勇者もどきと再会
青海龍の洞窟。
魔王ヴィルモールが創り上げた5つのダンジョンの内の一つ。
ソウグラス大陸、ソリッド村近くの海岸に位置しており、その難易度はS級に認定されている。
しかし、S級に認定されているからといってS級討伐隊が踏破できるかと言えば否である。
A級以上の難易度を総じてS級と認定しているためその振り幅は大きく、S級討伐隊と言えども迂闊には入る事が許されないのだ。
現に、20年前にS級討伐隊として活動していた一隊が、青海龍の洞窟に挑んだが二度と地上へ帰ってくることはなかった。
世界に数隊しかいないS級討伐隊を失うのは、人類にとって大きな損失であり、それ以降討伐ギルドでは5大ダンジョンに入ることを禁止した。
だが、禁止したとはいえ強制力は特になく、伝説の武器を求めてダンジョンに挑む者は後を絶たず、そして命を落としていく。
そこへ5大ダンジョンの一つを踏破した人間が挑む。
「そう。俺である」
「…………いきなりどうしたの?」
「こいつが変なのは今に始まったことじゃねーだろ」
酷い言われようである。
聞き込みによって得た情報を元に、俺がダンジョンの説明をしたというのに。
俺達は約2週間の旅路を経て、魔王ヴィルモールが残したというダンジョン『青海龍の洞窟』までやって来た。
海岸沿いということで、浜辺を沿って進んでいくと看板が様々設置してあり、まるで観光スポットを彷彿とさせていた。
「よくこんな近くに住もうと思うよな。ダンジョンから魔物とか出て来たりしないのかな」
「ソリッド村のことか? まぁあそこはダンジョン目当てで来る冒険者を客に商売してるぐらいだからな。商売根性逞しいとは思うぜ」
最初に述べたダンジョンの情報も、大半はソリッド村で手に入れた。
もう腐るほど情報があった。
情報だけじゃなくて討伐者とかも結構いたな。
入るの禁止されてるんじゃないのかよ。
「せっかく海に来たんだったら、水着の一つもありゃいんだけどな」
「水着? そのまま入りゃいいじゃねーかよ」
「それは産まれた時の姿のまま、という意味かな?」
「ちげーよバカ。服着たままに決まってんだろ」
「これからダンジョン行くのにびしょ濡れになんかなりたくないやい。それにダンジョン行くのに寄り道してる場合じゃないし」
「…………ちょっと入ってくる」
「シーラさん。今の俺の話聞いてました? 海じゃなくて今からダンジョン行くんですけど。服濡らしちゃダメでしょ」
「じゃあ全部脱ぐ」
「よし! やっぱ俺も一緒に入るよ!」
「テメーは自分の発言にもっと責任を持て! 遊んでる場合じゃねーだろが!」
シーラが自主的に海に入りたいと言っているんだから、保護者として意見を尊重してやりたいでしょう!
「ゼロ、ダメだぜ? いくらシーラが可愛いからって俺を妬むのは。俺はシーラの保護者だから、溺れないように見てる必要があるのさ」
「今日のお前、全力でキモい」
「ん…………しょっぱぁぁ……」
あ、舐めてる。
よしよし、これも経験だ。
「おや? おやおや? なんか見たことある奴がいますねぇ」
何だ?
なんか学校でエリートきどってて眼鏡かけてそうな奴の声が聞こえてきたんだが。
「シャンドラ王国で会った時以来じゃないですか。確か名前は…………八代君でしたかねぇ」
「お前は…………丸尾眼鏡!」
「辰神英治ですよ! 誰ですかそれは…………!」
「お前の名前なんて最初から知らないし」
俺に声をかけてきた人物は、シャンドラ王国で俺とは別に召喚され、勇者としての活躍を期待されている男だった。
シャンドラ王国から逃げる際に、俺を捕らえようと追いかけてきたクソ野郎だ。
てか、あともう1人いたよな。
「あれから無事に生きてこれてるみたいですね」
「おかげ様でな。あの節はどーも。つーかもう1人はどうしたよ」
「別行動ですよ。お互い勇者として別々の道を歩んでますから」
「エージ様、この人とお知り合いなんですか?」
クソ野郎エージの後ろには騎士の格好をした女性がいた。
健康的アスリート美人といった具合で、どう見ても丸尾眼鏡には釣り合っていない。
他にもゴリマッチョな男に、魔法使いの格好をした女性がいた。
「ああ、ミコは知りませんでしたね。この人はシャンドラ王国の王の間において、上級魔人を召喚させた人物ですよ」
「!! こいつが国王を脅かそうとした……!」
ミコと呼ばれた騎士さんが俺に敵意をギンギラと向けてきた。
この眼鏡、嫌な言い方してくんな。
「まぁまぁ。その件は既に終わった話ですし、それに彼も悪気があったわけじゃありませんから。許してあげましょう」
「さすがエージ様……。器の大きな方です!」
「他の世界から呼ばれた勇者は違いますなぁ!」
「素敵です!」
なんだこりゃ。
何で俺はこいつの太鼓持ちを見せられてるんだ?
訳分からん。
「おいヤシロ。何だよこいつ。お前以上に変な奴だな」
「俺以上は余計だろ。知り合いっていうか敵っていうかなんていうか……」
「おや、そちらの方はお連れですか? いやぁ良かったですね八代さん。あなたもこちらの世界に来て仲良くしてもらえる人がいて。私も、こちらの御三方は私の旅について来たいと言って下さった方々でしてね、特にミコは実力だけで言えばフロイラインさんと同等と言われるほどの人なんです」
「そんな……私なんかがフロイライン隊長と同格などとは……恐れ多いです」
フロイラインってのは確か、シャンドラ王国の警護隊で1番の実力者って言われてる人だ。
模擬試合とは言え、俺が叩き伏せた。
「ふーん」
「それに何より美しいですからね!」
「やめて下さいエージ様……恥ずかしいです」
騎士さんが頬を赤らめて、顔を手で隠れるように覆った。
本格的になんじゃこれ。
ただ単に自慢したいだけじゃん。
かったるいからはよ去ねや。
「それで、君もまさか伝説の武器があるという、『青海龍の洞窟』に?」
「まーな」
「やめておいたほうがいいですよ? ここはかなりの実力者でないと入れないって話ですから。あなたでは命を落としてしまうでしょうねぇ」
「俺がここで死のうが眼鏡君には関係ないだろ」
「メガッ……! あなたのことを心配して言ってるんですよ」
「さすがエージ様! 犯罪者にまで情けを与えるとは……感服致します!」
誰が犯罪者だこの野郎!
「まぁこのダンジョンは私達が踏破しますので、せいぜい八代君もーーー」
「ミナトー、変な生き物いたー」
「!!!」
シーラがカニなのかエビなのかよう分からん生き物を手に持ってこちらにやってきた。
「うわぁ……なんだよそれ」
「私も分かんない。あげる」
「いらんわ!」
「…………………………」
「どうした眼鏡君」
エージが頬を紅潮させながら、わなわなと震えていた。
「そ……その女性も……八代君のお連れですか……?」
「そうだけど……?」
はっ!
もしやこいつ……!
「そうなんだよー! こいつも俺の仲間でさー! シーラ・ライトナーって言うんだ。ほら、シーラも挨拶して」
「………………こんにちわ?」
「こ、ここ、こんにちわ!」
「エージ様…………?」
やっぱそうだ。
この眼鏡……………………シーラに惚れてやんの!
はっはっはっ!
そうだろそうだろ!
俺は慣れてるからあれだけど、本来シーラは誰もが二度見するほど可愛いんだ!
なんという優越感だろうか!
「シーラさんと……言うんですね?」
「……………………そうだけど。ミナト、この人誰?」
「良かったら私と一緒に旅をしませんか!?」
いきなり何言い出したこの眼鏡!!
誰に断りなくスカウトしてやがんだ!
「おいエージさん、どうしちまったんだ……?」
「エージ様…………」
「なんかスゲーおもしれー状況だな。笑うわ」
ゼロ、後で覚えとけよ。
「………………やだ」
「なぜ!?」
はっ!
断られてーら!
「知らない人には付いていっちゃダメって、ミナトに言われてるから」
「よく覚えてたなシーラ。偉いぞー」
俺がシーラの頭を撫でると、シーラは満足そうな顔をした。
「くっ! …………では私がこのダンジョンを踏破することができたら再度聞きます。それまで考えておいて下さい!」
「おい、いい加減にしろよ。保護者である俺を通さずに何勝手に話進めてんだ」
「君を通したところで許可が貰えるのですか?」
「断る」
「だから直接交渉してるんです。無駄だと分かっていたので」
おい!
それでも俺を通すのが筋ってもんだろ!
「それでは失礼します。行きましょう、皆さん!」
「「「えー………………」」」
お連れのモチベ下がってんじゃん……。
エージ達は先にダンジョンへと向かっていった。
「クックッ。スゲー修羅場みたいだったな」
「笑い事じゃないぜゼロ。なんなんだよアイツは」
「ねぇ…………結局今のなに?」
「…………忘れていいイベントだよ」
俺達はエージ達と被らないように、少し時間置いてからダンジョンに向かうことにした。




