皇帝蜂
スピューゲル王国を後にした俺達は、ミラージュ王国へと足を伸ばした。
数ヶ月、道中において問題事はさほど起こらなかった。
魔物に襲われることはあったが、魔者や魔人に出会うことはなく、人とのいざこざも起きなかった。
何もなかった、怖いほどに。
本来何かあること自体がおかしな話だけれど、巻き込まれ体質というか、意図的に仕組まれてるんじゃないかと疑うほどに俺は争い事の渦中にいた。
魔王ローズフィリップを倒してから流れが変わったんじゃないか?
いい流れですよこれは。
本来俺はこうやって過ごしたかったんだ。
観光気分でいたいんだ。
ずっとこのままであれ!
と、フラグを立ててしまえば回収されるのが世の常。
ミラージュ王国に近づくにつれ、少々不穏な空気が流れている。
というのも、魔物の数が多い。
今まで舗装された道を通れば魔物が出てくることは一度もなかった。
途中、近道で外れた道を通ったことがあったけど、魔物に襲われたのはその時ぐらいだ。
だけどここではどうだろう。
すでに5回ほど魔物に襲われている。
そのどれもが大したことはないが、何やら争いの匂いがするのは言うまでもない。
スピューゲル王国でクラリスに乗ったお兄さんが言っていた、魔王イズナ討伐に何か関係があるんだろうか?
「魔王イズナってどんな魔王なんだっけ」
「えっとね、配下に使徒と魔人しかいないんだよ。住んでる魔族は多いけど、自分の身の周りには魔族は誰一人としていないの」
「なんで?」
「聞いた話だと誰も信用していないだとか何とか。コミュニケーションが取れないとも言ってたかな」
「なるほどコミュ障か……」
ネット世界の住人もとい、闇世界の住人だな。
メンタル弱そう。
「魔物が多いのも魔王イズナが関係してるんかね」
「かもね。それとも単純にこの辺りに魔物が多いのかも……」
などと話していると、正面から女の子が走ってきた。
ただ走っているというよりも、何かから逃げているようだ。
「はぁ……はぁ……だ、誰か…………!」
「早速か。あれは…………」
「ロイヤルキラービーだよ! 一刺しで人間を殺せる毒を持った魔物!」
体長1m近くある蜂が女の子を追いかけていた。
毒無くても殺せるよアレは。
だって針ってレベルの大きさじゃないもの。
俺は『獅子脅し』を取り出し、ロイヤルキラービーに照準を定めた。
引き金を引くと大きな衝撃音と共に弾が射出され、ロイヤルキラービーを吹き飛ばした。
凶悪そうに見える魔物もワンパンだ。
「ホントに魔物が多いな。大丈夫だった?」
「あ……ありがとうございます! もうダメかと思いました!」
頭に三角巾のようなものを巻いている、町娘みたいな格好をした女の子は俺の手を握ってブンブンと振った。
元気だな。
背丈的にはアイラと同じくらいだけど、13、4歳ぐらいか?
「こんなところに一人でいたら危ないよ?」
「ごめんなさい。でも、前までは魔物なんて全然いなかったから……」
やっぱり魔物がいなかったのが普通なのか。
ここ最近になってから、というわけだな。
「何してたの?」
アイラが聞いた。
「ちょっとカヂオの実を取りにね」
「カヂオ? アイラ知ってる?」
困った時はアイラさんだ。
「確かすり潰して水に溶かして飲むと、疲労回復になるんじゃなかったかな?」
「そうだよ!」
さすが物知り博士!
「久しぶりにお姉ちゃんが帰ってきたから、疲れてるかと思って取りに来たんだ〜」
やだこの子超良い子。
姉のために何かするとかヤバすぎ。
俺にも姉と妹と弟がいるけど、何かしてやろうなんて一回も思ったことないわ。
「偉いなぁ。でもこの辺りは今みたいに魔物が出るから危ないよ?」
「実は取れたからもう帰る所だったんです」
「それなら俺達が家まで送るよ。一人で帰してこの後すぐにまた襲われたら目覚めが悪すぎる」
「え、でも悪いですし……」
「家はどこなの?」
「向こうにあるミラージュ王国ってところです!」
「わぉマジか……」
ついでというか、目的地が一緒なのはラッキーだね。
「俺達もそこに行く予定だったから、一緒に行こうよ」
「いいんですか!? お願いします!」
「俺は八代湊。こっちがアイラ」
アイラはチラリと目線をこちらにやったが、何も言わなかった。
アイラと紹介されることについに諦めたか。
「私はオーリス・グリゼルです!」
はて……どこかで聞いたような名前……?
※ ※ ※
「ここがミラージュ王国……」
今まで見てきたどんな国よりも綺麗だった。
シャンドラ王国は荘厳という感じだったけど、ミラージュ王国は美麗という感じだ。
まだ外壁の外側からしか見えないけど、基本色は白色がメインで、少しばかり見える大きめの建物の中にはガラス張りなんだろうか、透明の建物もある。
中央奥に見える城はどの建物よりも大きく、三つの塔が象徴的で左右対象の形になっている。
「凄いところだね……。これを見れただけでも、あの村から出てきて良かったよ」
「入り口はこっちにあります!」
国の入り口のような所へ案内されるが、そこにはもちろん兵士が配備されていた。
通行する人達を止めては身分証のようなものを確認している。
俺は討伐ギルドの身分証があるから何とかなるけど…………アイラは厳しいんじゃないか? これ。
どうしよう。
「あ、お姉ちゃんがいます! お姉ちゃーん!」
オーリスがブンブンと手を振っている先に、心配そうな顔をしている女の子がいた。
女の子はハッとこちらに気付くと、駆け寄ってきた。
なんか見たことある。
「オーリス! どこ行ってたの!? 今の時期は一人で外に出たら危ないでしょ!?」
「ごめんなさい! でもねでもね、この人達が助けてくれたから大丈夫だったよ」
「この人達って……」
そう言ってこちらを見る彼女。
近くで見るとより一層見覚えが……。
「……!! 貴方は確か……!」
「………………あっ!」
思い出した。
三代目勇者一行のメンバー、フェリス・グリゼルだ。




