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5日目 これでまた東方が遊べるぞお!

「どぅわーはっはっは!!恋て!」


 チルノさんは正に馬鹿笑いと形容するに相応しいツボっぷりだ。


「で、でもでもわたしは……」


「いやいや、まてよ、大ちゃん本気だったのか。女なのに、女にこ……恋しちゃう、ことも……ダメだどぅわーはっは!!」


「ひどいです!チルノさん!」


 もう頭にきた!こんなとこ出てってやる!そして紅魔館に……は行けるわけがない。

 命の保障すらない。


「うう、うおーーん!うおおーーん!」


「おお、そうだ泣け、叫べ。あたいが一緒にいてやんよ。お、女にこ……恋しちゃ、どぅわーーはっはっは!!」


「チルノさんがしつこいぃ!ぬおおーーん!おおーん!」


 わたしは泣いた。チルノさんはそれを見てとても笑った。わたしはそれを見てさらに泣いた。



………


「ごめんなさい、あなたの気持ちに応えることはできません」


 咲夜さんの返答はとてもシンプルだった。


「ど、どうしてですか。わたしが女だからですか!」


「はい。私は交際するなら男の方が良いです。ごめんなさい」


 有無を言わせず深く頭を下げる咲夜さん、全身で拒絶を表している。

 わたしはその時目に映ったカチューシャを今も思い出せる。谷間は見えなかったのだ。


「……そうですか、すいませんでした、帰ります。PCの葬式には来なくて結構です。もうここには来ませんから」


「しかし、葬儀への参加はお嬢様の言いつけですので」


「結構です!どんな顔して一緒に行くんですか!焼香もお香典管理も皆わたしがやります!残念ですけど咲夜さんにはもうこんな機会ありませんからね!PCの葬式なんて誰もやろうと思いませんもの!」


 駆け出したわたしのあとを彼女が追ってくる様子は無かった。

 涙が出て止まらなかったが泣き顔を見られるのはもっと嫌だった。

 この後PCの葬式に参加することより、ずっと、ずっと……。



 泣きべそをかきながら住処にしている小屋の前に着くと、わたしの目に暇そうに手に持ったナイフを弄んでいる咲夜さんが写った。

 あまりに驚いてわたしは尻餅を着き、その物音で彼女に見つかってしまった。


「こんにちは、一緒に行くのが嫌だと仰られましたので、空間を弄って先に到着させてもらいました」


「で、でもどうしてここが……」


「……ええと、うちの図書館に乗っていました」


「ええっ!わたしたちの住処って図書館の本に記載されているんですか!?」


 って、今重要なのはそこじゃない。

 わたしは立ち上がっておしりについた泥を払うと、顔を伏せて言った。


「……こんな顔見ないでください」


「たしかに非道い顔ですね。コレをどうぞ」


 そう言ってわたしの手に白くて上品なハンカチを握らせる。

 予期していなかった強引さで拒む暇も無かった。


「……ありがとうございます」


 素直にハンカチで泣き顔を拭い、返そうかどうか躊躇った。洗ってからの方が良いのかな。


「差し上げますよ。私が泣かせたようですからね」


「……あなたはキザな人ですね、惚れ直しました」


「冗談が言えるならもう大丈夫でしょう、返してください、安物じゃありませんから」


 わたしは本気で奪い取られる気がして、サッといつもの手提げ鞄に放り込んだ。

 一瞬の出来事で無意識だった。

 ポカンと小さく口を開けている咲夜さんは、鳩が豆鉄砲を食らった表情とは比べ物にならないほどお淑やかに驚いていた。


「……ふふ。冗談を返しただけですよ、あなたは現金な妖精のようですね」


「あ……」


 咲夜さんの笑顔を初めて見て、本当に惚れ直してしまった。

 優しくて、綺麗で……憧れるってこういうことなのか。


「どうしました?」


「いえ、あまりに素敵な笑顔で……」


「え?」


 わたし自分の顔がさっと紅潮するのを感じた、なにを言っているんだ。

 ここまで気を使わせてしまった彼女をまた困らせようというのか。

 おそるおそる表情を伺うと、なんと咲夜さんの頬もわずかではあるが赤みがさしている。


「あ、ありがとうございます……そんなこと初めて言われました……」


「い、いえ、こちらこそ……。安物じゃないハンカチはいただきます」


 もしそこに穴があれば、わたしは無駄に美しいアーチを描きダイブしていただろう。

 もじもじしていると掘っ立て小屋のほうから念仏が聞こえ始め、わたしはハッとなにかから目覚めた。


 どこの世界にPCに向かって念仏唱える坊主がいるんだよ!


「さ、咲夜さん、聞こえますか?」


「え、ええ。念仏が耳に。でも葬儀って……うちにあった中古のMEですよね」


「はい。でもチルノさんは基本的に常軌を逸していますからね。本当に葬儀が行われているのも、ありえない話ではないんです」


「……本当になんでつきあっているんですか」


 返す言葉も無い。わたしは咲夜さんを促して、小屋の中へと足を踏み入れた。


 想像していたよりひどい光景だった。

 何処で雇ったのか人間のお坊さんが嫌そうな顔で念仏を唱えている。

 遺影写真には何時撮ったのか生前(?)のMEが写っている。

 3匹に減った妖精らはすぐにでも帰りたそうな顔をしながら、この苦行が終わるのをまだか、まだか、と小屋の隅に立たされながら待ち構えている。

 裏の畑から取れたと思われるジャガイモの花を、納棺されているMEに泣き笑いの表情で献花しているチルノさんを見て、わたしの堪忍袋の緒が切れた。


「バカか!チルノさん!!」


 咲夜さんはさっきとは違う笑い方をしていた。

 ああ、もうチルノさんが怒っている、わたしもムキになって返しながら、なんとなく幸せを感じていた。

 咲夜さんが優しい人で良かった。チルノさんがバカで良かった。わたしは……こんなだけど。

 咲夜さんにはもう会うことはないかもしれないが、キレイサッパリ振られたので、後腐れはない。

 この小屋への帰り道は絶望でいっぱいだったけど、咲夜さんはわざわざ会いに来てくれた。

 それはわたしを慮っての行動なんだ、くさくさせず、その気持ちにこたえて前を向こう。


 バカな葬儀が終わり、妖晴と咲夜さんを見送り、わたしは今日の出来事をチルノさんに話すことにした。

 振られてしまって泣きたい気持ちだけど……一緒になって泣いてくれる、あるいは慰めてくれるはずだ。



………


 まさか馬鹿笑いされるとは……。ちくしょうもっと泣き叫んでチルノさんの耳にダメージをあたえてやる。

 わたしは意識して声のヴォリュームを上げると、チルノさんの笑い声も大きくなった。

 もう、敵わないなぁ。


「そんなに泣くことないでしょう。大妖精さん」


 わたしとチルノさんの二人で泣いたり笑ったりしていると、小屋の扉をガラガラと音をたてて咲夜さんが立っていた。


「ぬお!咲夜さん!?」


「あれ、どうしたんだお前。告白した大ちゃんを笑いに来たのか?」


 チルノさんの声に険しい響きが混じる。自分はさんざっぱら笑っていたくせに……。 


「大妖精さんを笑ったりなんかしませんよ、あなたみたいに奇行をしませんからね」


「ふざけやがって~。表に出ろ、MEの敵だ」


 前に親とか言ってませんでしたっけ?忘れたのかな。


「そう邪険にしないでください。今日は贈り物を持ってきました。私は時、空間を操れますからね。ほら」


 わたしたちの眼前にPCが現れる。こ、これは!?


「うぃ、WindowsXP!?……って書いてあるな、お前どういうつもりだ!」


 チルノさんは警戒しながらも、そのPCが欲しくてたまらない表情を隠すことが出来ずにいる。


「また図書館に置いてあるPCを買い換えたんですよ。コレは先日面白い見世物が見れました、そのお礼です」


「え、でもつい先日買い換えたのでは……」


「……では条件を一つつけます、今後私の業務が空いた時間にここへ立ち寄らせてそのゲームで遊ばせてください」


 おや、どういうことだ。咲夜さんが向こうから来てくれるなんて、こんな幸運はないが……、同性に告白したわたしが物珍しいのだろうか。

 いや、彼女に限ってそんなはずはない。ということはあのゲームに興味があるのかな?


「くれるっていうんなら……そりゃもらうが」


「そうですか。じゃ、また来ますので。さようなら。これでまた例のゲームを遊べますね」


 言い残して咲夜さんは消えた。時空間を操るって便利だな。 


「……いっちゃいましたね」


「うーん、いまいちヤツの思惑が分からないが……これでまた東方が遊べるぞお!」


 言うや否やチルノさんはディスクを取り出しXPを起動した。

 なにはともあれ、わたしにはまた咲夜さんに会う機会があるようだ。

 こ、これはまだ可能性があるってことなのか!?どうなんだ!? 

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