英雄と勇者
デウロスは血をボタボタと垂らしながら呻いていた。
「クク……この俺が……人間に圧倒される日が来るとはな……」
「まだ笑える余裕あるのか……本当に痛覚死んでるのか?」
「お前はランクCだと言っていたな。これほど強くてさっきの雑魚よりもランクが低いのはどういうことだ?」
「諸事情。というより魔者が何をそんなに肩書きにこだわってんだよ。そんな見聞きしたものだけで判断してたら痛い目見るぞ」
もう痛い目見てるんだけどね。
「……俺達の……魔王様の国では肩書きが全てだからだ。実力があっても地位が無ければ使われる」
「シビアなんだな」
俺は銃を取り出し、デウロスの頭に狙いを定めた。
「この状況でも近付いて来ようともしないのか。ククク……中々に用心深い奴め」
「近付いて油断してズドン、なんてこともないわけじゃないしな。魔法にそういうものがあるかもしれないし」
「その武器も見たことがねぇ。獣も恐れるような武器、人間の進歩も目覚ましいな」
…………これはお前ら側が作った奴だけどな。
「俺を殺すのか? いや、殺せるのか?」
「別に殺せないわけじゃない。ただ、殺す必要がないなら殺さなかっただけだ。でもお前は人を殺し、俺の仲間を泣かせた。その報いを受ける必要がある」
こいつは人間じゃない。
人間の姿をしている悪魔だ。
ここで俺が殺らなきゃこれから先、もっと被害に遭う人たちが増える。
人間として一線は越えたくないなんて言っておきながら、すぐにこんな展開だ。
本当、この世界はちょっとシビアすぎるよな。
弱くても強くても決断を迫られて、命を奪ったり落としたりする世界。
「嫌な世界だ」
「……この世界がか? 俺はそうは思わねぇな。こんな刺激的な殺し合いができるんだ。最高じゃねぇか」
「自分が死ぬ間際でもよくそんなセリフが吐けるな」
「クク……死ぬ間際か。俺を誰だと思っている? 魔王ガゼル様の第1侵攻隊隊長デウロスだぞ」
ニヤリとしながら吐いたその言葉に言い知れぬ不安を感じた俺は反射的に引き金を引いた。
ドンッ! という発砲音とキュインという音が重なり、デウロスの姿が消えた。
雷魔法で動いていた時とは違う、ほとんどワープに近い消え方だった。
「逃げられたのか……?」
結局追い詰めていたはずの敵に逃げられてショックを受ける反面、まだここでは一線を越えなくて済んだとホッとしている自分がいて複雑な気分になった。
「ミナト……」
「悪い、逃げられた。どこにも怪我はしてない?」
「私は平気。ミナトは?」
「俺も大丈夫。奴はここから一瞬で移動する魔法か何かを使ったってことなんかな。そんな便利な魔法あんの?」
「分かんない」
「だよなぁ……」
俺達の弱点は究極的に魔法に対する知識が乏しいことだ。
俺もシーラも魔力量はかなり多いと思うけど、それを上手く使い切れていない気がする。
「はぁ……それにしても疲れた」
「私も……なんか身体がダルい」
「魔力をほぼ使い切ったからじゃね? でも魔力が少なくなったガルムとかは普通に動けてたし……単なる気疲れか?」
「ちょっと……眠い……」
シーラはそのままコテンと俺にもたれるようにして眠ってしまった。
仕方ないのでシーラをおぶって近くの民家に入ることにした。
子供の時の姿なら楽だったが、今の姿をおぶると少しばかりキツイ。
重いとかそういうことじゃないんだよ。
重さなんて今の俺にとってはほとんどあって無いようなもんだし。
要はそこじゃなくてさ、成長したシーラの身体が……ね? っていうことですよ。
察してくれ。
幸いにも近くの民家の中には住人の死体があるなんてことはなかった。
とりあえずはここで休ませて貰おう。
本当は俺もさっきの生き残りの討伐者と一緒にこの村を探索したいけど、無防備なシーラを1人にするわけにもいかないし、敵もさすがにいないだろう。
ということでグッナイベイビー。
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「クク……癪とはいえ、ジャガーノグの野郎の魔法を身体に刻まれておいて良かったぜ。一度のみ印を付けたところに戻れるテレポート魔法。いずれは奴の〝使徒〟のポジションも俺が奪うが……今はまだ我慢だな……」
デウロスは先程までいた村から遠く離れた地、別の大陸にワープしていた。
ここは魔王ガゼルが既に堕とした国であり、現在では魔王側の拠点として使われている場所になる。
「ヤシロミナトに赤い髪の女……いずれ借りは返しに行くぜ…………。おい! 誰かいねぇのか!?」
デウロスはテントのような所から、切り落とされた右腕を抑えながら外に出た。
「………………なんだこりゃあ」
そこで見た光景は人間に敗北した事実よりも衝撃的で、ただただ茫然とした。
一面焼け野原で、拠点としての機能は全て無くなり、同胞の死骸が無数に転がっていた。
先程まで自分達がしていたことがそのまま目の前で起きているのだ。
「どうなってやがる。俺達の拠点を潰そうとするような奴がいるのか? ガゼル様の領土だと知っていて? 報復が怖くねぇのか」
突然遠くのほうで爆発音が聞こえた。
現在進行形で戦闘が起きており、デウロスは爆発のした所へと向かった。
向かっている途中にも何度も戦闘音がしている。
瓦礫の上からデウロスが戦闘が起きている所を見ると、1人の人間が魔族を斬り倒している瞬間だった。
「お前がコレをやったのか!」
デウロスは電撃を身体に流し、一瞬で人間の背後へと移動した。
「がっ! あああああ!」
だが、背後に移動したと同時にデウロスの身体には深々と剣が突き刺さっていた。
まるで元々剣がそこに準備されていて、自ら刺さりにいったように。
この移動方法の弱点はそこにある。
「お前がこちらに向かっていたのは視えていたよ」
「ぐっ……てめぇ……。視えていただと? 俺は完全にお前の背後を取っていたんだぞ」
「俺には関係ないよ。お前らがどこにいようが俺には分かる」
人間が剣をデウロスに刺したまま振り返った。
その人間の左目には『III』のような紋章が刻まれていた。
「お……お前はまさか……勇ーーー」
デウロスがその続きを言うことは出来なかった。
既に真っ二つに斬られ、生き絶えてしまっていたからだ。
「討伐完了。これでこの辺りにはもう魔族はいないな」
「グリム〜! こっちは片付いたよ〜!」
「グリム! こっちも処理終了だ」
「異常なしね〜」
「バッチリじゃ!」
左目に紋章が刻まれた青年の元に仲間と思われる男女4名が集まってきた。
誰一人として傷ついた者はおらず、皆が一人の青年を慕っていることが見て取れる。
「みんなお疲れ。これでまた一つ人類は勝利に向かったはずだ。この調子で頑張っていこう!」
「「「「おー!」」」」
彼こそが3代目勇者グリム。
人類にとっての最後の希望である。




