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人に優しく  作者: NaCL
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私という人間はどうもひねくれている。こうして自分で自分がひねくれている人間だと自己評価することで、さも自分のことがわかってますよ〜とアピールするあたり私がひねくれていることがよく分かるだろう。

昔からひねくれていた。周りの人間は馬鹿ばっかりで今、隣に座っている友人でさえも滑稽に見えて仕方ない。

親のこともなんなら気持ち悪いとさえ思っている。親切や優しさなんてものはなく全て裏から見れば偽善でしかないと思ってるほどだ。

どっかのバンドの愛の歌だって金稼ぎのためにしがなく歌ってるんだと斜に構えて聞くから不快で仕方ない。

駅前で被災地への義援金を求める若者を見ると本気で虫酸が走ってしまう。何をイキっちゃってるの?どうせ被災地になんの興味もないんだろ。そうやって人のことを想える自分が好きなんでしょう?偽善だ。偽善。偽善、偽善、偽善。


あぁ、どうしてこんなに腹が立つのだろう…



「岡本、…岡本!!」


ヤバっ。先生に当てられていたみたい。どうしよう。質問聞いてなかったし…最悪だ。


「すいません。ぼーっとしてて聞いていませんでした。」


周りの生徒らがクスクス笑っている。こいつら全員死んでしまえばいいのに。いやマジで…。



授業が終わった。隣に座っている山田が私の方をみてニシャニシャしてる。危うく握っているシャーペンをこいつの目に突き刺してしまいそうだ。


「叱られてや〜んの!」


こいつなりに私を気遣ってるのだろう。恥ずかしいであろう私をおどけてちゃかすことで話しやすくしているのだ。それがまたムカつくのだ。私よりも可愛くなく、馬鹿で運動もできないくせに。格下のくせに。


「ちょっと考え事してただけだしっ」


もちろん格下だのどうのこうのと悪口は言わない。そんなことすればこいつが他の女子に言いふらして私が面倒な思いをするだけだ。

だからそれっぽく返すのだ。少し恥じらいながらも気にしてない風を装って。


あぁ私はなんてできた人間なんだろう…

処世術というものを分かっている。



学校が終わった。いつも通り私はすぐ帰る。学校に残って馬鹿共と話すことなんて何もない。家に帰ってゆっくりとしてから勉強でもしようか。

頭の悪いこいつらは今日もしょうもないことを話して時間を潰し勉強もしないのだろう。そのくせテスト前になると勉強する時間ないよね〜などとほざく。正直、滑稽極まりない。まぁ別にいいんだけどね。こいつらが将来ワーキングプアになろうとも。


いつも通り電車に乗る。家が学校から遠いのが私の憂鬱の一つだ。朝早く起きないと学校に間に合わない。電車内にも馬鹿は多い。荷物を堂々と椅子の上に置いている奴は頭の中はどうなっているんだろう。騒ぐガキをほっておく頭の悪そうな金髪の母親。ゲームで騒ぐ中学生の群がり。


ウザい。黙って乗れよ。マジで消えてなくなればいいのに。死んでしまえよ。気持ち悪い。


あぁ、全員死んでしまえばいいのに。

私だけの世界になればどんなにスムーズな世界になるのだろう…



改札から出て信号を待つ。大きな横断歩道だ。ここを行けば家まであと僅か。この横断歩道を前にすると今日もようやく終わったと思い知らされる。学校の馬鹿共に話を合わせるのは窮屈だからね。やっと賢い私だけの世界が始まる。まぁ親はいるけども。


赤信号。ここのは青になるまでが長い。大きな道路だから当然と言えば当然だ。色が変わるのをゆっくりと待つ。この時間がいいというのに馬鹿は待てない。


あぁホント皆死ねばいいのに。


ふと隣を見ると白い杖を持った女がいる。目が見えないのだろうか。ずっと目を閉じている。こんな奴を見るとムカついて仕方ない。目が見えないというのに外にでるなんて迷惑だろう。危険極まりない。周りに迷惑がかかるだろう。どうしてそんな簡単なことも分からないのだろう。


死ね。死んでしまえ。



急に女が杖を前に出した。まだ赤信号のはず……。足を前にだした。一歩、また一歩。私はとっさのことに硬直していた。まさか歩いてはいかないだろう…。すぐに止まるさとタカをくくり目を背けようとした瞬間に隣から走ってきた白いワゴンが女にめり込んでいく。飛ばされた女。その上を走っていく車。ぎぎぎと鈍い音と共に赤い赤い血が噴き出す。


足元に赤いしぶきが飛び散って私の白い靴下に少し着いた。


車は止まったらしいがもう遅い。


女は死んだ。


目の前で本当に死んだ。私が望んだからか?そんなことはあるはずがない。でも死んだ。私はあの女を止めることができただろう。では女が死んだのは私のせいだろうか。いや、あの女が勝手に死んだのだ。私がどうこう考える問題ではない。けれど目の前に女の体が転がり落ちている。死んでいるのだ。私のせい……。しかし…だが…



私はそこに座り込んでしまった。ただ死体だけが私を見つめる。もう何も考えられない。

本当に死ぬだなんて思ってもいなかったのだ。



あぁなんて日なのだろう…


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