3代目勇者グリム
3代目勇者グリムは、生まれながらにして勇者だった。
アクエリア大陸の小さな村の平凡な夫婦の元に生まれた彼は、既に左目に紋章が刻まれていた。
その時には左目に紋章があるものが勇者として、普通の人間よりも能力的に優れているとして認知されていたため、その話はすぐにアクエリア大陸で最大の国、ミラージュ王国へと伝えられた。
そして何よりも、グリムが生まれたのは2代目勇者ガルムが魔王リネンを討伐し、行方不明になってから僅か2年後のことである。
希望を失った人類全体からすれば、何とも嬉しいサプライズだ。
だが、生まれたばかりの勇者を確実に守るため完全な情報統制をとり、グリムが成長するまではその身を隠すこととし、ミラージュ王国の王室で保護することとなった。
外部に勇者が誕生したと漏れれば、必ずそれは魔王達の耳にも入ることとなり、いくらアクエリア大陸最大の国であると言えども、狙い撃ちされればひとたまりもない。
魔王達が結束しないのが人類にとっての唯一の希望なのだから。
両親についてもその貢献度の高さから、グリムと共に王国暮らしをすることとなる。
グリムはミラージュ王国にて剣術、魔術、勉学と小さい頃から勇者としての自覚を持たせるような英才教育が施され、10歳になるころにはA級討伐者にも引けを取らない実力となっていた。
初代勇者エレク、2代目勇者ガルムは国に保護されるといったことはなく、剣術は独学で学び、オリジナルな戦闘法を編み出していたが、グリムはミラージュ王国で使われている型のある剣術を極め、さらに魔術も専門家から学んでいたため初代、2代目勇者よりも優秀であると言われた。(事実、15歳の段階で生産魔法は全てマスター級、光魔法も取得していた)
さらにグリムには不思議な力があった。
魔者、魔人、使徒、魔王。
所謂魔族と呼ばれる者たちが近くにいれば、その場所を把握することができる『索敵能力』があった。
その効力は半径100mにまで及び、その範囲内であれば不意打ちは一切通用しないものとなる。
国の人間はそれが魔法の一種だと思っていたが、それは左目に刻印された『勇者の証』による勇者の固有スキルであるということを、本人、及び現在の仲間以外は知らない。
グリムが13歳の時、遂にミラージュ王国はグリムを魔王討伐の旅に出すことを決定づける。
その際、グリムより3つ年上で共に剣術を競い合ってきた幼馴染ナイルゼン・ベールと、グリムと同い年の天才魔術師フェリス・グリゼルがお供して付いていくことになった。
当初はミラージュ王国の最大戦力である星宝三龍将のうちの一人を付けるという話だったが、それをグリムが拒否した。
「いつまでも誰かの後ろにいたら、いざという時に誰かを守ることなんて出来ない。そんなのは勇者じゃないよ。勇者は皆んなの前に立つから勇者なんだ」
勇者としての自覚を持たせようとした結果、持ち過ぎてしまったようだ。
それから3年、グリムは世界を旅をしたのち再びミラージュ王国に戻ってきた。
ナイルゼンとフェリスも無事なのはもちろんのこと、その道中に魔術師のアースと討伐者のシャイナ・モールテンを仲間にしており、5人パーティとなっていた。
その3年で魔王と対峙することはなかったが、魔王の右腕と称される使徒の一人と戦い、討伐に成功している。
さらに戻ってきた際に当時の星宝三龍将と一騎打ちを行い、全て撃破した。
英才教育を受けてから13年、外の世界に出てから3年。
常人とは遥かにレベルの違う積み重ねてきた厚みというものが、3代目勇者グリムという男を形成していた。
こうして3代目勇者の存在は、産まれてから16年経って初めて世界中の人間、魔族が認知することとなった。
そして現在、ミラージュ王国に戻ってきたときからさらに2年後、現在18歳のグリムは勇者にしてS級討伐者にしてS級討伐隊『グリモワール』のリーダーとして魔王討伐を掲げている。
現在は魔王シルバースターを討伐目標にしており、サンクリッド大陸を中心に討伐活動を行なっていたが、魔王ガゼルがサンクリッド大陸にも進行し始めていたのを受けて、魔王ガゼルの支配が進んでいた地域を解放させる方向にシフトした。
魔王シルバースターは人間を奴隷として生かしておくが、魔王ガゼルは問答無用で殺戮するため、優先順位が変わったのだ。
「俺が世界を救ってみせる」
勇者グリムは今日も勇者であった。




