人間関係
扉をぶち開けた俺は、転移魔法陣の所まで一直線に走った。
扉の外にも兵士はいたのだが、何が起きたのか分からずにポカンとしていた。
「お、お前ら! その男を止めろ!」
誰かの指示する声が聞こえたが、既に俺は魔方陣まで辿り着いていた。
ウサイン・ボルトも真っ青な足の速さだからな!
「止まれ!」
「1人ではその転移魔法陣は動かすことは出来ません! 大人しくこちらへ来てください!」
1人で動かすことができないって言っても、今までの発動条件を見る限り魔力を魔方陣に送ればいいんだろ?
最悪、もし動かなかったら床ぶち破って、壁ぶち破って脱出してやんよ。
俺は魔力を魔方陣に流し込む。
勢いよく俺の魔力が魔方陣の中に吸い込まれていくのが分かった。
かなりの量を吸い取られていく。
だが、大量の魔力を送り込んだことで転移魔法陣が光り始めた。
「ええええ!? 何で動き始めるんですか!?」
「化け物め!」
兵士が魔方陣が起動したことに驚きを隠せない顔をしている。
確かにガッツリ持っていかれたけど、まだ余力は十二分に残っている。
ガルム様様だな。
「じゃ、さいなら!」
「待て!」
一瞬にして景色が変わる。
行きに来た魔方陣と同じ場所に転移したようだ。
ここまでくれば後は、出口までの道のりが分かりやすい。
転移でしか王座に行けないのが仇になったな。
転移先には何が起きたかはまだ何も伝わっていないようで、兵士が1人で転移してきた俺に少し驚きながらも、プイとソッポを向いた。
その必要のないことには一切関わろうとしないコミュ障加減、俺は好きだからそのままでいてくれよ。
なんて心の中で思いながら、悠々とその隣を抜けた。
そのままメチャクチャ余裕な感じで城の入り口まで辿り着き、門の所にいるいつもの護衛兵の兄ちゃんに会う。
「やぁ」
「なんだ、国王様には会えたのか?」
「もうバッチリよ。国王も超興奮」
「粗相などなかっただろうな」
「当たり前じゃん。俺を誰だと思ってんの」
「クソみたいに馴れ馴れしい小僧」
相変わらず類を見ない口の汚さだが、この数日でかなり仲良くなった。
なのにもうお別れとは寂しいことこの上ないな。
結局名前もお互いに知らんけど。
「じゃあ俺はもう行くよ」
「ああ」
俺が門を抜けた瞬間、後ろから怒声が聞こえた。
「その男を逃すな! 魔王の手先である疑いがある者だ! 捕まえろ!」
護衛兵の兄ちゃんが誰のことかとキョロキョロするが、周りに一般人の男というのは俺しかいない。
顔つきがみるみる険しくなっていく。
また一人、俺が築いてきた人間関係が崩れ去っていくのを感じた。
「貴様…………そこを動くなよ」
「俺が魔王の手先なんかじゃないと信じてくれるという可能性は?」
「名前も知らない貴様のことをか?」
……………………悲しいなぁ。
それにしても外まで追っ手が来るのが些か早い。
上級魔人はどうしたんだ?
「できれば穏便に逃げたかったんだけど」
「なら素直に捕まれ。そうすれば誰も傷つきはしない」
「そうくるのな」
「待て! 八代湊! 逃しはしないぜ!」
入り口から短髪とメガネ、フロイラインなど兵士がたくさん出てきた。
「げっ! もう上級魔人を倒してきたのか!?」
「なんか知らねぇけど、時間が経ったらアイツは消えたぜ!」
まさか召喚した魔人には時間制限があるのか?
くそ。
俺自身、まだ自分の武器の特性を把握してないから全然分からん。
「…………紡ぎ、発光せよ! 神の雷をもって細胞を死滅させ給え! 狂神の雷!」
俺の手から放たれた雷が兵士達の上に滞留していく。
「上級の雷魔法か!?」
「任せて下さい! 渇き、ひび割れろ! 意思をもって囲い給え! 封神の土!」
メガネが詠唱した呪文は、兵士達の上に覆いかぶさるように土を広げ、雷と兵士の間を遮るように膜を張った。
そして俺の雷魔法はことごとく土に阻まれる。
既に魔法に関しては、雷魔法しか使えない俺よりも上なのかもしれない。
嫉妬してしまう。
「さすがだぜエージ! 後は任せろ!」
短髪が我先にと向かってくる。
主人公気取りか? お前は。
異世界に来て、チヤホヤされて、大して苦労もせずに最初からその能力を受け継いで。
少しは俺を見習って骨とか折られてから来い!
異世界に来て〜の部分しか当てはまらんわ!
「しゃあ!」
短髪が抜刀して俺に斬りかかる。
それを同じく抜刀し、防ぐ。
「あまり調子に乗るなよ短髪」
「た……短髪!?」
俺は上下左右に連撃を繰り出し、短髪の持っている剣を吹き飛ばした。
「なっ!?」
「お前もいっぺん地獄見てから出直してこい」
柄の部分で短髪の腹を殴り、身体がくの字に曲がった所で顎に蹴りを一撃いれてやる。
「ぐえっ!!」
アヒルのような声を出して短髪が吹っ飛んだ。
これじゃあフロイラインの方が全然強い。
身体能力に頼りきりだな。
「貴様よくも……!」
「新しい勇者候補を……!」
ちょっとダラダラしすぎたんだよな。
上級魔人が相手してると思ってゆっくり出てきちゃったし……このまま国の外に急いで出てもいいんだけど……シーラをどうするかだよなぁ。
このまま俺と一緒に連れて来ても、シーラも狙われることになっちまいそうだし……そうすると、せっかく自由にしてやったのに結局追われる身というのは……。
なんならこのまま宿屋に置いていって───。
『…………いなくなったりしない?』
…………………………やっぱ置いとけないよなぁ。
このまま置いてけぼりにするほうが、シーラにとって良くない気がする。
………………連れてくか。
俺は反転すると同時にスタコラサッサっと逃げた。
途中、背後から何度も魔法が飛んで来たが、距離が広がるにつれ攻撃は届かなくなった。
その後、追っ手を全て振り切り、俺は宿屋に辿り着いた。
暇そうにしている店主を無視してシーラが泊まっている部屋に行き、勢いよく扉を開けた。
するとそこには丁度服を着替えていたシーラが───! なんてラッキースケベがあるわけでもなく(そもそも俺はロリコンじゃない)、普通に布団の上でつまらなそうにイジけていたシーラがいた。
シーラは俺の姿を見るや否やベッドから飛び降りてこちらに駆け寄ってきた。
なんか実家で飼ってる犬を思い出すわ。
「ミナト、用事は?」
「終わった。だからこれからちょいと外に出ようと思うんだ。もうここには戻らないから、持ってくものがあったら準備して」
「分かった」
準備するものといっても、いくつか着替えをセットで買ってやったぐらいだから、カバン一つに入るぐらいの量だろう。
「できた?」
「できた」
「………………あっちに散乱してる服は?」
「あれも持っていったほうがいい?」
んもーーーーこの子はーーーー!!
せっかく買ってあげた服なんだから持ってってくれよー!!
これから服とかしばらく買えないかもしれないんだから!!
そもそも金が無いというのは言いっこなし!!
「シーラの服なんだから一応持っときなよ。ほら、このカバンに詰めて。俺が持っとくから」
「うん」
子供は世話が焼けますなぁ。
世話好きな女の子はどこかにおりませんか?
え? 世話好きな男じゃダメかって?
お呼びじゃねぇんだよロリコン共が!!
「ミナト、できた」
「よし、じゃあ外に出ようか。駆け足になると思うからハグれないようにな」
「走るの?」
「時と場合によるけど…………あんま走れない?」
「そんなことない。走れる」
「よし。まぁ最悪俺がおぶって走るから」
「じゃあ今から」
「………俺は最悪の時の話をしてるんだが?」
俺のことをタクシーか何かと勘違いしてんのか。
そんな甘やかしたりなんかしないから覚悟しいや!!
「…………じゃあ手繋いでいい?」
あらやだ。
ドキッて表現とかじゃなくて、なんていうか萌える。
たった数日でこんなに懐くのかね。
子供だからなのか、そうとう怖い目に遭ったのか、シーラが元々人当たりがいい性格なのか…………。
どれにせよ、俺も捕まえた奴らと同じ人間なのに恨まれたりしてないのか。
これでもし憎まれてたら、かなりの演技派ですよ。
刺されても文句言えない。
「いいよ。ほら」
俺が差し出した手をギュッと握ってくる小さい手。
魔者と呼ばれ、いわゆる魔族ということらしいがなんてことはない、俺と変わらない人の手だ。
「じゃあ行くか」
俺がシーラの手を引いて外に出ようとした瞬間、廊下をドタドタと走ってくる音がした。
もしかしてだけどもしかする?
勢いよく扉が開き、危うく俺の鼻にヒットするところだったけど、足音に気付いて一歩下がったおかげで回避できた。
「あ…………いた…………いたぞ! ここだ!」
扉を開けたのは門の所にいた例の名も知らない護衛兵だった。
もう俺の居場所を見つけたとか有能だな。
もしくは元から調べられていたか…………。
どっちにしろ面倒だなぁ。
「もう逃げられないぞ八代湊!」
「おっと下手に動かないほうが良いのはそっちだぜ」
「なに? まさかその女の子を人質に……!?」
「なるほどそんな考えが……。さてはお前ゲスだな!?」
「な!? 貴様がそうしようとしているのだろうが!」
「しませんー。そんなことしませんー。俺はお前が下手に動いたならこの部屋に風穴開けてやるぞって言おうとしただけですー。国に弁償代払わせようとしただけですー」
「何だその話し方……ムカつくな。弁償代は貴様が払え!」
俺は即座に銃を取り出す。
こんなこともあろうかと利き手とは反対の左手で、シーラと手を繋いでおいて良かった。
銃は武器屋で仕立ててもらった拳銃入れのおかげで、かなりスムーズに取り出せた。
良い仕事してくれたぜ。
「銃は人に向けない。なるべく守りたい自分ルールだったけど…………状況が状況だからな」
「そんなワケの分からないもので俺が……」
ドン!!
俺は容赦なく銃をぶっ放した。
弾は護衛兵の横をかすめ、壁を粉々にした。
「………………!」
「近付けば次は当てるぜ」
その威力を間近で見て、名もなき護衛兵は固まった。
動けば次は自分が撃たれると察したのだろう。
「店主には申し訳ないことしちゃったよ。何日も泊めてもらったのに。ま、修繕費は残りの宿泊料代で補ってもらおうかな」
「ミナト…………」
裾をクイクイと軽く引っ張られたので、シーラの方を見てギョッとした。
シーラが怖がるように涙を流していたのだ。
「ミナト……イジメるようなことしないで」
イジメね…………。
シーラの目線だとそう見えるわけか。
俺は繋いでいる方の手を離し、シーラの赤い髪をクシャクシャと撫でた。
「しないよ。誰も怪我させてない。一人みぞおちに一撃入れたけど……あれはノーカンだ。俺と同じチート野郎だし。シーラが嫌がることはしないから安心しな」
シーラは俺の言葉を聞いて安心したのか、涙目ながらもハニかんだ。
「そういうことだから、俺はこのままトンズラこくわ」
ドアとは反対側に向けて銃を向け、合計3発放った。
壁は簡単に吹き飛び、人が1人通れるぐらいの穴が開いた。
「何回この場面やるのか分からんけど……さいなら!」
俺はシーラの手を引いて、固まっている護衛兵をそのままに穴から外に出た。
外には音にビックリした一般の人達がいるだけで、兵士らしき人物は見当たらなかった。
『見つけた』って言ってたから周りはもう囲まれてるものだと思っていたけど、あいつ1人だけだったのか。
じゃあ今のうちに逃げますか。
今度はシーラもいることだし、あまり無理はできない。
今度奴らが来れば、流石に手加減できる余裕はないだろう。
早急にこの国から出るべきだな。
「シーラ走るよ」
「えー。いきなり?」
「さっきの見ただろう? 俺、追われてる途中だから」
「悪いことしたの?」
悪いこと…………。
この国1番の騎士を倒して、異世界から召喚された奴を殴って、国王を煽って、魔人を召喚しただけ。
うん、全然悪いことしてねーな!
「そんなことするわけないだろ。それより急いでこの国から出ないと、また監禁される生活が続くことになるわけだけど、そっちの方がいい?」
「! やだ」
「だろ? だったら走るぜ」
まぁ俺と一緒にいるから監禁される羽目になるわけだけど。
わざわざ理由を言う必要も無いし、説明しなくてもいいだろう。
話すとしてもそんな事は後回しだ。
俺はシーラを連れて、最初にこの国に入った時の門へと向かった。
運がいいのか、宿に来たアイツが有能だったのかは分からないが、他に兵士に追われるということもなかった。
そもそも顔バレ自体がそんなにしてないことも大きな要因なのではないかとも思う。
門に辿り着いた時、当然のように門兵がいたが、この辺りは人の出入りも激しいこともあり、情報がまだ回ってきてないのかアッサリと外に出ることができた。
「普通に外に出ることができたな。なんか拍子抜けだ」
これまでの流れから、もう少し面倒臭いことに巻き込まれるのかとも考えていたが、無事に外に出られたならこれ以上いい事はないな。
外の景色は久しぶりに見た。
草原が一面に広がる快適な世界。
この国に来た時は、こんな形で追われる身になるなんて想像すらしていなかった。
勇者として下命を受けて、この異世界を旅しながら魔王を倒す主人公的な存在。
そんなことを想像していた。
それが今となっては、勇者は既にこの世界におり、俺以外に国から直接この世界に召喚された奴がいて、追われるようにして国から逃げ出す。
俺は何もしていないのに、周りが何かをしてくる。
だったら俺はもう関わらないでおいてやるよ。
ガルムには悪いが、俺は世界を救ったりなんてことはしない。
そもそもお前は勇者だって話だし、俺なんかに頼らなくてもこの世界に選ばれた人間じゃないか。
俺はもう好きに生きてやる。
「ミナト……顔が怖い」
シーラに言われて気付いたが、どうやらかなり険しい顔をしていたみたいだ。
顔にシワを作っては幸せが逃げてしまうな。
スマイルスマイル。
「…………なんで私の顔をグニグニするの」
「ん? 笑顔を忘れないように」
そう。
笑いの風をみんなにお届けさ。
さすらいの風来坊だぜ。
俺は道なりに沿って森があった方に歩いていくことにした。
別に森に行くわけじゃないし、最初にいた洞窟に行くわけでもないけど、この道なりに進んでいけば次の町だか国だかに着ける気がするからだ。
それに、この世界にいる生き物なんかにも興味がある。
洞窟にいたようなあんなキッモいデカイ昆虫なんかじゃなくて、もっと神秘的な、それこそドラゴンとか俺の世界の神話やゲームやアニメに出てくるような、そんな生き物がいるかもしれない。
シーラのような魔者の存在にも少し興味があるし、まだまだ楽しめる要素はいっぱいあるんだ。
そうさ。
勇者になって戦いに明け暮れる日々なんかよりもよっぽど魅力的じゃないか。
世界を救うだとか、そんな大それたことは他の人に任せようぜ。
俺は俺の道を歩もう。
シーラは…………もし故郷が見つかれば、そこに帰してあげるのが1番いいだろう。
何の種族って言ってたか覚えてないし、魔者っていうと魔王の手先って認識がこの世界にあるみたいだから、もしかしたら会った瞬間に襲われるかもしれないけど、そん時はそん時さ。
「どこ行くの?」
「さぁなぁ。俺は今の所この国以外、何があるのか分からないからな。ガルム曰く、この国に来れば色々と調べられたみたいだけど、結局大して調べることもできなかったからなぁ」
「…………ふーん」
自分で聞いておいて反応うっすいなぁ。
「シーラは自分の家とかどこにあるのか覚えてないのかよ。もし覚えてるんだったらそこに行こうぜ」
「家は覚えてるけど、何処にあるのか分かんない」
「だよなぁ。そうしたら取り敢えずはこの道に沿ってみようぜ。金もなけりゃあ食べるものもないけど、何とかなるだろ」
「……適当」
行き当たりばったりで計画性が無いと思ったかもしれないな。
でもいいじゃん。
人生、結局計画通りに進むことなんてないんだから。
超頑張って某有名大学に入学決め込もうが、ある日突然異世界飛ばされたら何の意味もないからね。
それまでの人生設計全部オジャンだぜ?
いや、俺が某有名大学に受かったわけじゃないんだけどさ。
要はそういうこと。
まずは計画よりも行動することが大切って話よ。
「がむしゃらにやれば、人間簡単には死なないのさ」
「私は……?」
「魔族も一緒」
シーラの頭をクシャクシャと撫でる。
ガンバルンバ俺。




