マリン王国
日が落ちてまもなく闇が襲ってくるという時間帯ギリギリ、俺達はマリン王国に到着した。
スサノ町から村まで2時間、村からマリン王国まで1時間の距離にあった。
ちなみにここはまだソウグラス大陸の中間地点辺りであり、ここからサンクリッド大陸に行くにはまずソウグラス大陸の端まで行き、そこから海を渡って移動しなければならない。
それぞれの大陸は陸続きではないため、どの大陸に移動しようとも海を渡ることが必要とされるのだ。
厄介なことこの上ない。
森を抜け、川が流れている道を沿って進んだ所にマリン王国はあった。
入り口の所に当然のように門番がおり、誰でもウェルカムといった国ではないようだったが、討伐者IDを提示したところ割りかしすんなりと入ることが出来た。
身分証変わりにもなるとは便利なシロモノだ。
「疲れた」
「な。とりあえずどっかで飯食ってから休もうぜ」
飯を食わねば生きていけんぜ。
割りかしこの世界の飯は侮れない。
米こそないものの、肉系には困らないみたいだし。
少しばかり中に進んだ所、食事ができそうな良さげなお店があった。
スサノ町で行ったクエストの報酬が大量にあるため、現在までお金に困ることはない。
流石に今度からは計画的にお金を使っていこうと思う。
ちなみに国が違うからといって通貨が変わるようなことはないらしい。
元は別の通貨だったみたいだが、魔王軍に立ち向かうために連合国としてシャンドラ王国が頭になった際に支援等が円滑に行われるように全ての国で通貨はDに統一されたとのことだ。
ただし、あくまでソウグラス大陸内だけの話であり、別の大陸に移動すれば通貨はまた変わるらしい。
キィと扉を開けて中に入ると、タイミングが悪いのか俺の悪運の引きが強すぎるのか、絶賛揉め事中だった。
「弁償しろ! 俺の大事な一張羅が汚れちまったじゃねぇか!」
「だからワザとじゃねーんだって。ちょっと躓いちまっただけなんだよ。服もそんなに汚れてねーじゃん」
「ふざけんな赤いシミができてんだろ!」
顔に傷のある男が銀色の髪の男に掴みかかっていた。
ヤクザみたいな恫喝をしている男の服には確かに赤いシミがあったが、ほんの数滴のシミである。
銀色の髪の男は俺とタメか少し上ぐらいの年齢に見える。
胸ぐら掴まれてるのによくあんな冷静でいられるな。
俺だったら目泳いじゃうよ。
「汚れてることには変わりねーんだ! 弁償しろ!」
「分かった分かった。いくら払えばいい?」
「10万Dだ!」
おーふっかけたね。
「オーケー。宿に金があるから取りに行こう」
「けっ!」
そう言ってヤクザ風と銀髪は店から出て行った。
何事もなく終わってとりあえず良かったわ。
また俺も巻き込まれるんじゃないかと内心ヒヤヒヤでした。
「……ご飯」
「そうだな。頂こう」
ホントこの子はマイペースだな。
下手な事では物怖じしないのか、ただ周りの事に関心がないのか……。
俺達が席に座ると周りの人達がこちらに向かってヒソヒソと話しているのが分かった。
俺がイケメンすぎるから注目を浴びているのか。
人気者はつらいぜ。
……なんて、たぶんシーラを見て噂してるんだろうな。
真っ赤な髪っていうのはこっちの世界でも珍しいみたいで、よくすれ違う人が二度見している。
それに加えて美人だ。
性格はまだまだ子供だが良い感じに成長している。
子役が育成に成功した気分だよ。
珍しいと言えば、さっきの銀髪もこの世界じゃあまり見ないな。
黒か茶か金。
人の髪色はこれが基本みたいだし、それ以外はもしかして魔族か? って、そしたらもっと大騒ぎしてるか。
土地や人種によりけりなんだろうそこは。
俺達は席に着き、簡単に飯を済ませた。
やはりここの飯もそんなに悪くない。
元の世界にも引けを取らないおいしさだ。
シーラも満足したのか、ニコニコと上機嫌になっている。
「ミナト、この後は何して遊ぶ!?」
「いやほら、夜も更けてきてるんだからさ、もう今日は宿とって休もうぜ」
「えー」
飯食べたら元気になっちゃったよ。
さっきまで借りてきた猫のように大人しかったくせに。
「また明日、この辺りを見て回ろう」
「……分かった」
物分かりは凄いいいんだよな。
あんまりわがままは言わないし。
それはそうとして近くにいい感じの宿はないかな?
多少はしっかりしたところがいいし。
俺とシーラはお店を出て、近くを少し散策していた。
人通りもそんなに多くはなく、明かりも松明がいくつか点在しているだけなので少し裏手を見て見たりすると、社会の闇が広がっていそうだった。
…………………というより人が1人倒れている。
こんな裏手で倒れてる人とかリアルに社会の闇を感じる。
関わったら絶対面倒くさい奴だよなこれ……。
「なんか人倒れてる」
「あっ、ちょい待ちシーラ!」
俺が避けようとしたのにシーラが積極的に動いてしまった。
いつもの消極的ガールは何処に?
「これさっきいた人だ」
「え? さっきいた人ってどいつよ」
俺も近付いて僅かな光を頼りに倒れてる人の顔を覗き込むと、確かにさっき店で揉めていた当事者の1人だった。
だがそこに倒れていたのは、絡まれていた銀髪の青年ではなく、顔に傷のあった一見ヤクザ風の男だった。
その男の服には先程とは比較にならないほどの赤いシミがついており、男が既に生き絶えているのが分かった。
「何だこれ……飲み物のシミ……じゃないよな。数滴のシミの揉め事からこんなことになっちゃったのかよ」
これをやったのはさっきの銀髪の青年……?
こいつの自業自得ともいえるけど、こんなにあっさり人を殺すようなヤバイ奴だったのかよ。
良かった関わり合いなくて。
「ミナト、どうするの?」
「どうするも何も……この国の兵士とか役人の人に知らせておくしかないよなぁ。このままにもしておけないし」
その後俺達は兵士の人を呼んで男を引き取ってもらうことになった。
着いて早々に嫌な気持ちにさせられてしまった。




