追跡ゴッコ
翌日、国の中を2人でブラブラしていると討伐ギルドを見つけたので、中に入ってみた。
雰囲気はここもあまり変わらず、酒場とギルドがくっ付いたような所だった。
掲示板を見てみると、さっそく昨日のヤクザ風の男殺人事件に関する情報を求めている掲示が貼り出されている。
昨日の段階で国の兵士に対して、銀髪の青年が重要参考人じゃないかと申し送りしておいた。
犯人、とまでは言わなかったが、直前に揉めているところを見れば、自然と疑われるポジションだろう。
「殺人……有力情報には報酬50万Dですか。少々気になりますね」
気付けば俺の隣に細身でハット帽を被った男が立っていた。
今のは俺に言ったんだろうか。
独り言じゃなくて俺に話しかけたんだろうか。
変に反応して違った場合気まずいしなぁ……シカトでいっか。
「貴方もそう思いませんか?」
やっぱ俺に聞いてんのかよ!
その男は帽子のほかにロングコートのようなものを着ており、俺が少し見上げるほどに身長が高かった。
185cmぐらいあるだろうか。
中でも特徴的だったのは細い糸目だ。
まるでシジミだ。
シジミさんと名付けよう。
「誰ですか?」
「失礼。A級討伐者のドリトルと申します」
いや、アンタはシジミさんだ。
それにしてもA級。
提示されたIDを見ても本物っぽいし、個人でA級になるのは討伐隊でA級をとるよりも難しいって聞いたな。
かなりの実力者か。
「俺は八代と言います。どの辺りが気になります?」
「情報だけで50万出す所がですよ。ただの殺しにこれほど報酬を出すのは珍しい」
「殺された人の親族の方が出してるとか」
「それならば謝礼と書かれるでしょう。報酬ということはギルドで出しているということです。何か裏がありそうな気がしますが……」
裏があるも何も、料金トラブルのケンカ口論から銀髪の青年が勢い余ってやっちゃったとしかおもえないんだけどなぁ。
でもシジミさんはA級って話だし、そんな無能じゃなさそうだから本当に何か裏があるのかもな。
「そちらの女性も八代さんのお連れですかな?」
「ええ。同じ討伐隊のチームメイトでシーラと言います」
「真っ赤な髪……」
シジミさんは何かを確かめるようにジッとシーラを見ていた。
シーラはシジミさんに興味がないのか人見知りなのか、目すら合わせようとしない。
「どうしました?」
「いえ………………お綺麗な方ですね」
シジミさんがニッコリとした。
何だよ見惚れてただけかい。
「貴方達の討伐隊名は何と言うのですか?」
「『紅影』ですけど」
「見た感じかなり戦い慣れしてそうな雰囲気だったので、つい声を掛けてしまったのですが……ランクはBとか?」
「俺も彼女もCですよ。ペーペーの雑魚です」
「あれ? 見立てを外しましたか。でもランクが低いからといって実力が低いとは限りませんからね」
何だこの人。
やたらと鋭いな。
こういうタイプの人はなんか絡み辛いわ。
「もしよろしければ私と一緒にチームを組みませんか? 今、私は3代目勇者にも負けない討伐隊を組んで魔王討伐を目指しているんです」
唐突に勧誘かよ!
なんかすげー勝手に話進めてくなこのシジミさん。
だが残念。
相手が悪かったな。
俺はNOと言える日本人なんだぜ?
「申し訳ないですけど、俺らも目的があって旅してるんで。せっかくのお話ですが……」
「残念、フラれてしまいましたか。まぁ気が変わったら言って下さい。私は当分この国にいますので、ギルドの掲示板にでも書いといてもらえれば」
「考えておきます」
そう言ってシジミさんは俺達から離れていった。
結局よく分からん人だったな。
「ミナト……誰だったの今の」
「シジミさん」
「シジミ?」
「そう。シジミさん」
頭に?マークを浮かべているが、俺もよく分かっていないからしょうがない。
掲示板で他のクエストを見て見たが、特にこれといって目に付くものはなかった。
ここから割りかし近かった例の村とかにも魔者や魔人がいたのに、それ関連のクエストが無かったのには驚きだ。
シャンドラ王国も本来は魔族関連の争いは少ないって話だったし、これが本来の社会なのかもしれない。
俺がダンジョンから出てきた時が丁度タイミングの悪い時期だったんだろうな。
「特に何も無かったから、魔法の練習でもしに行くか」
「うん!」
魔法の使い方に関しては、既にシーラのほうが俺よりも上だ。
だけどシーラは感覚で全部行っているため、仕組みを理解してない。
だから炎魔法の応用をさせるには自分で特訓をして覚えていくほかない。
魔法のスペシャリストかなんかがいれば教えてもらえるんだけど……。
マリン王国の中には広場のような所もあったので、そこで練習することにした。
「ここなら使っても問題なさそうだよな。じゃあ周りの人に気を付けて使うんだぞ」
「うん!」
シーラが魔法を使い始めたのを見て俺も日課の修行を行おうとしたのだが、気になる人物が目の端に映った。
飯屋で見かけた例の銀髪の青年だ。
青年は広場から少し離れた位置の路地へと消えていった。
有力な情報には50万D……。
気になるし後を尾けてみようか……。
べ、別にお金に釣られてるわけじゃないんだからね!
殺人鬼が近くをウロウロしてたら不安なんで、確かめに行くだけなんだから!
俺は魔法を使うことに夢中になっているシーラを置いてコッソリと、銀髪の青年の後を追った。
路地へと入っていくと、徐々に小道のようになっていくのが分かった。
あまりよろしくない雰囲気である。
暗殺者が行動に移すとしたら、こんな路地裏だろう。
そんなことを考える。
特に道が二手に分かれたりしているわけではないから、このまま追えば見失うことはないはずだが、あまり積極的に進みすぎてしまえば銀髪の青年に気が付かれてしまう恐れがあるため、なるべく慎重に、かつ引き離されないペースを保った。
もし本当に殺しを行なっている人物だった場合に困るからだ。
ところが俺の心配は他所に普通に路地を抜けて、開けた場所に出てきた。
銀髪の青年の姿も見失ってしまった。
追跡活動はあんまり得意じゃないのかな、俺。
と、視線を左に向けた瞬間ゾッとした。
男が1人死んでいた。
40代ぐらいの男性だと思うが、脳天にナイフが刺さって血を流しているため、一目で殺されていると理解できた。
今の一瞬で?
銀髪の青年が殺した?
姿が見えない今、どこかに隠れて俺のことも狙っている?
いくら感覚が常人とは違って鋭敏になっている俺でも、それ以上に銀髪の青年がデキる奴であれば不意に刺されかねない。
すぐにでもこの場から離れるべきだ。
俺は元来た道をダッシュで引き返そうとした。
「ストップ」




