ドット・グリゼル
案内された部屋も大層豪華なところだった。
応接間、のようなところなんだろう。
「おや、お客さんかい?」
ソファに一人の男性が座っており、読んでいた書物を閉じてこちらを見ながら呼びかけた。
頭髪は白髪の初老といった感じだが、座っていても分かるほどにガタイが良い。
ドッシリとしたその体は、修練が積まれていると一目で分かる。
「お父さん帰ってたんだね! この人達は、私が魔物に襲われているところを助けてくれたヤシロミナトさんと、アイラさんです」
「ほう……私の娘を……。それはもてなさないわけにはいかないな」
男性がパンパンと手を二回叩くと、ガチャリとドアが開き、メイド服姿の女性が現れた。
やっぱりいるじゃん召使い。
というか常に待機してるの?
「食事の準備を頼む。二人分追加でな」
「かしこまりました」
メイドさんは一礼すると、そそくさと部屋から出て行ってしまった。
「娘が世話になったようだね。私はこの家の主、ドット・グリゼルだ。改めて礼を言おう。娘を助けてくれてありがとう」
「随分と飲み込みが早いんですね。普通は話の内容を聞いたりするんじゃないですか?」
「娘の言う事を信じない父親がどこにいるというのかね?」
ごもっとも。
こりゃ失礼しました。
立ち上がるとこれまた風格があるな。
身長は190近くありそうだ。
歴戦の強者感が出ている。
立ち姿に隙がないな。
隙がないってことは警戒してるってことだ。
流石に初めて会う人には警戒するよね。
「フェリスは一緒じゃないのか?」
「お姉ちゃんも一緒だよ。お母さんにお客さんがいることを言いにいったの」
「では母さんも一緒に呼んで来なさい。今夜は宴だ」
「はい!」
オーリスが走って部屋を出て行った。
凄い決断力ある人だな。
あれよあれよという間に展開が動いちゃうよ。
宴なんてそんな大層なことをやってもらう必要なんてないんだけど、この人達の場合はこれが礼儀なのかもしれない。
断る方が逆に無礼に当たるかもしれないし、ここは素直に受け取っておくとしよう。
「さて…………そちらの女の子は魔族のようだが、まずは納得のいく説明をしてもらおうか」
違った。
修羅場だわこれ。
※ ※ ※
「…………というわけで、彼女は魔者でも魔王に与しているわけではないんです。彼女のことはフェリスさんにも正体を明かしていますので、信用はしてもらっています」
「なるほど……。フェリスが言うのであれば間違いないな」
アイラの事は魔王と戦った部分など重要な部分は伏せて、俺と一緒に魔物を討伐している事を説明した。
娘の言うことになるとすぐに信用してくれるなこの人。
「気を悪くしてしまったのならすまない。私も立場上、魔族には厳しい目を向けていなければならないからね」
「いえ、お気持ちは分かりますので。それにしても大きな屋敷ですよね」
「ははは。ガムシャラに頑張っていたら、いつのまにかこんな屋敷が立っていたよ。私には少々広すぎて落ち着かないぐらいだがね」
フェリスがなんちゃら御三家って言ってたな。
実力主義のこの国で偉いってことは、この人は相当な実力者なんだろう。
「ちなみに何ですけど、お仕事的には何を……」
「星宝三龍将という立場なんだが、知っているかい?」
軍のトップかよぉ!!
フェリスそんなこと一言も言ってなかったぞ!
「一番偉い人なんですね!」
「おや、魔族の子でも知っているほどなのかい? まぁ軍の中では、だけどね」
「何とか御三家って伺ったんですけど……」
「王宮警護隊御三家のことかい? 書類上の正式名称ではそうなるがね。星宝三龍将というのは大衆向けの呼び方なのだ」
わざと言い方変えてはぐらかしたなフェリスの奴……。
まぁ自分から父親は軍のトップで〜とか言いにくいのは分かるけど。
「ははは。そう畏ることもあるまい」
「いや畏まりますよ……」
こちとら下民ですぞ。
「お父さ〜ん。お姉ちゃんとお母さん連れてきたよ〜」
「お父さん、もう帰ってたんですね」
お、父親には敬語か。
「お前に会うために早上がりしたんだよ私の誇りよ〜!!」
!?!?!?
何だ!?
突然別の生き物が出てきたんだけど!?
さっきまでの威厳はどこいったんだオッサン!
「ちょっ! お客さん! お客さんがいるんですからやめて下さい!」
「つれないな! 久々に会う娘を可愛がって何が悪い! またいつ旅立ってしまうかも分からないというのに」
「私ももう18です! 大人なんです!」
「親子の愛に年齢はない!」
おお……愛が重い。
フェリスは3代目勇者とずっと旅をしていたみたいだから、転移を期に久しぶりに家に帰れたのか。
そうすると、貴重な家族水入らずの時間を邪魔しちゃ悪いよな。
「やっぱり自分達は失礼しますね……」
「あらあら、ダメよ。お礼はしっかりさせて下さいな」
部屋を出ようとしたら、フェリスの母親に止められた。
フェリスやオーリスにそっくりな顔立ちで、柔らかい笑顔が特徴的な美人さんだ。
「あなた」
「何だい母さん、私は今フェリスとコミュニケーションを……」
「お座り」
え。
「いや……でもしかし……」
「お座り」
「はい」
ええ…………。
大の大人が正座しちゃったよ……。
ミラージュ王国トップの方じゃないのこの人……。
「ねぇヤシロ。私達って何を見せられてるの……?」
「…………母は強し……かな?」
別の意味で気まずくなる俺達だった。




