表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第八話

8話で終わりませんでした。すみません続きます。

「うう、ん」


私は目を覚まし、ぼうっと天井を見上げた。

朝だ。部屋が明るい。

見慣れた天井、慣れた寝心地のベット。

私の部屋だ。

よかった。あれは夢だったのだ。


なんだかすごい夢だった。

勇者はとんでもない性格だったし、ヴィクトルとアンジェリーヌが恋仲だというし。

ヴィクトルには幸せな展開だったけれど、やっぱり勇者は王女と結ばれなければ物語にならない。

勇者もあんな勇者はあり得ない。

勇者は凛々しく優しい立派な人だ。

間違ってもあんなストーカーで魔王な人ではない。


ああ、なんであんな夢を見たのだろう。

これからの事に緊張しているのだろうか。

これから私はアンジェリーヌを攫い、魔王を演じる。

頑張らなくては。


「目が覚めましたか、リディアーヌ様。よかった」


視界にひょいっと入ってきたのは、金髪碧眼の麗しい顔の男。

私はその顔を見て、目を見開き固まった。


なんでここに勇者?

ここ、私の寝室よね?

なんでそんなに愛おしそうな笑みを浮かべてるの?

あれは夢ではないの?


「痛いところとか苦しいとかないですか? すみません、俺、力加減忘れて抱きしめてしまって」


夢ではないらしい。

私は声も出せず、固まったままだ。

勇者が寝室にいるのを見たら叫ぶと魔王城で思ったけど、実際には驚き過ぎて動けない。


「リディアーヌ様? 大丈夫ですか?」


勇者は心配そうな顔で私の頬に手を伸ばす。

私はぎょっとして、勇者の手を避けるべく寝たまま横に動いた。

上体を起こしながら横に動き、勇者から距離を取る。


「あの、勇者様、ここ、ここは・・」

「王城にあるあなたの部屋です。あなたは気を失ってしまったので、すぐに城に戻りました」

「そう、ですか。え、と、連れてきていただいてありがとうございました」


私は勇者が部屋にいることにまだ混乱中で、とりあえず礼を述べる。

勇者は目尻を下げて微笑んだ。


「いえ、リディアーヌ様。あなたを無事に連れ帰れた事は俺にとって喜びです」


勇者は輝くばかりの笑顔をみせた。

私は思わず視線を逸らす。

私は勇者に笑顔を向けられる資格などない。

勇者を騙し、勝手を押し付けているのだから。


罪悪感を抱いた事で、混乱が収まってきた。

魔王城での勇者との話し合いは終わっていない。

今一度、きちんと話し合わなければならない。

私は視線を勇者に戻した。


「勇者様、お話があるのですが・・・」


勇者は笑顔を引っ込め、真剣な顔で頷いた。


「俺も話さなければならない事があります」

「そうですか、では居間の方に移動して、お待ちいただけますか?」


寝室の扉の向こうは私の私室の居間だ。

身支度をするので部屋を出てもらおうとしたが、勇者に意味が通じなかったらしい。

勇者は目を瞬き、首を傾げた。


「なぜですか? 話ならここでも」

「・・・・」


なぜと聞きますか⁉︎

女性の寝室に夫ではない男性がいるなどあり得ない事なのよ⁉︎


「わたくしはこんな格好なので・・」

「ああ、でも俺は見慣れているので大丈夫です」


見慣れているって言った⁉︎

見慣れてる⁉︎

確かに毎夜毎夜しのびこんでいたのだから見慣れているでしょうけど、それは言っちゃダメでしょう!

叫んでいい?

叫んでいいよね?


私が唖然と勇者を見上げていると、扉がノックされ開いた。

開けたのは私の侍女だ。

一つ年上の、栗色の髪の大人しい顔立ちの彼女は勇者と私を見やって、頬を染める。

なぜ、頬を染める?

私は一瞬疑問に思うが、あることに気付いて悲鳴をあげそうになった。

勇者が寝室にいるところを第三者に見られた!

寝室に男と女が一緒にいれば、なにもなくてもなにかがあったと思われる。

独身の男女であれば、そこから一直線に結婚だ。

私は慌てて侍女の名を呼んだ。


「あの、ポリーヌ、違うのよ。ええと、勇者様がここにいらっしゃるのはなんでもないのよ。それで、この事は黙っていてほしいのだけれど・・」

「リディアーヌ様、勇者様がここにいらっしゃる事は、皆様ご存知です」


なんですって⁉︎


私は口をあんぐりと開けた。

皆様? 皆様って誰? どこまで口止めすればいいの?

口止めできるの?


「お父上様と兄君様が居間でお待ちです。お支度を」


ポリーヌの冷静な口調がさらに私の混乱を大きくする。

お父様にお兄様⁉︎

そこにいるの⁉︎

いるのならなぜこの勇者を止めてくださらないのよ⁉︎

この人、危ない人よ?




✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎




私はシンプルな白と水色のドレスに着替え、軽く髪を結ってもらい居間へ向かう。

居間では、上座の一人用の椅子に父、向かい合う長椅子にそれぞれ勇者と長兄が座っていた。

私は兄の隣に腰掛ける。

父はくすんだ金髪にがっしりした体躯の厳めしい壮年の男性だ。

今年27歳の兄は、なるほど親子だと言われるほど父に似ている。

兄は私と目を合わせると、その厳めしい顔を緩めた。


「リディアーヌ」


父の声が私を呼ぶ。


「はい」

「体の調子はどうだ? 辛いところなどないか?」

「いえ、ございません。ご心配をおかけしました」


私は父に向かい、頭を下げる。

父と兄がここにいるということは、私に何かがあったことを父も兄も知っているのだろう。

なにがどういう風に伝わっているのか分からないが、勇者が寝室にいることを二人が黙認したあたり悪い予感しかしない。


「なにがあったか覚えているか?」

「ええと・・、なにがあったのでしょう?」


私は戸惑う振りをして、首を傾げる。

でもその戸惑いの半分は本気だ。

私が気を失ってからどういう展開になったのか。


「王女殿下が魔王に攫われたのは知っているな」

「はい」

「勇者達が救出に向かった魔王城にお前もまた囚われていたのだ。覚えていないか?」


そんな覚えはございません。

勇者を見ると、勇者は軽く首を振った。

なにそれ? 自分はそんな事を言ってないとでも言うの?

お父様、思いっきり断定しているじゃない。


「覚えておりません」

「そうか。恐い思いをしたから覚えていないのか、元より意識がなかったのか。

それはわからんが、もう大丈夫だ。お前は無事に戻ってきた。大丈夫だぞ」


父は目を細め、力強く頷いた。

心配をかけたのだろうか。

勇者を迎え撃つ為に、私が城を出て魔王城に神様ーー精霊様の力で転移したのは夜。

夜のうちに帰ってくれば、誰にも気付かれないと思ったのだが気付けば今は朝。

兄を見ると、兄はうんと頷いた。


「お前がいなくなった事に私達は気付かなかったんだ。

今朝方、勇者が意識のないお前を城に運び込んで、はじめてお前もいなくなっていたことを知った。

不甲斐ない我々を許してくれ」


いえ、だって、就寝の後こっそり出て行ったのだもの、気付かなくて当然だ。


「気に病まないで、お兄様。私は平気です」


私が笑いかけると、


「お前の平気は少々信用ならないからな」


兄は笑って私の頭を撫でる。

私は頬を膨らませた。

しかし、信用しない兄に反論するより、この場で聞く事がある。


勇者の事だ。


勇者が私を連れ帰ってくれたのは感謝しよう。

精霊様が来てくれなくて、私の魔力も尽きかけていたのだから、魔王城から帰るにはそれしかない。

しかし、どこから入った?

まさか堂々と正門から入らないわよね?

ちゃんと人目を忍んでくれたわよね?

でもそうなら父と兄がここにいるわけがない。


「あの、勇者様はどちらに転移してこられたのですか?」


私は誰に聞くともなく聞いた。答えは勇者から帰ってきた。


「王城内の転移陣に転移しました」


王城内の転移陣! 最悪だ!


転移魔法はある場所とある場所を繋ぐ。

通常は転移陣が敷かれている場所から敷かれている場所へ転移する。

例えば、ある場所の教会の転移陣から王城の転移陣へと。

陣から陣への移動の距離は本人の魔力次第だが、通常、陣が敷かれていなければ移動できない。

しかしこの勇者、規格外。

自由に好きな場所へ転移できるらしい。

であるなら、こっそり私の部屋に連れてきてくれればいいのに、なぜ、一番目立つ王城の転移陣などに!

王女が魔王に誘拐された事はおおやけにされていないが、王城の内外には普段より多くの兵が配備されている。

陣のある場所も多くの兵がいる筈だ。

私は目を細め勇者を見た。


「勇者様は移動に陣など必要ないと伺っていますが、なぜ陣へと?」

「・・・それは、俺の魔力が少々不安定になっていまして。

陣なしだと不安だったので、出口に陣を使用しました」


目を伏せ、言う勇者。


「不安定、ですか?」

「ええ。ですから確実に城へ戻る為に仕方なく」

「そうですか」


確かに勇者は仲間を吹っ飛ばしたり、広間を凍らせたりとそれはそれは不安定だった。

魔法がうまくいくか否かは精神の安定が物を言うと聞いたことがある。

あの時の勇者なら仕方がないかもしれない。

しかし、そのせいで私が魔王城にいたことを皆に知られてしまっただろう。

勇者とともに帰ってきた事も。


まさか! 勇者が私の部屋にいることは知られてないわよね⁉︎

ナボルとの婚姻に支障をきたさなければいいけれど。






お読みいただきありがとうございます。

また間空きます。うまく終われなくてぐるぐるしてます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ