嫉妬の炎
シーラ達の所へ戻ると、切断されたはずの腕を魔法によって治療され、激しく息をあげているエージをこちらを鋭く睨みつけていた。
「ふー、ふー、あなたみたいな人が……どうして……」
「何でこの武器を手に入れられたかって?」
「上級魔人と渡り合ったあの力……一体どんな卑怯な手を使ったんですか!」
心外すぎる。
搦め手を用いた戦いならともかく、直接な肉弾戦において卑怯な手もなにもないだろ。
「努力の差、じゃないの?」
「ふざけないで下さい! 努力なんて、私も死ぬほど行いましたよ! それなのにこの差は何なんですか!」
「エージ様……」
「私はこの世界でA級討伐者と呼ばれていた人達を20人犠牲にして召喚されました! その人達の命を背負ってきているんです! あなたなんかとは重みが違う!」
俺の事を何も知らないくせに、よくそんなことが言えたもんだ。
確かに俺は誰かを犠牲に召喚されたわけでもないし、責任を背負って生きてるわけでもない。
むしろ、かなり楽観的に考えているくらいだ。
それでも。
「俺だって努力してる。適当だって思われてても、この世界で必死に生きてるんだ。悔しかったらもっと努力するんだな」
「てめぇ……エージ様に向かって……!」
「お前らもお前らだ。勇者だなんだの持て囃すんじゃなくて、そいつの実力をしっかり見定めて手綱をとれよ。だから調子に乗って策もなく上級魔人に単身で突っ込むことになるんだ。ヨイショするだけが仲間の役割じゃないんだぜ?」
エージ以外の3人が押し黙った。
この3人だって相当な実力者のはずだ。
4人が策を弄して戦えば、勝てるかどうかはともかくとして、エージが上級魔人に一撃でやられるなんてこともなかったはずだ。
「俺だって一人でこの武器を手に入れたわけじゃない。二人の援護があったからこそだ」
「珍しく、ヤシロの言うことが最もだな」
「珍しくとは何さ。失礼しちゃうわね」
「ミナト……結構アホなこと言うし」
「待ってくれ。シーラに言われたくはない」
エージは親や先生に怒られている時のような反抗的な顔をしていたが、突っかかってくるようなことはなく、何かを諦めたようだった。
「…………私達にはこのダンジョンを踏破する実力が足りなかったということですね」
「エージ様……」
「みんな、もう一度やり直しましょう。このままでは私は世界を救う勇者にはなれません。もっと……実力をつけなければ……」
「勿論です! 頑張りましょう!」
いの一番に騎士のミコが反応した。
「メガネ君、お前は元の世界に戻りたいと思ってる?」
「最初に会った時に言いましたよね? この世界は素晴らしいと。私は元の世界に帰るつもりはありません」
何かを諦めた顔をしていたエージの目は、別の何かを手に入れようとする強い意志の炎が燃えているように見えた。
「それと八代湊、私は武器のことは諦めましたが、まだシーラさんのことは諦めていませんからそのつもりで」
「あっそ」
無理だと思うけど、一応話を俺に通すようになっただけマシか。
ウチのアイドルは渡さへんで!
「それでは皆さん戻りましょう。どうやらここは、元来た道を戻らなければ、地上へは帰れないみたいですからね」
エージはゴリマッチョに肩を借りて歩いていった。
すると騎士のミコがこちらへやってきた。
「何さ」
「あの……その……、上級魔人から私達を助けて頂いてありがとうございました。手助けしないなんて言っておきながら……」
「気にしないでいいよ。困った時はお互い様だから」
「しかし……」
「それに俺が助けたのは辰神英治じゃなくて、あなたの方だから」
「え…………?」
「だってミコさん可愛いし!」
「へ!?」
顔を真っ赤にして照れるミコちゃん。
戦いに生きてきて、恋愛経験とかなさそう。
ウブやでぇ。
「冗談はやめて下さい……!」
「冗談じゃないよ! 是非今度お茶でも……」
「何してるんですかミコ! 行きますよ!」
「すいません……。エージ様が呼んでますので」
そう言って反転してしまった。
だけど途中でくるりと振り返り。
「また会う機会あればその時にでも……!」
オッケー貰えた。
やったぜ。
可愛い子の知り合いができた。
なんかNTRっぽい雰囲気があるのは否めないけど……。
あれ?
今俺ってエージと同じことした?
ヤダ、同レベルって感じじゃない?
「ミナト…………」
あとさっきから背中が凄い熱い。
暑いじゃなくて、熱い。
カチカチ山のタヌキの気分だ」
「あの人に何言ってたの……?」
「何も言ってないゾ」
「……じゃあ今から燃やされても文句ないよね?」
「何でだよ文句ありまくりだわ! 何も言ってないって言ったじゃん!」
これが本当の嫉妬の炎ってか。
ふ。
モテる男は辛いぜ。
「……えい!」
「ぎゃああああああああ!!」
命の炎が消えるところだった。




