終わり日の約束を今果たそう
かぐや姫は罪を犯して月を追い出され、地球へと降りた。
「帰りたくない…。」
彼女は多くの愛情に動かされ、月へ帰る宿命を嘆いた。
しかし、その運命に逆らう事は出来なかった。
かぐや姫を愛した帝は、かぐや姫の残した不死の薬を捨てた。
―――もう君に会う事はできないというのに……。この薬が何の役に立つというのだ……。
『お願い!!死なせてーーーーー!!』
「うわーーーーーー!!」
天音は手に握る剣で、彼を隠しているそのカーテンを滅茶苦茶に切り裂いた。
今の彼女からは、何もかもを滅茶苦茶にしかねない、そんな狂気しか感じられない…。
「「天音!!」」
天音を追いかけそこにたどり着いた、りんと星羅と月斗がその光景を前に一斉に叫んだ。
天音は、ビリビリに切り裂かれたカーテンの隙間から見えるその男に睨みをきかせ、今にも剣を切りつける勢いだ。
それを何とか止めようと、彼らは必死に声を振り絞った。
そんな事を天音にさせてはいけない…。
この声が天音に届いて欲しいと…。
…それはまるで、スローモーションのようだった。
何もかもがゆっくりと流れていく……。
天音が、ゆっくりと前へ足を進める。
…そうだこれで終われる……。
「やめてーーーーー!!」
それは初めて聞いた、彼女の悲痛な叫びだった。
感情を出す事をやめたはずの、彼女の必死の訴えだった。
「やめて!!天音!!」
天音の持った剣の先が、かずさの顔の前でピタリと止まった。
かずさは、天音が向かって行くよりも早くその男の前に立ちふさがり、両手を広げてそれを阻止しようとしていた。
「…。」
その瞬間、天音の動きがピタリと止まった。
まるで、ネジが切れてしまったブリキの人形のように。
――― 何のためにここまで来た?
「バカか目を覚ませ!!」
月斗も、今まで聞いた事のないくらいの必死な声で叫ぶ。
「天音!!」
星羅も枯れそうなほど、声を絞り彼女の名を呼ぶ。
「やめるんや!!天音!!」
りんも天音を止めようとする一心で、叫び声を上げる。
「あ…ま…ね……。」
みるかも心配そうな声を出し、天音を見ている。
「天音。やめて……。彼を殺すなら、私を殺して!!」
そして、かずさがもう一度叫んだ。
この部屋中に響き渡るほどの大きな声で…。
「…。」
……私は…。
「いいんだ。かずさ。これで全て終わる。」
かずさの背中から、あの声が聞こえた。
「何を言ってるの!!」
「これが私と天音の約束だから。」
男は、その場には似つかわしくない、落ち着いた声でそっとつぶやいた。
「天音、お前を生かしたのは、誰かに私の気持ちをわかって欲しかった。誰かに傍にいて欲しかったからだ。」
「…どうして……神様……。」
天音は、かずさの後ろに立つ彼に向かって、その言葉を投げかけた。
そしてその瞬間、天音の頬に涙がつたった。それは、もう枯れたはずの、出るはずのない涙。
「すまなかった…。」
彼が天音に向かって頭を下げた。
天音の目からは、タガが外れたかのように、とめどなく涙が溢れ止まることはない。
「私はいつでも独り、孤独だった……。私の愛する地球。人間達。しかし、人間は私を裏切った……。美しい地球が汚れていく事に、私は我慢できなかった。
だから、誰かに壊される前に、私が作ったモノは私の手で終わらせよう。そう思った…。
そして、あの日…2000年最後の日、私はこの地球を終わらせる事にした。」
神と呼ばれるその男が、ゆっくりと話し出した。
☆
「雪だ……。」
…そうあの日。地球最後の日…。確かに私は雪を見た。
それは夢なんかじゃない。
でも……。
――― その日地球は滅びた
儚く舞い散る雪に、天音は釘付けになっていた。
ドーン!!
その時、大きな何かが地面に落ち、爆音とともに地響きが起こり、地面が割れた。
――― そこに彼の姿はもうない。
「天音ーーー!!」
何が起こったのかわからず、その場にしゃがみ込む天音の手を、力強く誰かが引っ張った。
その手の痛みに、天音は顔を上げた。
「お父さん……?」
彼女の手を取っていたのは、天音のよく知る顔。天音の父親だった。
しかし、そこにあるのは、いつもの優しく微笑む父の顔ではなかった。
必死な形相の彼の顔に、天音はますますパニックに陥るばかりだ。
…一体何が起こっているの?
周りから聞こえる恐怖の声、悲鳴…。
それに耐えられる人間など、いるのだろうか…?
「天音!!立つんだ!!」
そう言って、父は天音を立たせて、天音を家まで引っ張って連れて行く。
天音の家までは、この公園からは数分の所だ。
何とか瓦礫を払いのけながら、父は天音を連れ家へと走った。
「……おと…うさ…ん……。一体…何が…?」
幸い、天音の家は、まだそんなにも被害がない。
しかし、今も大きな塊は降り続け、この地を壊し続けていた。
父は、怯え狂う天音の問いに答える事はなく、ただただ、強く手を引くだけ。
そして父は、自室のある地下室へと天音を連れてきて…。
ドン
彼が天音の背を強く押した。
よろめいた天音は、そこに立てかけてあった棺のような長細い四角い箱へと足を踏み入れた。
シュー バタン
その扉は、天音が瞬きをする一瞬のうちに、閉ざされた。
―――― お父さんは私を閉じ込めた。
「天音の父は科学者だった。彼は密かに、1人用のシェルターを開発した。それは、どんな災害にも、どんな衝撃にも、耐えられるもの。そして、そのシェルターの中に入れば、永遠に生き続ける。栄養を摂取しなくても、年を取る事もなく生き続けられる。そんなありえない代物を、彼は作り出してしまった。彼は、私の力を超えた。科学が神の力を超えたんだ。」
「ナ……。」
りんが、その男から発っせられた信じられない話に、目を大きく見開いた。
彼が驚くのも無理はない。
それは、遥か気の遠くなるような昔の話。
2000年の最後の日、この地球は滅んだ。
そして、それを実行したのは自分だと彼は話す。
「あの日私は、この地球を、人類を滅ぼすために、地球に隕石を落とした。」
「隕石で……この世が……滅んだ…?」
星羅が、信じられないという目を彼に向けた。
もちろん星羅も、この地球が一度滅んでいるという話は、士導長の授業で学んでいた。
しかし、その原因は分からないままであったはず…。
「天音の父親は、天音1人をシェルターに閉じ込めた…。」
☆
『お父さん!!!行かないで―!!』
天音がシェルターの中からいくら泣き叫んでも、父は一度もこちらを振り向く事なく、その場を去った。
天音1人を残して…。
ーーーそしてこの地球には、天音1人が生き残った。
『お願い!!!死なせて!!!』
いくら、叫んだところで、その願いは叶うはずもない。
叶えてくれるヒトも、おそらくもうここには居ない。
シェルターに閉じ込められて、どの位の時間が経ったのだろう。
外から聞こえる大きな音の恐怖に、もう精神は崩壊寸前。
天音の家は大破し、地下にあるこの部屋は瓦礫に覆われて、天音のいるシェルターからも、外の様子を伺う事は出来ない。
『どうやら、君1人が生き残ったようだ。』
その声は、ふいに、天音の耳へと届いた。
誰か、自分でない誰がそこにいる…。
天音は、そんな一抹の希望を抱き、顔を上げた。
『お父さんは……、みんなは……?』
天音が、枯れ果てたはずの声を、何とか絞り出した。
しかし、自分ではない誰かの姿は見えず、その声がどこから聞こえてきているのかも、ましてや、自分の声がその誰かに届いているのかも、分からない。
ピカー
その瞬間、まるで雷のような閃光が走り、天音は思わず目をつむった。
そして、また瞼をゆっくり押し上げると、今までシェルターを押しつぶしていた瓦礫は、嘘のように消え失せた。
天音のいるシェルターの入り口の扉は、半透明で窓のようになっていて、外の様子を伺える。
天音は扉に張り付いて、その信じられない光景に、思わず息を飲む。
ほとんどの建物は大破し、残っているのは骨組みだけ。もちろん天音の家も跡形もなく崩れ落ちていた。
『人類は滅亡した。』
すると、あの声が、また天音の耳に届く。
『え……?』
その誰かは、信じられない言葉を天音に投げかけた。
……何を言っているの?
もちろんそんな言葉を、誰が信じるというのだろうか。
人類滅亡…?そんなのは、映画の中だけの話。
…そうだ、これは夢…。
『夢ではない。地球は滅びた。隕石によって。』
その声は、まるで天音の心の声を汲み取ったように、その事実を冷静に説明する。
『そんな……冗談でしょ……。』
誰だって、そんなありえない事を簡単に言葉で言われただけじゃ、信じられるわけはない。だって、こんなありえない光景を目の前にしても、人はその事実を受け入れられはしないのだから…。
『…もう誰もこの世にはいない。』
ピカーー!!
その瞬間、再び眩い光が天音のシェルターを包み、天音はそのまぶしさに、腕で顔を覆う。
『見てみろ。』
その声が天音の耳にまた届き、天音は目をゆっくりと開ける。
…ああ、やっぱりこれは全部夢…。
目を開ければ、そこは自分の家の自分の部屋のベッドの上。
そうだ。それはよくある漫画のパターン。
なんて、うまい話ではなかった。
天音の目の前には、またもやあり得ない光景が広がっていた。
天音のシェルターの周りに広がるのは、今までの大破した瓦礫の山ではなく、何も物がない、真っ暗な空間。そんな空間に、シェルターだけがフワフワ浮いている。そんな摩訶不思議な光景に、天音は目を白黒させる事しか出来ない。
そして、天音のシェルターから見えるのは、濁った青の丸い玉。
どこかで見覚えがあるはずのその青い玉は、天音のよく知る美しい青とは違うもの。
そう、それはかつて、初めて宇宙に行った彼が、こう言ったと言われる代物。
“地球は青かった。”
『これが今の地球だ。』
天音は、先程よりもはっきりと聞こえたその声の方へ、首を傾けた。
そこには、人の形をした者が、この空間にフワフワ浮きながら、その言葉を発している。
しかし、天音の常識では、それはあり得ない事。
これが本当に地球ならば、ここは宇宙と呼ばれる空間。
その空間に、宇宙服を着ない生身の人間がいる事なんて、あり得ない。
『クッ…。』
あり得ない分からない事ばかりで、天音は言葉も出ない。
何とか状況を把握しようと努めるが、脳は思うようには動いてはくれない。
『全ての大陸は崩壊した。この地球に生き残った人類はいない。』
その男は、目の前にある地球に目を向けたまま、尚も淡々と話し続ける。
確かに、そこにあるモノが本当に地球だと言うのなら、その球体の中には、天音のよく知る世界地図で見た大陸があるはずだ。
だがそれはなく、ただあるのは、灰色の転々とした島のようなモノばかり。
『これが、今の日本。』
彼が手をかざすと、引っ張られるように地球が彼の手の方へと吸い込まれるように、近づいた。
それは、彼が地球に近づいて行ったのか、それとも地球が彼の元へと近づいていったのかはわからない。
しかし、天音の目の前に見えるその地球にあるのは、やはり転々バラバラの島。
でも、天音にはわかった。形は崩れているが、確かにあの日本の形を連想する事ができる。
……そんなはずない…。
『っだって!!あなたは……?』
天音はシェルターのガラスを叩いて、そこにフワフワ浮いているその男の方へと視線を送る。
『私は人間ではない。お前達が言うところの神だ。』
『か……み………?』
…何を馬鹿げた事を……。
なんでそんなおかしな事ばかり言うのか。天音には全く理解が出来ない。
今、目の前に映るソレが神だんて、誰が信じるというのだろうか?
神様なんて、誰も見た事のないただの空想上のモノでしかないはずだ。
天音の常識が必死に、そう訴えている。
『お前が見ている今の私は、精神体。お前達人間の肉体とは違う。いわば魂のようなものだ。』
…そんな説明で簡単に納得するとでも?
震える天音の瞳が、自分を神だという彼を睨みつける。
『だったら……。ここから出して……。』
そして、天音が今までにない低い声を出し、ボソリとつぶやいた。
もうこれ以上、わけのわからない話を続けても無駄。
『ああ。そうか。このシェルターの設計は、中からは開けられないようだからな…。』
神と呼ばれるその男は、当たり前のようにそう言って、首を少し傾けた。
そう、このシェルターは、中からは開けられないようになっているらしいが、外からは頑丈なレバーがあり、それを壊せば開ける事は可能のようだ。
『ここから、出して!!みんな死んだんなら、私も殺してよ!!』
天音が鬼の形相で、ガラスを叩きながら、叫んだ。
人類が滅んだというなら、自分も死んでしまえばそれで終わる…。
――― それで全てオワル
『…私にはできない…。』
『は?』
大きく見開いた天音の目からは、涙が零れ落ちた。
『お前は生き残れ。』
その男は、神と名乗るその男は、信じられない事を口にした。
…何を言ってるの?あんたバカ?
『……。』
天音が言葉を失うのも無理はない。
この男の言葉を全く理解できない。
いや、神には言葉も通じない?
…もう、やめてよ……。こんな無駄なやり取り。こんな時間はいらない…。
…早く楽にして……。
…もう何も考えたくなんてない……!!
『何、言ってんのよ!!あんたが神だって言うなら、あんたが殺したんでしょ!!人間を、この地球を壊したんでしょ!!だったら、私も殺せばいいでしょ!!』
天音は手が腫れ上がり、血が出るまで何度もシェルターの扉を叩いた。
声が枯れるまで叫び続けた。
血がにじむほど、唇を噛みしめた。
体も心もボロボロになった。
……これは悪夢だ…。いつか覚める悪夢…。
そんなやりとりが何日も続いた。
しかし、神は決してそのシェルターを開ける事はしなかった。
そして、天音は何もかも諦めた。
『しなせて……。大切な人がいない…この世界で……生きてる意味なんて……ない。』
――――人が壊れるのは簡単………。
ある時から、天音は、うんともすんとも言わなくなった。
生きているかも、死んでいるかもわからない。
いや、このシェルターの中にいる限り、自然治癒能力も高まる。
そして、もちろん心臓は止まる事はない。
だが、彼女は、もう一切言葉を発する事もなく、感情も失った。
神は、そんな天音をそばに置いた。全てを失い壊れた彼女を…。
神と天音は、この地球が見える、人が宇宙と呼んでいた何もない、ただただ無限に続く空間に漂い続けた。そして、神の日課は、そこにある地球を眺める事だけ。
『人間は滅んだが、地球はまだ生きている…。また再生し始めた…。私の愛する地球は、もう一度自分で再生し始めた。』
そして、その答えが返ってくることはないと知っていたが、神は天音に話しかけ続けた。
『水、空気、が生まれ、少しの緑が芽吹いた。そう、これが私の愛した美しい地球。
この星は美しい……。そう思わないか?天音?』
もちろん今日も天音からの返答はない。それでも神は天音に話しかける事を止めない。
彼女は生きているのか、それとも死んでいるのか。
人間の生きる意味とは……?
彼は、決して天音を手放す事はしなかった。
だって……独りはさみしい……。
『天音……見ろ。山が噴火した。』
…誰かに聞いてほしかった。
『…。』
…もちろん彼女は何も言わない。
『風が砂を運んでいる…。』
…誰かに傍に居て欲しかった。
―――― 誰かに私の気持ちをわかって欲しかった。例え、それが私のわがままだとしても…。
そして、その日も、神は一方的に天音に話しかけるだけだった。
『天音。地球は美しい。なのに、人間はなぜこの地球を汚すのだ…?それこそ人間のエゴだ。』
『…。』
もちろん天音から、その答えなど返ってくるはずもない。
『私も同じか……。』
神がポツリと小さくつぶやいた。
自分でも本当はわかっていた。
天音1人をこうやってそばに置いているのも、全て自分のエゴ。
『…。』
やはり、それでも彼女からの返事はない。
『見ろ天音。雪だ。雪が降っている……。』
そして、神はまたいつもと同じように、何の気なしにそこから見える地球の様子を口にした。
返答など彼女からあるはずなどないのに……。
『え……?』
その時、天音が小さく声を発した。
神は、まさかと思い、天音の方へと視線を投げかけた。
その声は、確かに天音から発せられた声に違いない。
…それは、一体いつぶりに聞いたヒトの声だろう……。
天音がシェルターに張り付いて、ガラス玉のような地球を食い入る様に見つめていた。
しかし、天音の人並みの視力では、地球に降る雪など見えるはずはなかった。
それは、神の持つ千里眼だからこそ見えるもの。
『……。』
天音のその目に、涙がみるみるうちに溜まっていく。
もう枯れ果てたと思っていた涙が、体の内から沸き出て行く。
それを止める術を、彼女は知らない…。
『あま…ね……。』
神は、彼女の止めどなく流れる涙を、じっと見つめている。
『あい……た……い………。』
すると、天音がまた言葉を発した。
――――― アイタイと…。
彼女が発した言葉は、雪を見たいだとか、神への文句だとか、そんな言葉ではなかった。
ただ、ただ、会いたいと…。
……そうか人は、1人では生きる意味がないのか……。
神はやっと理解したのだった。
人もまた1人では生きられないのだと…。
『天音……。時を戻そう……。』
そして、神はその天音の言葉を聞いて、決意を新たにした。
『もう一度作ろう。人間の住む地球を。』
『…。』
彼は決めた。この地球に、再び人間を作る事を決めた。
しかし、天音の涙はとめどなく流れるばかりで、その返事は返ってはこない。
『人間が神を信じる世界を……。』
…もう一度…。もう一度だけ信じよう……。
『だから、お前は眠りなさい……時が来るまで……。』
『…。』
天音がチラリと少しだけ、神の方を見た。
『だが、また人間が私を裏切った時……私を信じなくなったときは……。また、この世を終わらせる。私の手で……。』
彼にもわかっていた。それはエゴを押し付けているだけだと。
でも…。
『…。』
天音のその目からは、何の感情も読み取れない。
『もし、私がそれを果たせない時は……。その時は、お前が終わらせるんだ。天音。』
…自分でも分からなかった。なぜ、天音にそんな事を言っているのか……。
いや、ただ繋がりが欲しかった。ただ、それだけだった……。
もちろん、天音は何も答えはしない。
しかし、何を言っているのか全く理解できない…。
そんな天音の目は神へと向けられていた。
『人間は私を超えていく……。お前の父親のように……。私とて万全ではない。失敗することもある。もし、私がその役目を果たせない時は、天音、お前がこの世を終わらせてくれ。いや、お前が選んでいい……。未来を……。』
…未来を選ぶ?
『お前の見た世界がどんなものか、お前が判断しろ。』
…私が……?
『この世を終わらせるか、それとも……。』
…まぶたが重い……。
『ゆっくりお眠り……。天音……。』
そうして神は、シェルターから天音を出す事なく、永い眠りにつかせた。
☆
「私は自身が天師教と名乗り、この世をまとめた。そして私を、神を信じる世界を再び作った。」
神と名乗る男が、ゆっくりとその目を伏せた。
「あんたが、初代天師教……。」
りんが、あり得ないといった目で、その男を見た。
何もかもあり得ない。いや、あってはいけないその話に、驚愕を隠せるわけもない。
「そして私は、もう大丈夫だと思った時、後継者となる人間を選び、その者にこの地球国を託した。そして、その時のために、私の力の一部を宿した石を彼に与えた。」
彼は独特のゆっくりとした話し方で、続けた。
「その時…。」
今度は星羅が言葉をもらした。
そう、その時とは…まさに今……。
それは、そこにいる誰もが悟っていた。
「しかし、人間は愚かだ。いつしか、その石の力があれば何でも願いが叶う。などという、迷信まで生まれた。そして、人々は石を奪い合い、争いが起こるようになった。だから、私は石を砕いて7つに分裂させ、その石を隠す事にした。」
神は、石の成り立ちについても説明し始めた。
彼は、争いの火種となったその石を砕き、簡単にはそれを手にする事が出来ないようにしたのだ。
「その石でピアスを作り、私が信頼する7人の者へと渡した。その者は兵士だったり、占い師、農民、学者。様々な者へと託した。そして今、多くの人々の手から巡り巡って、お前達のもとにやってきた。」
石は、時を超えて、人の手を巡り、今ここに集まった。
そう、それは全て今日この日のため。
「つまり、わいらのつけているピアスが奇跡の石ってわけやな…。」
りんは、やっとその真実へとたどり着き、納得の表情をみせた。
「ああ。ピアスを持つものを使教徒と名付け、彼らが全て集まった時、石は復活をとげる。そんな言い伝えも、人から人への繋がれていった。しかし、使教徒が集まり、石が再びそこに集まったとしても、その石の力を使える人間はただ1人。」
そう、普通の人間が石を手にしたからといって、その力を使う事は出来ないというのが、本当の真実。
その石を奪い合った所で、それは何の意味もない。
その石の力を使う事が出来るのは、彼が認めた人間のみ。
「その石の力を使えるのは、私が認めた天音1人だ。」
そう言って、神は自分へと剣を向け続ける天音へと視線を移した。
―――君だけが特別。
そう、彼女こそ神に選ばれし伝説の少女。
「そういう…事かいな…。」
りんが、ふぅとため息を吐いて、頷いてみせた。
「私の魂は、今この時のために人間の体を借り、この場に存在している。しかし、この人間の姿では、私は神としての力を使う事ができない。だから、青の力が、彼の肉体という名の器が必要だった。彼の体は私の神の力にも対応できる特別な肉体だから。でも、それも失敗に終わった…。」
「……くっ…。」
月斗が奥歯を噛み締めた。
「やはり、人間は私の想像を超えていった。天師教を、神を信じる世を作ったはずなのに……。人間はそれに反発し始めた。」
神は寂しげな視線を、そこにいる人間達に向けた。
人々は気がついた。天使教の支配は、この国には必要のないものだと。
そう、この国に反発する者が現れたのは、自然の流れ。
「……。」
天音はやはり下を向いたまま、顔を上げる事はない。
「そして、私はその日のために、永い眠りから天音は目覚めさせ、シェルターから出した。」
☆
『天音…起きるんだ……。』
『……。』
ゆっくりと目を開けた天音からは、当たり前のように、何の返答もない。
しかし、まだ天音の記憶は、あの時のまま。
眠りについたあの日から、何も変わってはいない。
『時間だ。もう一度行くといい。私の力で、お前を赤ん坊に戻す。そして、もう一度生きるといい。新しい世界で。』
『…新しい…世界……?』
天音は朦朧とする頭を何とか働かせ、思い出したかのように、言葉を発した。
『心配するな。お前の記憶は消しておく。ゼロから見るんだ。お前の目で。』
『…。』
『しかし、お前はこの時代の人間じゃない。タイムリミットを設けている。その時間の中で決めるんだ。この世を終わらせるかどうか。』
『私が決める……?』
『ああ。お前が18歳になった時、今のお前の年齢に成長した時。それがタイムリミットだ。』
『…。』
『行っておいで。』
神は、まるで愛しい我が子を見送るように、その言葉を最後に天音にかけ、赤ん坊の姿へと変化した天音をそっと抱いた。
☆
「そして、天音を0歳の赤ん坊の姿に戻し、マリアという女性に託した。」
「それが、ジャンヌ。」
りんがすかさず、その名を口にした。りんは以前に、ジャンヌの本名をかずさに聞いていたため、すぐにピンときた。
「ああ。彼女が不遇な道を歩む事は、決められていた運命。私にはわかっていた。だからこそ、そんな彼女を見て、天音が何を思うか試したかった。だからマリアには、私から全てを話し、天音を育てるように頼んだ。」
「なるほどな、ジャンヌは、ほんまに神と話したっちゅうわけか。」
ジャンヌは神のお告げを聞いていた。という話はまんざらウソではないようだ。
「そして、石を守るために、使教徒には己を守る力を渡した。」
そう、使教徒には特別な力が備わっていた。それは神が与えたもの。
「そういえば、わいの力ってなんなんや?」
りんは自分でも気がついていなかった、その力について神に尋ねた。
「りん。お前は、人より勘がいい。その勘の良さが、お前の身を知らずの間に守っていた。」
「へー。そうやったんか。」
はじめは嫌悪感を露わにしていたりんも、今ではまるで知り合いかのように、神と普通に話している。
やはりその人懐っこさも、彼の優れた能力といえる。
「月斗には怪力の力、星羅には星占いの力、みるかには破壊の力、華子には瞬間移動の力、かずさには未来を預言する力を。」
「…。」
神のその言葉に、かずさが静かにうつむいた。
「かずさには、私の手となり、足となり動いてもらっていた。」
そう、かずさは彼のそばにいて、彼の指示通りに動いていた。
かずさの後ろについていた黒幕は、神だったのだ。
「かずさを使い、この国の重鎮達を従わせ、そして、使教徒達に接触させた。全ては今日のために。」
天音の目の前に立つかずさのその悲し気な目は、まだ伏せられたまま。
「天音。私を殺したければ、殺せばいい。私は今は人間の姿でここに存在している。大した力も持たない。今のお前なら、石の力を使い私の魂を消し去る事も出来るはずだ。」
「でも神がいなくなったら、この世はどうなるんや?」
その疑問を、躊躇なくりんは、神に投げかけた。
神がいなくなった後は、神が作ったという、この地球や人間はどうなってしまうのか…。
それは当然の疑問。
「別にこの地球や、人間には何の影響もない。私は人間を作っただけ。そんな人間に少しばかり干渉してきただけ。
私がいなくなった所で、人間に干渉するものがいなくなっただけで、お前達は何ら変わりない。ただ…。」
「道しるべがなくなるだけ……。」
その先の言葉を言ってみせたのは、かずさだった。
その瞳は、真っすぐと前を見据えていた。
「天音私を殺せばいい。お前は私が憎いのだろう……。」
「……。」
カラーン
すると、その時、天音の手から、強く握られていたはずの剣が抜け落ち、剣は音を立てて床へと転がった。
「天音……。」
かずさは真っ直ぐと目の前の彼女を見ている。
「天音。剣は必要ない。石の力を使い、私を殺せ。お前はもう分かったのだろう…?」
「あなたには、分からないの?」
天音は、そこで初めて顔を上げ、神の顔を真っ直ぐに見上げ、彼に言葉を投げかけた。
「今まで散々好き勝手にしてきて、都合が悪くなったら自分を殺せ?冗談じゃない!!」
そこには、さっきまでの、ただ怒りにまかせ剣を握っていた彼女はもういない。
凛とした真っ直ぐな目が、彼を捉えていた。
「天音…。」
「あなたが死んだら、悲しむ人がいるんだよ。」
神は、さっきまでとはうって変わった、天音のその真っ直ぐな瞳を、驚きの表情で見つめていた。
「…私には…そんな人は…。」
「あんたバカ!?かずさが悲しむんだよ!!」
これでもか、というくらいの天音の大声が、部屋中に響き渡った。
「天音……。」
ポタ
その瞬間、かずさの目から一粒の涙が頬を伝った。
それは天音が初めて見た、彼女の涙。
「神様なら人の心くらいわかるでしょ!!かずさは何のためにずっとそばにいたの!何のためにこうやって必死にあなたの前に立ち、あなたを庇ってると思ってるの!!」
天音は堰を切ったように叫び続けた。
何にもわかっていないこの神様に、天音が腹を立ててしまうのも、無理はない。
「天音…。それくらいにしてやりーな。」
見かねたりんが、天音に近づいて苦笑いを浮かべながら、彼女の肩に手を置いた。
このまま放っておいたら、この説教はおそらく何時間も続くこととなろう。
天音の気持ちはわかるが、それではさすがに、かずさがかわいそうだ。
かずさの閉じ込めてきたはずのその気持ちが、何時間もさらされ続けるのは、いたたまれない。
「だって!!」
「天音。」
すると、かずさが飛びつくように、天音に抱きついた。
「もういい。」
かずさが首を横に振った。
「死ぬなんて、殺せなんて言わないで……。」
しかし、天音はそれでも止めようとはしなかった。
「天音…。」
「確かに憎いよ……。あなたの事……。でも……あなたは、なんで使教徒を私に集めさせたの?」
「…。」
「あなたは、私に使教徒を集めさせた…。石をわざわざ、あなたの嫌いな人間に預けた。なんでそんな回りくどい事したの?」
「確かにそやなー。もっと簡単に終わらせる方法は、いくらでもあったはずやな。」
天音は気づいた…。
全ては仕組まれた事。神が画策した事。
「それは、私に仲間を作ってくれたんでしょ?」
天音は真っ直ぐな瞳で、彼をじっと見つめた。
そしてかずさは黙って天音から離れ、彼女のその強い瞳に釘付けになった。
「そして、お母さんを亡くした私に、あの村を作ってくれた。そうでしょ…おじさん……。」
「……ああ。」
天音は、神のその顔をしっかりと見つめ、彼の事を慣れ親しんだその呼び名で呼んだ。
そう、そこにある彼の顔は、天音のよく知る顔だった。
それは、村にいた頃、仲良くしていたリュウのお父さんの顔だった…。
神は彼の体を借り、あの村で天音を見守っていた。
「あの村は、色々な場所から人を寄せ集め、私が作った。お前のためだけに……。」
天音は全てを悟っていた。
あの村は、天音が赤ん坊の頃から預けられていたわけではなく、母を亡くし、1人になった天音のために神が作った村だった。
天音を1人にするわけには、いかなかった。
それは、神なりの罪滅ぼしなのかもしれないれない。
そして天音は、あの村で赤ん坊の頃から育ってきたのだと言い聞かせられてきたため、彼女の記憶は、いつの間にかすり替わっていた。
それは、母を亡くした辛い記憶を封印するために…。
村人達も全て知っていた。輝夜村は天音のために作られた村なのだと。
そして、この村は、いつかは無くなるのだという事も。
「お前が村を出て行った後、あの村は必要なくなった。だから、村人達には別の所へ、それぞれが戻るべき場所へと移ってもらった。」
「……じいちゃんは……?」
天音は恐る恐る彼に尋ねた。
「…彼は亡くなった。」
「……。」
「病に倒れたんだ。実は、腰が悪いだけではなかった。もう長くはなかったんだ。」
「……。」
天音は何となく予感していた。
りん程の勘の良さは持ち合わせてはいないものの、最後に会ったあの時、もう最後なんじゃないか…。
なぜか、そう感じていた。
「すまない……。お前にはどうしても言うなと、口止めされた。お前はもう1人じゃないから、大丈夫だと。」
「……じいちゃんに、ありがとうって言いたかった。また会えると思ってたから、あんな風に村を出てきちゃった…。」
『私出てくよ!!』
強引に村を出て行ってしまった事は、天音の心残りだった。
もっと、ちゃんと伝えたかった…。ありがとう…を。
それでもじいちゃんは、何も言わず、ただ微笑んで送り出してくれた。
「彼は全てを知ってた。お前が自分で選んで村を出る事も、この国を見るためにここへ来る事も。」
じいちゃんは知っていた。
天音がいつかは、村を出て行く日が来る事を…。
それでも…
「……それでも私を育ててくれたんだね。」
ずっと愛情を注ぎ、天音を育ててくれていた。
自分の死を悟り、それでも何も言わず…。
ポタ
天音の目から一筋の涙が頬をつたう。
「すまない……。」
「…もういいよ……。」
天音が神に、一歩また一歩、ゆっくりと歩み寄った。
「だってあなたは、会わせてくれたんだから………。」
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バタン
天師教の間の扉が再び開いた。
カツカツ
そして、その足音がゆっくりと京司の方へ向かってきた。
「天師教。」
シドが、椅子に腰掛ける京司の前で足を止め、目の前にいる彼を呼んだ。
この天師教の間に足を踏み入れたのは、シド1人だった。
天師教の間の前では、何人かの反乱軍の仲間達が固唾を呑んで見守っている。
反乱軍は兵士達をなんとか説得し、この城に入る事ができた。
そしてシドは言った。自分が天師教に話をつけると。
自分1人で行かせて欲しいと。
「あ、ちょっと、待って。」
すると、京司の座る椅子の陰から、華子がひょっこり顔を出した。
この場に及んでも華子はやっぱり華子で、空気の読めないスキルをここでも発揮させる。
「妃…?」
そんな真剣勝負を挑もうとしているシドが、2人の間に割って入ってきた華子を見て、怪訝な表情を見せるのも無理はない。
しかし、どこまでも優しいシドは、華子の言葉に耳を傾けた。
「最後にコイツに言っとかなきゃ。」
すると華子は、シドを押しのけて、京司の前に仁王立ちになった。
「私、妃やめるから!!」
華子がこれでもかと京司に顔を近づけて、その言葉を言い放った。
「…。」
京司は華子のその発言に声も出ず、鳩が豆鉄砲をくらったような顔で、固まった。
もちろんそれはシドも同じ…。
…最後の最後で、何言ってんだこのバカ女。
そして、京司の頭に浮かんだその言葉は、やっぱり自分の胸に押さえ込んだ。
「言ったでしょ?私を迎えに来てくれる王子様、待ってるって。」
すると、華子はポカンと口を開けたままの京司に構う事なく、得意げにそう言って見せた。
「迎えが来たから、私はこの城出てく!」
「は?」
京司は、ますますわけのわからない華子の言葉に、眉にシワをよせた。
華子には、この国が終わるとか、天師教が殺されるとかはどうでもいいらしく、ただただ迎えが来たから出て行くと繰り返すのみ。
「私の王子様は天音だから。」
…だから、コイツは何言ってんだ?
やっぱり最後の最後まで、京司には華子という人間を理解する事は、無理だったようだ。
華子と今後結婚するような人が、もし万が一現れた場合は、取扱説明書を渡すべきだ。
てか、なんでコイツが妃なんかになれたんだ!?
などと、どうでもいい事に考えを巡らせていた。
「――― 天音が終わらせてくれたから、私は行くよ。」
「…。」
「だから、私は次の楽しみ見つけなきゃ!!」
そう言って華子は、くるりと身軽に体を翻し長い髪をなびかせ、京司に背を向けた。
「…仕方ないから、天音は譲るよ。」
彼女のその表情は、もう京司からは見えない。
「バーカ。」
京司が最後に、いつものその一言を、華子の背中へと投げかけた。
しかし華子は、今回はその言葉に文句を言うことなく、その場から黙って去って行った。
「…なんで、リーダー1人だけなんだ?」
京司はシドの方へと視線を戻し、その疑問を問いかける。
てっきり、ここへ反乱軍が押し寄せ、自分は殺されるのだとばかり思っていた京司は、思わず拍子抜けしてしまった。
ちゃんと、それなりの心構えもしていたつもりだったのに…。
「…お前の考えなんてお見通しだよ。…お前は抵抗などしない。逃げたりなんかしない。」
「……。」
なぜかシドが口元に笑みを浮かべて、そう言った。
……こういう奴が次の時代を作るわけか…。
京司は黙って俯いた。
やっぱり、彼はリーダーにふさわしい人間だという事を改めて感じさせられた。
それは、今までも何度も感じていた。
彼は自分とは違う…。
「あの花火大会、ここの金を使うためだろう?」
「ああ。この城にある、不要な金だからな。」
もちろんその意図も、シドはちゃんと理解していた。
京司が花火大会を企画したのは、ここにある不要なお金を全て使わせるため。
「そして、天師教を恨ませるためにわざと…。」
「天師教は憎まれなきゃ、意味ねぇんだよ。」
京司もまた、全てを終わらせるために、動いていたのだった。
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「天音。」
天音の背後から、今までそこに居なかったはずの彼女の声が聞こえ、思わず振り返った。
「…華子?」
そこに居たのは、いつも通りの笑顔をふりまく華子の姿。
いつの間にかそこに現れた彼女の姿に、みなが一斉にそちらの方へと視線を送った。
「私の瞬間移動の能力って、使えるようで、使えないんだよねー。神様。もっといいのなかったの?」
華子は、そこにいる神と呼ばれる彼に向かって、当たり前のように話しかけている。
今までの話を華子は聞いていなかったにもかかわらず、華子は神の存在を知っていた。
いや、おそらく華子は全てを知っていたのだ。
しかし、それでも彼女の態度は、全く変わる事はない。
「…。」
もちろん華子の問いに、神は何も答えようとはしなかった。
そう言われても、なんと答えていいのやら…。
そこに居るみなが、そう思って苦笑いを浮かべていた。
「…行くんでしょ?」
しょうがなく華子は、その話題は一旦脇に置いておく事にし、また天音へと言葉を投げかけた。
「…。」
しかし、華子の問いに天音は何かを思案している様子のまま、口をつぐんだまま。
「天音…わい言ったよな?」
すると、そんな天音を見かねたりんが口を開いた。
「天音なら、アイツ救えるとちゃうか?」
いつもの優しいりんの眼差しに、天音は思わず下を向いた。
…りん違うよ。私には救う事なんてできない…。
天音は迷っていた。どうしたらよいのか…。どうしたらみんなが幸せになれるのか…。
「天音。アイツには、ちゃんと言わないと伝わらないわよ。」
すると星羅もいつものように、仕方ないわねー、とお母さん風を吹かし、その言葉を天音に投げかける。
アイツとは幼馴染の星羅が、世話を焼かないわけにはいられない。
「約束したんでしょ……。」
そして、かずさが涙を拭った真っ直ぐな目で、天音を見つめている。
「ねえ、神様。人間はバカだよ。だから何度も間違える。失敗もする。でも、あなたと同じ寂しがり屋で、1人じゃ生きられない。」
「ああ。」
天音はゆっくりと言葉を紡ぎ出し、彼に向かって語りかける。
「でも、あなたを信じてないわけじゃないよ。人間は1人じゃない。だから、みんなで彼らの力でこの国を作っていけるんだよ。彼らは、あなたの大好きな地球をちゃんと守ってくれるよ。だから、今度はあなたが信じる番だよ。」
「それがお前の答えだな。」
神もまた、真っ直ぐな天音の目を見つめていた。
「彼らは、あなたと同じでとっても優しい心を持ってるよ。だって、優しい目をしてる。あなたと同じ。」
「…わかった。」
そして、神は大きく頷いた。
「あなたの信じる人間は、あなたと同じなんだよ。」




