旅人なんです
一本道を歩いて向かうは見知らぬ土地。
魔族と戦争中というこの世界がどうなっているのか、この目で確かめに行こう。
きっと過ごしやすい場所が見つかるはずだ。
「って思うんだけど、どうよ」
「……何でもいいよ」
何だよ冷めてんなぁ。
もっと懐いてた気がするんだけど、これがいわゆる倦怠期ってやつですか。
「…………ミナトと一緒なら」
……人の心を弄ぶのが上手いですなぁ!
これは将来小悪魔になりますぞ!
「嬉しいこといってくれるじゃん。でもぶっちゃけて聞くけどさ、シーラは元々魔族なんだろ? それが人間に捕まって酷い目に遭って。人間のことを恨んでたりしないのか?」
シーラは少し考えるようにしてウーンと唸ったあと、難しい顔をしながら答えた。
「そもそもどうして森の中にいたのかよく分かんない。どうしていいか分からなくてフラフラしてたら、あの人達に捕まって連れてこられた。酷いこととかいっぱいされたけど、ミナトは酷い事しないから好き」
質問した内容と返ってきた答えが微妙に違うけど、家族を殺されて連れてこられたってわけでも、親に捨てられたってわけでもなくて、1人でフラついていたところを捕らえられたのか。
一体どういう理由で森の中なんて1人でいたんだろうか。
もう少し打ち解けることができたら深く聞いてみることにしよう。
「確かシーラは魔法が得意な魔族なんだってな」
「知らない」
「使えないのか?」
「使い方分からないもん」
「ええ……。今後自分の身を守る上でも自衛の手段ってのは必要になると思うぜ。魔法ぐらいは使えるようになったほうがいい……って、そういう俺は雷魔法しか使えないんだけどな」
「そうなの? なんで?」
「さぁ? 俺だって分かんねーよ。もっと水とか炎とか使ってみたいんだけどな」
「じゃあ私がミナトの代わりに魔法を使えるようになる」
「お、いいじゃん。そしたら俺が前衛でシーラが後衛って形でパーティ組めるな」
「うん。だから魔法教えて」
はい無理難題。
だから俺自身、魔法の使い方が分からんのだって。
ガルムから教わったのも、ほとんど感覚的な話で論理的に説明されたわけじゃないから、誰かに教えることなんて出来ないし。
「…………こういうのは誰かに教わるんじゃなくて、自分で出来るようになるのが一番いいんだぜ?」
「……そういうものなの?」
「そういうものなの!」
「ふーん」
シーラが疑いの目を向けてくる。
さすがに適当なことを言いすぎたか。
「とにかくだ。これから先、何が起こるか分からないから、身を守るすべは持っておくべきって話だ。そのうち魔法に詳しい人がいたら、その人に聞こうぜ」
「うん」
なんとか言葉を濁してシーラを納得させたところで、気付けばニーナさん一行を助けた草原まで戻ってきていた。
相変わらずだだっ広いところで心が和むなぁ。
「………………なんだアレ」
俺がいるところから随分離れた所になるが、なにか得体の知れない生き物の大群がシャンドラ王国の方向に進んでいるのが見えた。
狼みたいだったり、鳥みたいだったり、蜂みたいだったり。
その中でも一際目立っていたのが、青い体をした二足歩行の何か。
遠すぎてよく分からないが、アレに似たのをつい最近見たことがある気がする。
なんだったか…………。
まぁ何はともあれ、関わらないのが一番だよな。
「シーラ、行こう」
「うん」
大群がこちらに気付かないうちに、俺達はそそくさとその場を離れた。
さらに一本道をひたすら歩いていくと、俺が抜けてきた森を見つけた。
この森の何処かに、1ヶ月過ごした洞窟があるはずだ。
その洞窟に行けば結晶石を山ほど採って、金に困らない生活を送ることができると思うが、見つけるまで木ノ実や昆虫食で過ごすなんてキモい生活は送りたくないから、無難に次の町を目指すことにする。
と、ここでふと今後の一つのすべき目標のようなものを思いついた。
「そうだよ。この洞窟以外にもヴィルモールが作った洞窟が他に4つあるって話じゃん。そこに行って俺のこの武器を強化するって目標があるじゃんか」
そういやこの武器にもそろそろ名前付けないとな。
「洞窟?」
「そうだよダンジョンだよ。次の町に行ったら、そこら辺を調べてダンジョン攻略しようぜ!」
「えー…………怖そう」
「怖くなんかないって。ちょっとキモい虫がいるのと、あとは………………」
言ってて思い出した。
そういやダンジョン内は魔物以外にも、ガルムが苦戦するような魔人がいるんだった。
シーラなんか連れていくことできないし、俺も1人で入って生きて帰って来れる保障がない。
なによりぼっちは寂しい。
俺がウサギだったら死んでる。
やっぱりこれは却下の方向にするか…………。
「やっぱり何でもない」
「…………変なの」
そろそろ日が暮れてきたので、俺達は仕方なしに野宿をすることした。
食べるものが何もないのは少々ひもじいが、時たま通る馬車に乗った商人が、俺達の姿を見て恵んでくれることに期待しよう。
乞食いて乞食いて乞食王だ。
次の日の朝、俺達は再度道なりに進み始めた。
魔物が出るかもしれないと思い、周りを警戒するためにも起きていたので少々睡眠不足でふらつく。
それでも1日寝ないぐらいじゃ人間死にはしない。
夜勤で働いてる人なんかは夜通し起きているんだから。
「ちょっと腹減ったなぁ」
「うん」
この辺りになってくると、左右を森で囲まれているからかウサギのような動物や、鹿のような動物が現れるようになった。
あくまで似ているというだけであって、本質的には違う生き物だろうけど。
「あれとか食べれんのかな」
「分かんない」
「まぁ捕まえたところで料理なんて出来ないんだけどな」
でも、もしかしたら物々交換は可能かもしれない。
乞食王にはなれなかったが、シャンドラ王国の方向から馬車に乗った商人はなんだかんだ結構見かけたし、お金になりそうなものを持っていけば食べ物と交換してくれるかも。
そうと決まれば善は急げ、ならぬ膳は急げだ。
俺は銃を取り出し、魔力を流し込む。
ピョコピョコと可愛らしく跳んでいるウサギらしき生き物に照準を合わせた。
そして引き金を絞る。
ドンッと音がし、ウサギが吹っ飛んだことから命中したことが分かった。
すまない可愛いウサちゃんよ。
こればっかりは仕方がない。
仕方がないんだ。
そういう世界だから。
「まさしくウサギって感じだけど、目の色が緑色だな。なんていう生き物だろうか」
「可哀想……」
「そんなこと言うなよ。こうでもしないと俺らが餓死するんだから」
実際俺も生きてる生き物を殺して食べるなんてのは初めての経験だ。
この世界に来てからも、俺は食事に関しては誰かに任せっきりだったから、少しながら戸惑いがある。
「後はこれをどうするかだけど……」
ドタドタと俺達が通って来た方向から音がしてきた。
何かが走っている音だが、昨日から似た音を何度も聞いているので正体については直ぐに分かる。
馬車だ。
「ヘイタクシー!」
「何だ何だ!? 道のど真ん中に立ってるんじゃない危ないだろうが!」
「おっちゃん! ちょいとこの生き物と食べ物交換してほしいんだけど」
「物々交換か? 悪いがそんなことをしている場合じゃないんだ。お前達も直ぐにここから離れた方がいいぞ」
「なんで?」
「昨日の夜中、シャンドラ王国に魔王の軍勢が攻め込んできたんだ! ここ何年もそんなことはなかったのに…………今思えば、付近にA級の魔物が現れていたのは魔王の手が伸びてきている前兆だったのかもしれんな」
もしかして、昨日の夕方草原で見たあの大群がそうだったのか?
俺達に追っ手が来ていないのも、やたらと馬車が通っていたのももしかしたらそのせいか。
「ここにも魔王の軍勢が来るかもしれないからな、お前達も急いで離れた方がいい」
「だったら俺達を後ろに乗せてくれよ。人が2人乗れるぐらいのスペースはあるだろ?」
「なっ……! 勘弁してくれ。人数が増えたらその分、メナードホースが疲れるじゃないか」
この馬っぽいの、そんな名前なのか。
「タダでとは言わない。もし魔物が現れた時は俺が戦って追い払ってやるよ。それぐらいのことはできる」
そう言って俺は銃を地面に向けて1発撃った。
音と共に地面が抉れ、おっちゃんは音にビックリして危うく馬車から滑り落ちそうになった。
「どう? この先、その魔王の手先の魔物とかが現れないとも限らないとも思うけど」
「…………分かった、乗れ! このままここに置いて行くのも忍びない!」
「やったぜ! シーラ、こっから先は乗り物移動だ」
「……やったー」
なんかあんまり感情のこもっていないやったーだな……。
とりあえず移動力確保だ。
「よし、乗ったな。それじゃあ行くぞ!」
「レッツゴーおっちゃん!」
「バレルさんと呼べ!」
俺とシーラは積荷と一緒にドナドナと運ばれることになった。
何事も言ってみるもんだぜ。
馬車はガタガタと走り始めた。
昨日見た商人達の馬車も護衛するような人達はあまり見かけなかった。
商人自体が戦えるハイスペックモンスターと考えることもできるが、恐らくは普段、この道には魔物があまり現れない場所なのだろう。
討伐ギルドに行った時にも、周辺の魔物は討伐者が狩っているって話だったし。
そもそもこの国には魔王の手が届かないって話らしかったけど、魔王の軍勢が攻めて来る直前なんて、またどえらいタイミングで国から出てきたもんだ。
運が良かったのか、誤解を解くチャンスを棒に振ったのか…………。
ま、分からないことは一旦置いといて。
とにかくだ。
「バレルさん、この食べ物食べていい?」
「何だ急に! やりたい放題か! それは俺の大事な商品だからダメだ!」
「でも昨日から何も食べてなくて…………こっちの子も育ち盛りなのに食べてないんですよ!」
「それは…………というかそっちの子、真っ赤な髪なんて中々見ないけど、お前さんの妹か?」
「んーと…………」
「ミナトは私のご主人様」
一瞬空気が凍った。
「お前さん……こんな小さな子になんてプレイを……」
「するかぁ! とある事情でこの子が弱ってたから助けてあげただけだっての! シーラも、その認識はやめなさいって言ったでしょうが」
「でもそう呼べって言われたし」
「俺が、じゃないよな! 俺は名前で呼べって言ったよな!」
「分かった分かった。人間、誰しも一つや二つ言いたくない性癖はあるよな」
「おい! なんも分かってないじゃん!」
この後めちゃくちゃ誤解を解いた。




