10日目 終
「ううー、また4面で死んだぁ!」
「秋も深まってきた」という表現はよく耳にするし、イメージも容易にできる。
紅葉の散る並木道を踏み歩く音、焼き芋、サンマ等いい季節だと思う。
しかし「夏も深まってきた」とは言わない。ただひたすら暑いだけだ。
海で焼きそばカキ氷ってところか。風情がないし、ああいった場所の食べ物の味はそんなに……。
「大ちゃん!聞いてるか!?」
「春が深まってくる」は、どうだろう……そんな言い方しないだろうけど、なかなか想像を掻きたてられる言葉だ。
桜が散り、青々とした葉が木に芽吹き始める光景は、なんと爽やかなんだ。
何食べても美味しそうだ……春雨サラダとか食べたいな。
では、冬は……。
「アイシクルフォール!」
「ひゃああー!」
つ、冷た!何が起こった!?冬がいきなり深まったのか!?
「やっと気がついたのか、大ちゃん!ここの場面見てくれよー。いっつも死ぬんだよー」
チルノさんは怒った顔をしながら、PCの画面を指差している。
わたしは折々の季節について思索を巡らせるのに夢中で、彼女の声に気づかなかったようだ。
「だ、だからってスペル使わないでくださいよ!『妖精の心臓』という言葉もあるでしょう!?止まったら死ぬものなんですよ!」
「止まったことないからわからん」
「ああ、そうですか。ガキみたいなこと言いくさって……それじゃあ試してみましょうか!?」
「や、止めろよ。大ちゃんが死ぬと……あたいは悲しいよ」
「え?ち、チルノさん……?」
きゅん……。
って、わたしが試される側なのか……。
「あなた方は1日1回必ず下らない会話をしないと死ぬのですか?」
お約束どおり、いいタイミングで咲夜さんが小屋に入って来た。
もはや計っているとしか思えない。
わたしたちの会話を聞きながら、今か今かと扉の前で待ち構えている彼女を想像し、わたしは萌えた。
「こ、こんにちは咲夜さん」
「顔が赤いですよ?聞かれて恥ずかしいなら、そういう会話は慎みなさいな」
「い、いえ今日も咲夜さんは萌えるなぁ、と」
「は?」
「咲夜は燃える人間なのか?」
「燃えるゴミみたいに言わないでください」
わたしの発言の真意は伝わらなかったようで、すこし安心する。
ふぅ、最近PCを使い過ぎなのかもしれない。
「で、お前はまた、アイドルタイムになったから遊びに来たのか?」
「え、咲夜さんアイドルになるんですか?結婚してください」
「喫茶店などで使われる、客数が少ない手空き時間のことですよ。そのアイドルではないですし、屋敷で働くメイドには用いられません。彼女の誤用で、館の皆は休憩時間と言ってますよ」
「ありゃ、そうなんだ。エプロン付けてるから勘違いしちゃった」
「ふふ、変な理屈ですね」
「……」
……。
「それで、先ほど喚いてらしたのは何が理由だったんです?」
「ゲームの4面が難しくていつもそこで死ぬ。1面からやり直すのが面倒くさいんだよー」
「ああー確かにそこは面倒ですよねー。わたしも覚えがありますよ」
「へ?練習モードを使わないのですか?」
練習?
「stgにそんなのあるのか?」
「タイトルにあったでしょうpractice startと」
「あ、アレですか」
そういえばそんなのも見た気がする。チルノさんは知っていたのかな?
「知らんかった、どれ……おおステージを選べる」
「これは便利なシステムですけど、あえて封印する益荒男もいらっしゃるようですよ」
「たしかにそいつは真の漢だな、あたいは女だから遠慮なく使わせてもらうがな」
益荒男て……。
しかしstgもユーザーに優しくなったもんだ。昔は家庭用でもそんなモードは……いや容量の関係かもしれない。
いずれにせよ製作者はユーザーにこの機能をバンバン使ってもらい、1コインクリアの面白さを味あわせようって配慮なんだろうな。
いい時代だ。わたしが子供の頃は、クリアするためには1面を腐るほどプレイさせられた。
「いいですねーこの機能。あ、進んだ面にしか行けないようになってる。いいですねー」
「ん、大ちゃんやるか?」
「え?」
あ、普通に良いって言ってしまった。
「あ、ええと、わたし昔stgで痛い目見て、それ以来苦手なんですよ」
「全然そうは見えないぞ」
「やりたそうに目がキラキラしていましたが」
う、不味いコンセプトが崩壊してしまう、違うアイデンティティーの崩壊だ。
わたしがやるのはまだ早い。
「わ、わたしが遊ぶかはチルノさんのがんばり次第ですね」
「え、あたい?」
首を傾げて目をぱちくりさせるチルノさん。
い、言ったら怒られそうな気がしてきたが……ええーい、いったれーい!
「ち、チルノさんが、このゲームを1コインクリアできたら考えてあげます」
「どこから目線で喋ってんだコラー!」
「冷たい!冬が深まりますっ!ごめんなさい!!」
咲夜さんはわたしたちを無視してパッドを手に取り、またグレイズに精をだしていた。
「調子乗った罰として、ここの切り抜け方を一緒に考えて」
「ふぅ……やりますよ、はいはい」
「え?」
「卑しいわたしに謝罪させて頂く機会を与えていただき、感動で言葉も出ないので罰をください」
「反省したならいい」
「あなたたち偶に本当に気持ち悪いですね」
「あたいもここまで言わすつもりは……」
「と、とにかく一度4面のプレイを見せてください。一緒に攻略を考えるのも乙かもしれませんよ?」
「うん、見ててね」
早速、チルノさんがプラクティススタートを選択し、4面が始まった。
「テ、テ、テ、テー!テーレレー!」
「デーンデーンデーンデーン!」
「あの……えと……チルノさんはともかく、大妖精さんまで歌わなくても……」
「あ、すみません。わかりませんよね。わたしが下のパートです。前まで注意する側だったんですけど、ハマっちゃいました」
「『ヴワル魔法図書館』もミステリアスな感じがして良いんだよなー」
「……楽しそうでなによりです」
さて、口ずさみながら攻略を始めよう。
しばらくチルノさんのプレイを見て、気づいたことがある。……これは助言の範疇だな。
「チルノさん、アイテムを追いかけすぎです。そのせいで危険な地帯に向かうことが多くなっています」
「え?でも、もったいないじゃん」
「いいえ、このゲームの『スコアエクステンド』は4回です。6000万点以上稼ぐ意味はありません」
「意味ないことないだろ、アイテム回収でスコアがグングン上がるのは気持ち良い」
「クリアを目指せばもっと稼げますよ、完全なプレイを目指すと、モチベーションを維持するのが大変です」
「ううーん、アイテムが下に落ちて行ってるのを見ると、悔しいんだよな」
「あなたもバズラーの資質があるのかもしれませんね」
「お前と一緒にすんな!」
ううーん、近いのかもしれない……か?
「クリアするための動き、というのはべストよりベターを心がけたものです。必要以上にスコアを稼ぐのはクリアへの障害にしかなりません。無限にエクステンドするゲームはまた別ですけどね」
「う、むむ後の楽しみに取っておいたほうがいいのか?」
「一概にそうとは言えないと思いますけどね。ゲームの楽しみ方は人それぞれですから」
咲夜さんの言うことも最もだが……あなたが言うのはバズなんでしょうね……。
「むーん、しかしチルノさんも敵弾の誘導が上手くなりましたね」
「え、なにそれ?」
「前のDoKiDoKiラジオで魔理沙さんが言っていたでしょう」
「そうだっけ?意識してなかったや」
「ううん、結局あれこれ言うより、何度もやり直すことが1番早いのかもしれないですね」
……。
…………。
………………。
じゃ、わたし何でいるんだ……。
……。……。
…………。…………。
………………。………………。………………。
終




