入国
フェリス・グリゼル。
三代目勇者グリムと共に旅をしている天才魔法使い。
その飽くなき探究心から、オリジナルの魔法を使いこなし、三代目勇者を多くの窮地から救っているという。
その女の子が今、俺の目の前にいた。
「え、オーリスの姉ってフェリスさんのことだったの?」
「ヤシロ君……だよね? 『紅影』の。どうしてこんなところに……?」
覚えててくれたんだ。
なんか嬉しいな。
「色々と事情がありまして……」
「それにしても久しぶりね。カンバツ王国で魔王グロスクロウを討伐した時以来かしら」
「そうですね」
懐かしい。
俺が殺されかけた時に彼女ら三代目勇者一行が助けに来てくれたんだ。
命の恩人と言っても過言じゃない。
「ヤシロ、知ってる人?」
「まぁ俺に限らず多くの人が知ってるんじゃない? 三代目勇者の仲間の人で、フェリスさん」
「初めまして。フェリス・グリゼルと言います」
「あ、こちらこそ。アーネスト・イライザ・シルヴァード・シュールレと言います。アイラと呼んでください」
自分からアイラと呼んでもらうようにお願いするとは…………貫き通した甲斐があったよ。
あ、ちょっと不本意な顔してる。
「あの時一緒にいた女の子とは違うんだね」
「ちょっと離れ離れになってしまいまして……」
「もしかして、魔王シルバースターの攻撃で?」
「ええ、まぁ」
「そう…………。実は私も同じなのよ。私もあの戦いでこの大陸に飛ばされたの。まぁ私の場合は生まれ故郷がこの国だったから、何とか無事に帰ってこれたんだけど」
やっぱりか。
薄々そんな気はしていた。
あの時、三代目勇者一行も戦いに参加していたことは知っているし、何より現在サンクリッド大陸では三代目勇者が魔王シルバースターを討伐したという話が流れている。
それなのにフェリスがここにいるということは、あの時の物体転移魔導砲によってフェリスも飛ばされたことを示唆していた。
「…………お姉ちゃん! せっかくだし、二人を家でおもてなししようよ! 私の命の恩人なんだよ!」
「…………そうね。ヤシロ君、アイラさん、妹を助けてくれてありがとう。もし時間があるなら、私達の家に招待したいと思っているんだけど、どうかな?」
断る理由は特にないかな。
元よりミラージュ王国に用があって来たんだ。
フェリスに許可証について教えてもらった方が何かと都合が良いのは間違いない。
「迷惑でないなら、是非」
「迷惑なんて全然ですよ! さ、行きましょー!」
オーリスは意気揚々と門へと歩いていった。
そこで俺は気付く。
門の前には当然のごとく軍の人間が警備についている。
通る人間全員の身分証を確認し、無い者については所持品検査等々を行われている。
アイラは魔者だ。
魔者がすんなりと入れるなんて到底思えない。
下手をすれば捕縛されて打ち首獄門なんてこともあり得る。
どうすればいいんだ……。
「フェリスさん……ちょっといいですか?」
「ん? 何かな」
「その…………大変言いにくいというか……フェリスさんに隠しておくのも失礼というか……どうしたらいいか相談なんですけど……アイラ」
ちょいちょいとアイラをこっちに呼んだ。
「そうだよね。先に話しておかないとだよね」
アイラが帽子をとって猫耳をフェリスに見せた。
「見ての通り……アイラは魔者なんです」
「あー…………なるほどね。髪も青いし、なんとなくそうなんじゃないかなって思ってたんだ」
「フェリスさんは魔者に対して何かと理解があるっていうのは知ってるんですけど、そこの入国審査が問題で……」
「そっか……そうだね。普通なら魔族が入国できるわけないもんね。そしたら私に任せて。何とかしてあげるから」
まじ?
何とか出来ちゃうの?
「お姉ちゃーん! ヤシロさーん! アイラさーん! 何してるの、早く行こうよー」
「今行くから待ってなさい。そうしたら二人は私の後ろに付いてきて」
言われた通り、俺達はフェリスの後ろにくっついて門へと向かった。
くっついてと言っても、別に隠れるようにしているわけじゃない。
本当に、ただくっついて歩いているだけだ。
門の前には兵士が5人いる。
兵士の一人が俺達の姿に気づくと近付いてきた。
大丈夫かこれ?
「失礼ですが、入国されるというのであれば身分証の提示をお願いできますか? それと、危険な物を持っていないか、所持品検査をさせて頂きます」
俺達を警戒するような目で見つつ、身分証の提示を求めてきた。
その前にフェリスが立ち塞がった。
「その必要はありません。この人達は私とオーリスの友人になりますから」
フェリスの一言で兵士の態度が一変した。
厳しい目つきから、信頼できる人を見ているような表情に変化したのだ。
「あ、フェリス様方のご友人で御座いましたか。失礼致しました。それでは身元の保証は間違いありませんね。良き滞在をなされますよう」
そのまま兵士を一歩引き、次に通ろうとしていた人達の対応に当たった。
ビックリするほどアッサリだ。
「フェリス様って呼ばれてたよ……。もしかして凄い人なんですか?」
「あまり自分で公には言いたくはないんだけどね……。一応実家の立ち位置的には『王宮警護隊御三家』って言う立場になるから」
申し訳ないけど良く分かんない。
でも貴族のような立場っていうのは分かる。
「お姉ちゃんの場合はそれだけじゃないんですよ。三代目勇者様のお供をしてますから、国の中でも凄い有名人なんです!」
「あ〜なるほどね」
「やめてよオーリスっ! 恥ずかしいでしょ!」
「だ〜って本当のことだも〜ん」
オーリスはキャッキャと笑いながら、拳を振り上げたフェリスから逃げた。
確かに、人類の希望たる勇者の仲間なら、大抵のことなら融通が利きそうだ。
フェリスがいてくれて本当に助かったな。
「フェリスさん、ありがとうございます」
俺とアイラで頭を下げた。
「いーよ。私も色々助けてもらったわけだし、こういうのは助け合いだもんね」
人間が出来てるなぁ。
何はともあれ、問題が起きることなくミラージュ王国に入国成功だ。




