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英雄の異世界戦記〜敵を使役する異端な存在〜  作者: もぐのすけ
魔王シルバースター編

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奇襲と奇襲

 撤退指示を出したと同時にドデカイ氷の壁が突然に出現する。

 間違いなく勇者一行の天才魔術師フェリス・グリゼルが放った魔法だろう。


 私が指示したのは撤退する合図を出すということだけで、どのように撤退するかは戦闘のプロである勇者に一任している。


 勇者、それに勇者とともに突撃した兵士達には生死をかけた大変な役割をさせてしまったが、逆に言えば少数を率いて大軍と戦い、その場から撤退せしめることなど勇者にしか出来ないことである。


 現に敵を食い止め、生存している兵士を逃がしながら撤退している彼らは、やはり普通の人間とは一線を画している。


 氷の壁が破壊されつつあるが、彼らの撤退を援護するように魔法攻撃を敵に加えている。

 ほとんどはどこにいるかも分からない魔者によって打ち消し(レジスト)されているが、敵の進行を遅らせるのには充分だ。


「ポイントまで残り200……150……100……」


 遠目から見ていても勇者とフェリス・グリゼルの魔法が、敵を殲滅するかの如く唸りを上げて襲いかかっているのが分かる。

 戦争の流れをたったの5人で変えてしまっている。


 敗戦する絵が浮かばないな……。

 こんな駒がいるだけで、指揮する方としては動かしやすい。


「50……ジェラード隊長! 間も無くです!」

「よし、三度目の合図だ」



 ブォォォォォォォォォォ!!


 合図が鳴り響く。


 勇者達が走り抜けた両サイドから何百という閃光が、追いかける魔人達を襲った。


 空中から突如として現れる閃光、誰が放っているのかは姿を見せない。

 否、見えないのだ。


 シャッタード都市からの支援兵器として、透過迷彩を施した鎧が渡されたのだ。

 シャッタード都市は兵力を寄越さない代わりに、独自に開発した兵器をバックアップとして渡してきた。

 放たれる閃光も、魔力を媒体とし熱線に変える試作兵器を使用している。


 一発一発は軽いが、その弾速と詠唱を必要としないことから、無詠唱で魔法を放つ魔者に対抗し得る可能性のある兵器である。


 現に下級魔人は両サイドから狙われる攻撃により、ゴリゴリと削られて数を減らしている。


 それでも恐るべきは魔人の突撃性だ。

 不意打ちによる攻撃にも関わらず、勇者を追いかける足を止めることは一切ない。

 まるで命令された事以外は、一切の意識を持たない人形のようである。


「一度敵を引き込み奇襲をかけ、足を止めた所へさらなる奇襲をかける予定だったが……思い通りには行かないか」


 最前線にいた勇者や兵と、魔人との距離が徐々に開いて行く。

 そこへ、待機させていた残りの約1500人の近接戦闘部隊を向かわせ、勇者達と魔人の間に割り込み、戦闘が始まる。


 勇者達は戦線を離れることができた。


 今までの戦いも、魔族は所詮策をろうさない、力と数に任せるばかりの戦い方だった。それがシンプルかつ脅威であったが今回は勇者というアドバンテージがある以上……知恵と工夫を駆使すれば、たとえ数も力も負けていても戦争に勝つことは出来るはずだ。

 今回のこちらの勝利目的は開戦区域バルフィードで勝つことではない。


「王さえ取れればこちらの勝ちだ」


 そのために何としてでも勇者を魔王の元へと送り届ける。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ジェラードが言っていたのはこの奇襲のことか……!」


 戦線から離脱し、待機していた兵が下級魔人とぶつかっている中でも、両サイドの見えない所から閃光が下級魔人を襲っていた。


「何とか逃げ切れたわね〜」

「透過魔法……いえ、シャッタード都市で開発していた透過迷彩鎧かな……?」

「こんな良いもんがあったんなら、最初からそれで敵陣に近づけば良かったんじゃねぇの?」

「透過魔法は魔法に長けているものなら見破ることができる。それは透過迷彩鎧であっても同じだろう。ただ近づくだけなら魔者に気付かれるリスクがあったからこそ、敵を俺達に集中させて、周りに気を散らさせないようにしたんじゃないか?」

「とはいえ、中々に厳しいことをさせよるわい」


 あの大軍勢の下級魔人から逃げ切れたのは結構ギリギリだ。

 そんなギリギリの作戦を立てるジェラードも中々の博打打ちだ。


「人使いが荒い野郎だぜ」

「それほどに人類と魔族では戦力差が激しいってことだ」

「とりあえずこれで、私達の仕事は終わりってことでいいのかな?」

「俺がジェラードに言われたのはここまでだ。これまではミラージュ王国の大使としての仕事だったが、ここからは『グリモワール』として動く」

「討伐大隊の方に移動じゃな?」

「向こうもきっと戦闘は始まってるでしょうね〜」

「いや、討伐大隊の方には参加しない。俺達は独自のルートから魔王シルバースターを目指す。そのルートはジェラードが既に用意してくれている」


 開戦区域バルフィードと、手薄になった魔王の属国への討伐大隊の二箇所攻撃。

 それを囮にして俺達が魔王シルバースターを直接目指す。


 この戦いの本質は開戦区域バルフィードにおいて勝つことではない。

 いかに戦いを長引かせることが出来るかだ。

 そして俺達が魔王の首を取る。


 犠牲になった兵士達の命を無駄にはしない。


「一度本陣に戻ってジェラードから指示をーーー」



 ドォォォォン!!!!


 突如として本陣から火の手が上がった。

 次いで2度、3度と爆発音が鳴り響く。


「何が起きた!?」


 嫌な予感が脳裏をよぎる。

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