声…。その人は…。


…それは、私の知らない人……。


「…あなた……誰?」

「クソッ。約束したのに…。」


…前髪切ったんだね。


「ヒッドイ女!!」


…その方が似合うよ。


「ふざけんな!」


目の前にいる京司は、じだんだを踏みながら、どうやら本気で怒ってるみたいだ。


「クスクス。ウソだよ。」


…今は、あなたの優しい目がよく見える。


そんな京司の様子を少しからかうように、天音は優しい眼差しで見つめていた。



「京司でしょ?」



フワッ

その時、冷たい感触を天音は頬に感じた。


「見て!!雪だよ!!京司!!」


そして、天音は子供のようにそう叫び、天を仰ぎ手を空へと伸ばした。

確かにフワリフワリと、綿のような雪が天音の頭上に降り注いでいる。


その日、地球最後の日、天音の願い通り雪が降った。


「見れたね!!雪!!」


天音は再び京司の方へと向き直し、満足気にニッコリ笑ってみせた。


…そう、この笑顔が見たかったんだ…。


「まったく、お前の方が子供みたいだな。」

「へ…?」


京司がそう言いながら、腰に手を当て、呆れ顔を見せている。

やっぱり久しぶりに見た彼は、以前とは比べ物にならないほど大人びている。

とはいえ、やはり今でも天音の方が年上だという事実は、変わりはないのだが…。


「もう1つ約束しただろう…。」

「え……。」


ドー―ーン!!


その次の瞬間、すごい音がして地面が大きく波打った。

そして、その大きな音と衝撃に、天音は思わず目を固く閉じた。

その後、恐る恐るもう一度ゆっくりと目を開けると、目の前の地面はなくなっていた。

そこに舞うのは、先ほど見ていた真っ白な雪ではなく、灰色の砂ぼこりばかり……。



――――そこに彼の姿はもうなかった。







*****************






「賭けをしたんだ。」

「え…?」


神が小さくつぶやいたその言葉に反応したのは、かずさだけ…。

この部屋に今残っているのは、2人だけ。

他のみなはこの部屋をすぐに出て行き、次に行くべき場所へと向かった。

そして、この部屋には、また元の静寂が戻っていた。


「京司に賭けをしたんだ。京司には、使教徒の力を与えなかった。」


静かなこの部屋の中では、彼の声だけがいやに響く。

その声が、かずさにはとても心地よく感じる。


「彼は、私が天使教の名を譲った男の、私の信じた男の子孫だ。自分の力で自分を守る事ができる。」

「彼を信じていたのね…。」


かずさの愛しい人を愛でるような、優しい眼差しが彼へと向けられていた。


「そして…もう一度…。」



*****************



シドと京司は、たった2人きりで、城の長い廊下を歩いていた。

その場所へ向かうために…。


「はは……母さんの事だけど、どこか静かな場所で、暮らさせてやってくれないか?」

「…わかった。」


自分がいなくなった後に、母がちゃんと生きていけるよう、シドに伝えておきたかった。

天使教は、どれだけ憎まれてもいい。でも、母には何の罪もない…。できる事なら、今後は静かに、自分のために生きて欲しい。

それが、京司の最後の願いだった。

彼の最後の願いをシドは快諾した。


ピチャッ

すると、京司はその水音を聞いて、思わず足を止めた。

その場所は、池のある中庭。


「ちょっと、いいか?」

「ああ…。」


京司は、シドの了解を得て、池の方へと真っすぐ歩いていく。

シドは京司がこの場所で足を止め、寄り道する事も快く了承してくれた。

シドにはわかっていた。彼がこんな場所で逃げ出すような、バカな人間ではない事を…。

彼の覚悟は、その目を見れば一目瞭然。

そして、これが最後ならば、彼の気の済むまで残されたわずかな時間を好きなように使って欲しいと願った。

それが、彼から未来を奪う、自分にできる唯一の事なのだから……。


「…ちゃんとエサもらえよ。」


京司は、池に1匹だけ残ったその鯉を目で追いながら、まるで親友に話かけるかのように、最後の言葉を投げかけた。


ピチャっ


その鯉も京司のその言葉に応えるかのように、元気よく水面を蹴った。



*****************



「はぁはぁ。」


天音は走っていた。

長く長く続くこの城の廊下が、今は鬱陶しい。

出来るならば、華子の瞬間移動の力が、今は喉から手が出る程欲しい。


チリン


すると、天音のポケットから、鈴のキーホルダーが床に落ち、心地よい音を立てた。


「……約束したじゃん……。」


天音は足を止め、床から鈴を拾い、強く握った。

そして、天音はまた走り出した。


今、立ち止まるわけにはいかない。




****************



「行こうか…。」


シドが、その場に似つかわしくない程の優しい声で、京司へと声をかけた。


「ああ。」


京司が大きく頷き、足を一歩、また一歩、前へと進めた。


カツ

カツ


その場所は、今まで何度も足を運んだ場所。

この場所からは、町が一望でき、眺めも最高だ。

けれど、その景色を京司が見るのは、おそらく今日が最後だろう。

その景色を目に焼き付けるように、京司はゆっくりと進んで行く。

シドと京司が、城のバルコニーに出て行った。


ワ―――――!!



広場には、これでもかというくらい沢山の人々が集まっていた。

城下町の町民や反乱軍、兵士までもが、最後のその瞬間を目に焼き付けようと足を運んでいた。


そして、バルコニーへと現れた彼らの姿を見た瞬間、歓声がわいた。


「天師教は捕らえた!!」


シドが肉声のまま、これでもかという大声を振り絞り叫んだ。


ワー――――――!!


そして、再び地面を揺らすほどの歓声が、京司とシドを包んだ。


「弓の用意はいいな!」


広場に集まっている反乱軍達は、弓を構えている。

その弓の向けられた先にいるのは、天使教、ただ1人。

シドの合図によってその弓は放たれ、天使教は討たれる事となる。


これで終わる……。


そこにいる誰もがそう確信していた。

それは、京司も同じ。

そこにいる全ての人々が、祈るようにその時を待つ。




「待ってーーーーーーーー!!!」




その時、静寂を切り裂き、彼女の叫びがこだました。

その瞬間、シドはその声の方へと勢いよく振り返った。


「あま……ね……。」


天音は、バルコニーへと続く城の中の部屋から姿を現し、こちらへと向かって来る。

シドは彼女のその姿から、目をそらす事ができない。



……え……?



「はぁはぁ…。」


天音は何とか息を整えようと努めながら、一歩一歩大地を踏みしめるように、歩く。

そして、ゆっくりと彼に近づいて行った。

その様子をシドは、一歩もその場を動かず、息を飲んで見守る。


「ひどくない!?」


天音が、そこで足を止め、第一声を彼へと放った。

その声に、彼が思わず顔を上げた。

そこにあるのは、愛しい彼女の顔。

しかし、彼女のその顔は……なぜか怒っている。

そんな彼女の、天音の顔が、今はよく見える。


「京司…。」


天音は、目の前にいる愛しい彼の名を、噛みしめるように口にした。


……もう一度その名を呼ばれるなんて、思ってもみなかった。


そう、それはまるで夢のよう…。



「忘れたの?約束!!」



そして天音がまた、怒ったように顔をしかめて、京司に向かって叫んだ。




―――― それは、あの日…。京司が引っ越しをする日の事。


『ハイこれ!』

『え?』


天音が、京司に向かって自分の手を突き出した。


『この十字架のピアス、これ、お母さんがお父さんからもらったものなんだって。それを私がもらったんだ。でも、ほら、私まだピアスの穴開けてないんだよね。』

『…。』


そっと開いた天音の手には、キラリと光る小さな小さな十字架のピアスがちょこんと2つのっていた。


『片方は、あんたが持ってて。』

『俺が…?』


そう言って天音は、ピアスの片方だけを彼の手に無理やり握らせた。


『また会えるように。』

『…。』

『京司がまた戻って来る印!』


そう言って、天音がニカっと彼に笑みを見せた。


『約束…だから…な…。』


京司もまた、泣き出しそうな笑顔を天音に向けた…。


必ずまた会える……。そう信じて……。




――――― だから私の耳には片方のピアスしかなかったんだね……。神様……。







「なあ、かずさ。」

「え…?」


神がまた、ゆっくりとかずさに語りかけた。


「人間とは、不思議なものだな。私は、そう作ったわけではないのに、時々不思議な力を持ったものが生まれる。青もそうだ。覚えているはずのない、前世の記憶を持っていた。りんのしゃべり方もそうだ。どうやらそれは、前世での強い思いがそうさせているようだ。」

「…そう。」


青がこの世に生まれ、前世での記憶があったのは、神のした事ではない。

りんのしゃべり方が特殊なのも、全ては前世でのもの。

それは偶然?

いや…

それは……。



「――――人の思いが全てを変える。時間をも超える。」



彼らの思い………。



そう言って、神が口元に笑みを浮かべた。







「ヒッドイ女!!」

「え…。」


すると京司が顔を上げ、天音をじっと見つめ、その言葉を口にした。

その言葉は……

あの時の言葉……


「俺に預けたまんまだろ。」


ジャラ


すると、京司は自分の首にかけてあった十字架のペンダントを外し、手に取った。



『絶対戻って来る印。』

『…。』

『約束する。』


それは天音が、京司に渡したものだった。


パー

すると突然、その十字架のペンダントがまばゆい光を放った。

そして、それは、十字架のピアスへと変形した。


「これ……。」

「あん時も渡せなかった。」

「京司……。」


…もしかして……覚えてるの…?


天音の目には、零れ落ちそうな涙がみるみるうちに溜まっていく。


「お前ふざけんなよ!」


すると、今度は京司が怒ったような声を上げた。


「純粋な少年をだましやがって!」

「京司…。」


こらえられず、天音の目から涙が頬を伝い地面へと落ちる。


「何が年上だよ……!あの時だって、俺は文句言うつもりだったんだぜ。そんな俺にお構いなく、お前は雪が降ってはしゃいでたけど。いや、お前の方がよっぽど子供だっつーの!!」


京司が堰を切ったように、畳みかけるようにしゃべりだした。

それは、ずっと言いたかった言葉。ずっと伝えたかった思い。


「…ごめんね。だますような事…言って…。」


天音が赤い目をこすり、えへへと少し笑ってみせた。


「そうだよ。年上になったら結婚するなんて、絶対無理に決まってんだろ!!」


京司はすねた子供のように口を尖らせ、そう叫んだ。

それはまるで、引っ越しっていったあの日の少年と同じように…。



「奇跡でもおきないかぎりな。」



そして彼がまた、優しく笑った。

あの頃となんら変わらない、その優しい目を見せながら…。






「――――― 奇跡か…そんなものはないよ。全ては、お前達の思いが紡いだ道だろう……。」





神がそう言って小さく笑った。







「お前…、今いくつになった?」


京司がいつもの悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、天音に尋ねた。


「…18……。」


天音が小さくつぶやいた。

そう、今日が天音の18の誕生日……。


「俺は19歳だ!」


京司がニッと得意げに笑った。

そう、それは天音が大好きな彼の笑顔……。

ずっと、ずっと会いたかった彼の笑顔だ。





「な、何やってんだ?」

「天師教討つんじゃないのかよ。」


そんな彼らのやり取りが聞こえるはずもない広場は、ざわつき始めていた。

広場に集まる彼らには、何が起こってるのかわからず、その場は騒然としていた。

せっかく、天使教を討つはずだったのに、それが中断させられたのだから無理もない。




「天音……。」


そんな、広場の様子に気が付き始めたシドが、仕方くなく彼女の名を呼び、悲し気な瞳を天音に向けた。

天音の気持ちは、痛いほどわかる……。

しかしこのまま…、このままでは、終わる事ができない……。


みなの期待がシドの背中にのしかかる。


「ごめんね……シド……。」


天音が今度はシドの方へと振り返り、小さくつぶやいた。








「……私、天師教の事好きになっちゃった!!」







そう言って、涙のたまった目で、精一杯いの笑顔をシドに向けた。

それは、今にも泣きだしそうな顔で見せた、彼女の精一杯の強がりだった。




「シド!!」

「天師教の事討つんだろう!!」


しかし、無情にも、広場の仲間達からの声がシドに投げかけられた。

みなは、待っている……。

その時を…

今か今かと…。

そう、天使教の最後を…。



「天音……、俺は……。」


その重苦しい空気を割いて、京司がゆっくりと口を開いた。

そう、京司が一番わかっていた。

自分が討たれないと、終われない…。この国は終われないんだと…。




「言ったでしょ?みんなが京司の敵になっても、私は京司の味方になるって。」




そして、またあのキラキラした笑顔を、天音は京司に向けた。


……知ってるよ。天師教は寂しがり屋で、本当は優しくて強い人だって。



「……あま……ね……。」


京司も、また涙で前が見えない。

もう、それだけで十分だ……。

だから…




「う、うてーーーーー!!天師教を殺せーーーー!!」




しかし、広場からしびれを切らした誰かが叫んだ。


もう、これ以上は待つ事はできない……。これがタイムリミット……。

時間は決して止める事はできない……。


そして再び、反乱軍が一斉に弓を構えた。



……ごめんね……。お母さん……。辰……。




♪~♪~♪


――――― その時美しい歌声が人々の鼓膜を震わせた。


♪~♪~♪



その美しい歌声に、誰1人動けなくなった。

反乱軍の面々も、まるで時が止まったように、息を飲み、彼女の歌に聞き入る。

弓を射る者など、そこには誰1人いない。

そう、そこにいるみなが、バルコニーで歌う彼女に釘付けになった。

まるで、魔法にでもかけられたかのように……。


『星羅の歌聞いたら、みんなケンカやめるよ!!』


もちろん、京司も彼女の歌に魅入られたうちの1人…。

そして、彼女は歌を終え、バルコニーの1番真ん前で、深く深くお辞儀をした。


「せ…い…ら……。」


京司は真っすぐと、自分よりも前に立つ彼女の、ピンと伸びた背筋を見つめていた。


「ほらー!拍手!!」


すると、またどこからともなくひょっこりと現れた華子が、我先にと声を張り上げ、手を叩いた。


パチパチ

すると、広場からも、まばらな拍手が聞こえてきた。


「な、なんだこれ……?」


しかし、何が起こっているのかわからず、混乱している者も多い。

確かにこの歌は素晴らしかった。

でも、それと天使教を討つ事が何の関係があるのかは、わからないまま。


「わいらも一緒に討たれななー!!」


すると、りんが大声でそう叫んで、星羅の隣に並んだ。

気が付くと、いつの間にかバルコニーには人が増えていた。


「そうね。」


星羅がチラリとリんの方を一瞥して、仕方なしに笑った。


「まったくどうしようもねぇ、バカばっかだな。」


そんな2人の方へと歩いてくる月斗は、相変わらず文句ばっかり。


「わいらも、天師教好きになってしもうた!!」


すると、りんが今度は真っ青な空に向かって、大声で叫んだ。


「りん…。」


天音が涙でぐちゃぐちゃの顔を上げて、そんな彼ら見て少し笑った。


「…。」


京司はもう声も出せない。


「天音…。」


みるかが天音の手をそっと握った。


「みるか…。」


お母さん、辰、じいちゃん、……神様……。

やっぱり私は、1人じゃないんだね…。


「さあ、もう終わりにしましょう。」


最後に、かずさがいつも通りの涼しい顔でそこに現れた。



カツカツ


「天音……。」


京司の横を、天音が通り過ぎた。

涙をぬぐい、背筋をピンと張り、その目は真っすぐ前を見ている。


…やっぱり君は……


天音は真っすぐバルコニーの前の方まで歩を進め、星羅の一歩前に立ち、足を止めた。

そして、そこにいる人々を見渡し、大きく深呼吸した。



「憎しみでこの国が変わると思いますか?」



できるだけ、ゆっくりと、そして大きな声で、天音は民衆達に語りかける。


「誰かを殺せば、悲しむ人がいる。天師教を殺せば、ここにいる私達が悲しみます。そして、また誰かを憎む……。もう、終わりにしませんか?」


みなが彼女の、1人の少女の言葉に耳を傾けた。



「憎しみ合っていた者がわかり合えないと思いますか?」


ザ―


その瞬間、この国に似つかわしくない程の冷たい風が吹き荒れた。



……ねえ、神様…。





「その人の全てを見て!!きっと分かり合える部分があるから!!」





……私達はきっと変われる……。だって思いは消えたりしないから……。





「ほらー!!拍手ーーー!!」


すると、やっぱり真っ先に華子がその緊迫した空気を切り裂くように、叫んだ。


パチパチ


まばらだった拍手が…


パチパチ

パチパチ


いつの間にか大きくなっていく。

波打つようにその音は増えていく。

いつの間にか、そこにいるみなが手を叩いていた。



弓を置いて、武器を捨て、人々は拍手をしていた。

一般の人も、反乱軍も、兵士も、関係ない……。


みなが1つになって、同じように手を叩いていた。





――――それがこの国の最後。そしてその国の始まりだった……。













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