青海龍の洞窟1
「そろそろ俺達も行くか」
少し時間を置いて俺達も『青海龍の洞窟』へとやってきた。
海の近くにある、大きく開いた入口は全ての生物を奥へと誘うかのように、ゴウゴウと音を立てて風を吸い込んでいる。
「この中の魔物はレベルが段違いなんだろう。見てみろよ。ここから見える位置にも骨がゴロゴロしてやがる」
「魔物の死体もあるし、あれは眼鏡君達がやったんだろうな」
入ってすぐに魔物が襲って来たのだろうか。
引き締めて挑まなくちゃならんな。
「俺が前衛で索敵。シーラが魔法で中衛から援護、近接も遠距離もこなせるゼロは後衛で後ろからの敵に注意してくれ」
「役割決める必要あるか? 個々でやりゃいーんじゃねーの?」
「せっかくパーティ組んでるんだからそれっぽいことやりたいじゃん」
「ただのお前のエゴかよ……」
「それじゃあ行くぜ。『青海龍の洞窟』攻略開始だ」
洞窟の中に一歩を踏み出した瞬間、左右から同時に犬サイズのフナムシみたいな奴がウジャウジャ湧いてきた。
「ぎゃあ! キモい!」
「ん……じゃあ燃やしとく」
シーラが放った炎魔法は一瞬にしてフナムシもどき達を灰にした。
無詠唱魔法、有能すぎる。
「ヤシロ、ぎゃあって何だよぎゃあって。前衛はどうした」
「きゅ、急に来たからビックリしただけだっての」
「魔物が来ること分かってただろ。準備しとけよ」
「びびりー」
ぐっ!
こいつら俺のことをナメくさりやがって……!
あんなキモい虫みたいなのがビッグなサイズでワラワラ来たら誰でもギョッとするだろ。
俺かて無詠唱使えれば遠くから一掃するっちゅーに。
「さっきの奴らが倒した死骸とは関係なく、襲ってきた量からするとダンジョンに入ってきた奴らに発動する罠みたいなもんだな」
「実力ない奴は今のでお陀仏ってことか」
「『カイヨウ』っていう、人間の世界で言うB級の魔物だな。まぁ大したことはねー」
キモさで言えばA級だ。
前の『結晶獣の洞窟』でもそうだったけど、ダンジョン内の魔物はどうしてそんなにキモいのばっかりなんだ。
「じゃあ奥に進もうぜ」
洞窟は一本道で下へと降って行く造りになっていた。
一本道とはいっても横幅は広く、推定でも30m以上はある。
車道ぐらいだろうか。
魔物が来るにしてもすぐに気付けるだけの余裕があり、簡単に対処できるので全然問題はない。
最高難度のダンジョンとは言っても大したことはないな。
俺が強くなりすぎちゃったか?
なんつって。
「お、前方に結構広めの空間みたいなものがあるな」
「普通のダンジョンだと部屋の主みたいな奴がいるが、ここはどーだろうな。魔王が創ったもんだからセオリー通りじゃねーかもしれねー」
「部屋の主か……。ちょっと面白そうじゃん」
どんな化け物が出てきても大丈夫なように心構えはしつつ、いざ開けた空間へ!
「…………なんか死んでるな」
「…………大きい」
「こいつが本当はこの部屋の主なんだろーよ」
空間に入ってみれば、そこには生き絶えた魔物が一匹転がっていた。
体長は3m近くある、ぬめりけのある表皮が特徴的な魚人のような魔物だ。
「魔物でいいんだよな?」
「A級の『シードラン』だな。大したことはない雑魚だ」
「まぁまだ全然序盤だからか。これもさっきの奴らが倒したから死んでるのか?」
「部屋の主は倒されても時間が経てば復活する。奴らが通ってからそんなに時間が経ってないんだろーな」
「…………すごいネバネバする」
「あ! そんなの触るなよ汚いじゃん!」
「…………ミナト汚れた」
「だから言ってんじゃん。俺はもう知らん」
「…………」
「無言で俺の服で拭くなよ!」
「何してんだお前ら……」
漫才をしてる場合じゃないわ。
見る限り、先に進む道が3つに分かれている分岐ルートのお出ましだ。
どうせ進むなら、さっきの眼鏡君が通ってない道を行きたい。
なぜならダンジョンにはお宝があると言う話だ。
結晶獣の洞窟で言えば、あの最深部の所に生えていた大量の結晶、あれら全てがとんでもない量の宝になり得たからだ。
ガルムからもらったアレだけの量でも、ウン千万の価値があったからな。
ここにもそういう似たような宝があると思って然るべきだぜ。
「どれがいいと思う?」
「真ん中か右か左か。こういうのは直感が冴えてる子供に選ばせるのがいーんだぜ?」
「む…………ゼロ、それって私のこと?」
「他に子供がどこにいるよ」
「…………すごい失礼」
会った時からこの2人はずっとこんな感じだ。
ウマが合わないのか、ソリが合わないのか、水と油のように混ざらない。
イジるゼロも悪いが、最初から心を開こうとしないシーラも悪い。
同じ魔者同士仲良くしろと思いたいが……。
「そんな失礼だから、さっきの村でもアイテムをボッタクられるんだよ」
「はぁ!? それは関係ねーだろ! だいたいこれが正規の値段だって言われたんだよ!」
「……正規の値段の3倍って、シーラでも知ってるもん」
「ぐっ…………! このガキ……!」
「つーん」
前途多難すぎる。
3つの分岐ルート、俺たちは左の道を進むことにした。
特に理由があったわけじゃないけど、2人が言い争ってたから俺がスッと直感で決めた。
約50mほど進んだ辺りだろうか。
とても幻想的な世界が広がっていた。
奥行き、高さ、共に一望できるほど広い空間であり、所々にまるで洞窟を支えているかのように鍾乳石のような柱が地から天井まで繋がっている。
『結晶獣の洞窟』では結晶が輝きを放ち、洞窟の中を照らしていたが、ここでも別の何かが洞窟内を照らしているようだ。
洞窟なのに草がたくさん生えているのはその光が原因なのかもしれない。
下まで100m以上あるが、地面がハッキリと見えている。
そして特徴的なのは滝だ。
ただ水が落ちているのではなく、どういう原理かは分からないが、いくつもの水の線が絡み合うようにスパイラルしながら落ちている。
スパイラルフォールだ。
さらに天井や壁といった様々なところから滝が流れ落ち、地面に溜まるのではなく、地面を貫通して抜けていっている。
もしかしたらここのさらに地下があるのかもしれない。
「すっげぇ…………」
「ここまで綺麗なところってーのも、あんまり見たことねーな」
「…………うわぁ」
さっそく好奇心の塊であるシーラが道に沿って下に走っていった。
そのまま下まで飛び降りそうで怖い。
「魔物が出るかもしれないんだから気を付けろよ」
「大丈夫ー」
俺もシーラの後を追いかけるが、内心ワクワクが止まらない。
『結晶獣の洞窟』でもそうだったけど、やっぱりダンジョンとやらは楽しい。
元の世界でもよく洞窟を探検するような番組は見ていた。
まさかその上位互換のような所を潜ることになるとは夢にも思わなかったぜ。
「3つの分岐ルートが全てここに繋がっている……なんてこともなさそうだが、そうすると他の2つのルートもどういうものだったか気になるな」
「他の2つもこの大きさの空間があるとしたら、とんでもない大きさのダンジョンじゃない?」
「自然に出来たダンジョンよりもよっぽど広いぞ」
「やっぱそうなんだ」
「これにA級以上の魔物ってわけだから、人間だけじゃなくてそこらの魔者でも攻略は難しいだろうな」
「現時点だと、まだ大した魔物はいないんだけどね」
そう。
前評判ほど高難易度のダンジョンという感じはまだしない。
最後の部屋まで今どのくらい来ているのか分からないし、もしかしたら5分の1も進んでいない、なんてこともあるかもしれない。
つーか最後の部屋はまた俺しか開けられないんかな。
でも待てよ。
最後の部屋は異世界から来た奴なら開くことができるんだよな?
元々は魔王に売り付ける予定だったって言ってたし。
そうするとあの眼鏡君も扉を開けることができる……?
……………………。
ちょっと急がないとヤバイか?
魔王は伝説の武器を使うことは出来なかったって言ってたから、眼鏡君が使えない可能性もあるけど、眼鏡君は俺と同じ日本……っていうか世界から来てるから使える可能性の方が大きいよな……。
ダメだダメだ!
魔人を使役出来るっていう特権は俺だけが持ってるから個性があるんだ!
それを、勇者枠も異世界人枠も持って行きやがった眼鏡君に取られてみろ!
いよいよ俺は彼の劣化版じゃないか!
そんなことは許さない!
「ゼロ! 先へ急ごう!」
「お? 何だ急に」
「絶対に眼鏡君達よりも先にこのダンジョンを攻略するんだよ」
「俺だってもちろんそのつもりだぜ?」
「だったら景色を楽しんでる場合じゃないでしょうが!」
「何で怒られてんだ俺は」
「シーラ! 滝の水なんか触ってる場合じゃないぜ! 先へ急ごう!」
スパイラルフォールを興味津々に触っているシーラに声を掛けつつ俺は走り出した。
「ん……分かった」
おろ?
意外と物分かりがいい。
もうちょっとダダこねるかなと思ったけど。
「ヤシロ! どうせ目的地は下なんだろ? ここから飛び降りていった方が早いだろ」
「何mあると思ってんの? 衝撃で内臓潰れて四肢もげるで」
「表現が一々グロいな……。俺は風魔法の名手だぜ? 先行して下まで確認してきてやるよ。何かあれば戻ってくる」
「了解。じゃあ頼んだ。俺はシーラと道なりに沿って下に向かう」
「よし」
ゼロは無詠唱の風魔法によって自身の体を浮かせ、下まで下っていった。
俺達は壁際に続いている道に沿って下に降りるため、かなりの遠回りを余儀なくされる。
もしかすれば、今の俺ならガルムがやったように壁を垂直に走って下まで降りれるのかもしれないが、よしんばそれができたとしてもシーラが出来ない。
ゼロの風魔法もコントロールがムズイらしいので、2人を同時に浮かせられないと言っていた。
シーラを一人にするわけにもいかないので、俺はシーラと道なりに進む。
「! 正面に魔物だ!」
道幅は決して広くはないので、魔物が出れば戦闘は免れない。
「私が炎で……」
「いや、このまま俺が撃つ! スピードを緩めず走れ!」
魔物は3体。
蟹のような外殻をした二足歩行の生き物。
目玉が飛び出ており、例によってキモい。
『獅子脅し』を取り出し、走りながらも照準を魔物に合わせ、魔力を込めた。
ドンッという発砲音と共に魔物の硬そうな外殻に風穴を開け、魔物は奇声を上げながら吹っ飛んでいった。
余裕だ。
続けて2発目3発目と撃ち、残りの二匹も吹っ飛んでいった。
ただの魔物程度なら奇襲をかけられない限り問題なさそうだ。
「おー」
「ここから先、もっと魔物が出てくるだろうからシーラも注意して周りを見て」
「わかった」
ここからはタイムアタックだ。




