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準備

「あら、チルノさん何をなさっているのですか?」


 ここは幻想郷に存在する霧の湖。

 今日は特にすることも無いのでぷかぷか飛んでゆっくりしようと思っていたのだが、ほとりうずくまっている彼女を見つけたからには声をかけないわけにいくまい。

 大きめに発声したので声は届いたはずだが、彼女に反応は無くジッと中腰の姿勢のまま動かない。


 またなにかに夢中になっているのかしら、まさか悪いものでも食べたのでは……


 心配になり少し急いで飛んでいくと、彼女がCDパッケージを持って震えているのが見えた。

 今になってわたしに気づいたのか、いきなりこちらを振り返りこう叫んだ。


「大妖精ちゃん!あたい面白そうなゲーム拾った!」


『21世紀の20世紀延長型 弾幕シューティング 東方紅魔郷』


 と書かれたパッケージを手で振り回しながら、彼女はキラキラした目でこちらを見ている。

 わたしはまた彼女の思いつきに振り回されそうな予感がして、彼女の手の中でぶんぶん上下しているパッケージに自分を重ねていた。



 わたしはこの霧の湖に住む「大妖精」……だったのだが今は妖怪の山にある掘っ立て小屋に住んで生活している。

 

 先日この湖が妖霧に覆われる異変が起こり、それを解決するために博麗神社の巫女さんがこの湖までやってきた。

 わたしはいたずらしようとその巫女に襲い掛かかったのだが、見事返り討ちにされてしまった。

 必死に謝った甲斐もあり、なんとかボムを差し出すことで許してもらえたが、そのことが湖に住む妖精に知れ渡るとわたしは非難轟々の憂き目にあってしまった。

 その後なんとなく湖に居ずらくなり、わたしは霧の湖を去ることにした。

 

 ところで先ほどからずっとブンブン手を振り回しているのは、氷の妖精名は「チルノ」さん。

 

 彼女も例の巫女さんに戦いを挑んだが、負けても何も渡さなかったのは偉い、と他の妖精らは評したらしい。

 わたしとは昔からの付き合いで、先の異変でわたしが他の妖精に糾弾されていた時に、彼女が率先して庇ってくれた恩は今でも忘れられない。

 その彼女の住処である湖の畔の「かまくら」が、謎の妖精3匹組に破壊されたと知ったわたしはお互いの事情を話し合った。

 「それなら妖怪の山に使われていない掘っ立て小屋があるから、そこで一緒に住むのはどう?」とチルノさんは提案した。

 他に行く当てもなく、1匹で寂しかったわたしは喜んで受け入れた。

 

 かくして、二匹の妖精の奇妙な共同生活が始まったのだ。



 そんなこともあり、わたしは基本的に彼女に頭があがらない。

 彼女の色々な思いつきに付き合わされるのは今に始まったことではないのだが、まぁそんなに悪い気はしない。

 見ていると面白いからだ。 


………


 数刻後、わたしたちは湖の奥に存在している、大きな館の扉を叩いていた。


「うおーい、誰かwindows98か2000持ってませんですかー。MEでもいいですぜー」※


 暫く反応をうかがったが返事は無い、そりゃあそうだろう。

 わたしもこんな客が家に来たら居留守を使う。


「チルノさん、妙な敬語を使って用件だけ伝えても全然丁寧じゃないですよ。まずはキチンと挨拶すべきです」


「むー。こんにちわー!PCくださーい!」


「用件を伝えるのが早いですってば!丁寧な強盗だと思われますよ!」


「うるさいなぁ!強盗が挨拶してるの見たことあるのか、大ちゃんは!」


「強盗もオフの日はご近所さんに挨拶くらいするでしょうよ!」


「おお、その強盗はそうやってご近所さんを油断させてるんだな!この前のアレはそういうことか!」


「な、なんですってー!」


「あの、館の前で騒がれるのは困るんだけど……」


 そう言って扉を開けて出てきたのは、メイドさんの格好をした美しい女性だった。

 すらっと伸びた銀髪は陽光を浴びて爛々と輝き、その光は白いカチューシャを一層際立たせている。

 整った顔立ちをしているが一つ目を引く部分がある。

 斜視というやつであろうか、左目だけががあらぬ方を向いている。

 しかし、それさえもこの人の美麗さを引き立てる一つのアクセントでしかなかった。

 白と黒を基調としたエプロンをしっかりと着こなしていており、その風体には若く見えるのに何かしらの貫禄を感じさせた。


「って大ちゃんなに見とれているんだよ。あたいたち用があるんだよ!」


「ああ、そうでした。うぉっほん!失礼、わたしたちはこのゲームを動かすことが出来るPCを探しているのですが……」


 先ほどチルノちゃんが拾ったゲームを手渡す。

 メイドさんの伸ばした指先が驚くほど白くてわたしはなんだかドキドキしてしまう。


「21世紀の20世紀延長……なんですかコレ」


 メイドさんはゲームをくるくる手でもてあそんでいる。

 大人びた印象を感じていたが、あどけない動作も映える人だ。


「シューティングゲームらしいぞ。あたいがビビッとくるサムスィングを感じたんだ。名作に決まっている」


「はあ、遊びたいけどハードがないと。ウチの魔道図書館の検索用PCを先日買い換えましたので、使いくさしの中古でよければ進呈しますよ。機種も対応しているようですし」


「ええっ、本当ですか!どえらい良いタイミングですね!」


「ゴミ処理代を浮かそうとしてんじゃないの?」


「そういうことは聞こえないように言うの、チルノさん。さっそくそれをくださいな」


「聞こえなかったですよ。館内の図書館まで案内するから、運ぶのはあなたたちでお願いしますね」


 メイドさんは扉を大きく開け、私たちを促した。


「遅れましたけど、私はこの紅魔館のメイド長をしている十六夜咲夜と申します。あなたたちは?」


「大妖精をしております、大妖精と申します」


「ごみ処理係のチルノだ」


「変なやつらなんですね」



………


 夕暮れ時、私たちはWindowsMEを二人で協力して持ち運びながらわたし達の住処へ向かっていた。

 デスクトップパソコンを持ち運ぶのは大変な労力だ、心なしかチルノさんの氷の羽が解けている気がする。

 湖の水面に夕日が反射してわたしの頬を伝わる汗を輝かせる。熱くてたまらん。


「け、結局ごみだったじゃん!あたい凍らすのは好きだけど、ふう……ふう……フリーズするのは大嫌いなんだよ!」


「で、では……諦めてこのシロモノを泉に……はぁ……捨てて帰るというのは……ど、どうでしょう」


「い、いやだい!あたいはこのゲームを最後まで遊びつくすんだ!すぐにでも遊びたいからこんなPCでも我慢するんだ、えらい!」


「うおお!て、手を離されると……重いです」


「あ、ごめんごめん」


 いつもこの調子だ。

 今回も本当に最後まで付き合わされるんだろうな。でもまあそれもいいか。

 彼女はなにかを途中で投げ出すことが無い……さっきのはノーカウントとして。

 わたしはそんな彼女を放っとけないし、ゆっくりするだけの生活より刺激的なのだ。



※MEでもいいですぜー

「東方紅魔郷」の対応ハードはWindows98/ME/2000/xp directX8とジャケットに記載されています。

うちのvistaでも動かせるので、コレ以降のPCもほぼ対応して遊べるようになっているようです。

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