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:re
「ただいま」
台所の机に、白いメモが置いてあった。
最後の、母からの、僕への夕ご飯が、メモに並んで。
『ごめんなさい』
黒い文字が、白く冷たく見えた。
セミの鳴き声がうざい。
黙ってろよ。
お前らどうせ7日終いなんだろ。
小2の夏。
母は僕の前から消えた。
逃げた。
僕をおいて。
梅雨を迎えた頃には、父は壊れていった。
『お前のせいだ。お前のせいで母さんは……!』
『お前のせいだ』
『居なくなれ』
毎日毎日、傷んだレコードを聴いた。
父の、かすれた声のレコード。
繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し。
「リピート」
何度も何度も何度も何度も。
「:re」




