全帝に出会いました。
思い出した、偽善勇者と巻き込まれに巻き込まれたんだ。
…思い出したら殺意が湧いてきた。
ていうかなんで私が森に居るの?普通森に居るのは巻き込まれの方でしょ?
いや、私もある意味巻き込まれなんだけど。
ふしゅぅぅうぅ……
体に思いっきり息がかかった。
…息?
顔を上げると、わぁーお!目の前に真っ赤なドラゴンが!
…さて、
「逃げる!!」
え?戦わないのかって?
無理無理、殴り合いもしたことないか弱い女子がドラゴンと戦える訳無いって。
仮にテンプレ的に体が強化されていても戦わない。
なんで私は、ドラゴンが目の前にいたのも気にせずに思考に耽っていたんだ。
面倒くさいからか。
ていうか今も面倒くさいけどな。
だがしかし逃げる!何故ならまだ死にたくないから!
ガッ、ズッシャァァァア!!
…転んだ。それも、魔法陣から逃げようとした時より盛大に。
私は逃げようとした時に転ぶ呪いでもかかってるの?
あぁ、どんどんドラゴンが近づいてきてる。
私、もう死ぬのか…。
まだ姉の鳩尾に膝蹴り入れてないのに…。
ぎゅっと目を瞑った。
「大丈夫か?」
…は?
恐る恐る目を開ける。
すると、すぐ傍に真っ黒なローブで頭から踝までを覆った変質者と、倒れたまま動く気配の無い真っ赤なドラゴンが居た。
…………
「へ、変質者ぁぁあぁぁあぁ!?」
「ちげぇよ」
ベシッ
「痛っ!?」
何この人、女の子の頭をためらいもなく叩いたんだけど…。
いや、女の子って柄じゃないけどさ。
うぅ…地味に痛い。
「ていうか、誰?」
「……は?」
こっちがは?だわ。
「…出身地は?」
「地球の日本の愛媛県だけど」
そんな事聞いてどうすんの?
▽▽▽▽▽▽▽▽
「地球の日本の愛媛県だけど」
…やっぱりか。
こいつ、多分異世界から来たんだろうな。
この世界には地球も日本も愛媛県も無いし、何より勇者が元居た世界の名前が地球だ。
大方勇者召喚に巻き込まれでもしたんだろう。
異世界から来たって事は、戸籍も身寄りも無い。
さらに勇者召喚に巻き込まれたと言っても信じて貰えず、勇者や巻き込まれのように城で保護してもらえない可能性が高い。
…仕方ない。
「とりあえずギルドに案内するから、俺に付いてきてくれ」
「え、やだ」
…………
「ドラゴンの餌になりたいのか?」
「あ、すいません何でも無いですついて行きます!」
最初からそう言っとけよ。
溜め息を吐き、出発した。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「へー、全帝なんだ」
私が変質者だと思った奴は、実は結構偉い人だったらしい。
だからといって態度を変える気なんか微塵もないけどな。
「まぁ、一応な」
私は道すがらこの世界の事を教えて貰っていた。
そして分かったのは、
・ここはフィーリアという世界。
・この世界には魔法があり、ほぼ全員が魔法を使う為のエネルギーの魔力や、種類によってどんな魔法を使えるか決まる属性を持っている。
・大まかにいうと人間、獣人、エルフ、魔族などの種族が居る。
・人間と魔族は敵対しており、世界を滅ぼそうとしている魔族の王、魔王の対抗手段として勇者が喚ばれた。
・様々な国やギルドがあり、全帝が向かっているのはリヴァイス王国の【清麗の龍】というギルド。
という事。
あと、全帝は私が異世界から来た事と勇者召喚に巻き込まれた事が分かってたんだと。
異世界から来たばっかりで、右も左も分からない私をギルドに保護しようとしてくれたらしい。
なんか、こんな変質者が居るギルドとか絶対闇ギルドだ、やばい私奴隷にされる、とか思って全力で拒絶してごめん。
…ていうか、
「沢山の魔法の種類があるなら、転移魔法も有るんじゃないの?」
「普通に有るし、俺もいつもは使っているが、勇者召喚の立ち会いをサボって暇だったからギルドの依頼を受けまくってたんだよ。
チヒロに会ったのは最後の依頼が終わって帰ってた途中だったし、レッドドラゴンを倒すのに魔法を使ったから二人纏めて転移できるだけの魔力が残ってない」
有るには有るんだ。
つまり殆ど動かなくてもいいと?
…もし魔力が有ったら、真っ先に転移魔法を習得しよう。