2日目 百聞は1ピチューンに如かず
「あ、あのPCで使えるゲームパッドを探しているんですけど……」
紅魔館の扉を半分まで開き、不審な目をしていた咲夜さんはわたしの言葉を聞いて呆れたようにこう返した。
「処分代を請求しに来たわけじゃないみたいですね。でも、あなたはここを○フマップかなにかだと勘違いしていませんか、ここは紅魔館ですよ。吸血鬼が住むことでその筋に有名な」
「そ、そこをなんとか探していただければ……お代は持ってきています。『WindowsMEなんて骨董品が埋まっていたんだし、ゲームパッドの一つや二つその辺に転がっているだろ。』ってチルノさんが言って聞かないものですから」
チルノさん当初と比べて今は妙にMEを可愛がっているけど、アレが骨董品なのは認めているようだ。
「妙な理屈を展開する妖精ですね。で、あなたはそう言われてノコノコ使いにやって来たのですか」
う、チルノさんの用事にかこつけてあなたに会いに来ましたとは言えない。
「そ、そうなんですよ。わたしを哀れに思うならひとつ協力してくれませんか?一緒に里に出て探しに行くなんてのはどうかしら。なんて、おほほほ」
咲夜さんの不審げな瞳がますます吊り上がった。コワイ!カワイイ!
「失礼ですけど、わたしメイドとしての仕事がありますので。あと返品はお断りですから、あしからず」
にべも無くそう言い残して扉を閉められてしまった。ゲームパッドがないとは言わなかったな……さすが紅魔館。
しかしこの様子では今日はもう取り合ってくれそうに無い。わたしは諦めて踵を返し、チルノさんの住処へと向かった。
「くわー!また2面ボスで死んだ!!魔理沙のバカー!あたいったら最強ねー!」
チルノさんはそう言って辺りのものを無作為に凍らしはじめた。
蛙のぬいぐるみ、謎のタペストリー、カキ氷機、その他諸々。
椅子に座ったまま器用に体勢を変えて、全方位に氷片を飛ばしている。誰がどう見ても彼女は怒っているように見えるだろう。
「癇癪起こして後で後悔するのはチルノさんですよ」
おつかいから帰った第一声がゲームの自機への不満では行った甲斐がない。
小言をまじえつつ、わたしは今日の経過を報告した。
「うーん、あたいはやっぱりコントローラーじゃないとしっくりこないんだけどなぁ。キーボードの十字キーじゃ指とか腕が痛くなってさぁ」
そのあたりは慣れだと思うんだけど……ゲームで自機が思うように動かせないのは楽しくないだろうな。
彼女は凍ったぬいぐるみをさらに凍らせながら不満を続けた。
「だいたいあんなに弾がいっぱい出てこっちが避けられるはず無いんだよ。せめて自機の動きがもっとゆっくりならすーいすい避けてやるんだが」
ゲームへの不満は期待への裏返し。なんてわたしもよく言っていたけど……ん?
「え、チルノさん、ひょっとして……説明書読んでませんでした?」
「あん、なにが?」
読まない人もいるのかー!
確かにそこもstgの魅力なのか!?
「え、ええっと前にわたしがパッケージを開いた時に……ああ、ありました。ほら、シフトキーで自機の低速移動と」
「おおっ!すごい、コレ作った人はあたいの心のエスパーか!」
というより、昨日から今日までずっと霊夢さんや魔理沙さんは高速で弾幕の中をかいくぐらされていたのだろうか。よく途中でなにかおかしいと思わなかったなぁ。
チルノさんはすっかり氷塊になったぬいぐるみ脇に放り投げ、またゲームに没頭し始めた。
わたしはチルノさんが1日で、どれ程ゲームを進行できるようになったのか気になり覗くことにしてみた。
「ぱーっぱらっぱ、ぱーっぱらっぱ、ぱーっぱらっぱ、ぱーっぱらっぱ。」
1面bgmのメロディを口ずさみながら、チルノさんは揚々と自機の低速移動を試している。
なるほど、自機がゆっくりになると敵弾の濃い部分の避け方が随分楽そうだ。
というより低速移動前提のゲームなんだな、そりゃ進まないわけだ。
あ、「中避け」出来た。
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いきなりだけどこのわたし、魔理沙が説明するぜ!「中避け、外避け」とは!!
例えば自機に向かって3方向の三つの弾を撃ってくる敵がいるとするぜ、この弾は3way弾との呼称が一般的だぜ。
(真ん中の弾が自機狙い、左右二つの弾が真ん中を軸とした固定方向の弾という内訳)。
今までチルノは、
「真ん中の弾は無視して左右二つの弾どちらか一方を意識して大きく右か左に避けていた」わけだが、
「自機狙いの真ん中の弾だけに注目」し、
「低速移動ボタンを押しながら左右どちらかにレバーを少し入れる」だけで、
「三つの弾の内、そのままの進行方向では自機に被弾する真ん中の弾だけを安定して避ける」ことができるぜ。
「左右二つの弾はその位置なら当たらない」ぜ。
この避け方は大きく動く「外避け」と比べると、自機の攻撃が撃ってくる敵に当たり続けて撃破でき、追撃を防げるというメリットもある。
入力加減を間違え、左右どちらかの弾に当たるリスクもあるが、それはどう動こうと起こりえる事態なので無視、動きが少ないというのはそれだけ失敗の材料を少なくできるとも考えられるぜ。
要するに「大きく動いて外で避けるか、小さく動いて中で避けるかの違い」だぜ!
この二つの避け方はゲームを進める上で大事な要素になると思うんだぜ。ぜ!
弾幕の密度が薄い前半は大きく避けても大丈夫だが、密度が濃い後半はほぼ全域小さく避けることに専念しないと厳しくなるぜ。
敵弾の誘導とかはまた今度話すぜ。
以上!独断と偏見を交えて、stgを遊んだことのある人なら誰もが無意識でやってる当たり前の行為を仰々しく解説してみたぜ。
百聞は1ピチューンに如かず!※
stgはどんどん死んでどんどんやり直すのが前提のゲームだぜ!
君のミスをただのミスとするか、成功への必要経費とするかは……わたしの気分次第だぜ!
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「大ちゃんさっきから、なにボゥっとしてんの?」
いつの間にかチルノさんが振り返りこちらをジッと見ている。
PCの電源が消えているので、もうゲームをプレイし終えたのだろう。
心配そうな顔をしているが、眉をひそめているのは内心の苛立ちを隠せないからだろうか。
悪いことをしてしまった、なんだったんだ今のは...
「う、ううん、ごめんなさい。妙に長い幻聴が聞こえて……3面には進めましたか?」
「いや、途中でフリーズしたから電源消してやったんだ。」
むむむ、またか。
※百聞は1ピチューンに如かず
「ピチューン」は東方シリーズ本編のゲーム内で自機が被弾し、ミスをした時になる効果音の俗称。
「ピチュッた」等の使われ方もされ、「ミスをして死んだ。」を意味します。
日常生活で使用すると、本人が敵弾扱いされ避けられるので使用は控えましょう。