噂の無敵
とある建物の扉を開けると、威勢がよく、それでいて可愛らしい声が俺を出迎えてくれた。小顔に目がくりっとした可愛らしい顔、そして頭の上でぴょこぴょこしてる犬耳と、今は机から先端だけが顔を出して振られているふさふさの尻尾が特徴の、獣人受付嬢のサーティスさんだ。
今日も元気で微笑ましいと思う反面、その場に居合わせた人達からの視線に、苦笑が先に出てしまう。
「そろそろのその呼び方やめて貰えない?」
「えー、だって事実じゃないですか!」
もはやギルドに来る度に恒例行事となってしまったこのやり取り。既に俺のことをしっている人達は、またやってるのか、と興味を無くしたのか視線を外し、それまでの行動に戻っていた。
しかし、新人冒険者や別の街から流れてきた者達にとっては違う。
「おい、いま無敵のテッドって言ってなかったか…?
「あぁ、確かに言ってた。本当にこの街にいるんだな…」
「無敵のテッド?大層な二つ名だな?実際強ぇのか?」
「バッカお前本人に聞こえたらどうすんだよ…あの人には誰も勝てねぇって噂だ。怒り買ってボコボコにされちまうぞ…」
なんてヒソヒソ話が聞こえてくる始末に思わず大きな溜息が漏れ出た。
「そんなことより!本日も採集品の納品ですか?」
「あぁ、頼める?」
「もちろん!係の者を呼んできますね!」
そういうとサーティスさんは奥の扉へと入っていった。
サーティスさんに取り残され、視線を浴びたまま考える。
俺は確かに無敵だ。でも誰かが言った"誰も勝てねぇ"って噂は身に覚えがない。まともにやり合う機会があれば俺はゴブリンにも勝てない気がする。ましてや誰かをボコボコにしたことなんて一切ない。
どこからそんな噂が生まれたのか、できれば出処を突きとめてやめさせたいけど既に広まってる以上どうしようもない気がしないでもない。そして広められたということは、噂自体に悪意や敵意はないということだろう。
そんなことを考えて1人納得していると、片眼鏡にビシッとジャケットを着こなした如何にも紳士な男性を連れ添ったサーティスさんが帰ってきた。
「お待たせしました!テッド様!」
快活なサーティスさんに対し、男性は静かに会釈をくれる。その会釈すら様になる、キリッとした涼し気な顔立ち、柔らかく光を反射する銀髪、心做しか周囲に薔薇が広がって見える。そして俺の背後から女性冒険者の黄色い悲鳴が聴こえる。
その状況に考え事をしている間、自然と1度消えた苦笑いが再び浮かぶ。
「いや、全く待ってないよ。それじゃ今日もお願います、ユジンさん」
「お任せ下さい、テッド」
ユジンさんは、このギルドにおいて冒険で得た採集物の買取査定、それも高ランク素材の買取を専門に行なっている人物だ。
「テッドさん、今回はどちらまで行かれたので?」