スピューゲル王国
俺達は4日間かけて一つ隣の国、スピューゲル王国へと辿り着いた。
国といっても、城壁で囲まれていたり城下町があるわけじゃない。
普通にどこからでも中に入ることができる、ちょっと栄えてる町といった具合だ。
広さ的には港と変わらない。
検閲のようなものがあるかとも思ったが、これならアイラの対策を考える必要も無いな。
ハットを被れば耳は隠せる。
今のところは、だけど。
「道中にいくつか人が住んでいるところがあったとはいえ、これでちゃんとしたところで休めるな」
「うう……ベッドで寝たい……」
固い地面で寝る生活も、最初は平気だけども続くと身体が痛くなってくる。
俺にとっては今更だが、アイラはあまり慣れていなかったようだ。
「現代っ子はこれだから困るな」
「それはヤシロもでしょ」
「針の上でも寝れるよ」
「嘘ばっかり」
宿を探す途中、町の中で多くの黄色い大きな鳥を見かけた。
これが多分クラリスだろう。
というかこれアレだ。
ダチョウじゃなくて何かに似てると思ったらアレだ。
チョ○ボだ。
チョ○ボみたいな鳥が人を乗せて往来してる。
そら足が速いわけだよ。
だってチョ○ボだもん。
レースゲームとかやったことあるよ俺。
「これって港で貸し出してた奴っぽくね?」
「そうかもしれないね。ほら、首元。首輪と一緒に番号の振られたタグが付いてる。管理してる証拠だよ」
アイラの言う通り、首元のタグには『Mー32』と書かれていた。
「お兄さん、これって港で借りたやつ?」
「唐突に知らない人に話しかけられるヤシロって凄いよね……」
まぁそれほどでも。
分からないことは追求しないとね、やっぱり。
クラリスに乗った、人が良さそうなお兄さんは丁寧に答えてくれた。
「ええ、そうですよ」
「これって港まで返しに行かなきゃ行けない感じ?」
「いいえ。決まった国に貸し出してる所があるので、そこに返せばいいんです」
そりゃそうか。
往復なら返しに戻らないといけない手間があるしな。
でもそうすると、港から他の国に移動する人ばかりで、他の国から港に戻る人が少ないのはどういうことだろう。
偶然か?
「内陸部の国で、今何かやってるんですか? クラリスの貸し出しが多いみたいなんですけど」
「知らないのかい? あ、討伐者とかじゃなければ知らないのも無理ないか」
討伐者なんですけどね。
まぁ《空ノ神》達と一度討伐ギルドに行ってからは討伐ギルドにも寄ってないし、知らない情報が出ててもおかしくはない。
「何があるんですか?」
「魔王ジェイドロード、魔王ローズフィリップが討伐されたことは流石に知っているでしょう? これを機にミラージュ王国が、大陸最後の1人魔王イズナを討伐しようと躍起になっているんです」
「え、マジですか?」
知らなかった。
確かにミラージュ王国が魔王イズナが支配している国を解放したっていうのは聞いたけど、本格的に討伐しようとしてたんだ。
これってやっぱりアレか?
ガルムの奴が自身の存在を公にしたことがキッカケになってるのか?
「なんか凄いイケイケだね、人間側は」
「そりゃ…………流れが来てるもんなぁ側から見ても。それじゃあ討伐ギルドも協力するために募集をかけてるってわけですか?」
サンクリッド大陸の時のように、魔王との全面戦争ってケースかもしれないな。
「いえ、それがミラージュ王国は討伐ギルドに対しては一切協力要請はかけていないみたいなんですよ」
「え、なぜ?」
「元々ミラージュ王国は討伐者達の力を借りずとも、自分達の軍隊だけで魔族と渡り合ってきてますからね。他の手助けは借りる必要がないという、絶対のプライドがあるのでしょう」
「ややこしいなぁ」
う〜ん……確執か……。
討伐ギルドって、確かにイメージ的には民間企業って感じがするんだよな。
警察と警備会社みたいな関係性?
ちょっと違うか。
とにかく、自分達でやれることを委託してまで貸しは作りたくないってことなのかもな。
ミラージュ王国がこの大陸の中心になっていると思うし、討伐ギルドに実権を握らせたくない、みたいな。
俺らみたいな契約社員からしたらクソどうでもいいけど、国としては譲れない所があるんだろうねやっぱり。
「それでも討伐ギルドは、魔王討伐のチャンスと見て、ギルドが直接報奨金を乗せた討伐依頼を出しているんですよ。本来であれば依頼人や国が報奨金を出すのですが」
「確かに珍しいですね。討伐ギルドの方がよっぽど、一番大切なことを理解しているような気がするな」
「政治的背景よりも人類のために魔王討伐、ということですね」
大したもんだ。
お偉いさん達は、自分達が悪いことを考えているからといって、他の人も何か企んでいるんじゃないかと考え出すからな。
本来あるべき姿を見失うことは良くあることだ。
「お兄さんも魔王の討伐に?」
「もちろんです。とはいえ、魔王を討伐なんて毛頭考えていませんがね。魔人や魔物を討伐するだけでも報酬がおいしいんです。稼ぎ時ですよ」
魔王は流石にね。
そりゃそうだよね。
化け物みたいな魔王を討伐しに行くなんて、普通は考えないからね。
普通はね。
「教えて頂きありがとうございました」
「礼には及ばないよ。それじゃあ」
俺達はお兄さんと別れて宿に泊まった。
久しぶりのベッドである。
「どんどん魔王様が討伐されていくね」
「複雑な気持ちか?」
「う〜ん…………何だろう。何とも言えない変な感じ。元々私の魔王様はジェイドロード様だったけど、一度も会ったこともないし見たこともないし…………。それなのに他の魔王様ってなると、もっと関わりないし…………無?」
「無って……」
好きの反対は無関心だって聞いたよ。
嫌いよりも酷い反応だ。
「まさか魔王様を討伐しに行くなんて言わないよね?」
「馬鹿言うな。どこの勇者だよそんなの」
「だよねー」
少なくとも俺は一度も自分から「魔王をぶっ倒す!」なんて言ったことないからね。
いや、もしかしたらこの世界に来た時に口走ってるかもしれないけど。




