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X7 再会!

「さあ話してもらおうか」


 がらんとした教室の中、私の前に北星さんがこれでもかというほど身を乗り出して尋問しようとしている。


「えーっと、まず、そのー……」

「ほらほら、ちゃんと言ってよー」


 私はその圧迫感から逃れようと体を反らしたが、北星さんの顔がそれに追随してくる。とても顔が近い。


「あのー……、どうしても言わなきゃダメ?」

「ダメっ」


 どうしてもダメっぽい。私は封じたはずの心を早々に解かなければならないと覚悟をした、そのとき──。


 ちゅっ


 唇になにかが触れた。

 目の前には北星さんの目。

 つまり私の唇に触れたものは、北星さんの唇。


 キスされた。

 ……キスされた。

 …………キスされた!



「あはは、ごめんごめん。言いたくないなら無理に聞かないよ……って瀬奈ちゃんどうしたの!?」


 その叫びでふと我に返った私は、頬に熱い液体が流れていることに気付く。

 あれ、泣いてる?


 自分が泣いていることに気付いた私は、そのことに驚き、更に泣き出してしまった。


「ご、ごめん! ほんとごめん! 瀬奈ちゃん海外長いみたいだったし、もう高校生だからキスくらい普通にしてるものだと思って……」


 初めてだよ。それに外国人だってやたら無闇にちゅっちゅしてるわけじゃないよ。

 大抵頬を軽く合わせる程度だし、家族相手だって口同士じゃしない。そもそもうちは両親とも日本人だからそんな文化に対応してなかった。


 そして北星さんは私が泣き止むまで背中をさすったりオロオロしたりとても忙しそうにしていた。





「────調子に乗ってすみませんでした!」


 北星さんは床に座り、見事な土下座をしていた。額をゴンゴンぐりぐりと床になぶりつけている。


「い、いいって。私もちょっとびっくりしちゃっただけだから。ねっ」

「ほんとごめんなさい! こんな性格でごめんなさい! それでも瀬奈ちゃんと友達でいたいんで許してください!」

「そんな! 私のほうこそ意味なく泣いちゃってごめん!」


 私もとにかく謝る。

 北星さんは元気が良過ぎるところがあるけど、とても明るくやさしい子だ。折角仲良くなれたんだからこんなことくらいで軋轢を生じたくない。


 そんな謝罪合戦を繰り広げていたら、廊下が騒がしくなっていた。きっと教室に戻ってくるクラスメイトたちだ。私たちは慌てて立ち上がり、顔を見られぬよう窓の外を覗きこんだ。


「いっちばーん……っと、先にもういたかぁ。上からだとどうだー?」

「うんー、いろんな部活が一望できるよー」

「へー、どらどら……。おー、ほんとよく見えるなー」


 男子たちがわらわらと窓際へ集まってきたところで入れ替わるように私と北星さんは教室を出た。



「あー、なんかもう色々とあれだねー」


 何を言いたいのかいまいちわからないけど、きっと北星さん本人も何が言いたいのかわかっていないだろう。

 話を誤魔化しうやむやにしよう。そんな意図がある気がする。


「そうだねぇ」


 当然私もそれに乗る。さっきの話を蒸し返したくないからだ。お互いが望んでいない話をしたくない以上、こうするのが一番だと思う。


「……そういえば瀬奈ちゃん、海洋研究部、見に行かないの?」

「やばっ、忘れてた!」


 私は慌てて階段を駆け下りようとした。



「おっ、北峰じゃないか」


 げっ

 出会ってしまった、アレに……。

 私は藤岡。北峰なんて名前じゃありません。そう言い聞かせながらスルーしようとしたら、また腕を掴まれた。


「おい待て北峰」

「私そんな名前じゃないですから! 離して!」


 私が叫んだ瞬間、もの凄い風圧と共に掴んだ腕が放された。

 それと同時にパァンと床を勢いよく蹴りつけた音が響く。北星さんが掴んだ腕を蹴り落とそうとし、かわされた勢いを地面に叩きつけたんだ。


「あんたなに!? 私の大切な友達に手を出すつもりならただじゃすまないよ!」


 なにかの格闘技を習っているのか、北星さんは私を護るように構えた。


「ふむ、なかなかいい蹴りだ」


 確かに私でも見えないほどの鋭い蹴りだった。だけどそれに反応したこの人も何者なんだろう。


「私は海洋研究部に入るんです! お生憎様!」

「何を言ってるんだ? お前は間違いなくこちら側の人間だろ」


 こちらってどちら!? 私はエクストリームなんて興味ないから! 部活ごと滅んでよ!


「ねえ、なんの話?」


 話の流れが読めないらしく北星さんが聞いてきた。


「えっと、私をわけのわからない部活に入れたいらしいんだよ……」

「なにそれ! 部活なんて本人の意思で決めるものだよ! いくら先輩だからって私は許さないから! 抗議してやる! 一体どこの部よ! あと名を名乗りなさいよ!」


 その人は面倒くさそうなため息をつき、メガネのブリッジを指で押し上げた。


「俺はエクストリーム部部長、空知英一だ」


「……………………ええええええぇぇぇ!!!」



 北星さんの絶叫のような叫び声が廊下に響き渡った。

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