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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

心中の日

作者: あやあき

 出掛けに誘われた。

 普段話さない奴。

 どうして俺を誘ったのだろう。

 そう思って尋ねると、「君しか誘える人が」いないんだ、なんて。

「何所に行くんだ?」

「××××」

「そこって自殺の名所じゃなかったか?」

「そうだね、でも桜が綺麗なんだ」

「桜だぁ? んなもん見るんだったら、他を当たれよ。女を誘え、女を」

「だから言ったろ? 君しか誘える人がいないんだ」

 こいつはこんなにも強情だったろうか?

 記憶を取り出そうとしても、こいつとの記憶なんて些細なものばかりで有益なものは見当たらない。

 訳が解らなくて渋ったが、あまりにしつこく誘われるので、根負けして承諾した。

 すると、相手はにっこりと笑った。

 こいつも、こんな風に笑うのか。



 行き着いた先は絶景地だった。

「綺麗でしょう?」

 訊かれたから、「そうだな」と答える。

 けれど、やはり隣は野郎でなく女に限る。

 愛の囁きですら出来やしない。

 友達でもないから馬鹿話も出来ない。

 気を使って何も話せぬのがオチだ。

 話を切り出したのは奴だった。

「僕は君に嘘を吐いていた」

「そう」

「僕はここで君と心中しようと思ってるんだ」

「へえ」

 驚きはしたけれど、だろうなという感情も大きかった。

 何たって、ここは自殺の名所。

 解らない事と言うと、

「どうしてその相手が俺なんだ?」

「それは」

 相手は淡々と言った。

「君の事が好きだからだよ」

「そーゆーのは、はにかみながら言うもんじゃねーのか?」

 声に出して異を唱えると、相手は「そうかな?」と首を傾げ、「僕はそんな経験がないから分からないや」

「寂しい奴だな」

「同情してくれるの?」

「可哀想だとは思う」

「じゃあ、一緒に死んでくれるよね?」

「何でそうなるんだ」

 飛躍しすぎている。

 こいつの思考は読めない。狂人でも相手にしているようだ。

 話題を替えようと質問をする。

「お前はどうして死にてーんだ?」

「どうして」

 咀嚼するように反芻して、表情を変えずに言った。

「なんとなく」

「なんとなく、か」

 なんとなく、こいつは死のうとし、なんとなく、俺を道連れにしようとしているのか。

 なんとなく、それは解る気がした。

 なんとなく生きている俺には、解る気がした。

 同じようになんとなくで選択をしてきた俺には、なんとなく道連れにされるのを、なんとなく甘受した。

 なんとなく、承諾した。

 行き当たりばったりの人生。

 友も女も、結局なんとなく、なあなあでつるんでいるだけだ。

 幾らでも代用が出来る。

 俺自身も。

 じゃあ俺は、何なのか。

 何もかも、めんどくさくなった。

「いいぜ、一緒に死んでやる」

 すると、相手は夢から醒めたような顔をした。

 そして、その顔のまま、「ありがとう」と礼を言った。



 俺達は、心中を謀った。



   *****



 僕は生きて、彼は死んだ。

 予想はしていた結末だった。否、始まりか。

 癖のある茶の混じった黒髪は、濡れてペタリと額に貼り付いている。

 彼の顔には、血の気がない。

 死んだのだ。

「どうして、君だけ」

 問うても答えなんて返ってこない。何故なら君は生きていない。僕は生きているのに。

 心中は、失敗した。

 僕は立派な人殺し。

「なぁんで、断ってくれなかったんだろうね、君は」

 断られると思っていた。

 ここに誘い出す時点で。

 けれど君は了承し、遂には心中の誘いにも首を縦に振った。

 君はチャラチャラとした今時の若者であるのに、幾らか厭世していたきらいがあった。

 たまに見せる虚ろな視線。目の前の友や女を見るわけではなく、こっそりと見詰める僕に目を向けるのでもなく、虚空に視線を注ぐ。

 ああ、でも、君のそういうところが好きだった。憧れていた。

 だから僕は、君になりたかった。

 それが出来なければ、君に愛して欲しかった。

 結局、優先順位の高い方が叶ったわけだ。

 否、心中を了承されたところで2番目も?

 まあ、君は死んだのだから変わらないか。



 さあ、君に成り代わろう。

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