世界の成り立ちと秘密
3話目です。
何か掲載タイミングがコントロールできないな。
今回は、主人公達が活躍する世界の背景を説明したいと思います。
アスモデウス様に世界を滅ぼされると、半泣きで本人が訴えかけてくる。
……何だ。その状況は。いや待て、もしかして。
「じゃあ、アンタは偽者ってことか。」
「ハッ…。」
その瞬間、俺は心臓を握り潰さんばかりのプレッシャーを感じた。上手く呼吸できない。
「……ッハァ。カッ………ハァ、ハッ。」
「口の利き方には気をつけてよ。誰が偽者よ、死にたいの?」
「ス、スミマセン。………も…申し訳…ござい……ません…でした。」
ヤ、ヤバイ。し、死んじゃうって。
「そう、まぁ、分かってくれるなら良いわ。」
プレッシャーが和らいだ。時間にすれば、数秒程度なのだろう。だが、俺が死を意識するには十分だった。魔王、魔王様は先ほどまでの言動とは打って変わって、悠然たる態度に戻っていた。こちらも油断していたが、さすがは大悪魔である。下手な交渉は命取りだ。
認識を切り替え、当初の通り、敬意を持って接することにしよう。
「まぁ、こちらも説明不足で申し訳ないのだけれどね。」
「い、いえ、こちらもアスモデウス様に対して無礼な働きを。平にご容赦頂きたく。ですが、ご説明願えますか。御身のせいで、世界が滅ぼされるとはどういうことでございましょうか。」
「うん、私自身というか。う~ん、原因は私の上司、というか主にあたる方でね。」
「…はぁ?」
アスモデウスとは、自身ではなく主に当たるが、本人もまたアスモデウスであると。その方の性だと。うん、意味不明だな。アスモデウスは、ファミリーネームか何かか?
「あ、やっぱり、理解できないって顔ね。そりゃそうか。うん、じゃあ、説明するわね。私達、魔王とか神とか呼ばれる者と、世界について。」
ちょっと長くなるけど、ね。とそういって魔王様は語りだした。
俺が巻き込まれることになった壮大な厄介事、その根幹を………。
◇◇◇
「月並みな言葉だけど、世界は1つじゃないの。」
まぁ、それはそうだ。実際に俺自身が世界を渡っているし、この手の話に対して、決して知識が無いわけじゃない。我ながら順応は早い方だと思うが…。
「世界の数は膨大でね。無量大数を単位にしてもはるかに足りない位あるのよ。それでも生まれ方自体は、大まかには3パターンで分けられちゃうんだけどね。」
膨大ね。確か無量大数の後にも、結構単位が決まってた気がするな。ああ、でもあれは数の単位じゃなくて、仏教用語の概念的なものだったっけ?
「まぁ、大雑把な分類よ。
1つ目は、自然発生するパターンね。発生する理由は様々だけどね。
2つ目は、誰かが創造するパターンよ。力さえあれば、神様でも魔王様でも、それこそ貴方達、ニンゲンでもできるわ。
3つ目は、1と2のパターンが分岐したものね。う~ん、貴方達向けのキャッチーな言葉だと"ifの世界"かしらね。」
説明された内容、説明の仕方、もう止め処無くツッコミを入れたいのだが、ここはスルーだ。なにせ、こっちはとにかく帰りたいのだから。いちいち止めていられない。
「ん? 何よ、そんなに焦らないでよ。長くなるって言ったじゃない。質問があれば、都度受け付けてあげるわよ。」
しまった。顔に出てたか。
「……いえ、続けて頂けますか。」
「あらそう。でね、今の状況ってちょっと妙だと思わない。そこで思い出して欲しいのだけれど、私の最初のお願いは何だったかしら?それと、そもそも何でこんな話が出来るのかしら。」
ん、何でいきなりそんな話を…。こっちにしてみれば、異世界に来た時点で十分妙な話だというのに。今聞きたいのは、俺が帰れない理由だ。俺が帰ると、魔王様自身に世界が滅ぼされるとか、前後のつながりが不明で……。だから、その辺りの説明を求めているんだ…。
いや、待てよ。最初のお願い?………それは多分"俺にライバルキャラをやって欲しい"云々の話だ。パターン通り、呼び出された理由を言っているだけだと思って聞き流してたが、言い方が確かに妙だ。
まず、キャラって何だ、キャラって。しかも"やって"だ。役目を"担う"とか、"働く"みたいなニュアンスに思えない。どちらかと言えば、"演じる"に近い印象を受ける。まるで学芸会の劇みたいだ。………いや、みたいじゃないのか。段々、分かってきたぞ。
加えてさっきの異世界の成り立ちの話だ、特に2番目"力があれば、世界を創造できる"という所だ。じゃあ、何で神や魔王は世界を創ったのかという話になる。
マズい、このパターンも理解できる。理解できるが俺にとっては最悪かもしれない。
今まさしく、舞台装置と配役の話をしているのか?
「おっ、気づいたみたいね。さすが、この手の話には理解が早いわぁ。
じゃあ、追加で補足してあげましょうか。さっき偽者では無いと言ったけれども私はアスモデウス本人、私達が"御神体【オリジナル】"と呼ぶお方ではないわ。
あくまでの、本人の力の極々少数を分けて作った"分身体【アバター】"でしかないの。
確かに力の優劣が明確にあるけど。だからといって、どちらも本人であることに違いはないから、偽者扱いには正直イラっとするわ。」
力の差があるなら偽物と言っても差し支えは無いと思うが、その辺りは魔王としての誇りでもあるのだろうか。ただ、自分の意識を残した人形を、自分で創った世界に配置して、運営する。これは考えられないことじゃあない。そして、この話の結論として、この世界が滅ぼされる理由というのは・・・。
「そうなの、"御神体【オリジナル】"のアスモデウス様が創ったこの世界なんだけど、どうも気に入らないみたいで…。……消去されそうなの。私は何とか止めたいのだけれどね…。」
◇◇◇
つまり目の前のお方は、支社長みたいなポジションなわけだ。
「支社どころか、コンビニの雇われ店長さんみたいなイメージかしら。」
なるほど、今の例えで余計に本社の意向であっさり潰されそうな気がしてきた。そして、この世界からの脱出が急務になったな。仮にも世界の魔王と呼ばれる方が、あそこまで慌ててたんだ。猶予のある様な滅び方ではないのだろう。プチッと電源切るみたいに、世界が無くなるかも。
「それでね。何で"御神体【オリジナル】"がこんな事をしているかと言うと…。」
何となくだが、ここまで来たら想像はつく、テンプレート通りならばアレだ。
「そっ、暇つぶしなのよ。貴方達だって小説書いたり、絵画や漫画を描いたり、家庭菜園を作ってみたり、日曜大工したりするじゃない。それと一緒よ。」
そのレベルの感覚で世界を創るんだ…。分かってはいたけど、実際に聞くと頭痛ぇな…。
「そして、完成したら品評会。みんなの注目を集めるような世界が創れたら鼻高々よ。」
おまけに視聴率重視ときたもんだ。だが、これで俺がこの世界に呼ばれた理由に、確信が持ててきた。
優斗を主人公とした物語をこの世界で展開しようとしたアスモデウス様は、おそらく上手く話を進めることが出来なかったのだろう。
そして、テコ入れのためにライバルキャラとして、俺を追加で召喚したんだ。
俺を必死で食い止めようとしているということは、相当切羽詰っているのだろう。普通ならば俺を即殺して、次を用意すれば良いだけだ。それも出来ないほど、残りチャンスが少ないのだろう。しかし、だったらどうして。
「そもそも、何故アスモデウス様はこの世界をお創りになったのです?」
「…っ!!そうよねぇ!向いてないのよね!!」
うぉ、急に叫びだしたぞ。俺としては別の世界を創れるだろうから。ここは消さずに放置でもいいのでは、程度の質問だったんだが。向き不向きの話になるとは。まだ、何か事情があるのだろうか?
「……ねぇねぇ、君が知っている私ってどんな感じ?」
ん~また急だな?……百貨辞典サイトレベルの知識しかないからそこまで詳しくは無いのだが。確かアスモデウスとは…。
◆◆◆◆◆◆
アスモデウス(またの名をアスモダイ)は『トビト記』や魔術書のひとつ『ゴエティア』にも記されている悪魔である。
『トビト記』によれば、語源はゾロアスター教の悪魔アエーシュマや、ヘブライ語の「滅ぼす、破壊する」を意味する言葉を由来としている。このことから、かなり凶暴な悪魔であると推測できる。
(アエーシュマは暴力を司る者として、毛むくじゃらの体と血塗られた武器を持った姿で表される。)
一方で『ゴエティア』で記されたアスモデウスは、悪霊の72人の頭目の一人に挙げられているアマイモンの配下であり、東方の悪魔の首座で、72の軍団を率いる序列32番の大いなる王とされる。
また、元が激怒と情欲の魔神のためか、キリスト教の七つの大罪では色欲を司る。悪魔になる前は智天使だったという説もある。
姿かたちは牛・人・羊の頭とガチョウの足、毒蛇の尻尾を持ち、手には軍旗と槍を持って地獄の竜に跨り、口から火を噴くという。姿を見ても恐れずに敬意を払って丁寧に応対すれば非常に喜び、指輪やガチョウの肉をくれたり、幾何学や天文学などの秘術を教えてくれるという。
◆◆◆◆◆◆
だったはずだ。正直名前だけ聞いて、とっさに敬語で話したのは我ながらファインプレーだったと思う。伝承通りなら慌てふためいた瞬間に人生が終わる可能性もあった訳だし……。
まぁ、その後のリアクションを見て、おそらくこちらを殺せないというのは推測できたがな。
ただ、調子に乗って、そこから強気の交渉に持っていったのは、大失敗だったが…。
「ん、概ね、そんなところよね。これもねぇ、世界によっては認識が違うこともあるのよ。恋愛と安産を司る慈愛の女神として、崇められている世界もあるわ。まぁ、魔王とか魔神とされる皆様は、2面・3面持ってて当たり前ね。」
「皆様…?同じ魔王様同士なのに、敬称を付けられるんですね。」
「御神体に対してはそうね。例えトイレの神様であっても"様"を付けて敬うわ。力と格。その全てにおいて純然たる差があるもの。分身体同士なら大概は、"ちゃん"付けになるけど。」
なるほど、どれだけ強力とされる魔王様の分身でも、神様の本体にはまったく歯が立たないのか。
ただ、そこまで絶大な力の持ち主なら余計にこの世界に拘る理由が分からん。捨て置けばいいのに…。
「それでね。"色欲を司る"って、伝承にあるように私達の得意分野って、ソッチ方面なのよ。
泣ける恋愛映画から、君の夜のお供にしているゲームの様な世界まで、恋・愛・情欲・快楽までありとあらゆる色を出しているわ。」
急に拳を振り上げてきた。世界創りに得意分野って…。
「すみません、私はそういったものは持っておりません。」
「ダウト、高2で持ってない方が不自然よ。恥ずかしがることないのに、これだから童貞は。」
うるせぇ、ブチ殺してやりたいこの駄目魔王が。テメェのせいでこちとら大人の階段の手前を封鎖されとんじゃい。
「もう、むくれないでよ。膨らむ所がちが「話を先に進めて頂けませんか。魔王様。」」
おまけに、こちらに色欲をアピールしてから、急激に下ネタの量を増やしやがって。
「はいはい。でね、上で何があったのか知らないけど、急に"王道的な英雄譚"の世界を創ることが決まったのよ。天鈿女命様とエロス様の所からも協力頂いているから。恐らく、アテネ様やフレイヤ様辺りの戦神と揉めたんじゃないかしら。
結構あるのよ。この手の"勇者と魔王が戦う"世界って、普遍的な人気があるから、自前で持ってないことを馬鹿にされることが。」
あ~、複数神での創造もアリなのね。勇者の側は、おそらくそちらの方々の担当なのか。それにしても扱い雑だなぁ、世界。
「当然、コピーできるからテンプレートの世界を元に創れるんだけど、今回は0から創ることに拘っちゃってね。隠れてこっそりと真似るのも難しいの……。」
うん、世界がゲームソフトとか音楽CDか、何かの様に扱われているね。
ただ、分かりやすくはなったな。つまり、この作品は、複数の会社がそれぞれの社運をかけて、しかも対外に発表までした大規模プロジェクトな訳だ。しかし、そんなビックタイトルだというのに、作業関係者は全員素人。おまけに業界の目があるから失敗作も残せないと……。
まだ、就職前なのに、ここまでのブラック企業にスカウトされるとか、俺終わってないか。まぁ、俺だけじゃないが…。
「でも初めてなりに頑張って、魔法とか魔獣とか、エルフとかドワーフみたいな亜人の要素も再現してね。ギルドとか、王国と帝国の対立みたいなニンゲンの成長もいい感じで来てね。さぁ、いよいよ異世界から勇者を呼んで、本筋を進めようとしたら……失敗したのよ。」
……あ~、そりゃ駄目だ。ノウハウが無いのも痛いが。よりにもよって、優斗をそんな世界の主人公に選ぶだなんて致命的だ。アイツほど戦いに向かない奴もいないというのに。
「それで、ライバルキャラに私を選んだと。ですがね、先ほどもお伝えしましたが、不肖なワタクシにも彼女が出来まして、そういう色恋を巡るあれやこれやとか、闇に染まる云々的な要素に欠けているのですよ。こうなりますと、無理に私を指名頂かなくても宜しいのではないでしょうか。」
もう、進退は窮まっており、絶望への道筋しか見えないが、それでも駄目元で最後の交渉をしてみよう。
「でもねぇ、要素としては君しかいないのよぉ。幼なじみという親しさがあるでしょ、更に彼をよく知っているからコントロールもしやすいし、それに………。」
「それに…?」
やはり駄目だった。……打ちひしがれているのに、この上まだ何かあるというのか?
「君かなりのオタクでしょ。その知識で上手く世界を誘導できないかと思ったのよ!」
「オ、オタクちゃうわぁあああああ!!!!!!!!」
はい、「(聞けば聞くほど、その扱いがかわいそうになる)世界の成り立ちと(主人公が抱える、心底どうでもいい)秘密」でした。
話のテンポを上げたいための設定でしたが、主人公は明らかに変ですね。普通の人間は、あんなにポンポン異世界に順応しないですし、そもそも異世界だと認識するのが早すぎです。
余談ですが、玉座の間に向かう間に、彼はテンプレートな状況確認を終えています。
次回は、視点を変えて勇者となった幼なじみの方を書こうと思います。
テンプレートな状況確認の方法もその辺で。