表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/39

神のいない国



「早く会った方がいいんじゃない?」

「え?」


星羅が城の中を何気なく、歩いていた時だった。突然背後から話かけられ、思わずその声に振り向いた。


「早く会った方がいいんじゃない?天師…京司に…。」


そこには、今日も無表情の、かずさが立っていた。


「またあなた。」


城の中で当たり前のように現れる彼女は、一体何者なのか…。

星羅も、彼女の怪しげなその素性を、考えずにはいられなかった。


「このご時世、いつ殺されるかわからないわよ。」


かずさはそんな不吉な事を、サラリと顔色一つ変えず、言ってみせた。


「反乱の事?」


星羅もまた、落ち着いた様子で、かずさの言わんとしてる事を理解していた。

反乱軍がこの町にくれば、ここはどうなるかわからない。


「ま、また反乱討伐の兵が明日出るけど。」


かずさは、どうでもいいと言わんばかりに、星羅から視線を外した。


「よく知ってるのね。」


そんな情報を知っている彼女が、この国に何かしら関わりがあるのは確か。


「それともあなたは、この国を変えたい?天師教を救いたい?」


かずさは、星羅の挑発はスルーし、その問いを投げかけた。


いつか来るその日のために…。


「…どういう意味?」


星羅は眉をひそめた。


「ま、天音があの様子じゃどちらも無理ね。」

「…。」


きっと何が起こったのか、彼女は全てを知っている。

かずさの目はそんな目だ。

そう推測するのは星羅には容易。


「あなたも、天師教が殺されたら、天音のようになるのかしら?」


そして、最後にまた、かずさの冷たい視線が星羅を射抜いた。


「え…?」



************



「明日、天師教様の演説があるそうだ。」


瞬く間に、その噂は町に

広がっていた。

結局、京司の思い通りにはならず、彼の意思とは反対に、演説は強行される事となってしまった。


「おー、やはり天師教様が救ってくださる。」


やはりこの町では、天使教が絶対。

人々は、彼が演説をすると聞いただけで、安堵の表情を浮かべていた。

そんな簡単な方法でこの国の平穏が保たれるならば、いくらでも天使教に演説をさせる。

老中達がそう考えるのも無理はない。


「ふーん。」


りんはどかこ、面白くなさそうにその話題に、耳を傾けていた。

しかし、それで本当にこの国の平穏は保たれるのか?

りんはその考えを、今はまだ心の奥にしまい込んだ。

そう、今はまだ…。



************



―――次の日


「星羅!演説聞きに行くよね?」


華子は楽しそうに、星羅に言った。

天使教の演説は、一夜でこの町の大イベントとなっていた。

そのため、今日の授業はなくなる事が決定していた。

華子もそれに感化され、何故かワクワク、そわそわしている。


「ええ。」


そんな華子とは正反対に、星羅はいつもの落ち着いた声で答えた。

しかし、内心では昨日のかずさの言葉が、なぜかひっかかっていた。


「天音は?」


華子はもちろん、その部屋にいる天音にも尋ねた。


「…いい。」


しかし、天音は今日もボーッと窓の外を眺めているだけで、その一言だけしか言葉を発しなかった。


「…なんで?顔!見れるかもしれないよ?」


やっぱり、華子にとっては、それが最も重要なポイントらしい。


「…華子ほっときなさい。」


星羅はそう言って部屋を出た。

今となっては抜け殻となった天音を、星羅は全く相手にしていない。


「冷たいなー。じゃ、行ってくるね!」


しかし、華子は違う。

今も毎日、天音に前と同じように声をかけていた。

しかし、今日も天音からの返事はなかった。



************



すでに広場には、多くの人々が集まっていた。


「京司…。わいはもうちょっと望みたくしたいんや…。」


りんも、もちろん天使教の演説を聞きに、人々でごった返している広場へと足を運んでいた。

そして、彼の立つ広場から、天師教が立つであろうバルコニーを見上げた。

しかし、その場所はあまりに遠い。


「どんな望み?」


群衆の騒めきの中、りんの耳には、いつもの彼女の冷静な声が飛び込んできた。



************



「…。」


静かだ…。


天音は部屋にただ一人残っていた。

おそらく妃候補で部屋に残っているのは、天音だけだろう。

いや、妃候補だけでなく、城で働く人々も彼の演説を聞きに行っているのだろう。

そう、城はまるでもぬけの殻のようにガランとして静まり返っていた。


『覚悟は…あるのか?』

『それでも妃になる?』

『全てをしってるのは国なのよ。』


「天使教……。」


天音は虚ろな目で宙を見つめたまま、なぜかその言葉をつぶやいた…。




「ちがう…。」


『また忘れればいい?』





************



「今日は顔見えるかな?」


やっぱり華子にとっては、演説の内容なんてどうでもよくて、顔を見る事が目的でしかないようだ。

華子のそのスタンスはどこまで行ってもブレる事はない。


「またソレ?そんなに顔が気になるの?」


星羅がその話題にあきあきしているのは、言うまでもない。


「もちろん!」


しかし華子の期待は、高まるばかりだ。


「…顔ねぇ…。」


星羅はやっぱり呆れて、相手にしていないようだ。


「だって、結婚する人なんだから!」

「…。」


華子はどこまでも本気だった。

どうやら、彼女は自分が妃になる可能性は、疑ってはいないようだ。




************




「あ…ま…ね…」

「え?」

「あまね。」


彼がもう一度、愛しいその名を呼んだ。


「せ…い…。」


天音は目を見開いて彼を見た。

なぜか天音の部屋の扉が開いていた。

そしてその扉の前には、どこか懐かしい青の姿があった。


「僕は君の泣いている声も聞こえるよ。君が僕の声に気づいてくれたように。」

「っせ…い……。」


その懐かしい顔を見て、天音の目からは自然と涙がこぼれ落ちた。

彼と会ったのは、一体どれぐらいぶりだろう…。


「た…すけて…。」


そして、すがるような声をふりしぼった。


「信じれない?」


青はまだ扉の前に立ちつくしていた。

そのため、2人の間には、距離がある。


「みんなが…じいちゃんが…もういない…。」


天音はその場から動けず、しかし、とぎれとぎれに声を出した。


「目に見えないものは信じれない?」

「え…。」


天音はその言葉に、思わず顔を上げた。


「信じるものは、目に見えるものだけじゃないよ。」


そこには今までとは違う、凛々しい青の顔があった。


「ごめん。もう行かなきゃ。」


青はそう言って、寂しそうに笑った。


そう、それは合図。


――――もう、タイムリミットだ。


「待って…。」


天音は思わず、すがるような目で青を見つめた。


「もう一度会いたいなら、動きなよ。」


しかし、青は簡単に手を差し出す事はしなかった。

そう、彼は知っていた、それが彼女を救う事にはならない事を。


「せ…い…。」



************



カツカツカツ


その部屋には、京司の足音が響いていた。


カツ


ワ~ワ~


京司が足を止めると、バルコニーへと続くその部屋の窓が開けられた。

外からは大きな歓声が聞こえる。


『京司。お前はこの国が好きか?』


…なぜだろう?

バルコニーへと足を進める彼の頭には、そんな夢の言葉が頭をよぎった。


『荒れ狂うでしょうな。』


老中の口にしたその言葉は、この国の腐敗を意味している。

天使教がいなければならないこの国は、もはや…。


「…。」


…そんなの間違っている。それはわかっているのに…。


カツカツ


京司がバルコニーへと歩を進めると、次第に歓声が大きくなる。

そして、彼のの耳には、民衆達の拍手も聞こえてきた。


…なんで拍手するんだ?



その様子を京司はまるで人ごとのように、客観視していた。





「なーんだ。顔に布がかかってるんじゃん。」


天師教がバルコニーに現れた。

しかし、その顔には今日も布がかかっていて、顔が見えないようになっている。

その様子を見た華子は、いつかのように、落胆して肩を落としていた。


「つまんなーい。」

「そう簡単に天使教の顔は拝めないのよ。」


やっぱり華子は、演説の内容には全く興味がないらしく、口を尖らせて不満気に俯いた。

そして、星羅はバルコニーの方をじっと見上げたまま、華子に向かって言葉を投げかけた。


神の顔などそう簡単には見せない。

それがこの国のやり方。

しかし、星羅には顔なんか見えなくたってわかる。


…あれは紛れもなく天使教…。いや…京司だ…。





…なんで俺はこんな所で…。


「我を信じる者…。」


心ここに在らずのまま、京司がゆっくりとらマイクに向かってしゃべり始めた。

事前に話す事は、老中から紙で渡されていた。

その紙に書いてある事を読めばいいだけ。ただ、それだけの事。

そして、目の前では、大勢の民衆が期待の視線を天使教に向けている。




「なんで俺なんかを信じているんだ?」




「え…?」





しかし、京司の発した言葉に、民衆達が一斉に静まり返った。

もちろんそんな言葉は、老中から渡された紙にはなかった。


「フッ」


その言葉を聞いたりんは、思わず口元に笑みを浮かべた。




「反乱はなんで起きるか知ってるか?」




京司はカンペの紙を自分の掌で強く握り潰し、話し続けた。


そう、今度は自分の言葉で。




「国が嫌いだから?いや、ちがう。」






「きょ…」




星羅は大きく目を見開き、思わずその名を呼びそうになった。



「何言ってんの?」



そんな星羅の横で、華子は訳が分からず、首を傾げた。


バッ

その時、おもむろに、京司は顔にかかっている布を引きちぎり、彼の顔が露わになった。



「わーお☆」



華子はその彼の行動に、思わず声を上げた。

そう、そこにあったのは、華子が待ち望んでいた天使教の顔。

もちろん彼のその行動に、民衆達も釘付けになる。





「国を好きになりたいからだよ!!わかったか!バカ共!!!」





そして、京司のその言葉が、広場に響き渡った。





「やってくれるやないか…。」




りんは笑みを浮かべて、なんだか嬉しそうだった。



「…バカね。この国はそんな簡単にいかないのに…。」



しかし、そんなりんに水を差すように、かずさの冷酷な声が彼の耳に届いた。



「え…?」



その言葉にりんは笑顔を消し去り、隣にいたかずさの方に、目線を移した。





ガシッ


「え?」


京司の腕が、兵士2人に捕まれた。


「な、離せよ!!」


京司はその場で、まだ自由のきく、足をバタバタさせながら、暴れ出し叫びだした。

しかし、兵士のその力は強く、簡単には離してくれるわけがない。


「やはり…あなたには無理でしたか…。」


部屋の奥の方に居たはずの老中が、ポツリとつぶやいた。

京司は兵士にひっぱられ、部屋の奥へと引きずりこまれ、床に押し倒され、腕を拘束されたままだ。


「はなせって!」


京司は、なおも抵抗するものの、毎日訓練に明け暮れている、兵士の力には適わない。


カツカツ

そんな京司の横を老中が通り過ぎ、バルコニーへと向かった。


「皆の者…。」


すると老中がマイクに向かって話し始めた。







「はぁ、はぁ。」


『天音、お前の知りたい事は、全てそこにある。』

『回りくどい事はもういいだろう。国つぶせばいいんだろ?』

『全て知りたければ、石を見つければいい…。』

『全てを知っているのは国なのよ。』


天音はいつの間にか、部屋を飛び出して走っていた。


「はぁ、はぁ、青!!」


…なぜこんなに必死に彼を探しているのか…。

彼にすがりたいから?

違う…。


今、天音を動かかしているのは、彼女自身。


…知りたい…。


ただ、その思いだった。

しかし、さっきまで近くにいたはずの青の姿は、どこにも見当たらない。




************




「先程の者は天師教様にあらず。」


老中がマイクに向かって話し始めた。

それは、苦し紛れの嘘…。


「どういう事だ?」

「偽物って事か?」


しかし、民衆達は何が何だかわからなかず、ざわつき始めた。

無理もない、さっきまでそこに立って演説していた男は天使教でまないなどと言われ、誰が信じるというのだろうか。


「は?」


もちろんりんもその疑いに、眉間にシワをよせた。

そう、彼は知っている。真実を…。


…あれは紛れもなく、天使教やろ!





「はなせよー!!」


そんな中、京司は兵士に部屋の奥へ押し込まれたまま、老中の声を聞いている事しか出来ない。


カツカツ


そして、暴れる京司を押さえつける兵士達の横を、誰かが通りずぎた。

京司は、床に押し付けてられているため、その顔は全く見えなかった。


カツ

そして、その誰かがバルコニーに向かって一直線に歩いて行く。




「本物の天師教様はこちらにいる。」


そして、老中がそう言うと、1人の男がバルコニーに現れた。



カツ


「え…?」


星羅は、新たなる人物の登場に、思わず声を漏らした。




「我が天師教。」


その男がマイクに向かって話し始めた。

やはり、その男の顔には布がかかっていて、顔は見えない。


「先程の者は我の影武者だ…。何かあった時のため、彼に代役を頼んだが……、それは失敗だったようだ。」


少し幼いその声が淡々と話しを続けた。


「あれは、私の意思ではない……。」



――― !?



「…なっ……!偽影武者だと?」


京司の耳にも、その声は確かに届いていた。

そして、彼は抵抗を止め、彼のその言葉を繰り返した。

影武者がいるなんて聞いた事もない。

いや、それより、ここに押さえつけられている自分が天使教のはず。


………一体これは何なんだ!





「なんや…て…?」


りんも何がなんだかわからず、バルコニーを食い入るように見つめていた。

ただ1つ分かっているのは、今バルコニーで立って、民衆に語りかけているのは、京司ではない事だ。

それは、何度も京司の声を聞いたりんには、明らかだ。





そして


「何なの…これ…。」


同じく、星羅も困惑した表情を浮かべていた。

あれは、京司ではない。じゃあ、一体誰?影武者?


今、一体何が起こっているのか…。





真実を知るものだけがその状況に顔をしかめた。



そう、それは、苦し紛れの嘘。


嘘を真実に塗り替えてしまう。


それがこの国のやり方。






*****************




「どういう事だよ…。」


演説は、老中の用意したシナリオ通り、京司の代わりに、その男がそつなくこなした。

演説が終わった後、兵士の腕から解かれた京司は、バルコニーに面した部屋の奥に、座り込んでいた。


「あなた様がちゃんと台本通りにお話くだされば、こんな事には…。」


老中が冷たい視線で上から、京司を見下ろしている。


「ふざけんな!なんなんだよコイツは!」


京司の目は怒りに震えていた。

そして、老中の隣に立つ、〝天使教”と名乗る男を見上げた。


「本来であれば、もしもの時の、あなた様の身代わりです。」


老中は、怒りに震えた京司とは対照に、いつものように冷静に答える。


「もしもだと?誰なんだよ!!」


バサッ


京司が声を張り上げ、その身代わりの男の、顔の布をはぎとった。


「…。」

「…お前…。」


京司は目を見開いた。

そこにある顔を京司は知っていた。

それは、男と呼ぶにはまだあどけない、少年のような顔立ち。

そして、忘れるはずない、あの透き通るような青い目。


『僕は僕、君は君だよ。』



****************



「はぁ、はぁ、はぁ」


天音は無我夢中で走って行くうちに、広場にたどり着いていた。


「やっぱー、天使教様のお力だよな。」

「この国も安泰だ。」


そこで天音が目にした光景は、人々は安堵の表情を見せながら、広場を後にしていくものだった。


「はぁ、はぁ、りん?」


天音は、そこに立ち尽くしていた、りんを見つけ、思わず彼に声をかけた。


「あ…ま…ね?」


りんはこの場所で天音の姿を目にし、驚きの表情を見せた。


「りん!青見なかった?」


天音はとっさにりんに駆け寄って尋ねた。


「青…?」


りんは名前だけは、聞いた事はあったが、その人物は知らない。


『ふーん。青って誰や?』

『…月斗が殺した人の弟。』


それは以前かずさから返ってきた答え。青が月斗の知り合いなのは確か。


「あ、りんは青知らないか…。あ、かずさ!!」


天音はりんの隣に、かずさの姿を見つけ、今度は彼女の名を呼んだ。


ドン


「す、すいません。」


その時天音は、周りも見ずに突っ立っていたため、広場を行き来する人とぶつかった。そして、すぐに謝罪の言葉を口にした。


「なんで、こんなに人多いの?」


天音は、なぜこんなに広場に人が多いのか疑問に思い、すぐ様その疑問を彼らに投げかけた。


「演説よ。天師教の。」


その問いに、真っ先に答えたのはかずさだった。


「天使教さん…の…?」


天音は、部屋での華子の話も、まったく心ここにあらずだったため、ほとんど耳に入っていなかったようだ。

しかし、今は違う。

かずさの言葉は、しっかりと彼女の耳に入っている。


「反乱軍討伐の演説よ。」

「反乱軍…。」


かずさはもう一度丁寧にそう説明した。

そして、天音は神妙な面持ちで、その言葉を繰り返した。


「天音は見てなかったんか…?」


りんは天音に恐る恐る聞いてみた。

どうやら今の彼女の精神状態は、落ち着いていて、この町へ帰ってきたあの日の彼女とは違う。あの日のように取り乱す事はなさそうだ。


「え、うん。だって今ここに来たばっかりだもん。」

「…そうか。」


その言葉にりんはホッと胸をなでおろし、安堵の表情を見せた。


もし、あの場に天音がいたら…。


「ふざけんな…。」


そんな天音の背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。


「な!おま!!」


りんは、こちらに鬼の形相で向かってくる、その人物に目を見張る。


「月斗…?」


天音が彼の名を小さくつぶやいた。

丁度、広場には、人もだいぶ少なくなってきたところだった。

月斗はフードを深くかぶっていて、幸い周りの人には気づかれていないようだ。


「どういう事だ。」


月斗はかずさの前に立ち、睨みをきかせた。


「天音…青は…あそこよ…。」


かずさは、そんな月斗に構うことなく、天音に向かって話し続け、バルコニーを指さした。


「…?誰もいないよ。」


そう演説は終わった。

その場所に今は誰の姿もない。



「青は天師教の…。」



ガシ!

月斗がかずさの胸倉を掴む。





「影武者よ…。」





かずさは胸倉をつかまれたまま、その言葉を吐き捨てた。


「え…?」


「ふざけんな…。」


天音はその言葉の意味を理解できずに、小さく言葉を漏らし立ち尽くした。

その隙に、月斗の手には更なる力が込められた。


「月斗!やめて!!」


ハッと我に返った天音は、苦しみに顔を歪ませたかずさのその表情を目の前にし、いたたまれなくなり、月斗の手に飛びついた。


「離せや!!」


りんもすぐ様、月斗の腕を何とかかずさの胸ぐらから、剥がした。


「ゲホゲホ。」

「だ、大丈夫?かずさ?」


かずさは首が絞めつけられていたのか、苦しそうにせき込んだ。

天音は、そんなかずさにすぐ様駆け寄った。


「…青は天師教の、もしもの時の身代わりよ…。」


かずさは、自分の事など二の次で、天音の目を見て、その事をもう一度しっかりと伝えた。


「…。」


天音は何も答えられなかった。

ただただ、信じられないといった悲痛な表情を浮かべる事しかできない。

…青は天使教の身代わり…?

その言葉を心の中で反芻はんすうしても、全く実感がわかない。


「夢から覚めた?」


もう一度かずさが、天音に問いかけた。

そう、今の天音はかずさのその言葉を、しっかり呑み込む事ができる。

一時の抜け殻のような天音は、もうそこにはいない。


「…青が教えてくれたの…。」


天音が今は誰もいない、空っぽのバルコニーをゆっくりと見上げた。


「え…?」


りんも、天音がしっかりとした目で、その先にあるものを見ているのが分かった。


「ただ悲しんでるだけじゃ、何も変わんない…。」


…そうだ。もう泣くのは止めよう…。


『それを聞きたければ、石を持って行くのよ。あそこへ。』


「…青は天師教の身代わりだから、城に閉じ込められてるの?」


天音はもう一度しっかりとした言葉で、かずさに尋ねた。


「…さあ。」


かずさは、何かを濁すように、そう答えた。

彼女の口から明確な答えは、どうやら得られる事はなさそうだ。

…でも、知ってる…。

かずさは、決してウソは口にしない。


「月斗は、青を助けたいだけなのに…。」


気がつくと、いつの間にか月斗の姿は、もうそこにはなかった。


「青は月斗を憎んでいるのよ。彼が青の姉を殺したんだから。」


冷静なかずさの声が言う。


「月斗はそんな事しないよ!!」


すかさず天音は、興奮気味にそう反論してみせる。


「…青に聞けばいいわ…。」


しかし、かずさはそんな天音とは対照的に、尚も冷静に続ける。


「青はもうわかってるよ。」


天音は消え入りそうな声で、つぶやいた。




「かずさ。石を探すにはどうすればいいの?」




天音は顔を上げて、もう一度かずさを真っすぐと見た。


「…。」


彼女は決意した。

このままでは、何も変わらない。

真っすぐな天音の視線がかずさに突き刺さった。


「天音…。」


りんも、それが天音の決めた答えだと知った。


「あなたが、7人の使教徒を集めるの。」


かずさがゆっくりと口を開いた。


「使教徒…。」

「神に選ばれし7人。私と、りん、月斗、京司、みるか…、星羅。」

「え…。」


天音は目を見開いた。

使教徒は天音のよく知る人物ばかりだった。

そして、その中には彼女の名前も…。

…星羅も…?


「そう、あと一人…。」


使教徒は確かにここに、天音の元に集まってきていた。

そして残るはあと1人。

その1人が分かれば、石のありかもわかるはずなのだ。


「本当に、使教徒集めていいんかいな?わいが聞いた話やと、使教徒がそろった時、この世は終わるっちゅう伝説があるとかないとか…。」


りんはかずさの話に割って入った。

そう、別の言い伝えでは、使教徒が全て揃った時この世が終わるというものがあった。

りんは半信半疑ではあったが、その言い伝えも気になっていた。

もしそれが本当ならば、使教徒はやはり、集まってはいけないのではないか…と。


「…この世が終わる…?」


りんの口にしたその言葉に、天音の背筋に冷たいものが走った。


…そんな事…ありえない…?


「石は使教徒と、選ばれし伝説の少女と共にある。それは確かな事…。」


かずさは、なぜか青い顔色の天音を横目に、話を進めた。


「選ばれし伝説の少女は、天音か。」


りんがポツリとつぶやいた。


「…どうして私なんだろう…。」


そして、天音はすぐ様正気を取り戻し、またその疑問をつぶやいた。


「それは…。」


かずさが重い口を開けた。


「それは、わいの勘や!!」


りんは、お得意のその言葉を武器に、重い空気を切り裂いた。

それは、天音にまた、あの時のような苦しい、悲しい顔をさせたくなかったからだ。


「アハハハ。何それ!」


天音は、りんのそんな言葉を聞いて、思わず笑みをこぼした。


ポン

りんが天音の頭に手を置いた。


「りん?」


天音は背の高いりんを見上げた。


「笑った方がええ。」


りんの優しい眼差しが、天音を見ていた。


「え?」

「天音は笑った方が似合う。」

「…ありがとう。」


りんが優しく天音に笑いかけた。


「どうして…。」


そして、かずさがボソッとつぶやいた。


「え?」

「全てを知る覚悟がある?」


『覚悟は…あるのか?』


それは、辰にも言われた言葉。

かずさはいつにも増して、真剣な顔で天音を見つめた。

その眼差しから、逃れる事は出来ない。


ザ―

その時少し冷たい風が吹き荒れた。



「真実を知らなければ、何も変えられない。」



天音の肩より少し伸びた髪が風になびいていた。


ザ―


広場には、もうほとんど人がいなかった。

ただ、冷たい風だけが吹き荒れている。


「言うだけなら簡単。変えるのはそう簡単じゃない。」


かずさの厳しい言葉が天音に投げかけられた。


「そうだね。きっとこの国も、いっぱい傷ついて、変わっていくんだね…。」


天音はかずさの言葉を噛みしめ、また城を見上げた。

そして、そんな天音の真っ直ぐな瞳は、夕日に赤く染められていた。

まるで、その目に炎が宿っているかのように。


「どう変わるの?」


それを口にした、かずさの顔も夕日の光に照らされていた。


『言えないんだ…。この鯉と同じ。』

『お前に俺達の苦しみはわからない。』

『それじゃあ、この国は変わらない。』

『神がいるなら、天師教はいらない…。』


今までバラバラだったピースが少しづつはまっていく。


『私はこの国が好きだ。』

『…うん。』

『この国の声に耳を傾けないこの場所は嫌いだ。』

『…。』

『この国に天師教はいらない…。』


その意味が今なら少しわかる…。





「この国に天使教はいらない……。」






まるで、自分の口ではないかのように、勝手に天音の口が動いた。




「!?」




りんは驚きのあまり声も出なかった。



「…。」




そして、かずさもその言葉に何かを言及する事はなかった。






『天音は天使教と敵対する事になる。』





りんの耳には、その言葉がこだましていた。






****************




「リーダー!!」


ここは反乱軍の本拠地。

1人の男が慌てた様子で、反乱軍のリーダーと呼ばれる男を呼んだ。


「どうした?」


リーダ―が慌てた様子の仲間に駆け寄った。


「反乱の討伐軍が出たそうです。」


神妙な面持ちで、男がそれを口にした。

そう、天使教の指揮のもと、国からの討伐軍がこちらへ向かっている。


「そうか。各地の仲間達にも伝達しろ。」

「ハイ!!」


リーダーは落ち着いていた。

彼は、こうなる事をわかっていた。

いつかは真っ向から、国へと対峙しなければならない。


「リーダー、そろそろですね…。」


時は、刻一刻と近づいてきている。


「…仲間は増えた。でも、戦力の中心に立つものがいない。」


しかし、リーダーはまだ、あの城下町へともう一度足を踏み入れる事は、考えていなかった。

このまま城へ向かっても、こちらが不利になるのは目に見えている。


「…アイツがいてくれたら。」


リーダーがポツリと言葉を漏らした。


「アイツ?」


仲間の男がその言葉に反応し、リーダーを見た。


「…ジャンヌの右腕。」


そう、リーダーは待っていた。彼の事を。



****************



「天音ー!!どこ行ってたの?」


天音が部屋に戻ると、すぐ様華子が駆け寄ってきた。


「え?ちょっと町に…。」


天音は、華子のあまりの心配ぶりに、きょとんとした表情で華子を見た。


「部屋に帰ったらいないから、心配したんだよ。」


華子は、天音が部屋にいない事に気づき、どこに行ったのかと、居ても立っても居られない程心配していたのだ。

そう、華子が心配するのも無理はない。

この城に帰ってきてから、天音は全く町へと出ることをせず、ほとんど部屋にこもりっきりだったのだから。


「アハハ、ごめんごめん。」


天音は、心配そうに見つめる華子に、笑顔で答えた。


「アレ?なんか戻ってる。」


すると華子は、早速天音のその変化に気づいた。

そこに居たのは、ここ数日の抜け殻のような天音ではなかった。

キラキラと前のように笑う天音の姿が、そこには戻ってきていたのだ。


「へ?」

「ま、いっかー!!おかえり。」


そう言って華子も笑った。


「ただいま。」


天音も華子のその笑顔に答えた。

なんだか今日は、この言葉が妙にくすぐったい。

帰れる場所がある事が、こんなにも安心するものだと、天音はこの時、初めて身に染みた。


「…天音。演説見たの?」


今まで黙って2人のやりとりを見ていた星羅が、そこで、静かに口を開いた。


「んーん。間に合わなかった…。」

「そう…。」


何故か、天音のその言葉を聞いて、安堵した自分に、星羅は気づいた。

…別に構わないじゃない…。2人の関係がどうなろうと…。


「星羅?」


星羅のその困惑の表情を、天音は心配そうに見つめていた。

そして


「私信じるね。」


天音はそう言って星羅にも笑いかけた。


「え?何を?」


星羅は何の事か分からず、眉をひそめた。


「星羅の事。」

「ハ?」


星羅は、さらに困惑の表情を見せたが、天音はやっぱり嬉しそうに微笑んでいた。



…星羅が使教徒だろうと何だろうと、関係ない。星羅は星羅なんだから。



****************



「天音…。」


京司が、その名を消え入りそうな声で、そっとつぶやいた。

あの演説の日以来、京司は部屋に鍵をかけられ、外には出させてもらえなかった。

それは、これ以上勝手な行動を起こさせないようにするための罰。

もちろん、あの池にも行けない。


そして、気がかりだった。

天音が本当に、この城に戻ってきているのか。

…もう一度、彼女に会う事ができるのだろうか…?

そんな事を考えながら、京司は、天音にもらった十字架のネックレスを見つめていた。




『約束』





****************





「リーダー!!討伐軍は思ったよりも数が多い!」


戦いの最中、反乱軍の一人が、リーダーに向かって叫んだ。


「クッソ。」


リーダーも馬を走らせながら、周りを見渡した。

討伐軍が城から出発して数日…。

反乱軍はその数の多さに、かなり苦戦を強いられていた。


「とにかく逃げろ!!」


状況は悪い。ここで戦い続けるにはリスクが大きすぎる。


「リーダー…。」

「逃げるんだ!誰も殺させない!!」


リーダーが力一杯叫んだ。

リーダーの戦い方は変わっていた。

そう、それはあの日から…。



****************



「じぃ。」

「これは皇后様。」


皇后は士導長の元を尋ねていた。

あれから数日、やはり皇后も、京司と顔を合わせる事は出来なかった。


「どうかしら?妃の方は。」


そんな皇后は、妃の事が気になり、士導長を訪ねる事にした。


「ハァ…。」


士導長から返ってきた答えは、何とも腑におちない返答。

その返答からは、彼が妃を決めかねているのは、明らかだ。


「申し訳ありません。」


そして彼は頭を下げた。


「いいのよ。謝らなくて。目星はついているのでしょう?」


しかし皇后の鋭い視線が士導長を逃さない。


「…。」


士導長は口を堅く結んだ。

決めかねている事は確かだ。

妃は誰でもいいわけではない。


「あの子にも好きな人を、愛する喜びを知って欲しかった。」


皇后はどこか寂しげに、ポツリとつぶやいた。


「私が、そんな事を言う資格はないわね。あの子を閉じ込めたのは私なのに…。」


そして、皇后は遠くを見つめながら、言葉を漏らした。

彼を無理やりこの城に連れてきたのは、自分なのだ…。

彼がこの城で孤独を感じているのは、皇后が一番わかっている。


「皇后様。」


士導長は、そんな皇后の寂しげな横顔に、いたたまれない気持ちになった。

…あなたのせいではないのに…。


「でも、最近少し変わったと思わない?」


皇后は士導長へと視線を戻し、少し微笑んだ。


「え…?」

「たまに、昔のような悪戯っ子のような顔をするの。あの演説の日のように…。」


そう言って、皇后がクスリと笑った。





****************




「天音…変わったで…。」


りんが月斗に向かって、小さくつぶやいた。

月斗は、仲間のいるこの山奥の小屋へと戻っていた。

その小屋の前で、2人は肩を並べて座っていた。


「石探すつもりらしいわ。」

「は?」


りんは、中月町まで行く事に付き合わせた月斗に、一応報告するために、ここまでやって来た。

しかし、りんのその言葉に、月斗は理解できないという表情を浮かべた。


月斗は、別に石なんか見つけても、何の意味もないと、今も思ってるのだろう。

そんな事以外に国を潰す方法は、いくらでもあると…。


「月斗…、お前も国が憎いんやろ?」


りんは隣にいる、月斗に聞いた。

月斗はきっと、天使教の影武者の人物、彼を助けたいに違いない。

りんはその事を、演説のあったあの日に察していた。


「国か…。」


月斗はバカにしたような、何かをあきらめたような笑みを浮かべた。


「わいも…、いやわいは天師教を憎んどった…。」


そう言って、りんはどこか懐かしそうに笑った。



****************



「ご苦労様。」


そう言って、かずさはベットの横の椅子に腰かけた。


「…。」

「天音を変えたのは、あなただったわね。」

「違うよ。」


今日も、ベッドから上半身を起こして座っている青は、窓の外からちょうど見えている、月へと視線を送っていた。


「僕は天音を信じるよ。」


電気もついていない真っ暗な部屋に、月の光だけが注ぎこむ。


「彼女は…重い十字架に耐えられると?」


かずさは低い声で青に問う。


「ああ。天音なら。」


そこには、この部屋で涙を流していた、弱々しい青はもういない。

その眼差しには、もう迷いがなかった。


「あなたは…?」

「…。」


その答えが返ってくる事がない事を、かずさは知っていた。

静寂だけがこの部屋を支配する。


「天音はあなたが思っているほど、強くはないのよ…。」

「でも、君が思っているほど弱くもないでしょ?」


月の光に照らされた青の顔が、柔らかな笑顔を見せた。




****************




「天師教様…。」


士導長が中庭の池の前で立ち止り、ポツリとその名を口にした。

しかし、そこに京司の姿はない。



「あなたを変えたのは…。」



『きょうじって人しっていますか?』




先程の皇后の話を、思い出さずにはいられなかった。

そこにある、池の水面を見つめる士導長の瞳が揺れる。






「…天音は妃になれないのですよ…。」






そして消え入りそうな声でまた、つぶやいた。






****************




「天師教さんは、どうして天師教になったんだろう?」


天音もまた、部屋の窓から、月を見上げていた。


「え?それは決まってたんだから、しょうがないよ。」


華子は、天音が独り言のようにつぶやいた、その一言をしっかりと聞いていた。


「決まってた…。」

「代々、子供が親の後を継ぐのが、この国の決まりでしょ。」


華子は、当然の事のようにそう話した。

しかし、常識のない天音には、それが当たり前だという事がよくわかってない。


「嫌だったりしたのかな…。」


なぜか天音は、そんな事を思った。


それは始めから決められた運命。

他に選択肢などはない。

そんな運命に、天使教は何を思ったのだろうか。


「クスクス。」


そんな天音の言葉を聞いて、華子は口元に笑みを浮かべた。


「やっぱ。天音は面白いね。」

「へ?」


天音は、華子のその笑みの意味がわからず、キョトンとした顔で首を傾げた。


「やっぱ、天音、妃に向いてるよ。」


そして華子は、優しい声でそう言った。


「え…?華子だって妃になりたいんでしょ?」


そんな事を突然言い出した華子に、天音は困惑の表情を見せた。

妃の座に座れるのは、たった1人。

天音と華子は、その座を奪い合う、いわばライバル。

しかし、華子はまるで、天音にその座を譲るような言い方をした。

しかし…


「うん。もちろん!!」


華子は、自分が妃を諦めたわけではない事を、自信満々に答えた。


「何それ。」


そう言って天音は笑った。


「でも、星羅はむいてないと思うな。」


今度は、華子が窓の外へと目をやり、きっぱりとそう言い切った。

どこへ行ったのかわからないが、幸い、星羅は今この部屋にはいない。


「え…?」


その言葉に天音はまた困惑の表情を浮かべた。


「星羅、美人だけど、怒ると恐いし!」


しかし返ってきた答えは、まるで子供がお母さんを表現するような、幼稚な答え。


「へ?」


華子が向いてないと言ったのには、もっと何か深刻な理由があるのかと思っていた天音は、調子抜けしたような声を出した。


「それに、歌手になった方が絶対、向いてると思う!!」


華子は満面の笑みでそう言った。


「…そうだね…!」


そして天音も微笑んだ。




****************




ポチャ


「…。」


その日の夜更け、城の見回り中の辰は、なぜか普段は訪れる事ない、この中庭の池のある場所に来ていた。

そこは静寂に包まれ、誰もいない。


「鯉はもういない。」


その静寂を切り裂くように、辰の背後から声が聞こえた。


「…。」


辰は取り乱す事なく、落ち着いた様子のまま、後ろを振り返った。


「お前は…。」


その姿を見て、辰はなぜかピンと来た。


『かずさを探していて…。』


…いつか天音が話していた女か…。


そこに居たのは、以前、天音が探していた彼女に違いない。


「さすが城の兵士ね。まったく動じないのね。」

「…。」

「ここで、天使教と天音は出会った。」


まったく微動だにせず、表情も変えない辰に向かって、かずさは淡々と話続けた。

しかし、そんな彼女の突然の告白に、辰は返す言葉が見つからず、眉をひそめた。

そんな事を急に言い出した、彼女の意図とは?

彼女は一体何者なのか?


「大丈夫。天師教は、当分部屋から出させてもらえないわ。こないだの演説の事があったからね。」

「…。」


なぜこの女は、自分と天音の関係を知っているかのように話すのか。

次から次へと浮かびあがる疑問が、辰の頭を占領していく。


「あの2人…どうなると思う?」


かずさが、面白そうに口端を少しあげた。


…この女は全て知っている…。

そして、辰も確信した。


「…もう会ってはいけない…。」


辰は、きっぱりとそう言った。


「それは、天音が天師教を倒す運命だから?」

「…。」


辰は口を堅く結んだ。


「あなたの役目は…?」


…そうかこの女は…。


「まあ、言わなくても、わかってる…か…。」


そう言って、かずさは後ろを振り返り、その場から去ろうとした。


「待て!」


すると、すかさず、辰がかずさを呼び止めた。


「…。」

「お前は…。」

「賭ける?」


かずさが、辰に背を向けたまま、唐突にその言葉を吐いた。




「え…?」

「次に天音が会うのは、天師教と京司どっちだと思う?」





辰の困惑の表情を、月の心もとない明かりが照らしていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ