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3日目 気合でなんとか避けるんです

「またあなたですか」


3度目にもなる紅魔館への来訪は、咲夜さんの素気ない第一声から既に失敗の予感をぷんぷん感じさせた。


「咲夜すゎん!ごきげんよう、先日は失礼いたしました。お詫びと言っては何ですが、本日裏の畑で取れましたダージリンをお持ちしましたので、ぜひお受け取りくださいませませ」


「いりませんから館の付近にたむろするのを止めてください。お嬢様に怒られるのはわたしなんですから。ハイ、お目当ての物ですよ!」


 バシッとわたしの胸に放り投げられたものを確認すると、おおゲームパッドではないか。

 しかし紅魔館付近にたむろっていたのは、これだけが目的なのではないのです。

 そのことを伝えようと ズイと身を乗り出す。


「わあ!ありがとうございます。この恩は是非なにか別件で……」


「MEの処分代は渡しましたからね」


 もう用はない、とばかりに扉をバタンと閉められて錠前までかけられてしまった。

 うう、話す切っ掛けになればと思ったのだが、結局は距離が遠くなっただけのような気がする。


「でも……ゲームパッドは手に入りましたからね」


 わたしの呟きは空しく夏のぬるい夜風にかき消されてしまった。




「夜まで粘れなんて、あたいは言ってなかったぞ」


「で、でも、でもぉ……」


 朝方になりチルノさんの住処へ赴き、経緯を話すとまるで妖怪に優しい霊夢さんを見るような目つきで怒られてしまった。


「もう一度会って謝りたかったんですよぉ……咲夜さんに」


「大ちゃんて思いつめるタイプなんだなぁ、お陰でパッドが入手出来たのは嬉しいんだが、もう行かない方が良さそうだぞ」


「えええ、何か用事くださいよ」


「そんなに会いたきゃ自分で用事でっち上げなよ、あたいはもう知らないかんな」


 せっかくおつかいを成功させたっていうのに、チルノさんは素っ気無い。

 いっちょ前に妬いてんのかこの氷精は。


「大ちゃん、今あたいは凄く虫の居所が悪い、何故だかわかるか?」


「え!?ひょっとして漏れてました?」


「ん?なにが?」


「いえ、わたしの夜尿の話です。どうせまたMEがフリーズでもしたんでしょう?」


「違うよ、いやフリーズはするんだけど……って、やにょう?そうじゃなくてゲームの話だよ、昨日判明した低速移動使ってるのに全然避けれない攻撃があるんだよ!」


 そりゃ低速移動してるだけでなんでもすいすい避けられたら、ゲームにならないだろう。

 ここはご機嫌でも取るためにアドバイスしてやるか。


「へえ、どんな攻撃なんですか。わたし気になります」


「そっか大ちゃん、stg経験あるんだったな。ちょいこっち来て見ててよ」


 足の踏み場の無い6畳一間の畳の上をふわりと飛んで、チルノさんはいつもの机と椅子に付く。

 わたしもそれに習い畳のシミに触れないよう気をつけて浮遊する。

 電源を付けて画面が現れるまでしばし無言の時が流れ、MEだけがピーガー唸っている。


「大ちゃんは、どうしてそんなにあのメイドに会いたいの?」


「エッ?」


ウ、ジジジ、ピー、ジジ……フォオオオオオ!


 MEが起動した、反対にわたしがフリーズしてしまう。


「なんで黙るの?」


「え、ええ?そりゃあ……オンボロとはいえPCを譲ってくださったわけですし……パッドも頂きましたので、なんらかのお返しをしないと妖精皆が恩知らずだって思われちゃいますよ」


「……うん。そうかもね」


フォオオオオオオオオオン!フォ、フォフォオオオン!!

 

 チルノさんは釈然としない様子だったけど、追求を止めてくれた。

 まるで気持ちを切り替えるように強めの力でマウスをクリックしているチルノさんを、わたしは気まずい思いで見ていることしかできなかった。

 MEはわたしたち二人の沈黙を歯牙にもかけず、まるで起動できた自分をほめて欲しくて叫んでいるみたいだ。

 さっきからうるせぇよ。




「お、ここだ。ここ。この攻撃が避けられないんだ」


「んんと、あ、ああー」


 ステージ2面の中ボス……つまりわたしなのだが、このキャラの攻撃が避けられないらしい。

 まず、第1波「全方位定間隔ばらまき弾」これが2回繰り返されるがこんなの問題じゃない。

 落ち着いてボスに攻撃が当たるよう敵弾の隙間で待機していればいい。

 チルノさんもひょいひょい避けている。


 彼女の言う問題は第2波「自機狙い二色3way弾」だ。※1

 まず青と白の二色の3way弾が連続で何度も打ち出される。

 その後青い弾はそのままの軌道で飛んでいくのだが、白い弾は発射から約0.1秒後自機狙い弾に軌道が変化する。※2

 するとどうなるか、チルノさんはこの自機狙いの白い弾を避けようと低速で移動するが、青い3wayの弾で逃げ道を塞がれてしまう。

 発射間隔が短いため青弾に隙間は無く、白弾に追い詰められて被弾。

 と、毎回このようにミスしているようだ。わ、わかるだろうか……。


「ああ、このような攻撃は……」


 と、わたしは途中で口を噤む。

 わたしはこの敵の攻撃は俗に言う「チョン避け」で捌けるとすぐに理解した。

 しかし、本当に言ってしまって良いのだろうか。これは助言というより答えに近い。

 また子供の頃の嫌な記憶がフラッシュバックする。


…………

 

「ここはこうして避ければ良いよ。」


「その動きじゃあ、ダメだよ。」


 幻想郷にも遊戯屋がある。子供の頃のわたしはそこに通いつめていた。

 そして知らない人にこう言われ、ムッとした記憶がある。

 プレイを譲るとその人はわたしがどんなにプレイしても分からなかった敵の攻撃の避け方、効率の良い攻撃法を簡単に実践しているのが見えた。

 わたしを何度もミスさせたボスが手玉に取られるように撃破されるのを目の当たりにし、暗に「お前はこんなこともできないのか。」と言われているように感じた。

 困惑しながらその人に目を向けると、わたしを見て満面の笑みを浮かべているのが見えた。

 悔しくて、情けなくて、わたしは顔を伏せて遊戯屋を走り去った。もうそこに行くことは無いとケツイした。


…………


「このような攻撃は?」


 チルノさんの顔が目と鼻の先にある。

 くせっけのある青い髪、子供っぽい顔立ち、見慣れていたものなのにいきなり間近で見せられたので無駄にドキッとしてしまった。


「え、ええと気合でなんとか避けるんです」


「なんじゃそりゃー!役に立たないぞ」


 もう、とプリプリしながら再度ゲームに没頭しはじめるチルノさん。

 くそ、不覚だ。わたしとしたことがチルノさんに……もう教えてやるものか。


-------------------------------------------------------------------------------

 待たせたな!わたしだぜ!魔理沙だぜ!

 今回は「チョン避け」ないし「コン避け」についてキミに伝えたいことがあるんだぜ。

 でも名前を聞いただけである程度想像付くと思うぜ。その通りだぜ。


「十字キーを少し押す、レバーを少し倒す」


 これだけのことだぜ。名の由来はチョン、と触れるように操作するから。だと思うぜ。

 しかしstgこと弾幕ゲームにおいてたぶんこれ以上に有用なテクニックはないと思うぜ。

 テクニックに数えられればの話だが。


「敵弾を最小の動作で避ける」

 

 これは理想だぜ。なんせ画面のスペース、避けることの出来る範囲は限られているからな。

 小さく動いて避けられるならそれに越したことは無い、避けた後の逃げ道を広く残せるからだぜ。

 逃げ道を意識するということは、言い換えれば「次の状況を考えて動く」ってことだぜ。

 これは全てのゲームで通用する考え方だと思うぜ。

 チルノは上記の「自機狙い二色3way弾」を青弾で逃げ道が塞がれることを考えず、白弾のみを見て「移動し続けたから」被弾したんだぜ。

 しかしチョン避けをすることで「青弾で逃げ道を狭められても白弾を最小の動きで避け続ける」ことができ、3wayの青弾に追い詰められることもなく無事に敵の攻撃は終了。

 避けきることが出来るぜ。


 長々と話したが百聞は一見に如かず、攻略動画とか見れば一発で理解できるぜ。

 それの是非はわたしの範疇じゃないので、深くは語らないがな。


 じゃ、上手くかわしてグレイズを稼いでくれよ。

 この攻撃をかわせると見ただけでは分からない気持ちよさがあるぞ。特にオチはないぜ。


-------------------------------------------------------------------------------


「ううー、もうここはボムしか……」


 チルノさんはまだ解法が分からず、うんうん唸ってボムを使った。ボム使用演出で魔理沙さんのカットインが皮肉に笑っている。カワイイ!

 わたしは友人として教えてあげるべきか、悩んでいた。しかし自分自身で解決してこその楽しさを奪うことにならないだろうか。

 チルノさんはどちらを望んでいるのだろう。


「あ、あの……」


「そうだ!!」


 あまりの声の大きさにわたしは驚いて小屋の天井に頭突きをかますことになった。

 妖精飛行術の弊害だ。


「ごおっ!」


「なに一人でコントしてんだよ。ゲームパッドはどこだ」


 え、パッド?そういえば、忘れていたな。

 わたしは手提げ鞄からそれを取り出し、痛む頭を押さえながら渡した。


「これでわたしの操作技術はうんと上昇し、大ちゃんのいやらしい攻撃もかわせるようになるはずだ!」


「だれがいやらしいんですか!」


「ゲームの大ちゃんだよ!」


 あの程度の攻撃でボムを使用していたら、いくつあっても足りないと流石にわかっているようで、避けようとは考えてるみたいだな。

 でもパッドを使うよりチョン避けを覚えるほうが、クリアに近づくと思うのだが……。


「よし、今度こそ見てろよ~」


 usbタブにパッドを装着し、いざ!というところでチルノさんの動きが止まった。


「……?どうしたん――」


「エラー吐いたあああ!!」


 パソコンの画面が真っ青になり、異常を告げるMEの動作音が鳴り響き、


ボムッ


 と煙を吐き、MEは死んだ。

※1彼女の言う問題は第2波「自機狙い二色3way弾」だ。

 スペルカードではないため正確な呼称はなく、筆者が勝手にこう呼んでいるだけです。

 グレイズ(自機を弾にかすらせること)の気持ちよさをこの攻撃に教わった方も多いのでは。


※2白い弾は発射から約0.1秒後自機狙い弾に軌道が変化する。

 完全に体感で正確な秒数はわかりません。

 5~10フレーム後あたりでしょうか。それって秒数に直すといくつだ。

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